宝石袋の正体は……
炭鉱の入り口に着いた。
前回は、夜間で、悲しい事故の後という事もあり、寂しい感じがしたのだが、鉱業を止めたくないと言う鉱夫達の熱意で復興もしっかりされたそうだ。
「クロード様! いきますよ?」
リーシャは光物が好きなのかな? すごい張り切りようだ。でも可愛いよ! リーシャ。
「確か『はにかむ宝石』だっけ? 凶悪な名前じゃなさそうだな。
ミミ、ライティングをお願いできるか?」
「はい! 勿論でございます。何色が好みでしょうか?」
「色が選べるのか? すごいなミミは。皆何色のライトがいいんだ?」
「あのー。噂ですが宝石モンスターは七色に発光しているそうですよ?」
スージーが言うならそうなのだろう。
「じゃあ、わたくし達も、七色にしましょう! 仲間だと思って、油断してくれるかもしれませんわ!」
マールが七色を希望した。
「じゃあ、それでいこう!」
「いきます! 【魅惑の波】バージョンレインボー!」
ミミがキレのある発声で発動した!
えっ? これって――
「クロード様~♪」
運動神経が皆無のマールは、神官服を脱ぎ捨てて、抱きついてきてしまった。
まずい! ここは炭鉱内だ。毎晩のスキンコミュニケーションの場ではないぞ。
アヤネはというと……
「アヤニャン! にゃは~ん♪ ――ミリーちゅわ~ん♪」
リーシャは今回も警戒して華麗なステップワークだ。
スージーは元がスライムだからな。影響なし。
「おい。ミミ! ライティングをお願いしたんだが……」
「はい! ライティング単体は無理なので、【魅惑の波】の余剰の発色を利用致しました」
自信を持って言っているだけあって、辺りは七色の粒子が霧になって坑内全体を照らしている。
かなりの光量だ。七色がところ狭しと入り乱れたエキゾチックライトの大共演となっている。既に目がチカチカするんだが……それにしても催淫魔法と抱き合わせでないと出せないとは……
俺達は炭鉱の中へ足を踏み入れた。
うん! やはりこのふざけた発光だ。恐ろしく明るい。
「クロード様! 綺麗ですね! これなら宝石モンスターもすぐに食い付きますわね!」
俺の腕にぴったりしがみつくマールはそう言うが、どうだろう?
『はにかむ宝石』がバカであれば、寄ってくる気がするんだけど。
この炭鉱の坑道は、広めに取られてはいるが、中に潜るにつれ、当然狭くなっていく。
やがて、地下へ続く階段を発見した。
――地下二階。
さすがに普段は掘削されていないので、坑道の造りも煩雑だ。鉱夫達は、魔除けの結界が張ってある一階を作業場にしているようだ。
大分中まで潜ってきたが、まだ魔物には会わない。
そして、狭かった坑道が、急に開けた形状になった。
まずいな。
ここじゃあ、もし『はにかむ宝石』と出くわしても、スージーの壁が張れないな。
思案している刹那。
奥の坑道から、なんと向こうからやってきた!
やはり、マールの言う通り、仲間だと思われたのかな?
間違いなく七色に光る宝石袋だ。
ただ様子がおかしい。
スージーの口ぶりだと、目視が難しいほど素早いと言う印象だったが、明らかに鈍重だ。
そして、宝石袋を追う者がいた。
あれは……頭が牛で大きな木槌を背負っている図体のでかい魔物だ。
「ミノタウロスですね! 凶悪な魔物です」
スージーが説明してくれた。
宝石袋が何とかこちらへ向かってくるのが分かるが、これはもしかしたら、ピンチなんじゃないだろうか?
ミノタウロスが、迫って木槌を振りかぶった。
「スージー!」
「任せて下さい!」
ぷよぷよに軟体化したスージーが、宝石袋目掛けて飛んでいき、宝石袋を包み込んだ。
ミノタウロスの木槌は弾き返された。
「リーシャ! アヤネ!」
「出番ですわね!」
「任せてくださいにゃ!」
リーシャが俊足走りでミノタウロスの背後に回り込み、勢いよく跳躍し、頚部めがけて強烈な回し蹴りを放った。
更にアヤネが縮地移動で、飛び込んだふところに二刀で、ダガー8連撃をお見舞いした。
あの伝説のモンスターとも評されるミノタウロスが既に致命傷を受けている。
知ってはいたが、この二人はすごい。
それでもミノタウロスは、木槌を振りかぶって、宝石袋を狙う。
そこへ、ポチが吹雪を吐いて、ミノタウロスの動きを止めた。
「さよならだ」
最後はもちろん俺。
「【刹那なる一閃】!」
ミノタウロスは完全に上半身が崩れ落ち分断された。
剣閃は見えないし、傷みを感じる間もなかっただろう。
『……すみません。助けて頂いて、ありがとうございます……』
しゃべるのか。
「で、『はにかむ宝石』さん、何があったの?」
『わたしは冒険者だったのですが、あのミノタウロスに殺されたあげく魂に呪術をかけられ、この袋に閉じ込められてしまったのです。暇潰しに利用されて悲しいのですが。この中は時間の止まった異空間になっていまして、自力では脱出出来ないのです』
「どうしたら、出られるのですか?」
リーシャが優しく聞いた。
『虹の首飾りを破壊すると出られる事が分かったのですが、この強固な首飾りを破壊するには、多大な魔力が必要なのです。何とかミノタウロスから奪って逃げていたのですが、もう限界だったのです……』
「魔力だったら問題ありませんわ!」
マールが応えた。
あれ? 何でお前下着姿なんだよ!
そういえば、ここ入った時点からだった。言うの忘れてたよ、てへへ……
ただここにきてこの姿。夜とは違う七色のライト。鼻血大放出しそうだ。
「よく頑張りましたね。もう大丈夫です」
マールが、宝石袋の口を結んでいる七色の首飾りに触れ、魔力を込めた。
その瞬間だった。首飾りが粉々に砕け、魂とおぼしきものが袋から飛び出した。
『なんとお礼を言ったらよろしいのでしょうか? これで成仏できそうです。何も皆様に残せるものがないのですが……どうかこの袋をお役立て下さい。アイテムボックスとして扱えるかと思いますので。
それでは皆様に幸あらん事を……』
魂は静かに消えていった。後には使い古しの巾着袋が残った。
魂が出た事で小さくなったようだ。腰につけられるサイズだ。
「わたし知ってます! ファンタジー小説で出てきましたにゃ。アイテムボックスって言って、いろいろ荷物入れられるあれですにゃは?」
「うん、これはかなり便利だぞ。十分なお宝だ」
荷物を気にせず動けるメリットは相当大きい。これから先大いに役立つだろう。
思ってもない収穫があり、俺達は帰路についた。




