宝石を狙おう
スージーが風紀隊に加わり、戦力的にも充実してきた感がある。今まで以上に適材適所でメンバーを送る事も可能になりそうだ。
今日も俺、リーシャ、マール、アヤネの4人で早朝の日課のどぶ掃除をせっせとしている際、近所の主婦が、ありがたい事に、朝ごはんにと、なんと4人分おにぎりを持って来てくれたのだが、この主婦が情報通で、以前俺達が、人命救助を達成した『ルドラ』の炭鉱で、今度は宝石袋のモンスターが出没したと言う耳寄りな情報が聞けた。こいつはまだ未確定な情報が多い魔物で、こいつが坑内に巣くう限り採掘の再開が出来ないんだそうだ。
毎朝、頑張って街の美化に取り組んだご褒美なのかな? 明らかに金持ちモンスターだよな。
「クロード様! ビッグチャンス到来ですね! 早く行きましょう! ビッグになるのです!」
リーシャが、超絶張り切っている。何だかこう聞くと貧乏組織のように聞こえるが、この風紀隊はルシェ連邦国のもはや肝となっていて、活動資金には困らない。
もし副次的に金銭が手に入れば、恵まれない子供達に寄付する事にしようと思う。
詰所の皆にどぶ掃除の報告をし、今日はルドラで一攫千金を狙ってくると伝えた。
「やっとビッグチャンスが来たんですね! 何かわたしもお手伝いしたいのですが、今日は騎士団の実演訓練。緊急時以外ここを離れるわけには行かないので……でも全力で応援します!」
エドワードありがとうな。
「ご主人様! 宝石袋追いかけるのですね? あれは相当素早いので、何か策が必要なのです」
こう助言するのはスージーだ。さすが魔物だ。俺達の足りない所を補完してくれる。従順さの証なのか、ご主人様と呼んで慕ってきてくれるから結構可愛い。
そして、スージーはその可愛らしさで、城内でも人気者だと言う。
「アヤネの速さでも、捕らえるのは厳しいのか?」
スージーには風紀隊メンバーの特性は説明済みだ。
「はい! 恐ろしい速さで、おそらくミリーちゃんの速さですら凌ぎます。とても人間の追える速さではありません」
予備知識聞いておいて良かったのだろうか? 一攫千金が遠退いた気がする。
「ただわたしに考えがあります。ですので今日はわたしもお供致します」
「スージー。ありがたいのだけど、いいのか?」
「はい、ご主人様の役に立ちたいのです! 変質できるわたしなら……挟み撃ちにさえ出来れば……坑道に壁を張りますので、皆さんでそこに追い込むのです。
そうしたら、わたしがモンスターを包み込んじゃいます」
「スージー! ありがとう!」
「いえ! 宝石をやっつけに行きましょう!」
スージーもやる気満々だ。
「朝から、何かございましたか?」
「ミミ、今日は一攫千金のチャンスなんだ。ルドラの炭鉱に出没した宝石モンスターを狩ってくるんだ!」
「『はにかむ宝石』ですね。あれは人に危害は加えないと思われるので、風紀抵触の対象になるとは思えないのですが……」
「でも確たる生態は不明らしいから、真偽を確かめる上でも行ってみるよ。それが巣くう事で採掘再開が遅れてるみたいだしね」
「そう言う事であれば誰も文句は言いませんよね。大丈夫でございます。何かあればあたしが何とか致しますので」
「じゃあ今日のメンバーは俺とリーシャ、マール、スージー、アヤネ、ミミで決まりだな」
ミミを入れたのは、炭鉱での探索で、ライティングが必要になるからだ。
皆に見送られ、俺達はルドラへ向かう事にした。
早速、詰所内に設置した【空間連鎖】専用の術式を施した魔法陣へ。まだ完成したばかりだが、やはりこれが、あるとないとでは、起動力に雲泥の差が出る。
前回たどり着いたのは、夜間だったが、今日は昼過ぎだ。街は、王都程ではないが、賑わいをみせている。
せっかくなので、前回助けた夫婦を訪ねる事にした。
「あら? あなた達は……また来てくれたのね! あの時は、ろくにお礼も出来ず、ごめんなさいね!」
間違いない! あの時の般若だ。それが嘘のように柔和な奥様に変貌していた。小綺麗な人だ。
「いえ、幸せそうで何よりです」
家にあげてもらった。
そして……いた!
エロ霊魂!
「エロ霊魂さん、こんにちは。ご機嫌いかがですか?」
ミミが軽く挨拶をする。いい子だな。服は際どいけど。性女マールからもらい受けた衣装を律義に着ているのだ。これちょっと激しい動きすると、いろいろ風紀的に、まずいものが出ちゃうんじゃないか?
「おー、あんた達か。あの時は本当にありがとう。まだバタバタしてたもんでな、近く二人でお礼に行こうと思ってたんだ」
エロ霊魂は『ベガ』、般若の奥さんは『ローラ』と言う名前らしい。
ふと壁の額縁に目が止まった。
えっ? これは……
なんとベガがエロ霊魂の時に、俺に処分を依頼した書物が飾られているではないか!
「あーこれか? これのおかげで俺は生き返ったって事だからな。結局ローラも焼き捨てるどころか、家宝にしようと言ってくれたんだ」
なるほど。へーどれどれ。
俺は家宝と言うものに興味が湧いて手に取ってみた。
タイトルはあの時はちゃんと見なかったしな……
「“わたし、イキ過ぎちゃって、もうダメに……」
ガコッ!
「…………」
「あれ?」
気が付いた、ここは?
「クロード様! あんなものに騙されてはいけません。夜わたしがいるのをお忘れですか?」
リーシャ、マールにプラスして、アヤネ、ミミ、スージーまでもが抱きついてきた。指揮官のピンチが、とっても心配だったらしい。苦しいけど、幸せだ。こういう場合でのスキンシップは認められるらしい。
どうやら俺はリーシャに、回し蹴りをくらったらしい。まあ風紀隊指揮官だしな。ありゃだめだよな。
「あんた。さすが勇者だな。今日は可愛いお嬢ちゃん5人もいるのか? これじゃあ夜が大変じゃないか?」
まだ言うか?
「ここはベガさんの書斎か?」
「ああ、これから炭鉱行くんだろ? 何か参考になる書物があれば見ていくといいぜ」
本棚を一瞥してみる。
【一から始める鉱物学】
【これで完璧! 鉱物鑑定】
【鉱物鑑定一級教本】
【みてみて! 私こんな立派に育ったよ!】
【今日からあなたも鉱物マスター】
あんた立派な鉱夫目指してるんだな。さすがは命を散らす覚悟で皆を守ったチーフだ。
あれ? これ何処かでみたタイトルだ。何処だっけかな? 7〜8年くらい前だっけかな……何処かで。人気作なのだろうか?
その気になる一冊を手に取ってみた。
なるほどー!
これは立派な育ち方をしているな。鼻血出そう……
そう思った瞬間、感じた頸部の異音(二回目)。
「…………」
「あれ?」
「クロード様! あんなものに騙されてはダメですわ! 夜わたくしがいるのをお忘れですか?」
リーシャ、マールにプラスして、アヤネ、ミミ、スージーまでもが抱きついてきた。苦しいけど、幸せだ(二回目)。
あまり参考にはならなかったが、良い息抜きになったと思う。
ベガとローラに手を振り、俺達は炭鉱へ向かった。




