スージー
「アーク。こいつをしとめるには、お前の力が必須条件だ」
「わたしに任せてちょうだい!」
「アーク! 今日は気持ちいい日だろ! せっかく久しぶりに超絶美女に戻ったんだ。そこで立ち上がってバンザイすると、気分がスッキリするぞ!」
「あっ! そうよね!」
アークがあのエロい状態のまま立ち上がり、バンザイした。
全く恥じらってはいなかったが、何となく手で押さえつけていた箇所まで全てが溶け晒された。
スライムの眼前で。
男の全てが……
「きゃー!! いや~~!」
えっ? こいつ魔物だよな?
まあいいや。俺は考えるのをやめた。
スライムは悪寒が走ったように、カチコチに固まってしまった。
やはりこいつ……男の裸体には免疫がなかったようだ。
普通の状態じゃ攻撃無効だからな。
これは予想以上の効果だ。
自分が快楽でやっていた事が、世にもおぞましい事をやっていた事だと気が付いた時、人はどうなる?
そして、それはこいつにも通用した。何故ならこいつは無駄に、人間以上に知能が高い。
「ドイル! エドワード! あの状態なら攻撃が通るはずだ」
「そうね!」
「了解しました」
かき氷のように固まったスライムにエドワードが、しなやかな身のこなしで、剣を叩きつけた。
更にドイルが矢を放ち、援護した。
ゴキ!! ドスッ!!
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁー!!」
断末魔はひどかった。
そしてぷよぷよになった身体がみるみる崩れ、水たまりのようになってしまった。
半死の状態なのだろう。
「おい! お前言葉が話せるんだよな?」
「…………」
「答えないと……」
裸のアークをつきだした途端、半死の状態で漂っていたぷよぷよが瑞々しい色合いを取り戻し、元の固形に戻った。
「待って下さい! わたし悪いスライムじゃないんです!」
「じゃあ、もう女の子の服を溶かす悪さはやめられるか?」
「はい!……こんな美青年のあんな立派なもの見せられちゃったら、正気ではいられないです。もう女の子には興味なくなっちゃっいました……」
「――もう絶対に女の子たちの嫌がる事はしないと誓えるか?」
「……はい。絶対に女の子の服を溶かして遊んだりしません!」
「――分かった。信じよう」
スライム自体も当初水色だったのだが、今は落ち着いたように淡いピンク色に変わっている。
どうも、こいつはもう戦意喪失しているし、聞き分けはいいようだ。
「わたし……もう魔力が……」
その刹那、スライムは崩れていき、人型に形を変えた。
やっぱりそうか。声色からそうだと思ったんだ。ロリ美少女属性だ。
スカイブルーの透き通る髪と真っ白な素肌。淡い藍色の瞳。
やや小柄ながら絶世の美少女だ。
ただ真っ裸だが。
細部に至るまで完全に人間の女の子だった。
15、6歳というところだろう。
「あの……あなたがあのスライムなの?」
アークが信じられないと言う表情で聞いている。
アークは聖人だ。全てを正直に晒している。
「きゃ! そんなハレンチな……格好……」
完全にアークの裸に心酔した美少女スライム。
「アーク、こいつにはお前の刺激が強すぎるんだ……」
「あら、このスライムの子も、まあまあ刺激的な身体よ?」
「お前、どうして女の子ばかりを狙って、着ているものだけ溶かしてたんだ?」
これが、人間だったら死刑だぞ。魔物で良かったな。いや、良くないか?
「……あの……わたし、どうしても人間の女の子のように可愛いお洋服着てみたかったんです。それをスライム集会で訴えた途端、あってはならない愚考と言われ即追放されたんです。それ以来、可愛いお洋服を着ている女の子を見るとつい……」
確かにスライムだからな。服は必要ないかなとは思うよ。思うんだけどさ……
「魔力が尽きたようですが、何故あなたは、その姿になったのですか?」
エドワードが、疑問を口にした。
「この人間の姿なら、魔力を使う事もありませんので、魔力の自然回復も早いので」
「反省しているようだな。風紀には著しく反しているが、人に直接危害は加えてないから、今回は殲滅しないでおいてやる。好きなところに行きなさい」
「…………」
スライムは、俺の方を仲間にしてもらいたそうに見ている。
「……うーん、仕方ないか。追放されて行くところなんてないんだよな?」
スライムの目が輝いた。
「名前はなんて言うんだ?」
「……『スージー』と言います! ご厄介になります!」
まだ連れて行くって言ってないのにな。ただ嬉しいんだろうな。孤独だったのか泣いて喜んでいる。
「分かったよ。よろしくな! スージー」
「わたしはアークよ。よろしくね。スージー」
「わたしがドイルよ、もう悪さしちゃダメよ。よろしくね。スージー」
「わたしはエドワードです。クロード様が認めたのなら、あなたはもう大事な仲間です。よろしくお願い致します。スージー」
風紀隊は皆いいやつだよな。異論は誰一人いない。結果、この悪いスライムじゃないスージーを連れて帰る事にした。




