ある王子の転生記 ―side エリック―
果たして読んでもらえるのか、はたまた理解してもらえるか未知の遺書を残し、俺は12歳でその生涯を閉じた。
――俺が目を覚ましたのは、ある王室の屋敷の自室のベッドの上だった。
右手にぬくもりを感じていた。少女が両手で大事に俺の手を握り続けてくれていたようだ。
……俺はルシェ王国のクリスマスパーティーで、確かに命を絶ったはず。
父親を筆頭とした国家ぐるみの暴虐を知ってしまい嫌気が差して……
――”こんな糞みたいな国、滅んでしまえ!”
怨念を込めた。
ただし、一縷の望みを遺書に残した。
誰に渡るかも分からないクリスマスプレゼントに地雷ともとれるメッセージを込めたんだ。
……そして、世界は変わっていた。見事にルシェ王国は滅び、ルシェ連邦国という過ごしやすい環境に。
この身体の持ち主は、どうやら狩りの帰り馬から転落したようで、そのまま息を引き取ってしまったらしいのだけど、そこへ俺の魂が入り込んで蘇生を果たしたようだ。自死を選んだ報いだろうか? 暦まで6年も遡っていた。話を照合すると事故当時は12歳で俺と同い年で名はエリック。救いもないほどの悪ガキぶりだったようだが、このフィアンセだけはずっと見捨てないでいてくれたらしい。
――それから俺は彼女に支えられ新たな人生を『エリック』として育むことを選んだ。せめて、人一人くらいは幸せにしたい。人生に意味を持たせたい。正直転生前の『ルーク』という名には、クソのような親からつけられたという嫌悪感しか沸かないから、これで良かったんだ。
……そして6年がたった。
セシリアは素朴だけど優しかった。そんな可愛いフィアンセに危機が迫り、俺は秘密裏に連邦国の風紀隊という組織に、調査を依頼したんだ。
早速やってきたのは、大きな白狼に股がった女の子だった。秘密裏にって言ってあったのに。超目立ってるし、しかもこれ神獣と言われているホワイトフェンリルじゃないか?
『ポチ』と呼ばれていたようだが、どう見ても『ポチ』じゃないだろ? 威厳的に……
――卒業パーティー前日。
「……エリック様、いいんですか? セシリア様にすご~く誤解されますよ? わたし達」
「セシリアの吠え面見たいって言ってたくせに! 後で話せば、きっと分かってくれる……はず」
だよね?
セシリアに忍び寄る影は、紛れもない変質者であり、俺が間違いなく邪魔なはずだ。
その邪魔者の俺が、リーシャと浮気関係? みたいなところを見せておけば、犯人にとっては好都合になる。
だから……
「……まあ、俺とリーシャの仲じゃないか? 頼むよ」
この子とは会話が弾む。心地いい親友のような感じだ。
「わたし、バカっぽいお嬢様役やだなー」
……そう言いつつも、彼女はすらすら俺の肖像画を描いていた。別に彼女が必ずしも描く必要はこれっぽっちもないのだけれど、こういう大捕物は、形からって言うじゃないか。
「……まあ、普段通りじゃないか?」
「あっ! ひどい! 陛下に婚約破棄する事言い付けますよ」
事を始めるには『婚約破棄』を叩きつけるのは大前提だ。犯人にこれ見よがしに飴をばらまくのだ。
「……父上には後で説明すれば、きっと分かってくれる……かな?
やっぱ自信ない。お願いだから言い付けないでくれませんか?」
「……全く……じゃあ、夕飯3回くらいは奢ってもらいますね。無論エリック様の奢りで」
「……はい」
「……あとはこのラブレターですね。出来ましたので読み上げますね。
『わたし、寝ても覚めても、エリック様の事が頭から離れません。わたしは、あなたを心から愛しております』
これでいいですか?」
「……待て! それただのラブレターじゃないか。それマジで俺終わるから」
「……大丈夫です! 愛があれば何とでも!」
「……まあ、そうなんだけどさ」
俺は急いで文章を直した。
『愛するセシリアへ。おそらく君にこれから声をかけた奴が君を付け狙う犯人だ。刺激はしないよう犯人の言う通りに行動してくれ。必ず助ける。エリックより』
偽ラブレターの目的はセシリアに本当の危機を知らせる事にあった。前もって警戒しておいてもらえる事、そして、何より俺は裏切っていない事を伝える為。
……前日の事前準備が終わり、俺は一つの決心をしていた……
――彼女に全ての想いを告げるんだ――




