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何でも屋

 俺達は今窮地に陥っていた。

 マナドレイン供与のマール以外みんな満身創痍だ。


「ぐっ! まさかここまで手強いとはな……」


「ここはわたしが注意をひきますので、クロード様! 無力化をお願いしますわ!」


 リーシャが自己犠牲を申し出ているが、生憎だがそれは俺の役目だ。


「リーシャ。俺に任せておくんだ。お前はマールの援護を頼む!」


「――分かりました。クロード様。お気を付けください!」


 ここまで事態をもっていくのに、相当苦労していた。敵が一筋縄ではいかない知能を持っていたのだ。

 これは……並みの冒険者パーティーには無理なクエストだろう。


「よし! これで勝負をかけるぞ! 俺がやつの気を目一杯ひくから、アヤネ! とどめを頼む!」


 俺は指揮官らしく的確な指示を出した。


「了解いたしました。次は外さないにゃ!」


 よし! これで最後だ!


「みんな! これが終わったら、盛大に一杯やろうな!」


 そう言うと俺は、依頼主から譲り受けた魔法の粉を手に(まぶ)し、やつの注意をひいた。

 やつは警戒しつつも、釣られて俺との距離を次第に詰めてきた。

 一歩……もう一歩足を踏み出すタイミングで――緊張が走る。


「アヤネ! 今だ!」


「にゃは!」


 会心の一撃だ! 決まった!


「やったか?」


 盛大に砂ぼこりが舞う……

 だが無情にもやつはそこにいなかった。

 もしかしてやつは……これを予期していた? 何て狡猾なんだ。

 俺は舌を巻いた。


 肝心のやつはどこだ?

 なに!? やつが俺達の唯一の弱点であるマナ貯蔵庫を狙っているではないか!


 そう。そこにいるのは運動神経が残念なマナ貯蔵庫のマール。

 こいつに攻撃防御は残念ながら期待できない。

 何故なら……無尽蔵なマナ貯蔵庫なだけだから。


 まさか。ここを狙ってくるとは……


 そしてやつの毒牙がとうとうマールに襲い掛かる。

 リーシャの必死の援護も間に合わない。


「マール! 躱してくれ!!」


 俺は無理かと思いつつも、精一杯の声で叫んだ。


 しかし、マールは何と両手を広げてせまる毒牙を、自ら受け入れようとしているではないか!


「マールちゃん!」


 無情なリーシャの叫びが轟いた。

 万事休すか……


 そして、マールの胸にやつは飛び込んでいた。

 そう! ヤツの目的はあの花園。つまりマールのボリューミーな胸。

 よりによって顔を胸の谷間にうずめてやがる。

 やめろ! それは俺だけに許されるハイテクニックなんだ。

 お前如きが味わっていい所業ではない!


「あの……あなたただ怖かっただけなのですね。もう大丈夫ですよ」


 胸を吸いつかれるような位置にやつがいるにもかからわず、マールは天使の様な微笑みで言葉をかけている。


「クロード様! この子わたしになついたみたいなので、このまま抱いて戻ります」


「ごめんなマール。お前を命の危険に晒してしまい……俺は指揮官失格だ」


「いえ。始めからこうすれば、そもそもわたくし達は苦労しなかったはずです。二度も盛大な死亡フラグを立てて頂いたのに、わたくしこそ気付かずにすみません」


「わたしの渾身の一撃が……にゃへ……」


 アヤネの心のダメージが予想以上に大きいようだ。


「アヤネ。仕方ないさ。お前の十八番(おはこ)のダガーじゃなくて、今日はおもちゃのピコピコハンマーだったじゃないか? 無理もないさ」


 とにかくこれでミッションコンプリート。

 長い一日だった。今日の依頼は『迷い猫の捜索、救出』だったのだ。


 では何故、俺達由緒ある風紀隊が今回請け負ったのか?


 これは魔物が対象ではないので、討伐依頼で副次的にもらえる経験値の恩恵も受けられず、収集品の採取ももちろん出来ず、ギルドでは、どの冒険者達も嫌がる依頼だ。

 何せ捜索にまず膨大な聞き込みや探りを入れ、やっとホシの行動範囲を特定し、見つけた時には日が暮れていることがほとんどなのだ。


 飼い主が依頼者なので報酬は交渉次第だが、そもそも貴族でない中流家庭がほとんどの階層だ。

 そこまで期待は出来ない。

 よって、冒険者達は一番嫌がる系統なのだ。ギルドでの消化具合がすこぶる悪い。


 実は猫探し以外にも俺達風紀隊は誰もが嫌がる民家のどぶ攫いなども率先してやっている。メンバー達は苦情なんか一言も言わず、せっせと俺と一緒に泥だらけになるんだ。

 もうどうして俺はこんな最高のメンバー達に囲まれたのか不思議なのだが、幸せなんだ。


「ただいま。猫保護出来たよ」


「お疲れさまでございました。クロード様、リーシャ様、マール様、アヤネ様」


 ミミが出迎えた。

 今日は凶悪な魔物討伐ではないので、この4人で挑んできた。


「あー。手強かったけどちゃんと無事保護出来たよ」


「あっ! ミーちゃん!」


 ずっと心配でいてもたってもいられなかったんだろうか。詰所で待機していた飼い主の少女が、保護した猫をマールから受け取り抱きしめた。


「お兄ちゃん、お姉ちゃんたち! ありがとう!!」


 俺達はこの言葉が聞きたくて風紀隊やってるんだ。

 報酬を払うつもりなのか、出したのは、この少女が何かあった時の為にずっと貯めていたお小遣いだそうだ。


「足りないかもしれないけど……」


 通常猫探しはギルドでは、銀貨5枚で請け負う。

 少女の手持ちは銅貨5枚。銅貨10枚で銀貨1枚の価値だ。


「そのお金は、一生懸命あなたが貯めた大事なお金よ。きっとミーちゃんはそんなあなたを見て戻ってきてくれたの。だから、大事に持っておきなさい。わたくし達はあなたが必死に集めたマタタビで十分だわ」


 マールが聖女の言葉を送った。

 声色まで美しい。

 そして俺の方を見て目で訴えた? これでいいですか?


 何も言えるわけないじゃないか。

 そして俺達は無報酬だ。元々もらうつもりもない。マタタビも使い切ったしな。

 ただし、国から随時予算ならぬ定時報酬を受け取る事が出来る。


 風紀隊の仕事に大きいも小さいもない。皆が喜んでくれる事をこなすために存在するのだから。迷い猫の捜索にすら全力を捧げる風紀隊は、民衆にも愛されるようになっていく。



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