優しいパーティー ―side ルディー―
――パーティー名は『暁』といった。
家を追い出された後、俺は王都で何をしようか? 生きる方法を考えないと。
こんな事を考えて彷徨っていた。
つまりは路頭に迷っていた。
肩書は既にないし、これといったスキルもない。あるとすれば何をしても肥えることだ。
父親からの追放時、ある程度のまとまった資金はもらっていた。
これをやるから、2度と戻るな。我が屋号を語るな。しっし! みたいな。
まあ、必死に頑張った結果がこれだからショックだった。でもこれ体質だからしょうがないじゃん。
そんな時、ついに俺は街道に突っ伏し倒れた。
実は物の買い方ですら、ろくに分かっていなかったからだ。ついこの間まで貴族だったからな。
「――おい! 大丈夫か? 空腹なのか?」
そこで声をかけてくれたのが、暁のリーダーラルクだった。
この頃既にかなりのデブ体型を誇っていた俺を、ラルクを中心に他の2人、スナイパーのミーアと、賢者のエミルが協力して、近くの食堂まで運んでくれたのだ。
……何も生活の理を知らない俺には天の助けだった。
恐るべき速度で腹ごしらえをし、お金はかなり持っていたのでそれを渡したが、そんな事より俺に折り入って頼みたいことがあると言って、突っ返された。
なんか、いいやつだなって思った。
彼らは駆け出しの冒険者だという。
冒険者とは? 彼らから話を聞くうちに興味が沸き、何も手に職がない俺にもできるか聞いてみた。
「何も手に職がない? とんでもない。お前はそのガタイが既に魅力的じゃないか!」
生まれて初めてだったかもしれない。デブを褒められたのは。
「……こんな俺でも冒険者になれるのか?」
「ああ、俺達はまだまだひよっこだ。3人とも敏捷が売りのAGI型なんだ。まだまだ魔物の攻撃が十分に避けられない。だから、どう見てもお前のその逞しいガタイが必要なんだ」
詳しく話を聞いてみたところ、ラルク達は初級冒険者だが、敏捷性は元々抜きに出ていて大器晩成型だそうだ。どうしても防御が紙装甲の為、一旦敵を引き付けておくVIT型のタンク役が必要なのだと言う。被弾前提の為、こういった役を二つ返事で引き受けてくれる仲間はいないそうだった。
ラルクは世界では、あまり類をみないパラディンだという。剣戟の達人であり、かなり上級クラスの回復魔法まで使いこなせるそうだ。もともと自己犠牲の精神を持つ崇高な職業で仲間のダメージを代わりにうける受け流しなども出来るようだが、何せ攻撃を受けない事が前提のAGI型だ。少しばかり勿体ない感はある。
次にスナイパーのミーア。
はっきり言って神々しい位の美少女だ。かなり露出の多い恰好。ホットパンツにみかわしの服を羽織っている。
軽装なのだが彼女もまたAGI型。射撃センスはもちろん、危機察知やトラップ解除なども請け負っている。明るく話すし胸までナイスアップル。
最後は、賢者のエミル。
彼女もまた妖艶さを兼ね備えた美人だ。たまに無意識で幼稚なしぐさが可愛い。
何か興味深々になると顔を近づけてきたり、声が好きだ。
頭の良さ、判断能力は一級品。
高度の回復呪文、攻撃呪文まで使える万能型。
更に剣術も相当なもので、十分近接戦闘もできる。AGI型なのでやはり踊り子のような服装だ。
……はっきり言って俺このグループ入っていいの? ただのデブだよ。
こんなデブ騙しても面白くないよ?
いろいろ考えたが、こいつらは必死に俺を助けてくれたし、断ってもこれから生きていられるか分からない。
「……その役目なんだが……マジで突っ立ってるだけでいいのか? 剣とか握ったことないぞ。ただ結構体は鍛えてあるから、かなりの攻撃まで耐えられるとは思うんだが。あとお前達みたいな機敏さはおそらく全くもってこれからも成長しないかもよ?」
「――ああ、大丈夫だ。俺達は個々の役割はしっかりしているからな。正直、こんな役目を押し付けてしまい申し訳ないくらいだが、その分、お前の分け前を多めにするつもりだ」
ここまで言われると、もう断る理由がない。
俺はこの日冒険者になった。
――そして1年後、今この場に至る。
「そもそもリーダーのお前がさよならだと言ったんだ。俺はただ従うって言っただけだぞ。そこに議論の余地はあるのか?」
「……ほら! お前達も黙ってないでなんか言えよ。いや、言うべきじゃないか?」
ラルクはずっとだんまりを続けていたミーアとエミルに向き直った。
「……あのね、ルディー。ダメなのよ。もうさよならなの……」
恋人を振る言い方だよな。
俯いて、どもりながら話すミーア。いつもの明るい様子は皆無だ。
「…………」
微動だにしないエミル、無表情に見える。
「彼女達だって困ってるじゃないか? 俺だってもうお前たちのお荷物にはなりたくないんだ。3人とももう俺が眼に追えないほどの機敏さを兼ね備えてるじゃないか」
……分かってもらえたのかな。




