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ある転生者の非日常 ―side アヤネ―

 今日も準備よし! 朝元気よく玄関の扉を開ける。

 だいたいの日、不慮の事故がないとは限らないので、朝は割りと余裕を持って行動する。


 朝の道路は混雑するから気をつけないと。

 え? 前からトラックが来ているけれど、どうも蛇行していて操舵が利かなくなっているのかも……いや、ブレーキが利いていない?


 更にトラックの前には横断歩道を渡る少女が。

 わたしは、思考が、働く前に行動していた。咄嗟の事だった。カバンを放り投げ、少女に半ばタックルしたような形だ。抱き抱えていたのではとても避けきれなかったから。


 ――どうか、この子だけは助かりますように……


「…………」


「おお、モブっぽいアヤネよ、死んでしまうとは情けない……」


 真っ白い何もない部屋。

 目の前に神様のような老人。


「あの女の子は、かすり傷ですんだようじゃ。そなたが死んでしまったのは残念じゃが。命をかけての事じゃ、わしは何も言うまい」


 あの女の子助かったんだ……良かった。


 で、何ここ? なんでモニターが目の前に出るの? どういう仕組み?


「だが喜ぶのじゃ! 今日は掘り出し物が多い。運がいいのう! ちょうど今空いたばかりの器があるのじゃ。さて、おまけは誰を選ぶのじゃ?」


>・そこら辺にいたミリー

 ・海王ポセイドン(売り切れ)

 ・破壊神オーディン(出張中)

 ・女神アプロディーテー(子作り中)


「ほうほう。それを選ぶとはおぬしも物好きじゃのう。ではさらばじゃ! アデュー!」


 わたしは一言も話す間もなく、こんな不遇な転生をさせられたわけだけど……

 でも、いいんだこれで。どうせあっちの世界にいたってただモブとして人生終わっただけだろうし。


「…………」


 波の音が聴こえる。

 目が冴えて視界が開かれた。明らかに砂浜に女の子座りでいるわたし。

 考えるより先に緊急の状況であることが理解出来た。


 周囲に漫画やアニメでみたような柄の悪い男達がわたしをとり囲んでいる。

 大体の男達の手にあれは……カトラス、曲刀で海賊の代表的な武器だ。


 えっとわたしの目の前に明らかに海賊より更にみすぼらしい恰好、奴隷のような衣服の金髪の青年が背を向けて立っていた。わたしもぼろきれ着ているけれど――


 こちらを振り返った。


「ハッハッハ! メルよ。怖がるでない! こんな山賊ども我が身を挺して粛清してくれるわ!」


 えっ? メル? わたしのこと? そういえば明らかにおかしい。

 だってわたしこんな胸が豊かじゃなかったもん。

 成り行きにまかせるしかないけど、そこで声をかけてくれた人は味方よね?

 あれだけ威勢良いってことはこの人強いのかしら?

 わたしは狼狽えるのは後にして、この強いらしい青年に期待した。

 でもあれ……あの男達どう見ても海賊だと思うのだけど、今はどうでもいいか。


「このクソ山賊ども、我が、心ゆくまで相手してくれる! 冥土の土産に覚えるがいい! 我が高名なるルディーだ! この崇高な王太子に対し剣を向けた事、地獄で後悔するがよい! ハッハッハ!」


 相手は10人もの武器を持った海賊。

 相対するのは、何だか王太子とか言ってるルディーさん。徒手空拳だけど、そんなに強いのかな?

 まあいいわ。この状況が打破できるなら……お願いルディーさん!


 華麗に身を翻したルディーさん。

 ややルディーさんの威嚇に狼狽えた海賊達だが、とうとうカトラスを構えた一人の体格の良い男がルディーさんを襲った。足場は砂浜だが、海賊たちは慣れているようで、苦になっていない。


 続いてこれに続けとばかりに、3人がルディーさんに襲い掛かった。


 ザシュ!!


 ドス! シュバ!! ドスッ!


 最初の男のカトラスは見事に袈裟切りに成功し、背後からは刺突で2撃、更に体重の乗った斬撃。


 ルディーさんは、そのままうつ伏せに上体から倒れた。

 えっ? 強い人じゃなかったの? わたしはどうしたらいいの?


「メル……よ。我が栄光の姿……しかと見届けてくれたか……絶対に……黒幕の……親父には屈したくなかった……から……な……洗脳……は……もう解けた……みたいだ……な……最後に……お前を守れて……よかっ…………た……最高に……我は……幸せ……だったぞ…………アデュー!」


 そのままルディーさんは満面の笑みを、わたしに向けて華麗に息絶えた。

 えっ? 何だったのこの人! 悪いけど全然感動してないし、守られてないのだけど……


 最期の言葉、無駄に長いし、キモいよ……


「おい。このバカ死んだんだが、何がしたかったんだ?」


「わかんねーな。ただ俺達についてくれば、海賊王になれるって言ったらついてきたバカだからな、何がしたかったんだか――」


 まずいわ。いよいよ海賊たちの眼がわたしに向けられた。


「まー俺達の目的はお嬢ちゃん! あんただからな! 邪魔するものはねー。ゆっくり楽しませてもらうぜ!」


 さっき一番手でルディーさんに攻撃した頭領っぽい海賊がつかつか歩いてきた。

 怖くて声が出せない。どうしよう……

 どうしてなの? わたし多分一度あの状況じゃ死んでいるはずだわ。なのにどうしてまたこんなおかしなシチュエーションで、今度は明らかに辱められてから殺されるなんて――


 逃げたい! 身体が動かない! 動け!


 “あたしは【英霊ミリー】だにゃ。力をお貸しするにゃ。反動には気を付けてにゃ“


 突如謎の言葉が脳内を巡った。全くの奇怪な少女ボイス。これ何なの? でももうわたし辱められる未来しかみえない。もうどうにでもなれ! いけにゃ! あっ! にゃって言っちゃった……


 “承知しましただにゃ!“


「にゃは!」


 刹那、意識はあるが身体が足場が砂であるにもかからわず、勢いよく跳躍した。近づいてきた頭領から、いつの間にかカトラスを盗み取っていた。


 身をかがめて一閃。 ザシュ!

 更にとんでもない速さで残党に向かう。

 虚を突かれた残党たちは、カトラスで構えるも、見切りができていないようで次々に正面から、背後から多段に切られ血しぶきが舞う。

 わたし自身何が起こっているのか分からないのだから、当然海賊たちの狼狽えた表情だけが見える。

 全ての残党が絶命するまであっという間だった。


 屈んで小走り、ものすごい手数で効率よく……まるでテレビで見るくノ一?

 いやもっとスケールが大きい……アサシンってやつなのかしら?

 でも、こんな事しちゃって、わたし人殺しもいい所よね。

 いつの間にか手には、カトラスとダガーが握られている。二刀切りしていたようだ。


 一気に来た脱力感。力が抜ける。

 あーそうか。身体のリミッター超えて暴れたからだわ。だってわたしバク転とか出来るはずないもん。

 英霊ミリーちゃんモードでバク転やらバク宙やら、縮地やらやりたい放題だったようだ。

 まずいわ。めまいがひどい……こんなところで倒れたら間違いなく怪しまれるわ。たどたどしく歩き、何とか奥まった所に硬そうな岸壁に小さめの横穴があり身を潜めた。


 怪しい4人組みが、やってきたのはそれからすぐの事だった。反動が強い今彼らを倒すには、不意討ちしかないわ! わたしは身構えた。頼むにゃ! ミリー!


 “にゃは!“

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