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ライバル同士に挟まれる俺

 ここでマールの心情を整理してみた。


 ――マールは、果たして自身が元の世界に帰る事が既に出来るピースが揃いつつあることに気付いているのだろうか?


 肝は 【空間連鎖コネクト】と【ドレイン】。

 まず【空間連鎖コネクト】を行使するには、通常目的地点のログ取りが必要になる。

 つまり実際一度訪れた事がある場所にのみ使える魔法だ。


 ただし、それをクリアする魔法がある。【記憶遡行】だ。目的地の情報であれば、マールに【記憶遡行】をかけ、詳しく読み取る事が出来るだろう。何と言ってもマールが『牧瀬あるか』として16年間生きた場所だ。ログとするには十分過ぎる。


 もう一つのキーワード【ドレイン】は、異世界間移動となると、膨大な魔力が必要になる。魔力タンクのマールがいれば、この問題もクリア出来る。


 ただ一つどうしても、クリア出来ない壁がある。目的地が『異世界』である事だ。『空間連鎖』したところで座標軸が異なる異世界へ無事に降り立てる保証がない。発動自体は出来ても、人間の身体では異世界空間を無事に超えられないはずだ。グシャグシャになって原子化する気がする。この問題がクリア出来ない限り、マールに元の世界に帰れるなどと、ぬか喜びさせるべきではないんだ。


 それでも希望はある。『時空魔法』はまだ未開の部分が多く、特に【空間連鎖(コネクト)】は伝説の魔法に位置づけられるくらいだからだ。


 ――マールはもしかして、元の世界、地球に帰りたいんじゃないのだろうか?

 だとしたら……


 俺は新たな課題を負う事にした。


 ――異世界間での【空間連鎖(コネクト)】を成功させる事。そして、彼女を『聖名学園』に無事編入させる事。




 ライナーさんが王城へ帰っていってから2日がたった。

 変態アークとドイルは、お色気にゃんにゃんパラダイスより出向という形で、この本邸に住み込みで働くことになった。いざ接してみるとそこまで不快感はない。


 気を入れ替えてからは、かなり聞き分けもよく気が利くようになったんだ。2人とも。

 しかし問題がある。そもそも男だ。どうしても気持ち悪い。

 侍女たちから苦情が来ないか心配だ。

 とりあえず女装だけは解除させるべきだな。

 精神衛生上良くないんだ。


 3人で勇者パーティーを組む。

 メンバー的にかなり異例なようだが、これにはメリットもデメリットもある。

 つまらない事でのパーティー決壊はないと信じたい。


 これから、勇者パーティーとしてやっていくには役割は決まっているのだが、肝がマールのマナ吸引に関して理解することにあった。


「マール。おそらくだけど、そのマナ吸引は先代勇者から引き継いだものなんだよな?」


 その化け物じみた能力が、初代勇者アークのものならば、2代目アーク達のみが知っていた理由になるから。


「はい、多分そうです。【ドレイン】ですね。気付いた頃にはこう、ぐわーっと気持ちが高揚してきた感じ、それが吸っている時なんですがあったんです」


「どういった時にその能力は発動するのですか?

 わたしは一緒にいても全く気がつきませんでした」


 大体リーシャとマールはセットだからな。一番気が付きやすいはずなんだけど。


「多分ですがわたくしが魔物を認識した時だと思います」


 その場合はかなり効率がいい使い方になるな。これを知ったパーティーなら喉から手が出るほど欲しいだろう。だが、風紀勇者の風紀の掟には、勝てなかったから追放された。


 仕方ない。変態コンビにも話を聞こう。


「アーク、ドイル。お前たちはどうやってマールから魔力の供与を受けていたんだ?」


「距離ね。近ければ近い程、勝手にマールが精力をつぎ込んでくれるのよ」


「敵と混戦の場合は敵にも享受されてしまわないのか?」


「いえ。わたくしが味方だと判断した方だけですわ」


 なんとなく分かった気がする。おそらく【ドレイン】は常時発動型のパッシブスキル。マールは体内に魔力回路を持たないから、【ドレイン】がもしアクティブスキルであれば詠唱して発動するわけだが不要なんだ。条件としては”マールが魔物を認識した時”に発動なので、普段から無為に周囲からマナをむさぼりとることもない。マナの周囲の潤沢状況にもよるだろうが、条件を満たした場合のみマールは勝手に身体がマナをドレインしていて、仲間が近くにいれば勝手に振りわけていたんだ。

 これがあれば本人は魔法が使えなくても十分すぎるほどの貢献度だな。


「クロード様。わたしが認めます。パーティー行動時はクロード様を中心に左右でわたしとマールちゃんが、腕を組んでくっついて歩くようにいたしましょう!」


 名案だった。距離が近ければ効率がいい。そして俺的にはウハウハで勇者稼業ができる。一石二鳥である。

 左右二人の胸圧で、パワーアップするかもしれない。いやきっとする。

 今まで魔物に相対する事がなかったので、ドレイン効果が、認識できていなかったようだ。


 だがこれだけの情報量があれば、マールの能力をフル活用できるだろう。

 実質的には、俺とリーシャ+ポチしか戦力にはならないのだが、この勇者稼業には、単純な戦闘力だけが求められる場面だけではないと思われるので、マールのバフ、リーシャの頭脳は非常に強力なスキルと言える。


 それと、どちらかというと俺よりも、美女二人をフラグとした勇者パーティーだ。

 呼応してくれる人々も多いだろう。

 しがない傭兵稼業でくすぶっている俺からすれば、これほどのやりがいをもらえたのは、本当に嬉しい事なんだ。


「マール、リーシャ! これからお前達を平和のフラグとしてやっていくパーティーだ。悪いけどお願いするよ」


「はい。わたくしもただ単に偽善で引き受けたわけではありません。一番自分の価値が計れる場所がここなのです」


「リーシャ、平穏な生活にならないかもしれない。申し訳ないが……」


「承知の上ですわ。それに人の為になるんですものね。これほどやりがいに満ち溢れた事ってこれからないかもしれませんし、今しか出来ない事ですものね!」


 これほど恵まれた仲間たちに出会えた俺はなんて幸せなんだろう。


 マールはやや天然で天真爛漫、リーシャは理知的で打算が高い部分があるが……

 根底は二人とも優しい。


 これからがまた楽しみになった。


 そして、一週間がたち、とうとう王家からの使者がやってきた。

 使者を出すと言ってはいたが、結局来たのは、ライナーさんその人のようだ。気持ちよさそうな表情だからいい報告があるのかな? と思ったのだが……

 おそらくは王命の強い効力をもつ依頼だろう。

 だからこその定時報酬という対価もあるのだ。

 密命だったりするかもしれないが、俺達3人なら何だってこなせる気がする。



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