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授かりもの ―side マール―

「……あの……皆様、わたくしを助けてくれてありがとうございます」


 緊張の糸が切れたのか、わたくしは思わず泣き出しました。でもこれで終わったのです。わたくしの徹底的な制裁は。3人がやり遂げてくれてくれました。


 そんなわたくしに、3人はすかさず駆けつけ優しく抱き締めてくれました。


「シエラの咄嗟の機転だったのよ。あいつが書き出した後、素早い合図くれてね。あんなくず、当然の報いね。聖剣ぶっ刺し気持ち良かったー!」


 ミレーユ様がご機嫌です。


「わたしを身体だけの女だとバカになさった報いですわ」


 ……そこですか!?


「嬢ちゃんを死なせるわけには死んでもいかねーからよー。それによー、バカでくだらねー人生だったって自分で書いてるしな。いいんじゃねーの?」


 ガルト様も素敵です。


「……清らかな心身って言ったら一番は……彼自分で気付いてなかったのでしょうか? 毎朝清めてたんですもの。一番の適任者でしょう」



『悪しき心には清らかなる心を、聖なる力を以て架け橋を』


 ……アーク様、あの時の言葉……この事だったのですね。わたくしはあなたを人としては軽蔑しますが、勇者としては尊敬致します。この解をあなたが発見した事で、世界は救われたのですから……


 ………………


 わたくしはアーク様の最後のお仕事となった遺書を拾いあげました。


 あれ? アーク様が死ぬ間際に書いたわたくしの言葉の遺書の下に、もう一枚アーク様の筆跡の手紙が見つかりました。


 アーク様、一体あなたの本当の真意は……



 ………………


『遺書』


 これを君たちが読んでいると言う事は、魔王と僕を無事に貫けたって事だよね。

 まず、みんな、最後まで騙していてすまない。

 こうするしか方法がなかったんだ。

 ガルトも、シエラも、ミレーユも、そして、マールもみんな僕と違って誠実な性格だからね。魔王と僕を同時に貫くには、一切の躊躇いは禁物なんだ。だから、許して欲しい。


 そして、まず魔王を殺すには、勇者の命が必要だって事だ。しかも魔王と僕の心臓を同時に貫かなければならない。古文書で言う『清らかなる心』とは勇者の心臓の事なんだ。だから元々マールではなく僕でなくてはダメなんだ。


 とどめを刺す事になる君たちは、少しでも、躊躇があれば手元が狂うだろう。だから、君たちの怒りを買う事にした。躊躇わないようにね。

 僕自身が魔王を道連れに自死を選ぶのは物理的に不可能だ。先に自分の心臓を刺す事になるからね。おそらく魔王の心臓に刃が通る前に僕は絶命するだろうから。そうでなくても、清らかなる心の倫理に反していると見なされるだろう。


 僕は勇者になる以前から、ずっと魔王については調べていた。その過程で見過ごせない事実が判明したんだ。


 魔王を殺すと、自動的に世界中を対象にした終焉魔法が発動する。これは決して逃れられない死の灰が全ての空気中に蔓延するという恐ろしいものだ。身体中が壊死し苦しみ抜いて絶命するらしい。発動のキャスティングタイムは死後30分程だ。僕と魔王が飛散した地点に術式が現れるはずだ。


 この終焉魔法を発動させない為、前回魔王と戦った祖先は、魔王を仮死状態にして封印魔法を施すと言う方法をとったらしいんだ。だが、魔王は仮死状態でも封印魔法の術式を徐々に解いていったんだ。そして、今日遂に封印が解かれ、怒り狂うほどの暴挙に出たってわけさ。


 一度読み解かれた封印魔法は、魔王には無効だ。世界を守るには魔王討伐が必然だ。だが殺せば死の灰が世界を破滅させる事になるんだ。


 この理不尽に対する何か方法はないのか?


 たどり着いた答えがあった。


 こちらも、同様の終焉魔法を使い相殺させる事。

 僕は、毎日の研究、研鑽を経てついに魔王の終焉魔法に対抗出来る終焉魔法を開発した。


 これで世界は救われる。


 だが……


 終焉魔法は、魔王が死んでから発動されるものだ。魔王が死んでいるという事は、僕も死んでいる。終焉魔法は僕自身では使えない。


 考えに考えた僕は、心が清らかであり、純心無垢で魔力の器が大きな支援者であれば、行使できると確信したんだ。“清らかなる心“は魔王を殺す為ではなく、僕の作った終焉魔法を発動するのに必須だったんだ。


 マール、そんな時、君がやって来てくれた。心が震えたよ。懺悔部屋で既に僕は君に、自分の持つ全ての魔力と終焉魔法を授けてある。元々異世界人の君には、魔力回路が存在しないから残念ながら魔法自体は使えないが、終焉魔法を無力化する魔法の構築は済んでいる。君の脳裏に巡るものがそうだ。苛烈な戦闘訓練をした君になら使いこなせるはずだ。

 そして、僕の固有スキル『ドレイン』を譲渡した。これは様々なものからマナを吸い上げるんだ。マナは魔力の塊だ。君は魔法は使えないが貯めること、譲渡が出来ようになるんだ。君の世界では精力みたいなもんだろう。


 元々君には縁もゆかりも無い異世界を救うなんて事をお願いして申し訳ないが、僕に変わって、この素晴らしい世界を救って欲しい。もう一つ。すまないマール。魔王を消滅させれば君が元の世界へ戻る術も消滅してしまう。だから僕は君に身の上調査をしていたんだ。

 本当にすまなかった。


 本当の君の出番はここからなんだよ。マール。


 最後になるけど、ガルト、シエラ、ミレーユ、マール。

 みんなとの冒険は、僕の宝物だ。ありがとう。


 こんな僕の『バカでくだらない最高の人生』に付き合ってくれてありがとう。


 ――アーク


 ………………



 言葉が出ませんでした……


 アーク様は実際、わたくしと行動を、共にしてから魔力なしで、魔物を倒していました。あの四天王すらも……もう既にわたくしに、自分の魔力は全て譲渡していて使えなかったから。自分の危険を顧みずに、わたくしを育てる為に。


 でも、そのおかげでわたくしは、魔力の練り方、使い方、全て頭に入っています。あの懺悔部屋での不思議な脳裏に残る感覚、あれは終焉魔法の術式だったんですね。


 それにわたくしは違和感を感じていました。

 いつかアーク様の後をつけて行った時、あの人は朝のお祈りしながらも、一瞬でわたくしの気配に気付いていました。


 背中に目が付いてるような鋭さがあります。


 遺書を書いていたって何していたって、アーク様を気付かせず出し抜けるはずがないのです。


 全てお見通しだったんですね。

 わたくし達が、躊躇しないよう。


 ただアーク様、一つだけ思い違いをしていますよ。

 魔王を消滅させれば地球への帰還も出来なくなるという事ですが、この世界を救う事と、わたくしが元の世界に帰る事は天秤にかけるような事はわたくしには全くありません。

 何がどうなろうとも、この世界を救う事、それだけです。わたくしにはこの一択です。


「……アークの野郎、ふざけやがって……」


 ゴリラのこんなに凄まじい泣きっぷり初めて見ました。


「……わたし、あの時ね、何の躊躇いもなく刺せたの。でもさぁ、こんなの……こんなのってないよ……」


 ミレーユさんが取り乱して泣いてます。


「アーク……あなたは本当に分からない人でした。何から何まで。それでも正義感は誰にも負けなかったのですわね。でもまさか最後にみんなで騙されるなんて……」


 シエラ様も。


 ――そこに、唐突に登場した魔王の終焉魔法の魔方陣。


 “アーク様、わたくしの本当の出番はここからなんですよね!“


 もう何日も脳内に巡りめぐった終焉魔法の術式をわたくしは唱えました。地面に張り巡らされた魔方陣に、重ねがけするイメージでしたが、見事に相殺されました。



 ――わたくし達は、尊い犠牲を出しましたが、無事王都へ凱旋しました。


 国王に全てを話しました。魔王を完全に討伐出来た事。終焉魔法の事。そして、わたくしが考え、アーク様が力強く書いてくれた最期の素敵な遺書を添えて……


 その後、国王は、自らを犠牲にし世界を救った勇者アークを讃える為、王国内の至るところにアーク様の石像を作りました。


 色々なポーズのアーク様が、出迎えてくれます。きっと自分がイケメンだから、目立ちたかったのだろうと思います。そう言えば、王都にいる時はよく出歩いていました。きっと色々な造形師さんとポーズの打ち合わせでもしていたのでしょう。おかしなところで、ちゃっかりしていました。


 アーク様の本当にすごいところは、世界中、誰の不安も駆り立てず、自分以外誰の犠牲も出さず、魔王討伐をやってのけた事です。


 ここで国王は、次期勇者に『アーク』の名を冠する権利を与えたのです。


 次期『アーク』とは……つまりクロード様の制裁によって男の子が抜けてしまった風紀勇者の二代目アーク様です。

 わたくしは、聖女として、この二代目アーク様に誘われドイル様、ミミちゃんと共に勇者パーティーの一員になったのです。


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