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リーシャの大冒険 ―side リーシャ―

 クロード様に、ダンジョンでの心構えは一通り聞いていた。

 ――えっと……


 まずフィールドの確認と魔物の動向だ。

 あれ? 遥か先だが氷壁の上に何かいる。

 急に動き出した所を見ると、こっちが見つかったとみるべきか?

 動き方からすると……4足歩行? 離れているが分かる体長10メートルはある巨大な犬? いや狼だ。


 まずいわ。

 もうこの時点で見つかってしまったのは痛い。

 不意打ちが封じられるから。

 ……それにしてもこの凍てつく寒さ……

 立っているだけで凍死しそうだ。


 えっと……

 次はセーフティーサークルを捜す事。

 セーフティーサークルは、各フロアに一つだけ必ず設けられている直径20メートル程の球状の安全地帯だ。

 そこには如何なる魔物も受け付けない、結界が張られている。

 今現在は何とか身体を動かすため、にっがいポーションで約5分間は凌いでいる。

 それでも5分が限界かな。1分もポーションなしでいたらすぐ凍死すると思う。


 ここは、セーフティーサークルを目指そう。


 ――しばらく足元を確認しつつ歩いた。


 もうかれこれ3本はポーションを飲み干している。飲まずに1分でも立っていようものなら、たちまち凍死だからちょっと急がなきゃ。

 ポーションだけでお腹いっぱいになってきた。あーでもちゃんとしたご飯食べたいな。


 おっ? 少し道幅は狭いけど両サイドを氷壁に挟まれた道に出たわ。

 狼は一旦氷壁から降りたようだから、隠れつつやり過ごせたようだった。

 よし! ここを無事抜ければ、そうすれ――


 でも、それはフラグだった。


 わたしの進行方向の右側にそびえる氷壁の上から首を出し、あれはなんだろう?

 白狼だな。唸ってはいるが友好的ではない。

 そしてさらにその巨体でわたしの頭上から覆いかぶさるように、咆哮しながら飛んでわたしの目の前に着地した。


「あはは……どうも……こんにちは。今日も冷えますね……」


 そう、白狼は最初からわたしをこの氷壁に挟まれた小道に誘い込むように動いていたのだ。

 そしてわたしは……詰んだ……


 わたしの方は、何せ存在するだけで体力が削られ、凍死の危険がある場所だ。

 対して白狼は、ここがホーム。どう考えてもわたしは、相手の土俵に上がり込んだアリ。

 魔物とはいえ、地の利もあり、大前提としてフロアのボスっぽい魔物だ。どうあがいても勝ち目はない。

 でもこれだけ高位のモンスターだったら、賢さも尋常じゃないから人語が通じるかなって少しは期待したんだけどな……


 ”苦難を乗り越えよくぞここまで来た。その勇気に感服した。我はこれより君に命を捧げよう”

 みたいな感じがよかったんだけど。


 ……応答しない。どうも歓迎はされてないみたい……


 まだ対峙して数秒だけど、白狼はこちらを見たままだ。やろうと思えば、いつでも瞬殺出来るだろうに。何か笑ってるように見えるんだよなー。吠え面かかせたい。


「……欲は言わないので、見逃してくれたりは……」


「――グオオオオオォォ!!」


 やっぱり駄目だった。地響きのような強烈な吠え声で答えてくれた。


「……ですよね~」


 わたしは咄嗟に踵を返し、一目散に逃げだした。

 背筋は元から凍ってるけど、威圧がすごい。

 ぞっとするような悪寒が引き立つ。


 足元は真っ白。雪が砂の状態。

 アイスバーンよりは走りやすいんじゃないだろうか。


 ――まあ……とはいってもねぇ……もう限界なんだ~~!! 冷静気取るのは!


「やばいやばいやばいやばい!!! 食べられる!! なんとかしてー!!」


 むせび泣いて走るわたし。涙も出た瞬間凍り付くが関係ない。


 走れ走れ走れ!

 自分に言い聞かす。パンパンにはった太腿に言い聞かす。

 はっ! そうだ。保険のポーションは口に含んでおこう!

 命綱だけは忘れてはいけない。

 凍りそうな手でバッグから1瓶取り出し口に含んだ。


 いいペースだ、白狼はのうのうと追ってはきているものの、まだ本気じゃない。

 つくづくいやらしい狼だ。

 それでもいよいよ限界が近い。


 ――必死に逃げて、もう10分以上は逃げ走ったかな。

 確かにこんなに頑張ったのに、まだ余裕で白狼はついてくる。

 何とか反撃したい……

 そう思い、ふいに振り返ると、なんと白狼が大きく口を開け……え~!?

 これは吹雪?

 恐ろしく冷たい冷気を纏った凶悪な吹雪を眼前のわたしに目掛けて吹き付けてきた。

 狼なのに吹雪吐かないでよ!!


 走りながらも何とか身をよじり、躱そうとしたが遅かった。

 全身は免れたものの左腕にもろにかかってしまった。


 一瞬で血液ごと凍り付いた左腕はわたしの意識下から離れた。


 完全に凍り付き、わたしの意識下から離れた左腕は、肩口から無残にもボトリと地面に崩れ落ちた。


 白狼が心なしか、笑っているように見える。


「ぎゃ~~~!!! わたしの左腕がぁぁ!!……あれっ! 生えてきた」


 正直痛いとかもうそういう感覚はなかった。だから意外と思考自体はしっかりしてるんだよね。

 結局やったことは、ポーション飲み込んだだけ。

 意外と癖になりそう……

 走りながらも更に呼吸を調えた。

 あれ? 当初より何だか身体が慣れてきてる気がしないでもない。


 えっ? これって? わたしが強くなってる?

 いや。そんなわけないか。多分だけど耐性が付いてきたんだと思う。

【凍結耐性】なのかな?

 でもこれは大きいわ。


 とはいえ、この白狼に勝てる見込みができたわけじゃない。


 まだ白狼は、手加減しているようだ。昼夜一人でよっぽど今まで遊ぶ相手がいなかったのだろう。じっくり遊び干してから殺すつもりなんだろう。まあ気持ちは分からないでもないけど。ひとりぼっちって堪えるんだよね……わたしは、貴族学園でそのつらさを身を以て体験しているから。


 ……逃げるのにも精神的に限界はある。何か……何かこう鮮やかな起死回生の一手はないかな……


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