リーシャの決意 ―side リーシャ―
わたしがあの気持ち悪い女装二人組を制す事が出来た理由。もちろんクロード様に体術の手ほどきを教わってもいるけれど。
――クロード様をサポート出来る女になりたい!
彼に助けられてから、ずっと心内に抱いていた感情だ。
わたしは、王子様である彼をこれから陰でサポートする事に決めた。
だって……クロード様はわたしの全てだから。
マールちゃんも、想いは同じかもしれない。彼女の過去の吐露を聞いて、こんな心の強い子が恋のライバルなんて……
正直そう思っていた。
マールちゃんの事も、わたしは大好きだ。
だからこそ、一緒にクロード様をもり立てていきたい。いつか、この恋に終わりが来ようとも……
マールちゃんは、地球という遠い世界の異世界人だ。魔法は使えず身体能力には、期待出来ない。わたしが守るケースもあるかもしれないし。
――そう、わたしは自分から志願した。冒険者の仲間入りを。
「……リーシャ、まだ体調万全ではないんだろ? それなのに平気なのか?」
「はい、新年度が始まる前のこの期間で挑戦しておきたいので」
「本気なんだね?」
「はい! 覚悟は出来ています!」
「本当にいいんだね?」
「もちろんです!」
「痛いかもしれないよ?」
「……初めてなので痛くしないでください」
――その刹那、クロード様がマールちゃんに頭を思いっきりひっぱたかれていた。
「っいった!!」
「リーシャちゃん、わたくし、クロード様がおかしな気を起こさないよう見張ってますから」
「ありがとう。マールちゃん」
「――リーシャの決意は分かったよ。でもそれを聞いたら公爵閣下は何て言うのかな?」
「……心配すると思いますが、わたしは強くならないといけないのです」
「分かったよ。そこまで覚悟があるのなら、俺から手土産だ……」
わたしは、ルシェ連邦国郊外にあるマルクダンジョンという、初級冒険者が好んで向かうダンジョンで、クロード様の片腕になるべく修業に向かう事にした。
クロード様にもらったのは、ポーション10瓶、3日分程度の水食料もバッグに入れてくれた。
何も持ち合わせがないわたしには、すごく嬉しい援護射撃だった。
クロード様に紹介されたマルクダンジョン。
このダンジョンは、凶悪な魔物が低階層から集うコーネリアダンジョンと違い、地下第1階層では、自分からは攻撃を仕掛けてこないパッシブモンスターしか生息しないと言う事で、初級冒険者の登竜門と言う事だった。
もう守られてばかりいるわけにはいかない。ここでじっくり研鑽しなきゃ!
わたしは張り切っていた。ギルドで手ほどきぐらいは聞いておくべきだったのだけど。
すっかり忘れていた。
後で知ったのだけれど、新人冒険者をからかって面白半分で、けしかけたりする男女のコンビが出没するらしい。そこまで悪質ではないので注意喚起だけされていたそうだけど。
――ソロの冒険者ってあまりいないのかな……
早速地下第1階層を隈なく歩いてみたが、冒険者はほとんど見かけない。
魔物は、ミニラージというウサギの魔物だけだった。
性向は温厚で自分からは攻撃を仕掛けてこない。
実入りも少ないとのことでほとんど相手にされない魔物だそうだ。
――きっと冒険者だったらパーティーを組んで、深層に潜り一攫千金を狙うのだと思う。
最奥部だろうか?
……冒険者っぽい男女が休憩をとっていた。
ここは魔物の襲撃がない地下第1階層だ。寝ていても死ぬことはないだろう。
「――あれ? 君ソロの冒険者?」
「はい。力をつけるために」
「そうしたらさ。本格的に地下第2階層に行く前に、隠し階の地下第1.5階層があるんだ。そこの下り階段が地下第2階層へ降りる階段、そしてそれが地下第1.5階層へ転移出来る魔法陣なんだけど――」
「1.5階層ですか? どんなところですか?」
「モンスターも少なくて爽やかな場所だよ。ダンジョンらしからぬって感じかな……2階層はいきなり魔物がアクティブになるから前もって行って自信つけたらどうかな?」
「……はい! ありがとうございます! じゃあ早速行ってみますね!」
わたしは、いさぎ込んで黒く蠢く魔法陣に突入した。
「――えっ! ちょ!! 待って! まさか真にうけるなんて……」
「嘘でしょ!? ほんとに入っちゃうなんて? ギルドで説明聞いてなかった――の?」
男女が狼狽して懸命に止めようとしたが遅かった。
――あっ? そういえばクロード様に転移の場合は、転移先が地面とは限らないから、保険でポーション口に含んでおくように言われてたんだっけ。
急いでバッグから1瓶取り出しその場で口に含んだ。
げぇ……まっずーい!!
――その刹那、わたしの意識が飛んだ……
目の前が光り輝いた感じがした。
眩いというか、心地よいというかまぁ、一瞬だけだけど。
宣告された通りに転移したようだった。
あれ? 地面がない?
まずい! 空中なの? こういうことかー!?
10メートルは落下したかも。
そして背中から叩きつけられたのは、なんと氷上。
ぐへぇ!! 息が出来ない。
超苦いポーションを口いっぱいに含み、ハムスターのように何とか耐えていたところに強烈な衝撃を食らい、勢いでポーションを全て飲み込んだ。
その刹那、これでもかという胸の痛み、圧迫感は消失した。
うわー。ポーション保険で口に含んでなかったら、間違いなく苦しんで死んでたな。
クロード様のおかげで命拾いした。
薬師目録のわたしであれば、ポーションは何と四肢欠損まで治せる治癒力、疲労回復効果まで効果をあげられ、エネルギー蓄積まで出来る。とはいえ、この氷上の体感温度はたしかにまずい。ポーションで定時的に全快しても5〜6分後には身体の機能はほぼ凍り付くだろう。
――目を開けよう。
見渡す限りの雪の砂を敷き詰められたような氷上フィールドと、氷壁、その周りには超寒そうで冷たそうな海。どうしてダンジョンの中にこんな広大なフロアがあるんだろう。
――ここが地下第1.5階層?
確かに爽やかだけど……
さっぶい!! 爽やかではあるんだけど……爽やかすぎるわ!
わたしはこんなところで修業出来るのだろうか?




