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魔界の敵

リリスの命が消え去ったと同時に、その場に巻き起こった豪炎。

アルナ達はそれに巻き込まれ。

それを見つめる眼が、遥か遠方にあった。

 魔王城よりも北に凡そ百数十里(数100キロメートル)……。

 そこには、大陸を東西に分断する“真央山脈”が、雄大且つ威圧的に横たわっている。

 そしてこの霊験あらたかな山脈の内部には、新しい魔族の拠点、新魔王城“隠れの宮”が存在していた。

 一千丈(3000メートル)クラスの山が軒を連ねるこの山脈の真上。

 更に三百三十丈(1000メートル)上空に、黒い点がポツリと浮いていた。

 その点に向かい、別の黒点がゆっくりと近づいて行く。


「なんや―――アエッタ? こんなとこまで付いて来たんか―――? 別にかめへんけど、落ちたら死ぬで―――……せいぜい、きばりーやー」


 元よりあった黒い点は……メルル。

 それに近づいて行ったのは……アエッタであった。

 メルルは、一切の遮蔽物がないこの上空より、魔王城で行われているであろう戦闘の様子を窺っていたのだった。

 勿論、魔王城内で繰り広げられている死闘を逐一確認する事は出来ない。

 “遠見の術”を使用しても、視力が魔力の許す限り良くなるだけで、千里眼の様な能力を得る事は出来ないのだ。

 それでも、これほどに高い上空より魔王城を伺い見れば、少なくとも障害物は気にせずにその外観を探る事が出来ていた。

 メルルは、リリスより最後の通信をシェキーナが受け取ってよりずっと、ここで監視の任に就いていたのだった。

 

 それは……自らに課した責任。それを果たす為だ。


「……メルル様……何が……見えるのですか……?」


 安定しない状態で、それでも何とかアエッタはメルルの元まで辿り着く事に成功した。

 如何にメルルの教えを受けていたとはいえ、この短時間でここまで“魔力”をコントロール出来るようになったのは、偏に彼女の持つ才能のお蔭であった。


「ん―――……? 今はまだ何も見えへんよ―――? まぁ……見えへん方がえーねんけどな―――」


 最後の方は殆ど独白に近かったが、メルルはそうアエッタに返答した。

 アエッタもまた、聞こえなかった言葉を再度問い返す様な事はしなかった。

 メルルをして“(さか)しい”と言わしめるアエッタは、兎に角「場の空気」を読む事に長けている。

 そしてアエッタのそんな所が、メルルは特にお気に入りであった。

 

 アエッタに向けていた視線を、再び前方へと向けた瞬間に……それは起った。

 眩く巨大な閃光が発したかと思うと、それは見る間に巨大な半円形の火球へと姿を変え周囲を呑み込んだのだ。

 灼熱のドームは貪欲に広がりを見せ、瞬く間に半径五里(20キロメートル)ほどを覆いつくしたのだった。

 目を見張るメルルとアエッタの視界には、魔王城のみならず周囲5村をも呑み込んだ光球が、まるで悪魔の卵の様に渦を巻く光景が映っていた。


「……メ……メルル様……。あれは……一体……」


 普段は感情の抑揚が乏しいアエッタだが、流石に今は驚きを隠せないでいた。

 メルルはそれには答えずに、ただじっとその方向を見つめている。


「……そうか……あいつら……やりおったんやな……」


 そしてそれだけをポツリと呟いた。

 

 メルルは魔王城を発つ前夜、アスタル、べべブル、リリスを部屋へと呼び“秘薬”を渡した。

 それはただ単に、能力を強制的に底上げする魔法薬と言うだけでは無かった。

 それは……“扉”

 そして“鍵”は……アスタル達自身の“命”だった。

 扉があり、鍵がある。

 

 ―――では、扉を開いた先にあるものは?


 それは今、メルル達の眼前で展開されている光景が答えそのそのものであった。


 アエッタにメルルの表情を確認出来なかったが、その背中は驚くほど小さいと感じていた。

 もっとも、その時間はそう長くは無かった。


「……各部隊に連絡! 魔王城は敵の魔法(・・・・)によって壊滅! アスタル、べべブル、リリスの3将軍は討ち死に! 全部隊、爆発の影響が無くなった事を確認しつつ、魔王城へ向けて行軍を開始せよ!」


 再び顔を上げて前方を凝視したメルルは、虚空へと向けてそう宣告した。

 続けて。


「各村の長に連絡。人界からの侵入者により、魔王城及び最寄り5村も消滅した! 各村は即座に対応せよ! 村の守りを固めるもよし、打って出るのも許可する! これは憤死したアスタル将軍の意向によるものである!」


 メルルはその様に口にした。

 アエッタはその間、一切口を挟む事無くメルルの傍らにあった。


「……アエッタ……ほな……エルスん達の所に戻ろか……。エルス達にも報告せなあかんしなぁ……」


 笑顔を湛えてそう言ったメルルだったが、アエッタにその笑い顔は、どうにも悲しそうにしか見えなかった。





 エルス達の元へと戻ったメルル達は、先程起こった事象を冷静に、淡々と説明した。

 アスタル達の死と言う事実を告げられた一同には悲嘆の色が濃く浮かんでいたが、直後に告げられた魔王城を包み込んだ爆発を聞かされ、更に動揺の成分も多く含まれたのだった。


「ま……魔王城が……爆発……!?」


「しゅ……周囲5村も……巻き込んだと言うのですか……!? 数千人の魔族住人をも……巻き込んで……!?」


 シェキーナは絶句し、レヴィアは声を震わせて驚愕の色を浮かべていた。

 その光景を、メルルは表情の無い顔でただ見つめていたのだが。


「……それは……アスタル達がやったのか? それとも、アルナ達の仕業なのか?」


 そんな中、カナンは冷静と言って良い声音でメルルにそう問いかけた。

 ピクリ……と、メルルの眉が動く。

 そしてエルスが、メルルの言葉に縋る様な視線を送る。


 もしもアルナが先程の説明通り周囲の村々を巻き込む様な攻撃を行ったのならば、流石に彼もそれを看過出来る訳がない。

 アルナ達がどれ程のダメージを負っていようとも、今すぐに此処を発って彼女達に追撃を加える必要があるのだ。

 アルナを討つのに、他の誰にもそれを許すつもりなどエルスには無かった……のだが。


「……あの仕掛けを組んだんは……ウチや。アスタル達が戦いに敗れて絶命したと同時に、アルナ等を巻き込んで発動する様にしてあった」


 メルルの答えを聞いて、エルスは再び絶句してしまった。

 いや……エルスだけでは無い。

 その場の全員が、シレッとそう答えたメルルに瞠目し沈黙した。


「しか……しかしだな。魔王城もろとも爆発させて、アルナ達を巻き込むと言う案はこの際横に置いておくとしてだ……。周囲5村も巻き込むほどの爆発が必要だったのか……?」


 一番早く再起動を果たしたシェキーナが、震える声でそう問い返す。

 

「必要かどうかっちゅー話やったら……必要や」


 その問いに対して、メルルは考える事もなく返答した。


「アルナ達は、魔王城へと乗り込んだ。これは、魔王に忠誠を誓うもん達には、これ以上ない侮辱や。けど、普通に暮らしてるもんにしてみれば……ある意味遠い場所で起こっとる話なんや。まぁ……他人事っちゅーやつやな。けど、その攻撃が自分らにも向けられるって考えたら……どないや?」


 スラスラと語るメルルの話を、全員が息を呑んで聞いていた。

 彼女の言う事は、考えるまでもない事だ。

 古今東西、自分に向けられた……向けられるであろう脅威を知って、何もしない者等いない。

 それも、ただの攻撃では無い。

 一瞬で広範囲を呑み込み焼き尽くす、恐るべき魔法なのだ。

 そこには……逃げる術など無い。

 狙われたら最後……近隣程度では何処に逃げ隠れようとも巻き込まれるのだ。

 そんな攻撃を持つ異国の戦士達が、未だ魔界に存在している。

 その地に住む住人達にとって、それは到底見過ごす事の出来ない危機以外の何物でもなかった。


「……今、事前に配置しといた兵達を、アルナ達討伐に向かわせとる。もっとも……彼等にはアルナ達を追い返す事を第一にと言い含めとるけどな。それとは別に、各村にもアスタルの命でって事で使い魔を送り込んどいた。その使い魔を通じて、ウチの指示が行っとる。程なくして幾つかの村からは、編成された討伐隊が出撃するやろう」


 メルルの差配に、誰も異議を唱えなかった。

 首尾の良過ぎるメルルの手配に疑問を持つ者が大半だったが、今はその事を言っている場合でない事も理解していたからだ。


「多分……アルナ達は魔界から……退く。んで、此処にウチ等が居るっちゅー考えも薄くなるやろ。なんせ、アスタル達(・・・・・)が命を懸けて人族の勇者を護るなんて有り得へんって考えるやろうし……。それにアルナ達(・・・・)は民間人なんて関係なく攻撃を仕掛けたんやからなぁ―――……。もう誰も……他人事やなんて考えへん。人族に対して、畏怖と……憎悪を以て、一致団結して当たるやろうなぁ……」


 メルルの説明に、シェキーナやカナン、レヴィアは一定の理解を示したのか、それぞれに考えては互いに意見を交わし出した。

 

 それでもエルスは。


 何も言う事無く、静かにその場を後にしたのだった。


「……エルス……」


 その後ろ姿を、メルルは悲しげな瞳で見つめていたのだった。


メルルの説明に波紋を広げるエルス達。

そしてエルスは、意気消沈でその場を後にする。

メルルはそんなエルスを、悲しそうに見送るしかなかった……。

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