ポルターガイストの謎
「一華、加賀見亜里珠は「兎角」だったが問題ない……暴走も起こらない程度だ」
「そう……対象外ね」
「カハハハ、テメェにしちゃぁずいぶん慎重だな!」
「仕事が遅いってか?……まぁ相手が子供だからな」
「ふふふ、大人になったのねアルキ」
「もう充分オッサンだろ?32だぞ!」
「中身よ!な・か・み!」
「……いや言い方……ったく、とにかくターキーは待機でいいぞ」
「へいへい、自分でやるんだろ?」
「お前が出るとややこしいからな」
「うるせぇ!」
一日経つとアルキを取り巻く環境は落ち着いた。生徒達から親しげに声を掛けられることはあるが、質問攻めが無くなっただけマシだと思える
職員室でも同様に視線を感じることも少なくなった。結局みんな他人にはそんなに興味は無いのだ
ただ隣の佐倉咲は、負のオーラを纏うようにアルキの挨拶にもそっけない。まぁ、彼女はもともとそういうキャラではある。あとはアルキの頑張り次第といったところだ
「佐倉先生、授業進行はどうですか?」
とりあえず業務に関することで、とっかかりをつかもうとするアルキに対して、クールな佐倉は最小限の返答で返す
「問題ありません」
「何か困ったら相談乗りますよ!」
「七面先生は優秀ですからね。私の平凡な授業では直しが必要だと?」
「――!そ……そんなことは……いや、佐倉先生は数学の教師!そして俺は割と数学が得意……これはまさに運命!」
「……私は運命なんて信じてませんよ」
「奇遇ですね、俺もなんですよ!」
「じゃあ俺達が出会ったのはどうでしょう!」
「別に……出会いに意味はないでしょう?」
「意味をつけましょう!そうですね……「運命」でないなら「奇跡」!俺達が出会える「確率」は、さまざまな「選択」から考えると奇跡のような「確率」です!すなわちそれはもう「奇跡論」と呼ぶしかないのではないか!もういっそ「ラプラスの悪魔」然り!俺達は出会うべくして出会った。そう考えるとこれはもう「コペンハーゲン解釈」なんてものでは語れない……奇跡と運命の融合……」
「……あ……あの……何を言っているのか……」
「つまりですね!未来では我々は幸せな家庭を……」
その時だった、悲鳴と絶叫が校内に響きわたる、多数の生徒達の逃げ回る足音と、ガラスの割れる音が聞こえる
「――な!これは?」
「――!な……何の騒ぎですか!七面先生……」
「佐倉先生!生徒達の誘導を!他の先生とお願いします」
「はっはい!」
生徒達が逃げてくる方向に急いで向かうアルキ
辿り着いた現場は「探求科の教室」。通常ならあり得ない光景が目の前に広がる
教室内の机が空を舞うように飛び回り、ぶつかり合う。激しく壁にぶつかり、窓を割り徐々に規則性を保つように飛び始める
割れたガラスの破片で怪我をして、出血している生徒もいるようだ
アルキは飛び回る机を躱しながら、怪我人を抱えて救出し避難させる
飛び交う机に怯え中央に取り残された一人の女子生徒の周りを回る机は、どんどん速度を増していく
「アルキ先生!これがポルターガイストです!学校の七不思議の一つです!」
「聖!離れていろ」
アルキの指示通り生徒達を避難させた聖が、一人だけ教室に戻ってきた
「学校の七不思議か……とりあえず「田邑舞」を助ける!」
「アルキ先生!僕はどうしたらいいですか?」
「聖は離れていろと……いや……頼みがある」
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「舞!聞いてくれ!」
机が猛スピードで飛び交う中、聖は舞に問いかける
「――聖くん!わたし……どうしたらいいか……」
恐怖で涙を流しながら訴える舞。
「えっと……舞……好きなんだ……お前のこと!」
「――えっ?……えっ……えっ……そ、そ、そんな」
舞が聖の突然の告白に意表を突かれると、机の飛び交う速度が弱まっていく。その隙にアルキは中央に走り抜けて舞を素早く抱き抱えると、なんとか教室から脱出した
教室内の全ての机は、やがてチカラ無く壁などにぶつかり動きを止めた。まるで、この教室だけが竜巻に飲み込まれたかのような状態だ
「大丈夫か?怪我は無いか?」
「は……はい……ありがとうございます……」
舞はアルキの腕の中から降りると、腰が抜けたように地面に座り込んだ
「舞、落ち着いたら後でさっきのことちゃんと話すからここで休んでて!少しアルキ先生と話をして来るからね」
「う……うん……」
告白された舞は、照れて、どう反応していいのか分からないのだろう、火照った頬を隠すように俯き頷いた
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「さぁ!説明してもらいましょうか!アルキ先生!あんな事を僕に言わせたんですから」
「まぁまぁ……助けられたからいいじゃないか!俺が言うと犯罪になるだろう?」
「……でも……どうしてあんな事で?」
「あんな事ってお前!女子にとっては「八神聖」に告白されたら、大事だろ?」
「……そうなんですか?……とりあえず理由は?ポルターガイストが収まった理由」
「ん?聖……お前、本当はポルターガイストって思ってないだろう?」
「……」
「あれは「兎角」だよ!」
「――アルキ先生!学校の七不思議です!そういうことにしてもらえませんか!」
聖は、アルキに縋るように訴える
「落ち着け聖!あれは田邑舞の「兎角」じゃない!彼女は被害者だ」
アルキは聖の肩を優しく掴み穏やかな眼差しで見つめる
「……え?……舞の「兎角」じゃない?じゃあ一体誰が?あの「サイコキネシス」を?」
「あの現象は定期的に起きていたんだな……そしてお前はあれを舞の「サイコキネシス」だと思った。そんな強力なチカラは「国」の監視下に置かれ、利用され、「探求科」からも連れて行かれると考えたお前は、「学校の七不思議」と風潮して「兎角」を隠そうとした……そうだな、聖!」
「……そうです……ちょうど奇妙な現象が起きていたから……」
「つまり他の現象はあくまで「学校の七不思議」だと言いたいんだな」
「はい……他に説明のしようがないです」
「う〜ん……分かった、そういう事にしておいてやろう……なんせ「兎角隠し」は犯罪だからな!気をつけろよ」
「……はい……でも舞が兎角持ちじゃなくて安心しました。それにあの現象が「サイコキネシス」じゃないとしたら……まさか!」
「おお!気付いたな、そう「共振」だ」
「たしかに椅子や教科書とかは飛んでいないのに「机」だけが飛んでいた……「固有振動数」の一致?」
「いいぞ、さすがだ聖!全ての物体には「固有振動数」がある。そこに同じ「周波数」を与えると「共振」が起きて動いたり揺れたりする」
「じゃあアルキ先生は「机だけ」が飛んでいたから瞬時に「固有振動数の一致」だと気付いた!?」
「まぁな……そしてこの「兎角」の能力は、おそらく対象者の「心の不安や恐怖」の固有振動数と「机」の固有振動数を一致させる「共振」の能力だな……だがここまで激しい「共振」を起こすほどの「固有振動数」を出せるとは……かなり強力な「兎角」だ」
「……「心の不安や恐怖」……だから告白?……だったら別の方法でも良かったんじゃ……」
「……まぁまぁ、告白のほうがロマンチックでいいじゃん!」
「アルキ先生〜!」
聖はアルキを睨みつける
「ごめんって聖〜!」
「この後どうしてくれるんですか〜?舞に説明するの、僕なんですよ!……あれ?……ちょっと待って下さい……じゃあ「学校の七不思議」の「音楽室のピアノを弾くとバッハの額縁が落ちる」と「二宮金次郎の像が動く」って……」
「「共振」だな……犯人が実験をしていたのかもしれない」




