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オレとご主人サマ  作者: 来宮悠里


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36/40

オレと勘違い少女と冬のある日

 例年よりほんの少しだけ長いらしい雨季が終わると、季節は冬へと移り変わった。

 しとしとと降り続けていた雨は、いつの間にかふわふわとした雪に変わる。

 それがここら辺での季節の移り変わりらしい。


「さっみぃ……」


 オレは買い出しの為に街に降りてきていた。

 雨季の蒸し暑さが酷ければ酷いほど、冬が寒いというのは本当にどうかしている。

 買い与えられたコートを着込んではいても寒い物は寒い!

 肩をすぼめ小さくなりながら、寒さにがたがた震えながら、買い出しを続ける。


「ソーマちゃん、寒そうだね! これ食って暖まりな!」

「お、おう、さんきゅー」


 手渡されたのはふかした一口大の芋だ。それをいくつか包んだ物を持たされる。

 正直腹は減っていないけれども、ほくほくと湯気をあげるふかし芋は見ているだけで食をそそる。

 そんな一口芋をほおばりながら、次の買い物のメモを見ていると、


「ソルナ!? 生きてたの!?」


 目の前。オレとしっかり視線を合わせながら、一人の冒険者風の少女が声を荒げた。

 オレが声を発するよりも前に、その少女はオレの肩に掴みかかりながら大きく揺さぶってくる。


「会いたかったわ! あの変態と一緒に行くって聞いてから先ずっと、あなたに会えなかったからてっきり死んだものかと思っていたのに!」

「ま、待って……待ってくれ!」


 オレは目の前の冒険者を引きはがす。

 きっと彼女はオレのことを別の誰かと見間違っている。

 まずはその誤解を解かなければならない。


「オレはソーマ。あんたの言うソルナという人物は知らない。まずはそこに重点を置いてくれ」

「えっ……あなたはソルナじゃないの? クリスって言う変態についていったのに?」

「まて……。そのクリスって言うのは、もしかして殴られて痛めつけられて喜ぶ変態の事か?」

「そうだけど……?」


 誤解を解く前にいささか不可思議な認識の一致を見た。

 これは少しばかり話を聞いてもいい案件なのかもしれない。

 どうしてオレがご主人に選ばれたのか。

 愛想の欠片も振りまかなかったオレがご主人に選ばれた理由に直結する可能性がある。


「話を聞いてもいいか? たぶんオレはあんたの思うような人物ではないけれど」

「本当にあなたはソルナじゃないのね……失礼したわ。私はアルラ。この街には旅の途中でたまたま寄ったの」

「そうか。ええと、それじゃあオレとご主人がよく行く店で良ければ案内できるけどいいかな。外はさみぃからさ」


 オレの提案にアルラと名乗った冒険者の少女は頷いてくれた。


「ご主人、ね……」

「何か言ったか?」

「何もないわ」


 それから、オレは行きつけの店に行き、適当な注文をする。

 代金はご主人につけておくよう頼む。まあ、お使い程度の小遣いしか持っていなかったから仕方が無い。

 運ばれてきたりんごジュースとホットミルク。

 りんごジュースは、温めて蜂蜜を入れたりなんかして大分甘く作ってあって、酒を飲まないならこれを頼むくらいには気に入っているものだ。


「本当に、ソルナの好みとあなたの好みは違うのね」


 対面に座るアルラがさめざめと言った。

 最初から別人だと言っているのに、全く信用をしていなかったようだ。

 全くもってオレの周りの人間はこういう人ばかりで本当に困る。


「だからそう言ってるのに」


 オレは苦笑するしかない。

 店までの道中でも再三再四、オレとソルナは別人だと言っているのに信じて貰えていないし。

 まあ、早い話がソルナはご主人がまだ冒険者をしていたときのパーティーメンバーだったらしい。

 それが今のオレの姿と瓜二つという。

 魔法の才に秀でて、剣もそれなりに扱える所謂天才という存在のようだ。

 そんな天才様は、絶望的に剣の腕のないご主人の代わりに神剣を振るい、魔神討伐をした英雄との噂だ。

 そう言う話をきいて、なぜご主人のパーティに魔法を扱う人間がいないのか、本来五人が正常のパーティになぜ四人しか居ないのか得心が行った。表に出そうとはしないが、死んだのだ。それもここ一年の間に。

 きっと、そのソルナという人物の遺言もどうか笑って過ごしてくれとか聖人めいた言葉だったのだろう。簡単に予想ができる。


「しかしなあ、ご主人のパーティメンバーに本来はもう一人居たんだろうって事は分かっていたけれど、なんであいつらおくびにも出さないかなあ」

「そりゃあ、冒険者って出会いに別れ、それと人の生き死には沢山目にするからね」


 りんごジュースの爽やかさと蜂蜜の甘さを飲み下しながら、 確かにそういうものかとオレも納得する。


「なんか、珍しい話を聞いたな」

「……取り乱さないのね?」

「似てるだけだろう。もし、オレがそのソルナって子の変わりなら、ご主人もスィエもミセリもマークも、オレを初めて見たときに驚くはずだ。そんな素振りは一切無かったしな」


 動揺は隠そうとしても隠しきれる物では無い。

 オレと初めて顔を合わせたときにみんなが驚かなかった。

 それはソルナという子が、ご主人たちの中で過去の存在になってしまっているからだろう。

 なんだかんだでSランクの冒険者だ。酸いも甘いもかみ分けて、色々な出会いと別れを繰り返しているのだろうと思う。


「それはそれとして、オレと似たような奴がいたって言う事を隠していたのは、ちょっともやっとするなあ」


 かたりとりんごジュースの杯を置き、腕を組んで考える。

 どうしてやろうか。できる事なら四人まとめておしおきをしたいところだ。

 スィエとミセリにはエロい事をするとして、ご主人とマークは、うーん……。


「悪巧みするなら手伝うわよ? 何かの縁だし」

「んや、流石にオレだって放逐されたらこの世界で生きていく術はないからな。やるとしてもイタズラ程度だよ。そんな本格的なことはしないさ」


 アルラの助け船はありがたいけれど、オレだってこの世界での生活がかかっている。

 今ご主人に見捨てられると生きていく術がないのである。

 それはご主人に買われたときから既にある思いだ。

 甘ったれてはいるけれど、オレが今、こうやってオレらしく居られるのは、生活の基盤が確立しているからだ。

 だからあまり滅多なことはできない。

 それに別にそんなにショックを受けるような出来事でもなかったし。


「そう、やっぱりあなたはソルナではないのね。ソルナだったら、嬉々としてイタズラをしたものだわ!」

「そうなのかー」

「そうなのよ!」


 上品な仕草でホットミルクを一気に煽ったアルラは、それから暫くオレそっくりなソルナというご主人たちの元パーティメンバーの話を心行くままにした。

 オレの知らない、オレにそっくりな人の話を、その知り合いから聞くというのはなんとも不思議な気分ではあるが、存外に悪くはない。

 それもこれも、ご主人たちがオレをそのソルナと同一視して接してくると言う事が一切なかったからだろう。

 どこか他人の自慢話の様に聞くことができた。

 もしもそのソルナという人物が生きており、相対して話をすればまた違った面白さもあっただろうと思うと、少しだけ寂しさが増すのだった。


 今日は帰ったら、ご主人にこのソルナという人物の事を聞いてみようか。

 それが今のオレにできる最大限の嫌がらせで有りイタズラだろうしな。

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