オレとご主人サマとカボチャ祭り
「あ、そうだわ。これ、帰りはちゃんとつけて帰るのよー」
おっさんから渡されたのは仮面だ。顔の半分が隠れるようなオペラマスク。
しかし、なぜオレだけ?
「なんたって、今日はカボチャ祭りだからね!」
「なんだそれ」
「秋のお祝いだよ、ソーマ。カボチャを顔の形にくり貫いて火を灯したり、仮装して楽しんだりね」
ご主人の補足を聞いて何のことか理解がいった。
なるほど、ハロウィンか。
「もしかして、おっさんが広めたのか?」
「そうねえ、色々口は出したけれど、カボチャ祭り自体は元々あったのよ。無病息災、厄払いと子供の健やかなる成長を願ってね。」
「ほう……。そこにジャックオーランタンの要素と仮装のギミックを入れ込んだと」
「頭の良い可愛い子は好きよー」
「抱きつくなよ!」
腕を広げて襲いかかってくるおっさんを牽制して、このもらったマスクの意味を考える。
ご主人には渡されないと言う事は、仮装するのは女……?
いや、元々の意味を考えれば「トリックオアトリート、お菓子をくれないと悪戯しちゃうぞっ☆」ってことだし。子供向けか。
まあ、女子供扱いなのはどうでもいいか。
「まあまあ、深い意味はないから! さっきのマントと合わせて街に繰り出せばきっと溶け込むわよぉ」
「この時期、僕は遠征してることが多かったから、あんまりこの街のカボチャ祭りって見た事無いんだよねえ」
「あら、そうなの。中々に派手よ?」
「そうなのか。ソーマそれじゃあ、楽しもう!」
「そうね、それがいいわ。カボチャのランタンがつり下げられてるお店なら、トリックオアトリートって言えばサービスが受けられるからね!」
ほう……。サービス。
我が家のお財布事情はまあマシなのだが、ご主人がバカスカオレの服を買うから、増減が激しいのである。サービスで安くなるのなら、それに越したことは無いな!
まだ昼飯すら食ってないし。さっきすげえでかい腹の虫がなって恥ずかしい思いをしたしな……。
「いくぞ、ご主人。安上がりは大事だ」
「はいはい。お金の心配は別にしなくてもいいのに」
「安く仕上げられるときは安く仕上げなければならない!」
困ったように笑うご主人を引っ張って街に出る。
なんだかんだと、時刻はもう夕方である。茜色の空と夜色の空がせめぎ合っている。服の効果のお陰で寒さは感じないのだけれど、多分大分ひんやりとしてるんだろうなあって思う。
「うわ……ホントに町中カボチャまみれだ。こわ」
「こわって……。愛嬌があっていいじゃん」
「そうかー? オレ、どーしても三角目にぎざぎざ口って愛嬌を感じられない」
「まあ、ソーマの愛らしさには負けるね」
「口説いても何も出ないぞ」
「えー」
戯言を言いながら、町中を練り歩く。
オレとご主人はなんだかんだと目立つ。
気がつけば至る所から声を掛けられ、人に集られ、方々の体で抜け出したりと。
そして、いつの間にやら、ご主人とはぐれていた。
「まじかよ……」
大通りの真ん中。ぽつんと一人たたずむ。
洒落になんねえ。
いつもならこの時間帯は、基本的に酒場に入ったら自宅に戻ったりで大通りの人通りは少ないはずなのに、祭りのせいもあって結構な人がいる。
オレのように仮装をしてる者もいれば、いつも通りの者もいる。
「おねーさん」
声を掛けられる。
振り返れば、見た感じオレと同じくらいの年の頃の仮装をした少年が二人。
「トリックオアトリート!!」
「いやまて、それどころじゃない」
荷物は全部ご主人が持ってるし。
はぐれたことで、楽しむことよりも不安なことの方が大きい。
「えー、お菓子くれないのー?」
「悪い、持ち合わせがない」
「それじゃあ……」
少年二人は、怪しく笑むと、
「悪戯するしかないねえ!」
オレに襲いかかってきた。
片方がオレの背後に回り込み、動きを阻害し、片方が布のようなものを口元に……。
このパターンは……薬品……眠り薬か!
「ごめん、ソーマさん、ちょっとだけ大人しくしてて」
「は、あっ……!?」
急激に襲ってくる眠気に抗えない。いや、手立てはある。
「アイス……ランスッ!」
精製箇所をオレの太股に。一瞬だけの精製。貫いた痛みで、眠気を吹き飛ばせば!
しかし、それは不発に終わった。
ご主人から与えられた装備が、オレの魔力すらも阻む。
「くそ、ぅ……」
「ごめんね、傷はつけないから」
遠く耳に届く言葉は謝罪の言葉だった。




