オレとご主人サマとおっさん
「ごめんねえ。クリス用に用意しておいたんだけどー」
後処理をすませて、着替えを済ませた。今からの時期寒くなることもあって長袖のひらひらだ。
もっとこうシュッとした奴をくれ!
たまには女物以外も着たいこの元男心わかって!
そもそも、恐怖失禁とかはこの体にすり込まれた物だから。仕方が無い。
薬物耐性や恐怖耐性は早々に戻ってこないから、諦めている。
「いや、粗相するのはもう気にしてない……」
その後動けなくなって、自分で後処理が出来ない事に凹むわけで。
そこらへんはご主人も理解していないみたいで、相変わらずオレが粗相をするとオロオロとする。
「そうなの、大変ねえ?」
「まあな」
しかし、目の前の店主、カマ口調の割にはそれが染み付いてるせいで、野太い声のくせに妙に所作がサマになってる。
「あー、ご主人、席はずしてくんね? あの針山に刺さってきて」
「えー……席外すのはいいけど、流石にアレは針が負けると思うよー?」
「針刺さんねえのかよ……」
「まあ」
でたらめだ。化け物だ。どんだけだよ!
無言でオレはご主人をじとる。いや、あれに一撃入れれたんだ。オレも強くなってると思うことにしよう。そうしよう。
肩をがっくりと落として、出て行ったご主人を見送って、オレは言語を変える。
転生特典みたいな物で、普通に話す程度なら人に合わせたニュアンスの話し言葉になるからいいんだけれども。
意識すれば、それ自体知らない言語で話をすることができるのだ。
「こんにちは、初めまして。オレは五条翔馬、日本人でした」
言語の違いに大層驚いたようで、目の前の店主は数秒固まっていた。
「まさか、日本語を聞けるとは、ね。どうも、初めまして。名前からして元々は男の子だったのかな」
「そうだよ。転生するときに元々の性別は選べませんとか言われてさー」
「あらま。私の時はそう言うことはなかったんだけど」
「え、じゃあ、おっさんのカマ口調って地なのかよ」
「まあねえ」
事も無げにそんなことを言うおっさん。
いや、おっさんなのか……?
まあ身長は百八十無いくらいで、ガタイはそこそこいい。まあ、見た目も西洋系のイケメンだろう。正直、男の顔に興味が無いからどうでもいいけど。
それから暫くおっさんと話をした。
おっさんはどうも欧州系の人間で、こっちに来たのはどうも十年ほど前らしい。
今みたいに平和じゃなくて、魔物討伐とかで迷宮だけじゃなくてフィールドにも兵士が一杯いたから運良く助けられて、まともな生活をできるようになったとのことだ。オレの時とは大違いだ!
オレの身の上話をしたら、男泣きしてた。男泣きだった。おっさんはおっさんだった。カマ口調なのに。
「そういうことだったのねえ。いいわ! 女の子でも映える男服をつくってあげましょう!」
「え、いや、そこは頼んでない」
普通の服でいいんだし。絶対ひらひらしてるやつだし。こまる。
気に入ってんの、ご主人から最初に貰ったキャミソールとミニスカのセットくらいだし。あれ以外ごてごてしててあんまり好きじゃないし。ドレスとか着たくないし。
「折角の美人さんなんだから!」
いい歳したガタイのいいおっさんがくねくねシナを作って手を叩くな!
美人なのは認めるが、だからといって、オレの気持ちを無視して良い訳じゃない。
断固として断るぞ!
「美人なのはオレも認める。オレの中の美少女像で設定したからな。つーかおもったんだけど、幻想魔獣の素材からどうやって服作ってんだ?」
管理してるのはオレだから、分かるんだけど、どれもこれも加工の難しい代物な気がするんだけど。
「ああ、それね。本当は企業秘密だけど、おしえちゃう」
「シナはやめろシナは。絵面がやべえ」
ダンディな髭を生やしたおっさんが、カマ口調でシナ作ってるとか。もうそれだけで属性てんこ盛りだ。きつい。絵面がきつい。たすけて。
「しょうがないわねえ。まあ、私のスキルは錬金術と縫製だし」
「あ、なる」
それだけ聞いてわかった。
「さすがねえ。こっちの世界の人達なんて、この二つでピンと来る人いないのに」
「学無しばっかりだからな。諦めろ。錬金術で素材の能力そのままに布かなんか作るんだな」
「そうよー。そこに魔力で組んだ魔力糸で縫い合わせて完成ってところ」
「はー……どおりで便利なわけだ」
防御効果もさることながら、防熱防寒防刃防弾ときている。つまりこのおっさんは縫製にも錬金術の能力を応用してエンチャントしてるわけだ。
「これでも私、昔はぶいぶい言わせてた冒険者だったのよー?」
「ほー。その話はまた今度聞くぜー。流石にご主人を縛らずに放置してたら拗ねるからな」
「あー……。」
おっさんも納得いってくれたようだ。
ご主人はドエム。それ以上でもそれ以下でもないのである。
さて、話はできたし、そろそろご主人を呼びつけよう。




