司令長官の悩み
あらすじ
ミッドウェー海戦で空母を損なうこと無く、完全勝利した帝国海軍。そのまま、徹底的な艦砲射撃と空爆の元、上陸を行い、同地の占領に成功したのであった。
その後、勢いに乗る帝国海軍はガダルカナルを占領。失地挽回を図る米海兵隊の上陸を受けるも、第八艦隊がその日のうちに殴り込み、輸送船団とそれを護衛するTF62の悉くを撃沈せしめたばかりか、上陸地点への徹底的な艦砲射撃を行った。補給のおぼつかなくなった米軍はその後に上陸した帝国陸軍の攻撃によって殲滅された。
帝国海軍はガダルカナルに前進基地を作り、航空機と潜水艦により米豪遮断作戦に王手を掛けていた。また、ソロモン諸島も一大航空基地と化していた。しかし、帝国海軍はここに来て、攻勢限界を迎えつつあり、次の手を攻めあぐねていた。
大日本帝国は戦線を膠着させたまま、昭和一八年を迎えた……。
「お疲れ様です、長官」
内地より連合艦隊旗艦『武蔵』に帰還した連合艦隊長官、山本五十六大将を先任参謀の黒島亀人大佐が出迎える。
「うん、こっちはどうだい?」
「変わりありません。向こうはどうですか?」
「それについては艦橋で話そう」
山本はそう言って、歩を進めた。黒島は彼に従った。
「それでは、航空母艦の建造は無しだというのですか?」
黒島が、素っ頓狂な声を上げた。
「ああ。正確には護衛空母の建造は増えるが、それ以外はさっぱりだ。大型空母一隻、中型空母三隻。ここから動かん。それにかねてより唱えていた三番艦の空母改装や、重巡の空母改装も行われない。しかし、米軍の力を考えると、今更建造しても間に合わないよ。改装空母の数が減るのはやっかいだが、集中できるという点では決して悪くは無いと思う。それに軍令部も馬鹿ではない。一部軽巡の防空能力強化、秋月型の建造強化等色々とやっている。それに、護衛艦の建造に力を入れてくれている。これで、僅かではあるが前線に送れる艦艇も増えるだろう」
山本の言葉に、彼に同行していた三和も続く。
「それに、⑥計劃もあります。こちらでは中型空母のさらなる補充が約束されています。具体的な数はまだ決定されていませんが三隻以上は確実です」
黒島も、それ以上言うことは出来ず、引き下がる。
「軍令部は米軍の反抗時期は何時と?」
宇垣の言葉が一瞬の静けさを突き、場に響く。
「ん?ああ……今年の八月頃だと予想している。空母の大部分を亡失せしめたからな。しかし、彼らはそれより早く来るのでは無いかと私は思っている。アメリカの工業力は想像を絶するものがある。それにミッドウェーで空母を三隻沈めたからと言っても、油断は禁物だ」
ミッドウェー海戦で、帝国海軍は『ヨークタウン』『エンタープライズ』『ホーネット』の三空母を撃沈していた。しかし、米軍には『サラトガ』『ワスプ』が健在で有り、新型空母が竣工したとの情報も入ってきている。状況は山本の言うとおりであった。
アメリカ合衆国海軍太平洋艦隊長官、チェスター・ニミッツ大将は攻勢時期の選出に頭を悩ませていた。
帝国海軍の動きは、完璧に近い形で入手できている。現在、トラックに兵力を集中させており、機動部隊もそこに存在している。それも六隻の空母が揃っているというのだから、非常に困ったものである。これも、情報参謀、レイトン大佐と前線で偵察を行っている潜水艦乗員達のおかげだ。現在、潜水艦は魚雷の問題を抱えており、通商破壊作戦に投入するにはリスクが高い。そのため、現在はミッドウェー周辺にのみ投入している状態である。ソロモン諸島にも投入したい所ではあるが、あそこが一大航空基地である以上、被害がかさみすぎると判断されている。
対する太平洋艦隊は、中小艦はそれなりに揃っている。しかし問題は空母であった。太平洋にいる空母が『サラトガ』と『ワスプ』の現状ではどうにもならない。ワシントンは新規空母を優先的に太平洋に送ると言っているが、それでも数が揃うには時間がかかる。
機動部隊の六隻の空母が出てくると仮定するならば、こちらも少なくとも同数は欲しい。昨年末に就役した『エセックス』をネームシップとするエセックス級は四月に二番艦が就役する予定であるが、三番艦は八月頃になるだろうという話である。この危機的状況によって建造が決まったクリーブランド級を改装空母としたインディペンデンス級は一月二月三月と、それぞれ一隻ずつの竣工が予定されている。これらを合わせれば、空母の隻数は七隻となり、優位に立てるが、インディペンデンス級は僅か四〇機あまりしか搭載できないため、三隻で二隻としてみるべきだろう。これで、六隻である。
「現在小型空母『ロングアイランド』及びボーグ級三隻が太平洋艦隊に所属しています。これらを合わせれば、航空機の数は日本海軍に勝ることになります」
とは、レイトン大佐の言葉である。
「しかし、護衛空母は船速が遅く、海戦には不向きだろう」
ニミッツがそう返すと、彼はにこりと笑って言った。
「ええ、正確には後方で待機し、前線の空母の航空機に被害が生じると、そこに補充するという形になります」
その言葉に、ニミッツは成程と頷いた。
第一話でした。
MI作戦で日本がどうやって勝利したのかは、ご想像に任せます。
第二話に続く……




