65.頼もしき転生者。
「さて、では君の望みは『困っている人の為に役に立ちたい』という事なのだな」
神様はそう言って魂となった男、山田勇吾に確認する。
レスキュー隊として活躍。多岐に渡る任務の完遂。男は人一倍勇敢で正義感に溢れる男だった。
勤勉かつ努力家。様々な知識を持った頼れる人物。
だが、特殊な任務の最中に火災に巻き込まれ、亡くなってしまった。
前世で徳を積んだ勇吾に神様は一度限りの転生のチャンスを与えたのだった。
「願っても無い!元の世界に未練はありますが、別の世界でも自分の存在が誰かの役に立つならば本望です」
「よし、ならば……君には肉体はそのままに特別な力を与え、新たなる世界への道を拓こう。どんな世界が良いか、何か希望はあるか?」
「ならば……『今現在において、一番私の助けを必要としている人間のいる星への転生』をお願いいたします!」
男は迷いなくそう答えた。
自分であれば農地の開拓、治水事業、土木工事への貢献。どのような形でも自分の力を活かして活躍出来る自信があった。
それほど男は奉仕精神が厚かった。
「ほほう……では、君の願い通りにしよう。ただ……厳しい環境に苦しむ星々の人間は多い。どのような世界へ向かわせるかはランダムになるが……」
「心配無用!どのような世界でも、私は大歓迎です!」
「……分かった。その願い、聞き届けよう。本当にそれでいいんだな?」
「はい。男に二言はありません!」
「分かった。では……向かうと良い」
神様はそう言うと、男の魂を適当な遠くの星へと送り出した。
──────
さて、男が元の体のまま、転生した場所は無人の荒野だった。
暗き空の下、ただただ静寂であった。
ポツン、ポツンと廃墟と化した建物が並んでいる。
草木が一本も生えていない道を進む中、男は今後の事を考えていた。
──────戦争でもあったのか?妙に荒れ果てた様子だ。
──────このような状態だ。満足に食料も得られないだろう。自分に出来る事は何でも貢献しよう。
誰もいない。人間がいる星に送られたはずなのだが辺りには人の気配が無く、何とも閑散としていた。
動物の気配も無い。遠目に映る荒野の一部は砂漠と化していて、この星での生活がかなり過酷である事が予想出来た。
そんな時、キョロキョロ辺りを見回していると……一軒の民家らしき建物から年老いた老人が這いつくばって向かってくるのが男には見えた。第一村民の発見だ。
「おお!おお!おお!」
しわがれた声を張り上げながら、老人は男の前によろよろと這い寄って来る。
その、何ともただならぬ様子に驚きながらも、男は老人の元へ駆け寄った。
「大丈夫ですか?おじいさん!」
「おお!おお!おお!何と……いう。こ、こんな奇跡が……起ころ、うとは……。死を、待つのみだった私に、このようなき、奇跡が起ころうとは……神様、ありがとう、ございます」
かすれた声でそう言った老人は涙を浮かべている。
「一体何があったのかは知りませんが……もう大丈夫です。私が来たからには、この星の人々の役に立つよう、誠心誠意努力していくつもりです。何でも仰ってください!」
男らしく微笑む男に老人は震える手で肩を抱きしめる。
老人は涙を流してこう言った。
「また……ひ、人と話せる日が来ようとは……。か、核戦争で人が死滅したこの星で儂一人、こ、孤独だった儂の末期の望みが、ついに……叶った。もう、思い残す事は無い……ガフッ」
老人は男に抱かれたまま、満足そうな顔で死んでいった。




