11.死んだ理由。
「何故だ……何故再びこのような結果になってしまったのだ」
この国の参謀長官である男は、目の前の女性の死体を前に片膝をついた。
10年に1度の建国祭。古くから伝わる伝統ある行事には、ある神聖な儀式が存在する。
それが『異世界召喚』だ。
異世界への扉を開き、現れた異世界人を招待し、互いの国の文化交流を図る。
これまで、異世界人との交流を通じてこの国は発展を続けてきた。
だが、今から30年前、とある異世界との扉が繋がってから状況が変わった。
召喚された異世界人が皆、この世界に来た途端……発狂したように泣き叫び、恐怖に駆られた挙句───弱りきって衰弱死してしまうのだ。
文献によると、10年前も、20年前も同じ悲劇が起きたと言い伝えられている。
理由は……不明。
「翻訳装置の故障は無かったのか?」
参謀長官は部下に尋ねた。
「翻訳装置は問題なく動いていました」
「この世界、この国の建国祭を楽しんで頂いた後、数ヵ月後には元の世界にお帰り頂くと説明したのだな?」
「それが……此度召喚された女性は、これまでのように我々が迎えると途端に悲鳴を上げ、逃げ出そうとされました。こちらが話しかけようと近づくと更に暴れ出されまして……話し合いにならなかったのです。食事を用意しても手を付けようとされず、ますます体は弱っていく一方で……」
参謀長官との面会の前日。
衰弱しきった彼女は自分で自分の舌を噛み、部屋の隅で冷たくなっていたのだという。
「長官殿……我々からは言いにくい事なのですが、もう現在繋がっている異世界との交流は諦めた方が良いのではないでしょうか?今回も準備は万全だったにも関わらず、召喚者の自殺の理由も掴めていません。さすがにこれ以上は……」
「馬鹿者!」
─────参謀長官は立ち上がる。
「こちらの都合で異世界の民が亡くなったのだ。しかもその責任は我々にある。決して誤魔化していい事ではない!過去の罪を向こうの世界の者へ謝罪し、神に許しを請わねばならん……我々の贖罪を伝える為、他に有効な手段がない以上は異世界召喚に頼るしかないのだ」
その言葉を部下は黙って聞いていた。
「……今回の事は建国祭が終わり次第、国内に発表する。お前たちは各部署に緊急会議の通達を出してくれ。私は、彼女の遺体を地下の安置室に運ぼうと思う」
「了解致しました。その……申し訳ありませんでした」
「いや……お前達の責任ではない。早く行きなさい」
部下が足早にこの場を去っていく。
「本当に……何がいけなかったのだ……」
参謀長官は、彼女の遺体に黙祷した。
被っていた帽子を取ると、その長い触覚が力なく垂れ下がる。
6本の長い手足をカサカサと器用に動かし、苦悶に見開かれた女性の遺体の瞼をそっと閉じさせた。
黒光りするその瞳には、うっすらと涙が浮かんでいた。
ゴキ◯リ。




