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サラリーマン流 高貴な幼女の護りかた  作者: 逆波
第一部

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24/227

二一話



 鷹司霧姫は眠らない。

 

 そんな噂が近衛内ではまことしやかに囁かれる。

 理由は簡単だ。

 彼女は昼であろうが夜であろうが執務室に詰めっぱなしで常に電話をかけたり衛星や監視カメラから送られてくる映像を見続けている。

 それもただ見ているだけではない。

 しきりにメモを取ったり、海図を広げたりとなかなかに忙しい。


「ふむ……」

 

 この日も大した睡眠もとらないまま海図に赤いペンで印を付けていく。

 点が示すのは違法操業の漁船を見つけた場所、時間。

 およそ半年を費やして膨大なデータを基に彼女はあるものを探していた。


「大型の船舶が四〇〇隻、速度のでる小型が九〇〇艘。太平洋、特に伊豆諸島沖に多いな」

 

 あのあたりの海は深い。

 海流が早く、黒潮もあって温度変化が複雑な海域。

 潜水艦が隠れるにはうってつけの場所となる。


 しかし、一つ問題がある。

 太平洋の公海は事実上米国海軍第七艦隊の管轄下にある。

 共和国や連邦の潜水艦が進出すればたちまち大問題となるだろう。

 下手をすれば核戦争が勃発する。


「共和国とて大胆な行動は避ける海域のはずだ。潜水艦以外の可能性も考慮せねば、とすれば、貨物船や客船、あるいはタンカー」

 

 鷹司は壁面ディスプレイに新たな映像に切り替える。

 映し出された膨大な線は日本近海を通る船舶を表したもの。

 毎日数百、数千の船が行き交う。


「この中で、五〇総トン以下の中型から小型船舶を除く、と」

 

 漁船クラスを収容し、整備や補給をすると考えればどうしても大型になるだろうと鷹司は予想し、狙いを絞る。

 数百あった線は数十まで減った。


「……多いな」

 

 これもあとで整理せねばならない。

 自嘲的な笑みを浮かべ、バキバキと首を鳴らし、伸びをする。


「北の雷帝に太平洋の小型船。南シナ海は相変わらず、か」


 何か引っかかる。

 そういえば、最近日本海が静かだ。

 つい数か月前まで不審船や潜水艦が侵犯を繰り返していたというのに。


「まさか、布石? 目を逸らすための? あの共和国と連邦が?」


 疑問が不安へと変わる。

 大陸の中央に陣取る共和国とツンドラの覇者である連邦、両者は仲が悪いというわけではない。

 時には協力し、時には利益を奪い合う。


「布石のために雷帝を出すか? あの男を?」


 鷹司の知る雷帝は非常にプライドが高く、愛国心に溢れた人物だ。

 彼が共和国の共謀に加わるとは考えにくい。


「……一休みだな」

 

 ここまでくると考えきれない。

 切り替えが必要だ。

 腹が盛大に鳴る。

 とりあえず何か食べよう。

 食事をして医務室で三時間も仮眠をとれば思考力も蘇る。


「うわぎ……を……」

 

 椅子に体を預けたところで、目が閉じた。

 重度の疲労が意識を奪う。

 安らかな寝顔を昇り始めた朝日が包んだ。


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