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七色キャンディ

作者: 戸理 葵

 おや、お嬢ちゃん。どうしたんだい? お散歩中? そりゃいいね。

 タンポポが好きなの。かわいいね。白いのをふーっとするのが好きなんだね? だけど、水たまりに落ちちゃうのが可哀想? 石の上に落ちちゃって死んじゃうのが可哀想? 優しいんだね。



 お兄ちゃんと喧嘩をしたの? タンポポの取り合いで? そりゃ困ったね。お兄ちゃんの方が多くのタンポポを取ったの? 私が育てていたのに? そうだったの。



 お兄ちゃんは何でも私より多く取る? ご飯もいっぱい? それは心配だね。いつもお兄ちゃんの方が多くご飯を食べていたら、私はいつまでたってもお兄ちゃんより大きくなれない? お兄ちゃんより大きくなりたいのかい。そんなに大きくなって、どうするんだい? 

 ケーキ屋さんになりたいの。それはそれは。お嬢ちゃんは食いしん坊なんだねぇ。うん、その可愛いお腹を見ればわかるよ。




 それにしても、さっきまで何をそんなに怒っていたの? 可愛いお口が、一生懸命何かの文句を言っていたよ?



 おやまあ、お友達の、あの子のお家の子供になりたいの? それはまた、どうして?

 え? あっちのお家のおやつの方が美味しいから? オモチャも沢山あって楽しいから? テレビも沢山、見れるから?

 夜、寝る時はどうするの? お母さん無しで寝れるのかい? あら、お友達さえいれば大丈夫なの。おやおや、強い子だねぇ。





 本当は知っているよ。お嬢ちゃん、お母さんに怒っているんだよね。



 勝手にお家を引っ越しして、新しいお家ではちっとも遊んでくれないものだから。お兄ちゃんに任せっぱなしだものね。



 お嬢ちゃんは、前のお家ではお友達がいなくて、寂しかった。毎日毎日、お兄ちゃんの帰りを待っていた。一人で沢山、テレビを見ていたね。



 やっと幼稚園に入る事が出来て、不安ながらもついに、お友達が出来たんだよね。お嬢ちゃんは皆に優しくて、聞きわけの良いいい子だった。だからお嬢ちゃんの事が好きで、いつもついて回っていた女の子がいたね。あの坊やなんかは、お嬢ちゃんが泣いた時、ずっとあなたを膝の上に乗せて抱きしめてくれたものね。同じお年なのにね。みんなお嬢ちゃんを好きで、お嬢ちゃんもみんなが好きだった。



 なのにお母さんったら、急に新しいお家に引越すのだもの。



 お嬢ちゃんが昔のお友達に会いたい事、必死に我慢しているのに、新しいお家でのお母さんは全然遊んでくれない。お兄ちゃんも、お母さんの見えない所で意地悪をする。

 そりゃお嬢ちゃん、怒っても仕方が無いよ。


 新しく出来た素敵なお友達と、今度こそ離れたくないよね。思う存分遊びたいよね。そこのお家の子供になれば、寝るまで一緒に遊べるものね。朝起きても、一緒だものね。






 来てご覧、お嬢ちゃん。ほら、飴をあげよう。




 綺麗だろう? いろんな色があって、いろんな味があるよ。食いしん坊なお嬢ちゃんには、いくつあげようかな? 二つかな?




 この飴はね、特別なんだ。だってね。


 人の心が作った飴だからだよ。




 優しい味、怖い味、楽しい味、悲しい味、色々あるよ。

 でもね、怖い味や悲しい味は、人にあげた事がないから、この箱の下の方に沢山残ってる。注意おし。うっかりそれを取って口にしてしまったら、とっても嫌な思いをしてしまうよ。4歳のお嬢ちゃんなら、夜、眠れなくなってしまうよ。いくら、大好きなお友達と一緒でも。




 

 どうしてこんな飴があるかって?


 

 それはね、人の心は、いい事も悪い事も、時間が立つと忘れてしまうだろ? 実はその時、この箱の中に飴玉として落としていくからなんだよ。





 ここだけ。内緒の話だけどね。

 人の心は、いい事より、悪い事の方を長く沢山、覚えているものなんだ。

 だからつまり、この箱の中には、優しい味や楽しい味、嬉しい味の方がいっぱい詰まっているって事なんだよ。安心した? ふふ、脅かしてごめんね。




 例えばこの飴。綺麗な深い緑色。これは10歳の女の子の飴。

 この子はね、幼馴染の男の子が毎日苛められているのを、助けられないでいる。


 ある日その男の子が、一人でこっそり泣いている所を見てしまったんだ。

 男の子はどんなに苛められても、人前では絶対に泣かない。へらへら笑っている。だからまた、苛められる。

 でもそれが、彼のプライドだって気付いた女の子は、隠れて泣いている彼を見た時、黙ってその場を去ったんだ。

 今も彼女は、男の子を助けられないでいる。自分が苛められるのが怖いからね。

 心の中では悔しくて、悲しくてしょうがない。助けられない自分が情けなくって、しょうがない。



 だけど、その男の子が、彼女の中ではヒーローなんだ。誰よりも強くて、カッコいいヒーロー。

 自分のプライドを守り、人前では決して涙も弱さも見せない、ヒーロー。


 

 その憧れを胸に膨らませた時、その女の子は、自分の悔しさと悲しさを手放す事が出来たんだ。それが、この飴玉。

 あれ? 4歳のお嬢ちゃんには、難しすぎたかな?




 

 じゃあ、この飴玉はどう? これはね、7歳の男の子の飴玉。透明な水色。


 この男の子はね。自分の事しか考えない子なんだよ。沢山のオモチャが欲しい。美味しいものは全部、ママから取っちゃう。自分の話は、いつも誰よりも聞いて欲しい。思い通りにならないと、自分は世界一可哀想だと感じてしまう。

 そんな坊やがある日、季節外れのカマキリを見た。秋も深まり、朝晩は霜が降りるぐらい寒い時期だ。坊やのお家の軒下にとまっていた。


 カマキリが怖い! と騒ぐ坊やに、ママは言った。外はもう寒いから、少しでも温かく感じる所にいるのでしょう。そっとしてあげてご覧? 坊やだって、お外から帰ったらコタツに入るでしょう? カマキリさんは、それが出来ないの。


 男の子はじっと考えた。コタツに入れないカマキリは確かに可哀想だ。家の軒下ぐらい、許してあげよう。


 次の日、カマキリはまだ、坊やの家の壁にいた。少し移動して、陽のあたる場所で日光浴をしているようだった。男の子はとても納得した。


 次の日、カマキリはまだいた。少し移動して、男の子の自転車の側にいた。日光浴が気持ちよさそうだった。


 そして次の日。男の子の自転車の上で、カマキリは動かなくなっていた。その日の朝は、とびきり寒いものだった。



 男の子はね。初めて、自分以外の何かで、涙を流したんだよ。

 寒いのにじっと耐え、文句も言わずに死んでしまったカマキリが、可哀想で可哀想で仕方無かったんだ。


 眼を真っ赤にして、誰にも聞こえない様に、そっと呟いた。「カマキリさん、僕のうちに来てくれて、ありがとう」

 

 そして初めて、カマキリを素手でつかむと、一人で庭に埋めたんだ。



 その時に出来た飴玉が、これ。



 おや、お嬢ちゃん。可哀想って? 男の子とカマキリが? 優しいんだねぇ。

 でもカマキリはともかく、男の子は大丈夫だよ。だってこの飴玉、その日から3日後にはもう、この箱の中に入っていたのだから。






 お、こんな飴もあるよ。どうだい? これはね、大人の女の人の飴。白くて透明だね。


 この人はね。不安だらけなんだ。だって先が読めないのに、小さな子供を二人も抱えているんだよ。

 頼りにしていた家庭に不幸が訪れ、悲しくて不安でしょうがないんだ。



 だけどそれを決して、小さな子供達には見せない。何故なら、自分がいつも自信を持ち、笑っていれば、子供達は安心するに違いないと信じているからさ。



 だから、そういうフリをし続ける、と決めた。お腹の底に力を入れ、フリがいつか本物になる事を願って、決心したんだ。この飴は、その時出来たものだよ。






 じゃあお嬢ちゃんには、この水色の飴と、この白い飴をあげようかね。




 大事に持ってお帰り。

 そして大事にお食べ。




 だってそれは、


 あなたのお母さんとお兄ちゃんの、飴だから。





 それを食べたら、お母さんの愛情と、お兄ちゃんの優しさが、お嬢ちゃんのお腹に染みるよ。

 染みるって、ああ、痛くない痛くない。擦りキズの消毒とは全然違うよ、安心しなさい。


 お腹がほっこり、温かくなるってことさ。

 そしてもっと、二人と仲良く出来るって事だよ。






 そしてほら、この飴玉もあげよう。お家に帰って、お母さんとお兄ちゃんにおあげ。



 この青いのは、出来たてほやほや。お嬢ちゃんが「このお友達のお家の子になるっ」って騒いだ時に出来た飴だよ。お母さんにあげなさい。



 このピンクは、お嬢ちゃんがお菓子をお兄ちゃんにあげた時に、出来た飴。あなたはいつも、おいしいものを食べる時、必ず誰かに分けてあげるよね。「これ、おいしいよ、食べてご覧」

 これが出来るか出来ないかは、4歳も40歳も関係ないんだよ。お兄ちゃんにあげてご覧。



 お兄ちゃんが、転んでどんなに痛くても泣かなかった時に出来た飴と、年上だからってお嬢ちゃんより5倍もお母さんに怒られても我慢している時に出来た飴は、

 今度来た時にでも、お嬢ちゃんにあげるよ。お嬢ちゃんは優しいけど、すぐ泣くからね。





 ほら、お帰り。

 みんなでこの飴を食べて、家族がもっと、仲良くなるんだよ。








 この緑色の飴をどうするかって?

 そりゃ、決まってるだろ? あの男の子にあげるんだよ。

 だって私がこっそり、あの女の子の憧れも混ぜたからね。大丈夫、ちょっと貰った所で、彼女の憧れは消えやしない。膨らむ一方だよ。




 その憧れが男の子にも伝わって、あの子は本物のヒーローになれるだろうから。




 

 今までとは毛色の違った物を無性に書きたくなって、約2時間で仕上げました。SMスイッチ以来の高速執筆です(笑)

 読みづらいかもしれません。申し訳ありません。お暇つぶしになれば、嬉しいです。


 でも、童話って、誰が読んでくれるのかなぁ・・・? (自分で書いておいて)

 そもそもこれって、童話なのかなぁ・・・・?

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― 新着の感想 ―
[一言] 人の心で出来た飴玉。優しい味に、悲しい味……。斎藤隆介先生の『花咲き山』を思い出します。『ほのぼの』というより、『じわり』としみる内容で、とても良かったです。
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