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十年前の約束?

「いやいや、だって魔王は十年前に勇者たちが倒したんでしょ!?」


 ゼノアが真っ先に否定する。実際、世間の認識は彼の言う通りだ。


「むしろ、血濡れのレーナ(ブラッティ・レーナ)が完膚なきまでに撲殺したって……!!」


 しかし、その当の本人であるレーナは驚きもしていない。代わりに呟いたのは、魔王と呼ばれる青年だった。


「確かに、あのときは完膚なきまでの撲殺だった。擦り潰された、といった方がイメージに近いかもしれないな」


 なぜか嬉しそうである。



「ちょっと、レーナさん。何とか言ってくださいよ! 本当にあの人が魔王なんですか!?」


「まぁ……本人だろうな。十年前とまったく同じ姿だ」



 ついに当人に確認が取れてしまい、ゼノアの顔が青く染まっていく。だが、彼はまだ信じたくはなかった。一昔前、人々の生活を脅かしていた、恐怖の象徴である魔王が生きていることを。



「でも、レーナさんが倒したんですよね??」


「魔王は不死身だからな。蘇ったんだろ」


「ふ、不死身だから……?」


「その通りである!」



 魔王が安物のお茶が入った百均のカップを手にしながら立ち上がった。安物ではあるが、魔王が持つとなかなか様になっている。



「十年前、余は確かに死んだ。殺された! 正直、臓物を引きずり出されてから、頭蓋を溶岩に打ち付けられ、粉々にされたときは、いくら不死身とは言え死んだかもしれんと、びびった。しかし、上半身と下半身に分けられて、体が火の海に捨てられた後も、余は時間をかけて少しずつ再生していったのだ!」


「はい! あの日から五年経ってから、火の海で魔王様の細切れになった脳を発見したときは、私も瀕死状態から回復してはおりませんでしたが、感激で涙が止まりませんでした」



 バトラーはおいおいと泣き出してしまう。


「そう、余は忠臣であるバトラーによって、再びこの世界に舞い戻った!! 細切れの脳からここまで再生するまで、十年と言う月日が経ってしまったがな!」


 高笑いを上げる青年を見て、ゼノアはついに彼が魔王であると認めざるを得なかった。細切れになった脳から復活するなんて、化け物のほか何者でもない。


「け、警察!! いや、騎士団に連絡しないと!!」


 ゼノアは電話を手にするが、パニックのあまり使い方を忘れてしまう。



「ねぇ、ゼノアくん。慌てなくても大丈夫だよ。ここにはレーナちゃんがいるんだから」


「へっ?」


 トウコの指摘に再び頭が真っ白になるゼノア。そうか、この人(レーナ)は魔王より強いのか。でも、本当に大丈夫なのだろうか。そんなレーナは落ち着き払った様子で質問する。



「で、蘇ってまで何の用だよ。復讐のつもりか?」


「ふん、魔王たる余が復讐などつまらぬ動機で動くわけがなかろう。単純に、レーナちゃんの新しい職場がどんなところか見に来ただけよ」


 レーナちゃん、って呼ぶんだ。トウコは意外に感じながら、レーナの反応を見るが彼女は彼女で呼ばれ慣れている様子だった。



「見ての通り、小さな魔石工房だよ。分かったらすぐに帰れ。お前がいるとお前が出す瘴気で客が寄り付かなくなるだろ」


「相変わらず無礼な物言いよ。人里に出る時くらい、瘴気くらい抑えているわ。それよりも、魔石工房と言ったな」



 魔王の目つきが鋭いものに変わる。



「此度の転職、余が一番不快なものこそが魔石(メヂア)だと知ってのことか?」


「知るか。知ってたところで、私の転職とお前の好みなんてまったく関係ないことだろ」



 その瞬間、工房内の空気が明らかに重たくなる。これが殺気というものなのだろう。魔王から放たれる重圧によって、トウコもゼノアも息苦しさを感じるのだった。


「関係あるに決まっているだろう」


 魔王は静かに、だが鋭い声色で言う。そして、胸の高さで拳を握りしめ、その怒り現した。


「魔石工房で働くなど……絶対に許さん!! なぜなら!!」


 そして、魔石はビシッとレーナに指先を向ける。



「レーナちゃんは余の妻になる女! 未来の妻が魔石工房で働くなど、虫唾が走るわ!!」


「……未来の?」


「……妻??」



 トウコとゼノアは自らの耳を疑いながら顔を見合わせる。だが、二人とも確かに同じ言葉を聞いたようだった。


「ど、どういうことかな?」


 レーナに確認するトウコだったが、彼女が口を開くよりも先に、魔王が再び街中に響き渡るような声が。


「十年前の余のプロポーズを忘れたとは言わせんぞ! レーナちゃん、今度こそ余と結婚するのだ!!」

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― 新着の感想 ―
なぜか予感はあったのですが、やっぱり魔王様はレーナさんにぞっこんだったんですね!魔王さまドMなのでしょうか笑
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