表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
146/162

その気持ち、わかる!!

さっそくBクラスの教室入りするレーナだったが、そこはさらなる異界だった。


「もうやだぁぁぁーーー!」


前の席に座っていた男が急に立ち上がり、教室を出て行ってしまう。しかし、五分もしないうちに戻ってくると、またメヂアをいじり始めていた。これだけではない。



「どうせ私のメヂアなんて誰も興味ありませんよ。なのに、どうして一日中こんな石ころを向き合っているの? やめればいいじゃん! やめればいいじゃん私!」



隣に座る女は自分自身に憤りを感じているが、手は止めることなく、作業を続けている。さらに、その隣の男は、一人でぶつぶつ呟いているようだ。



「僕はランキングなんて信用しませんよ。あれ、操作だから。あと一部の信者に持ち上げられているやつだけ。メヂアの商業化に成功したやつらはいいよ。アップするだけで簡単にポイント付くんだからさ。絶対僕のメヂアの方がクオリティ高いのに。間違ってますよ。あー、もうやめようかな」



誰もが息を吸うようにネガティブな言葉を吐いている。しかも、誰かの反応を求めているわけでもないらしい。教室のそこら中で、呪詛のような言葉が沸き上がる様は確かに異様なのだが……。



(トウコだ。トウコがたくさんいる!!)


レーナの驚きは少しばかり変わったものだった。


(あいつも、しょっちゅう一人でぶつぶつ文句言っているけど、頭がおかしいわけじゃなかったんだな)



そんな結論に至った矢先、一人が奇声を上げながら、掃除用具入れを開けて、バケツを被りながら急に転倒する。あれを見てしまったら、どうしても……。



(やっぱり、トウコも頭おかしいのかも……)



そんな結論に至ってしまうのだった。


その夜、前回以上に注意深く、Aクラスの施設までの経路を確認する。途中、ナナミの気配を感じたが、今度は気付かれていないようだ。



(ちょっと前に山籠もりした甲斐があったな)


レーナは少し前の事件で、自分を研ぎ直したことを思い出す。そのおかげで、気配の察知もかなり敏感になっているようだ。


(よし、やっぱりこの前より近い。これなら、次はスムーズに侵入できるぞ)



このまま潜入しても問題ないかもしれない。それでも、レーナは慎重を期して翌日を選んだ。また、朝が来て初めてBクラスの人々と一緒に農作業に取り組む。



(こいつら、Cクラスの連中よりも身が入ってないな。しかも、あからさまに……)


誰もが、作業に本気ではない。むしろ、ぶつぶつと呟いているから、きっと創作のことを考えているのだろう。


(まぁ……こんな場所にこもってるくらいなんだから、そっちが正しいのかもな)



納得はするものの、やはり居心地の悪さを感じる。自分が異物のように思えるからだ。いや、異物は向こうのはずなのに。


(ユズのやつは、ちゃんとやっているのかなぁ)


環境が変わって、やっとユズの存在が有難いものだった、と理解する。確かに、温度の近い人間が近くにいる、というのは生きやすい環境を作ってくれるのかもしれない。



朝が終わると、今度は教室で創作活動に勤しむが、昨日と同じ光景が広がるだけ。ただ、少しだけ冷静にこんなことを思えた。


(トウコに見せてやれたら、喜んだかもしれないな)


ふと気付く。トウコにとっては教室にいるやつらの方が同じ温度なのだ。となると、彼女は自分たちと一緒にいても孤独を感じていたのだろうか。かと言って、自分にはどうすることもできない。



(ここにきて、無駄に色々と考えさせられている気がするな……)



ただ、その軸にいる存在はトウコ。それは環境が変わっても……ということらしい。夜になって食堂へ向かうと、ユズの姿があった。



「レイミちゃん! なんだか久しぶりな気がするわね」


「そんなことないだろ」



そう言いつつも、ユズの顔を見て安心する自分に気付く。そこからは、レーナはBクラスの様子をユズに話した。彼女は大笑いするが、少しずつ表情が暗いものに変化していく。



「……そっちはどうだ?」


何かあったのだろうか、と確認すると、ユズは無理に笑顔を作りながら頷いた。


「やっぱり、上手く行かなくて。私、才能ないんだなって思い知らされちゃった。人生捨てたつもりでここにきたのに、どうしたのものかな……って」



やっぱり、ユズもクリエイタなのだろう。レーナが知る限り、クリエイタは自らの才能を疑い続けるのだ。また、ユズはこんなことも言う。



「表現したいものはある。だけど、少しもイメージが形にならなくて。私ね、才能はなくても、これだけは形にしたいってものがあるのは、誰にも負けてないって思っているの。信念と言ってもいい。この信念が壊れない間は、やめる気はないのだけれど……」



ユズは言いかけて視線を上げると、どこか遠くを見つめながら呟く。



「選ばなかった道を想像すると、色々と考えちゃうの。恋人がいるとか、結婚するとか、子どもがいたりして……。そしたら、メヂアを捨てたことを後悔しないくらい、幸福なのかな?」



もしかしたら、あり得たかもしれない自分。それに思いを馳せるユズの目は、どこまで遠くを眺めているようだったが……。


「そ、そ、それは……」


歪んでいくレーナの顔を見て、驚きのあまり、ユズの美しい「もしも」は途切れてしまったようだ。



「な、なに??」


「分かる!」


「え??」


「分かる。分かるよ。結婚してみたいよね、イケメンと!!」


「……そういうこと言っているわけじゃないんだけど」



こうして、レーナは夜を迎え、Aクラスの施設へ潜入することになった。

感想・リアクションくれくれー!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
あれ?Bクラスに私いませんでした?おっかしいなあ… もしかしてCクラス→創作の楽しさを知ったばかり Bクラス→しばらく頑張ったものの結果が出なくて悶々とする(一部は闇堕ち)という違いですか?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ