テレビ放送
一週間後、テレビは予定通りにトウコとマユの対談を放送した。
「うわぁ……。恥ずかしいなぁ」
両手で顔を覆いつつも指の間から食い入るようにテレビを見るトウコ。だが、レーナとゼノアはネットの反応を追うのに必死だった。
「トウコさんの人気、凄いですよ! これはまた忙しくなるかも……」
「……なんだよ、このコメント」
二人が目にする反応は以下のようなものだった。
『トウコちゃん可愛い』
『美人過ぎだろ。これでメヂアの才能もあるとか最高』
『病んだらウィスティリア魔石工房に行くしかない』
逆にマユに大しては「調子に乗りすぎ」「自分以外のクリエイタのこと煽りすぎだろ」などのコメントが多く、結果的にはトウコが高評価を受けることになっていた。
「可愛い可愛いって……なんでトウコばっかり」
しかし、レーナはそれに納得行ってなかった。本来、自分が脚光を浴びるのだろう、と妄想していたため、余計に釈然としなかったようだが……。
「あ、レーナちゃんも映った!」
一瞬だけレーナが画面に映りこんだ。
「本当か?? ふふん、ネットの雑魚どもは私の顔見て大興奮だろうな……!!」
価値を確信したかのように、その反応を確認するレーナ。しかし、実際の反応は彼女が想像していたものとは違った。
『今映った赤髪の女、トウコちゃんのガードらしいけどやばくない?』
『ブラッティ・レーナに似てるかも。てか鬼の形相すぎて草』
『俺には分かる。五人は殺しているやつの顔だ』
どうやら、レーナが映ったシーンは彼女がマユに対して怒りを露わにした瞬間だったらしく、視聴者にしてみたら赤鬼が立っているように見えただろう。
「ざけんな! なんで私がこんな扱いなんだよ!!」
危うく目の前にあるゼノアのパソコンを叩き割りそうになるが、それよりも重要なことに気付く。ウィスティリア魔石工房のSNSのフォロワー、NHアーカイブの登録者数が凄まじい勢いで増えていたのだ。ゼノアもそれに気付き、少しずつ顔色を変える。
「す、すごいぞ。でも、やばいかも……」
ゼノアが顔を青くしながら確認したのは、マユのSNSとNHアーカイブの登録者数だ。
「やっぱり……うちが超えちゃったよ」
そう、圧倒的にフォロワーと登録者数で下回っていたウィスティリア魔石工房のアカウントが、マユの数値を上回ってしまったのだ。
「おい、ゼノア。例のアカウントを見せろ……」
レーナの指示に頷きながら、ゼノアは例の脅迫文を送りつけてきたアカウントを表示させる。
『はぁ? マジで調子乗りすぎ。こいつは近いうちに痛い目見ることになりまーす』
予告めいた投稿。ゼノアは助けを求めるようにレーナを見るが、彼女は冷静を保ったまま、トウコの様子を窺った。テレビを前に一人興奮するだけで、二人の調査については気付いていないらしい。レーナは言う。
「大丈夫だ。私がいる限りトウコにはかすり傷一つ付けさせねえよ」
「で、ですよね。じゃあ、僕の調査力が鍵を握っているってことか」
「……任せたぞ」
その日は何もなかった。レーナはトウコの監視を続け、夜中であろうが彼女を見守り続ける。ゼノアが犯人の尻尾を掴むまでが勝負。二人はそう思っていたのだが……。
「それじゃあ、先に帰るね」
翌日、トウコは二人がいつまでも帰らないことを不審に思いつつ、切りのいいところまで作業を終えられたので、工房を出ることにした。一人歩きながらトウコは考える。テレビ放送の後、確かに依頼数は増えたが、思ったほどではない。かと言って、これ以上増えてしまったら、手が回らないだろう。
「そしたら……私はどこを目指せばいいのかなぁ」
クリエイタを雇って依頼を捌けるよう体制を整える、という手もあるだろう。でも、トウコは経営者を目指しているわけではない。だとしたら、自分はどこに向かうべきなのか。このままでは、工房で業務を回すだけが自分の生活になってしまう。本当はもっと……。
「トウコ」
背後から声を掛けられ、トウコは足を止める。振り返るとそこにはレーナの姿が。
「レーナちゃん、どうしたの?」
もしかして、レーナも得体のしれない寂しさに、一人で過ごすのが嫌になったのだろうか。そう思って微笑みかけたが、彼女の表情がいつになく真剣であることに気付いた。
「トウコ、こっちに来い」
「う、うん」
何が起こっているのか理解はできないが、素直に従うと、レーナは自分の近くまで寄ってきたトウコの腕を取り、自分の背中で隠すように彼女を後ろに追いやった。どうやらレーナは路地の方を真っ直ぐと見つめているらしい。何かがいる。彼女はそう感じているようだ。
「……あれ?」
トウコは、レーナの背中越しにそれを見る。路地の前に立つ、フードを深々と被った男。いや、男とは限らないが、何者かが立っている。つい先ほどまでトウコも路地を見ていたはずなのに、いつ現れたのだろう。何となく吸い込まれるようにその人物を眺めていると、レーナが叫んだ。
「トウコ、逃げろ!」
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