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織田信長という謎の職業が魔法剣士よりチートだったので、王国を作ることにしました  作者: 森田季節
天下統一への道

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91 縁談を持ちかける

 ソルティス・ニストニアは俺が海側に勢力を広げた際に協力してくれた有力諸侯だ。

 もともと強力な海軍を有していたが、シャーラ県の統一作業の中で、さらに勢力を強めることになった。

 海港を持っている領主は、同じ面積の土地を持っている内陸の領主よりはるかに経済力で上をいく。シャーラ県全域を支配させるというようなことは裏切りのリスクなどもあるから行わせてはいないが、それでも飛び地を含めると、かなり領地になる。少なくとも、ニストニア家としては全盛期と言っていいだろう。


 そのソルティスの娘、ユッカとは実は一度会ったことがある。

 俺がソルティスと同盟を結ぶ際に、家族をマウスト城に招いた。ソルティスは自分たちがマウスト城で殺された場合に備え、息子を居城に残したうえ、家族でやってきた。その中に娘のユッカもいたのだ。


 あれから何年もたっているから、ユッカも十代なかばにはなっているはずだ。俺の権力が周囲を覆っているから、とくにほかの領主との提携を考える必要もなかったのか、まだ結婚相手も決まっていないはずだ。


 次の戦は海上からも大軍を運びたい。そのためにはニストニア家との結びつきは強固にしておきたい。とくにニストニア家はもともとその土地を支配していた、俺にとっては外様の家臣だ。裏切られない保険は多いほうがいい。


 まずはその話をするためにソルティスを王都に招いた。

 名目はソルティスがいまだに子爵のままだったので、伯爵位を与えるから参られよというものだ。これはすぐに叙任の許可を王から出してもらった。


 その叙任の宴席の後に、俺はソルティスを開いている部屋に呼び出して、その話を行った。

 もてなしのためにセラフィーナ、フルール、ケララを呼んだ。ラヴィアラは今回は呼んでいないが、勝手にやってきた。ルーミーは俺の子供たちと遊んでいるらしい。


「――というわけで、あなたの姫君を妻にいただけないだろうか。何人目の妻をめとるつもりだと言われると、返す言葉もないのだが……。そこは、その両家の結びつきのためと考えていただきたい。こちらの娘も息子もまだ幼すぎるしな」


「旦那様は色好みですから、何人いてもかまいはしないよね」

 セラフィーナが本音か冗談かわかりづらいことを言った。半分は本音だろう。


 一方、フルールは落ち着いた表情で、ソルティスの減ったカップに追加のお茶を注いでいた。

「こう言ってはなんですが、周囲の領主の家に嫁がせても嫁がせなくても協調関係に、現状、大した違いは生まれません。それなら、いっそ摂政様のところに姫君を嫁がせるというのは、悪い選択ではないかと思います」


 フルールはいつも理詰めで動いている。中小領主のウージュ家を存続させるために心を砕いてきたせいもあるんだろう。後先を考えなければ、中小領主はあっという間に滅ぼされてしまう。一つの失敗が即滅亡につながってしまうからだ。


「あの……お話自体は光栄なのですが……まったく違う次元で気おくれするところがありまして……」

 ソルティスは白髪が混じりはじめてはいるが、まだニストニア家の当主をつとめている。まだ、息子はすべての権限を委譲できるほど長じてはいない。


「はて、それはいったい何でしょうか?」

 フルールが笑わずに尋ねる。ここにフルールを連れてきたのは、話を詰めることなら、フルールほど得意な人間がいないからだ。下手な官僚ほどよほど役に立つ。


 ちなみにラヴィアラは純粋に見学しているという体でそこに座っていた。どうも、ラヴィアラが昔から純朴なところがあるというか、田舎者っぽさが抜けきらない。王都から見れば、ケララ以外は全員田舎者だ。


「その……口にするのも恥ずかしいのですが……摂政様の奥方様たちの容貌を見るに、こちらの娘ではまったく力不足というか……」

 どうやらソルティスの顔から察するに、ふざけている様子でもないようだ。


「息子はまだ家督は継がせておりませんが、もう妻をめとらせ、私にも孫が生まれております。なので一族が続くことに不安はないのですが、それゆえ、娘の幸せを考えると、夫に愛されるような結婚をさせたいのです」


「なるほど。摂政様の側室になっても、ほんとに形だけの側室というのでは、姫君がかわいそうということですね」

 フルールの言葉にソルティスは「さようです」と恐縮しながら答えた。


 俺はちょっと意外な感じを受けた。

 ソルティスが家族の幸せを純粋に願っていることがよくわかったからだ。

 それ自体は不思議な感情でもない。むしろ、ごく自然のものだと言ってもいい。だが、俺はそんな感情を長らく置き忘れていた。忘れたというわけじゃないかもしれないが、そういうことをまともに考えたことがあまりなかった。


 もし、俺の子供たちが成人する頃になったら、俺もそんな気持ちを抱くのだろうか。それとも、オダノブナガという職業のおかげで、老いがなかなか来ない俺はずっと今みたいな気持ちでいるんだろうか。


 俺はどう答えるか迷った。たしかに、俺は結婚で恵まれていたと思う。

 ずっと姉のように接してくれていたラヴィアラも、セラフィーナも、フルールも、みんな本当に美しかった。ルーミーも天使のような見た目に成長したし、愛人であるケララにもヤーンハーンにもヤドリギにも、それぞれ妻たちとは違う魅力があった。


 今になって、取るに足らない娘を側室に迎えても、その娘を愛せるかどうかと言われると、わからないところはあった。

 それで娘を粗略に扱っているという話がソルティスのほうに聞こえて、印象が悪くなってしまえば本末転倒もいいところだ。


「わかりました。ご懸念ももっともかと思います。それでは娘さんと一度お会いさせていただけませんか? マウストの城をご案内した時のように、王都をご案内いたします」


 ソルティスもこれには同意してくれた。


 彼の退室後、ケララに「これは北方への侵攻作戦は延期ですか」と言われた。

「そこは、そう遠くないうちにやる」

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