エピローグ 新しい国へ
ルーミー一世の治世の下、約二年の間に俺は完全に国内の反乱分子を消滅させた。
ゆっくりと時間はかけたが、やったことは作業に等しい。どうせ、俺に勝てる勢力を持っている者は、この国の中に誰もいないのだから。
もっとも、忙しくないというわけではなかった。決めないといけないことは山とあった。
「うかつに移すべきではありません」
そう、ケララがはっきりと主張する。
すぐさまラヴィアラが立ち上がって反論する。
「いいえ! マウストに移すべきです! アルスロッド様の居城は今の王都ではなくマウストなんですから! マウストを王都、こちらを副都にするべきです!」
会議の席では新しい王都をどちらにするかという議論が続いていた。
「ラヴィアラさん、遷都を行えば、混乱が生じます。敵対勢力が増えるような策を行うのは危険です」
「もう、各地の領主はアルスロッド様とルーミー様に服従しています。今更、王都をどこにやっても大差はないですよ。商人の方々も、ずいぶんマウストに移ってますよ!」
どちらも一理ある。俺とルーミーは隣り合った席で、その議論の様子を見ながら苦笑いしていた。
「陛下、どう思われますか?」と俺は尋ねる。
「そうですね、セラフィーナさんはどう考えられます?」
「どちらでもいいですわ。それより、早く摂政閣下が共同統治者という扱いで、王になるべきかと」
セラフィーナはいたずらっぽい調子でそう言った。
「セラフィーナ、それはまた今度話し合う」
「王都のことはわたしには意見はないから。わたしの夢は王の妻になることだから。その夢をかなえてくれれば本望よ」
なんというか、ゆがみのない奴だな……。
「では、続いて、フルールさんは王都はどうするべきかと思いますか?」
ルーミーは正妻として、順に側室の意見を聞いていく。
フルールは一礼してから席を立った。争いの絶えなかった以前と比べれば、柔和な表情になっているが、それでも政治の場では堂々とした態度でいる。とても摂政の妻とは見えない。
「今の王都の規模は、今後の都市計画には耐えられません。もっと広い土地が必要です。マウストに移転するべきでしょう」
ラヴィアラがそれ見たことかという顔をする。
「続いて、ヤーンハーンさんは商人の立場として、どうお考えですか?」
「商人は儲かるほうに自然に動いていきますよ。そのうえで、新たな商売の場としてマウストを求めている方も多いですし、今の王都でもやっていけると根を下ろす覚悟の方もいます。どうぞ、ご自由に~」
ヤーンハーンは自分の聴取が終わると、用意していたお茶を勝手に飲んでいた。王の御前にしてはゆるい空間だ。
「ありがとうございます。タルシャ・マチャール辺境伯はどうお考えですか」
「我の治める土地からはマウストのほうが近い。北国の者たちは皆、遷都を歓迎する」
王であるルーミーの前でずいぶん無礼な物言いだが、そんなことはわかったうえでここに呼んでいる。
これで形勢としては遷都に傾いてきたか。
「では、ユッカさんはどうお考えでしょうか?」
ユッカは周囲を見回してから、力なく「数が多いマウスト派を支持します……」と答えた。
ある面、正しい処世術だ。
「みんな、意見をありがとう。最終決定は陛下に行ってもらいたいと思う」
俺はちらっとルーミーの横顔を見る。
ルーミーは俺を一瞥すると微笑んで、前のテーブルを向いた。
「マウストに遷都することを決定いたしたいと思います。この王都は南都とでも呼ぶことにいたしましょう」
俺の中の職業がまたよくわからないことを言った。
――南都か。京における奈良みたいなものだな。
オダノブナガの世界で過去に前例があるなら別にやってもいいだろう。
そして新王都マウストへの移転が落ち着きだした頃――
俺は群臣が居並ぶなかで、ルーミーから共同統治者に選ばれた。
つまり、ついに俺は王になったのだ。厳密にはサーウィル王国の王だが。
「今後は夫としてだけでなく、同じ立場の王としてもわたくしを助けてくださいね」
ルーミーが自分の冠を俺の頭に載せる。
「承りました。死ぬまであなたを守ります」
俺はルーミーの手の甲に誓いのキスをした。
それからさらに一年後、ルーミーは第二子の出産に入るのを機に、王を退位し、俺だけを王に残した。
後世の歴史家は、その時を以って新しい王朝の成立とみなすか、俺がルーミーの共同統治者となった時点を新しい王朝の出発とみなすかで、論争するだろう。
まあ、どっちでもいいことだ。
俺は間違いなく、王になったのだから。
王になった数日後、俺は夜にセラフィーナの部屋を訪れた。
すでにラヴィアラとアルティアの姿もあった。
「陛下、ごきげんうるわしゅう」とアルティアが冗談めいた口調であいさつしてくる。
「そういうのはやめてくれ。なんのためにこの部屋に来たかわからないだろ」
「でも、王になったのに、王のように振る舞わないんじゃ意味がないわね」
セラフィーナは軽口を叩きながら部屋の主人として、お茶の用意をする。
「アルスロッド様、ついにやりましたね。ラヴィアラも本当にうれしいです!」
ラヴィアラは人目もはばからず抱き着いてくるので、俺もその頭を撫でた。でも、この抱き着き方は姉としてのものだなと思った。
「でも、まだ重要なことが残ってるんじゃない?」
セラフィーナはお茶をカップに順々に注いでいく。
「どういうことだ?」
「ルーミーさんの次の子供が男の子でそのまま王位を継いでいくなら、それは王朝としては同じものが続いていると扱われるかもよ」
ああ、次の王のことか。
たしかに、次の王をセラフィーナの子供である俺の長子にするか、ルーミーの子にするかで王朝の名前は変わるかもしれない。それこそ、もし王位継承の戦争でも起きれば、また大変なことになる。
俺はついつい笑っていた。
「あなた、何がおかしいの?」
「いや、まだまだ仕事があって、飽きなくていいなと思ってさ」
平和な国のほうがいいが、刺激がないのも困る。俺みたいなのは天下泰平の時代にはおそらく似合わない。
「それより、新しい神殿を作りたいんだ」
「お兄様、能天気すぎる」
アルティアに注意されたが、お前がずっと若々しいのも、その神殿に祀る予定の奴のおかげなんだぞ。
「俺の職業であるオダノブナガって神のための神殿を用意する。かなり奇妙な形になりそうなんだが、設計図はあるんだ」
なにせ、俺の頭の中で、アヅチ城みたいなのにしろとうるさいからな。
オダノブナガ神殿の建設工事がはじまる頃、ルーミーが無事に第二子を出産した。この子供は男子だった。
これは次の王をどうするかでもめそうだが、それはそれでいい。その問題に俺も全力で取り組んでやろう。
サーウィル王国ネイヴル朝のアルスロッド一世は世が乱れていないと活躍できないのだ。
今回で最終回となります! 来月出るGAノベル3巻は最後の天下統一まで収録いたしております。何卒よろしくお願いいたします! 詳しいことは活動報告のほうに書きましたので、そちらもご覧いただければ幸いです。
あと、コミカライズは少し当初の予定より遅れていますが、ちゃんと開始いたしますので、もうしばらくお待ちください!




