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スラムバレット  作者: 穴掘りモグラ
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ヤシロ・リン 訓練参加

急遽ヤシロとリンの部屋が用意され、2人は宛がわれた部屋でそれぞれ休息を取る。


翌日には、2人用の防護服が用意されており、部屋に届けられた。

それを身に着けた2人は宿の前まで行くと、今日訓練を受ける8人と対面する。レオナは2人の事を全員に紹介した。

「みんなおはよ。急だけどこの2人が今日訓練に参加する事になったんだ。こっちがヤシロ、私の相棒で、こっちがリン、最近ワーカーライセンスを取ったばかりみたい。ヤシロは私の勧めで今日だけのお試し参加だけど、リンはこのまま終了まで訓練に参加するからよろしくね」

「天覇所属のヤシロだ。よろしくな」

「リン・フォアードです。先月ランク10のライセンスを取得しました。今日から宜しくお願いします」

ヤシロは気軽に挨拶を行い、リンは丁寧に頭を下げて全員に挨拶を行う。

「よろしくお願いします。リンさん・・・で良いですか?ダゴラ都市でライセンスを?」

ユキが代表してあいさつを返し、リンに質問する。

「はい、リンでいいです。私はイワミ都市でライセンスを取得しました。これから頑張りたいと思います」

「よろしくね。でもイワミ都市か。西方にある都市だったよね?どうしてダゴラ都市に?」

ミリーが挨拶がてら質問を重ねる。

「イワミ都市はそれほど大きな遺跡を抱えていません。なので、ファーレン遺跡や最近新しい遺跡が発見されたダゴラ都市の方が活動が広がると思いました」

「なるほどね。それでヤシロさん経由でこの訓練に参加する事になったと言う事?」

「まあ、そうなるな。レオナの話じゃかなりキツイ訓練だって聞いてるから、これに耐えられない様じゃワーカーとして活動するのは諦めろって言って連れてきたんだ」

ヤシロがそういい、全員が納得した様な顔をする。

リンはファミリーネーム持ちだ。と言う事は、結構上流階級の出身のはずである。それがワーカーになると言い出した為、どちらかと言えば諦めさせる為にこの訓練に参加させているのかもしれない。

全員がそう予想した。

だが、クリア出来ればワーカーとして生きていく力が手に入るのは間違いない。

「訓練期間は残り2週間だからね。どこまで実力を上げられるかはキミ次第だろうけど、レベルアップは間違いなからお互い頑張ろう」

ラインハルトがそういい、リンに笑いかける。


その後、全員が軽く自己紹介を終えると、車に乗ったシドとライトが現れる。

全員の前に車を止め、2人が下りてきた。


「全員集まってるな。今日はメンバーが増えるって聞いてるけど・・まさかヤシロさんまで参加するとは思わなかったですよ」

「ああ、今日だけだがよろしく頼む」

「はい、訓練中はタメ口で話させてもらいますんで、よろしくお願いします」

シドはヤシロにそう断り、今日の訓練内容を説明する。

「今日も昨日と一緒だ。でも、戦闘訓練の内容は少し変更しようと思う」

「どう変えるんだ?」

タカヤがそう聞くと

「戦闘訓練は俺とライトの2人がかりで行こうかなと。ヤシロさんも参加するし」

シドがそう言うと、ヤシロとリン以外が驚愕の表情を浮かべる。

「ランク45のハンターが参加するんだからこっちもガチで行かないとな。んじゃ、俺達は先に荷物運んどくから、皆は体を暖めながら来てくれ」

シドはそう言うと、ライトと共にさっさと車に乗り込み荒野に向けて走り去っていった。

その様子を呆然と見送った後、全員がレオナを見る。

(・・・やっちゃった?)

レオナは冷や汗をかきながらヤシロを巻き込んだことを後悔する。




何時も訓練を行っている岩場に着き、シド達の車を見つける。

ここまで軽く走りながら来たのだが、流石にワーカーライセンスを取得しているだけはあり、リンも遅れることなく到着していた。


シド達の車の横にはもう一台止まっており、よく見るとワーカーオフィスの車の様だった。


全員が近づいていくと、オフィスの車からキクチが下りてくる。


「ようヤシロ。まさかお前まで訓練に参加してくるとは思わなかったぞ」

「ぬかせ。こんな面白そうなことを俺に内緒にしやがって。ぶん殴ってやろうかと思ったぞ」

「ハッ!俺が大変な時に見捨てやがったヤツが何言ってやがる」

2人は軽口を叩きながら笑顔で話す。

「で?なんでお前がここに居るんだ?」

「明日にはこの訓練の中間報告を上にあげないといけないからな。どんな様子か見に来たんだよ」

「なるほどな。俺も体験したレビューを入れてやるよ」

「助かる。高ランクハンターの意見が貰えるなら信憑性が増すからな」


2人が話していると、準備が終わったのかライトが話しかけてくる。

「では、準備が出来ましたんでこっちに来てください」

ライトについていくと、人数分のバックパックが置かれていた。

「ヤシロさんの重量は他の皆と同じ50kgにしてある。で、リンさんのは最初だから30kgな。これを担いでこのコースを真っすぐに走ってくれ。コースから外れそうになったら俺かライトが警告射撃するからそう思ってくれ」

シドはそういうと車の荷台に入って行った。

8人がバックパックに手を伸ばし、それぞれ背負っていく。

ヤシロとリンもライトから手渡されたバックパックを持ち、少しフリーズしていた。

「おい・・・おいレオナ。どういう意味だ?」

ヤシロはズッシリと重みを感じるバックパックを持ち、レオナに話しかける。

「ん?あの言葉のままだよ。それを担いであの岩場を真っすぐに走って行くわけ。瓦礫とか岩場は乗り越えていくのさ。避けようとしたら撃たれるから注意してね」

ヤシロとリンは驚いた顔をして、先程シドがさした方へ顔を向ける。

「・・・・・え?結構高いですよね?あれを乗り越えていくんですか・・・?」

「そ、最後の方は腕にも足にも力が入らなくなっていくから注意してね。防護服を着てるから登ってる途中で足を滑らせても死にはしないから安心してよ」

ヤシロもリンも、いやそうじゃない、と言う言葉を飲み込んだ。

「どのくらいの距離があるんだ?」

「だいたい5kmって所かな?私たちは40分くらいで走れるようになってるよ。ヤシロも頑張ってね。後輩たちに負けない様に」

レオナはそういうと、ヤシロにニンマリとした笑顔を向ける。

(コイツ!昨日の笑顔はこういう事だったのか!!)

ヤシロは当然体力には自信がある。平面を走る分には50kgくらいの重さならなんてことは無い。

しかし、あの岩山や瓦礫を乗り越えていくとなると話が変わって来る。これは気合を入れ直さなければと考えていると、車の中からシドが出てくる。

その手には回復薬と水筒が2人分握られており、ヤシロとリンにそれぞれ渡した。

「ゴールしたらそれを飲んでくれ。凄く効くから直ぐに回復するぞ」

回復薬を受け取った2人はそのまま固まって動かない。その2人の尻を叩くようにレオナが声を掛ける。

「ほらほら、早く準備しないと置いてかれるよ?」

その声に、ヤシロとリンは慌てて準備を行う。

リンは養成所で訓練を行っていた時以上の重量を担ぎ、少しよろける。その様子を見たレオナはリンに言う。

「リン、無理してでもゴールを目指す事。大丈夫、死にはしないから。死にそうな思いをするだけで」

慰めにもならない言葉を聞き、リンの顔には不安が浮かんでいた。

(これ・・・大丈夫かな?)


初参加者視点


リンの不安をよそに訓練スタートの合図が出され、全員が岩山に向かって走って行く。

そのペースはヤシロの想像以上であり、かなり本気で走らなければついていけない速度だった。

(コイツ等マジか!)

先頭を走るユキとラインハルトはひょいひょいと瓦礫を駆け上がり、自分と同じくらいの体格のタカヤも少し遅れて同じように登っていく。

体力的に自分より劣っていたはずのレオナも難なく瓦礫を越えていき、他のメンバーも同じように瓦礫を登っていく。

自分も瓦礫に足を掛けるが、考えていた以上に滑りやすく、かなり体力を使う。

(クッソ!!負けてられるか!!!)



リンは全員の後ろを走りながら早々に体力が尽きようとしていた。

まだコースの半分も到達していないというのに、手足に力が入らなくなってくる。歯を食いしばりながら瓦礫や岩山を乗り越え必死にゴールを目指していた。

すると後ろから声が聞こえてくる。

「シドさん。彼女の事はボクが見ておくから先に行ってよ」

「そうか?んじゃ任せた」

この訓練の教官をしている少年ワーカー達の声だ。

最初見た時は自分より年下では無いかと考え、真面な訓練になるのか?と思ったが、シドと名乗る少年は自分より遥かに大きいバックパックを背負って凄い速さで追い抜いていった。

あまりの事に思考が停止しそうになるが、

「集中しないと危ないよ?」

と後ろにいるライトに注意され、瓦礫にかける手に力を籠める。

少し長めの平地に入ったが、前方には誰の姿も見えなかった。まさかここまで差があると思っていなかったリンは、絶望感に押しつぶされそうになる。

だが、ヤシロの言葉が頭をよぎった。

『この訓練をやりきれなかったらワーカーは無理だと思え』

ギリっと歯を食いしばり、なにがなんでもゴールまで行ってやると折れそうになる心を奮い立たせ皆を追いかけていく。



ヤシロは根性を振り絞り、ゴールまで到達する。

ペースを考えて走っていれば普通にゴール出来たであろうが、自分より下のランクに負けるのはプライドが許さず、全力で駆け抜ける事になった。

全身から噴き出す汗が引いていく感触を味わいながら、なんとかビリは避けられたと安堵する。

「流石ヤシロ。一本目が終わって立ってられるとはね~」

「ハ!当然だろ・・・・一本目?」

「そ、全員揃ってから5分休憩してまた戻っていくんだ。早めに回復薬飲んでた方が良いよ?」

愕然とした表情を浮かべるヤシロ。レオナはその様子を楽しそうに見眺める。

ヤシロはスタート前に渡された、1箱100万コールの回復薬を手に取り、水と一緒に飲み込む。

すると、体の芯まで侵していた疲労感が抜けていくのが分かる。

「すげーな・・・・」

「ね?負傷を治す以外にも回復薬の使用用途があることにビックリしたよ。明日になったらもっと驚くよ?」

「そうなのか・・・」


しばらくすると、リンがヨロヨロとふら付きながらゴールまでたどり着く。

そして、バックパックを地面に落とすと力尽きたようにバッタリと倒れる。


「ふむ、体力は足りてないけど根性はあるな」

「そうだね。これから訓練すればそこそこ動けるようになるんじゃない?」

シドとライトは、ぶっ倒れたリンを見ながらそういう。

レオナは倒れたまま動かないリンを見かね、フォローに入る。

「ほらリン、これ飲んで」

リンを起こし、回復薬を口に入れてやる。リンは荒い息を吐きながらもなんとか飲み込み、回復薬を胃に落とした。

「よし、5分休憩後にまた戻っていくぞ。しっかり休憩してくれ」

シドはそう言いながらバックパックから水を取り出し口に含む。

レオナが言っていた内容そのままの事をシドがいい、それを聞いたヤシロは本当にまだ走るのかと驚きを隠せなかった。

「ヤシロ、午前のマラソンは準備運動。本番は午後の戦闘訓練だからね。ガチの本気でやって」

レオナは最後の部分を小声でヤシロに言う。

「ん?そりゃー思いっきりやるつもりだぞ?」

「お願いね。それでも悪夢みたいな事になると思うから」


暫くすると回復薬の効果で動けるようになってきたリンが起き上がる。

「・・・・凄い効果ですね。この回復薬」

「そりゃ100万コールの回復薬だからね。その辺の安物とは効果が違うよ。どう?動けるようになった?」

「はい、だいぶん動けるようになってきました」

「よし、さっきのコース、2往復することになるから頑張ってね」

「え?」

リンは先ほど限界まで体力も気力も振り絞った為、シドの言葉が耳に入っていなかった。

だが、聞こえていようがいまいが訓練は続行される。

「よし、5分経ったぞ。皆最初の場所までゴーだ」

シドの合図で全員がまた走り出す。リンも慌ててバックパックを背負い、皆の後に続いた。


もう直ぐ正午。


全員が2往復を終わらせ、食事の準備を始めようとしている。

流石のヤシロも疲れが見えてきており、手足が震えて来ていた。リンに至ってはぶっ倒れて身じろぎ一つしない。

「いやー、ヤシロさんは流石ですね。2往復してへたり込んでない人初めて見ましたよ」

タカヤがヤシロにそう話しかける。

だが、まだまだ元気そうなタカヤの様子にヤシロは動揺する。

「お、おう。まあな」

必死に震える手足のことがばれないように虚勢を張った。その様子を少し離れた所からレオナが観察している。

ヤシロが実は疲労困憊な事を見抜いており、その顔にはニンマリとした笑顔が張り付いていた。

(クソ・・・アイツ後でシバク)

面白そうに自分を見るレオナに腹が立つ。

倒れたリンの所にはユキが近づいていき、リンに回復薬を飲ませていた。

「多めに飲んでください。この後ご飯を食べれば、その栄養素を元にしっかり回復させてくれますから」

「・・・・ありがとう・・・」

消え入りそうな声でリンがお礼を言う。

「・・・・私・・・才能無いのかな・・・・」

「そんなことありませんよ、最初は皆そうなります。私も同じように動けなくなりましたから。最初から錘を背負って完走できるだけで十分凄いです」

ユキの励ましに、リンは少しだけ元気を取り戻す。自分で上半身を上げ、立ち上がった。

「昼食でしたね。何があるんだろう?」

「まずはレーションを食べてください。普通のお弁当だと胃が受け付けないと思いますから」

ユキはそういい、リンにレーションを差し出す。

リンはレーションを見て、目を輝かせる。

「これがレーションなんですね!食べてみたかったんです!」

「初めて食べるんですか?」

ユキはおそらく上流階級のお嬢様であると予想されるリンがレーションを食べたことが無かった事に少し驚く。

「はい、おとう・・・・父がこういう物は口にするなというタイプの人でして・・・でもワーカー達の常備食と聞いていたので食べてみたかったんです」

「では、向こうで皆と食べましょう。午後の訓練の対策も立てないといけませんし」

「そうか、まだ続くんですよね。分かりました、頑張ります」

リンはフンスッ!と気合を入れて食事を取る為、皆が集まっているところに歩いていく。


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