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スラムバレット  作者: 穴掘りモグラ
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新たな参加者

その後、日が暮れる寸前まで模擬戦は行われ、彼らはライトと正面から打ち合う状況まで持ち込むことに成功していた。

しかし、そこから楽に撃破できたわけでは無い。

ハンター5の圧倒的な投射量の前に全敗していた。

一日中全力で走り回り、何処からともなく飛んで来る弾丸に体力と神経をすり減らされたメンバーは全員地面に座り込んでいた。


「よし、今日の訓練はここまで。宿に帰って飯だ!」

シドが号令をかけ、全員がヨロヨロと立ち上がる。ここから歩いてダゴラ・インに帰るのも億劫だが、へたり込んでいるわけにもいかない。


全員鉛の様に重い体を引きずり、宿への道を歩いていく。



食事の準備が出来たとの知らせを受け、全員が食堂に集合する。

「あ~、やっと飯にありつけるな」

「そうだね~お腹へった~」

あれだけの訓練の後でも元気があるタカヤとユキ。

「あんた達、あの訓練の後でまだまだ元気よね・・・」

アリアがそう、2人に言う。

「まあ、前回の訓練でも似たようなものでしたし」

「慣れだよ慣れ」

2週間経つのに未だ慣れる事の無い疲労感を無理やり押しのけ、アリアは今日の夕食を注文する。

「この2週間、美味しい食事を毎日お腹いっぱい食べてるのに太る気配がないね」

「あれだけ動き回されたら太る余裕も無いでしょ」

「そうだよね・・・食べた以上に消耗してる気がするわ」

レオナ・ミリー・アズミも夕食を注文する。その量は、訓練前の食事量から1.5倍以上に増えていた。

それなにの全身が引き締まってきている。

「今日の食堂は人が少ないな。ワーカー志望と俺の部下がいないからか」

彼等はこの2日自由時間になっている。

ワーカー志望のメンバーは防壁内に帰り、スラム組はホームに戻っている様だった。

「しかし、シド君だけじゃなくライト君にも手も足も出ないとはね・・・・タカヤとユキは良く心が折れなかったね」

ラインハルトは今日の模擬戦と、シドとの模擬戦を振り返り、自分が如何に狭い世界で生きて来たのかを実感していた。

「まあ、心は折れたな。ワーカーってここまでやらないとダメなのか?って何度も思ったよ」

「でも、訓練最終日に遺跡にいったら、私はクラブキャノンの狙撃で死にかけました。訓練は厳しすぎるくらいでちょうどいいんだとあの時思いましたね」

タカヤとユキはその時の事を思い出しながら語る。

「クラブキャノンに撃たれたの?」

アリアは驚きユキに聞く。

「いえ、ライトが迎撃してくれましたから直撃は受けてません。でも、ライトもシドさんも居ない状態だったら間違いなく食らってましたね。ライトに出会わずに養成所を卒業して遺跡に行っていたら、私はあの時死んでいたと思います」

「そうだな。あの後俺がシドさんに食って掛かっちまったけど、遺跡探索が楽勝だと勘違いさせるために連れて来たんじゃないって言われたよ。そこで俺はワーカーの仕事は命がけなんだって初めて気が付いたんだ」

「命がけ・・・か・・・」

ラインハルトは自分たちの遺跡探索の事を振り返る。

養成所を卒業し、ギルドの引率付きで遺跡に潜る。時には先輩ワーカーの言葉が鬱陶しいと思うときもあった。自分たちの実力を軽視していると思うこともあったのだが、今から考えると先輩たちが正しかったのだと思える。

ワーカーの仕事はモンスターと戦い、旧文明の遺物を持ち帰る事。

しかし、まずは遺跡から生きて帰って来れる実力を持たなくてはならない。訓練に参加する前の自分は、生き残るという事に対する考え方が甘すぎたと今は考えていた。

(1年経っても引率が外れない訳だ・・・)

「ラインハルトもアリアもラッキーだよ。こんな訓練受けたくても受けられないからね。レイブンワークスは優秀な新人が居て羨ましいよ」

レオナがそういいながら、食事を口に運ぶ。

「そういえば、天覇からは派遣されなかったんですね」

「うん、天覇所属のバカタレがライト君やタカヤ君達と揉めたんだ。それでキクチが天覇に話を持ってこなかったんだと思うよ。私はシド君ともライト君とも面識があったし、丁度暇してたからお声が掛かったって感じだね」

タカヤとユキは、カズマ達の事を思い出す。

「そういえば、アイツ等ってどうしてるんですか?」

タカヤが疑問に思いレオナに質問する。

「キョウグチ地下街遺跡でちょっとあってね・・・カズマは天覇を脱退、他に2人がワーカーを辞めちゃったよ。まあ、ウチの体質も原因の一つなんだけどね」

「そうなんですね。まあ、今後関わることが無かったらそれでいいですけど」

ユキは相当カズマ達を嫌っているらしく、そっけない態度だった。ユキの様子にレオナは苦笑いを返す。

「まあ、天覇にも気持ちのいい奴はいるから、あまり嫌わないでね」

「あ、はい。それはもちろん」

レオナの言葉に、ユキは慌てたように返した。



食事も終わり、全員が自室で休もうと部屋に帰っていく。


レオナは風呂で今日の疲れを洗い流し、ラフな格好でベットに腰かけながら、ライトに教えてもらった時間圧縮の訓練を行おうとすると、誰かが部屋のチャイムを鳴らす。

ディスプレイを見ると、少女を1人連れたヤシロが立っていた。


レオナは部屋の扉を開け、ヤシロを迎える。

「おう、やっと帰って来れたぜ」

ニカっと笑いそういうヤシロ。

レオナは少し呆れながらヤシロを部屋に招き入れる。

「また随分早く帰って来たね。到着は明後日くらいじゃなかったっけ?」

「本当はそのはずだったんだが、コイツを訓練に参加させたくてな」

ヤシロはそういうと、自分の後ろにいる少女を紹介する。

その少女は18歳くらいの年齢で、スラっと背が高く黒髪をショートヘアにしていた。色白で、あまり外で活動するようなタイプには見えない。

「リン・フォアードだ。この訓練を無事にやり遂げたら俺達のチームで面倒を見ることになってる」

「リン・フォアードです。よろしくお願いします」

ヤシロに紹介されたリンは、レオナに対して挨拶を行う。

「ちょ、ちょっと待って?私何も聞いてないよ?」

ヤシロの言葉に困惑するレオナだったが、

「しゃーないだろ、ギルドの決定だ。お前にも連絡が入ってるはずだぞ?」

ヤシロにそう言われ、情報端末を確認すると、確かにヤシロが言った内容がギルドから送られてきていた。

自分達のチームに行き成り所属すると言われ、少し不快感を感じるがそれ以上にこの少女が訓練に参加するというヤシロの言葉が気になった。

「訓練ってシド君たちの訓練?」

「ああそうだ。キクチにも確認取ったし、シド達も大丈夫だって言ってたぞ」

「・・・・・・」

ヤシロの言葉に少し呆然とし、リンの方へ視線を向ける。

「大丈夫です!ヤシロさんにも訓練を付けて頂きました。どんな訓練でも耐えて見せます!」

リンはやる気十分と言った表情でレオナに言う。

「ま・・・まあ、座って話しましょうか」

レオナはそういい、2人にイスを勧め話を続ける。

「・・・で、リン・・・って呼ばせてもらうね。あなた、ワーカーになるつもりなの?」

「はい、イワミ都市で訓練を行い、ランク10のライセンスは取得しています。先日、ヤシロさんにご同行を願い遺跡探索をしたばかりです」

「・・・・・」

レオナはヤシロに視線を向ける。

「それは本当だ。実力としてはカズマよりちょっと劣るくらいか」

「今回の訓練でさらに強くなれると聞いています」

ヤシロの評価では、一応新人ワーカー程度の実力はあるとみていい。遺跡探索も経験し、実戦も行ったのだろう。

しかし、シド達の訓練はそれだけでは耐え切れない強度なのだ。

目の前にいる少女が耐えられるかどうかは分からない。

「ええっと・・・ヤシロ、彼女がもし訓練を中断した場合はどうなるの?」

「その時はギルドの教育部に投げる事になってる。俺達のチーム入りの話も無しだ」

ヤシロがそう言うと、リンは表情を強張らせた。

その眼には何が何でも訓練をやり遂げてやるという気合が漲っている。彼女は訓練に参加する事は決まっている。シド達の許可も出て、ギルドとも話が付いているのならレオナが口を出す理由は無い。

しかし、彼女には教えてやるべきだろうと考えた。

「そうなんだね。なら私からは特にないかな・・・・でも、リン。覚悟がいるよ?」

「・・・覚悟・・・ですか」

「そう、今までのやってきた自信からなにから全て粉砕されて心がポッキリと折れてしまう覚悟。それでも絶対に上を目指してやるって根性と覚悟がいる。それが無ければ、この訓練にはついていけない」

「そこまでか?」

ヤシロが声を上げてレオナに確認してくる。

「ヤシロもお試しで参加してみたら?明日だけならシド君たちも手が空いてるだろうから十分余裕あると思うよ」

レオナはそうヤシロに言う。

「ん~~、そうだな。俺も体験してみるか」

ヤシロはそう気楽そうにいい、レオナは直ぐにその事をキクチ・シド・ライトに連絡を入れOKを貰う。

「これでヤシロさんとも訓練出来ますね!」

「おう、頑張れよ」

レオナは、そう嬉しそうに話す2人を・・・いや、ヤシロを見ながらニンマリと笑う。

(頑張るのはアンタの方だよ?)


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