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スラムバレット  作者: 穴掘りモグラ
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2日目の戦闘訓練

午前の訓練が終わる。


全員疲れ切っているようだが、それぞれ昨日より遥かにマシになっていた。

限界を超えて与えられた負荷を、ハイレベルの回復薬が修復・強化を行うことによって、普通の訓練ではあり得ない速度で身体能力が強化されていく。


タカヤとユキは、以前経験済みの為そこまでの疲労感は無い。しかし、昨日は大の字で倒れていたミリーとラインハルトは息切れを起こしてはいるが、会話するくらいの体力が残っている。

アズミ・アリアは地面に体を預けてはいるが、昨日より遥かに耐えられるようになっている。

キサラギに関しては、自分の足で完走したのであった。


(この訓練を1か月か・・・・普通なら耐えられないだろうけど、目に見えて効果が実感できればやる気にも繋がるよね。まさか回復薬にこんな副次効果が有ったなんて・・・盲点だったな)

レオナは地面に座り込み、息を整えながら回復薬の効果を考える。本来昨日の今日で体力が付くなんてことは無い。

日々の反復により、徐々に体がその負荷に耐えられるようになっていくのである。

しかし、高負荷を掛ける訓練と、回復薬の服用コンボは目覚ましい効果を発揮している様だ。

ランク43のレオナでも、訓練に100万コールの回復薬を使用しようとは考えない。

仕事で使ったことは何回かあるが、それだけではこの効果には気づけなかったのだ。

(ギルドに報告した方がいいかな?・・・・でもな~・・・)

レオナですら午前の訓練で疲労困憊になる訓練を、ギルドの候補生に行っても付いて来られるとは考えられなかった。

原因は、何が何でも強くならなければと言う、意志の希薄さにある。

その点、第三区画の住人たちは、生きていくために力が必要となる為、この訓練にも付いていける者が多い様だ。

レオナは地面に倒れ、息も絶え絶えになっているキサラギに視線を向け、ワーカーでもない素人がこの訓練について来られている事に驚く。

「でも、レオナさんは流石ですね」

考え事をしていると、ユキが話しかけて来た。

「ん?どういう事かな?」

「いえ、今日から参加なのにまだまだ余裕ありそうだなって思って」

「ん~・・・そんなこと無いよ?足なんてガクガクだしね」

レオナは自分の足をマッサージしながら答える。

「そうなんですか?最後は追いつかれるかと思いましたけど」

そういうのは、4番手でゴールしたミリーだった。どうやってもラインハルトに追いつけずにいた所を、後ろから追いかけてくるレオナには抜かれまいと渾身の力で走り抜けたのだった。

「あはは、抜こうと思ったんだけど、もう足がいう事聞いてくれなくて」

レオナは軽快に笑って答える。


「おーーい、早く昼飯食おうぜ。時間無くなっちまうぞ~~」

車の所からタカヤが大声で呼んで来る。

「・・・はは、彼は元気だね」

「ええ、それが取り柄でもありますからね」

レオナの言葉にユキは答え、皆を促しタカヤの元まで食事を取りに行く。



「お、今日はラインハルトも弁当なのか?」

「ああ、やっぱりレーションより、普通の食事の方が力が出る様な気がしてね。それに、この弁当はダゴラ・インで作られた物だって聞いたからさ。食べないともったいない」

「そうだな。あそこの飯は旨い!午後からの扱きに耐えられるようにシッカリ食っとかねーとな!」

元気印のタカヤと何気に体力お化けのラインハルトは、ミール謹製ステーキ弁当を掻っこみながら話をしている。

「あの訓練の後に良くお肉食べられるよね・・・私は無理だな・・・」

「そう言いながら煮魚弁当のあんたも十分可笑しいからね?」

煮魚を突きながらボヤくユキにアリアが突っ込みを入れる。その3人以外は全員レーションを食べており、先ほど飲んだ回復薬の効果が手伝って消化を促進させる。

「ふ~・・・午後からの訓練は戦闘訓練って聞いてるんだけど、どんな内容なの?」

初参加のレオナがそう聞き、アズミが説明を行う。

「錘の入ったバックパックを背負って岩場の中を逃げ回るんですよ。シド君から。全員が動けなくなった時点で休憩して、回復薬で回復。それを日が沈むまで繰り返す感じですね」

「反撃してもいいんでしょ?シド君を倒しちゃった場合はどうなるの?」

そうレオナが聞き返し、全員は答えられずに黙る。

「・・・・・・・・どうなるんだ?」

「さあ?と言うより、その心配いるのか?」

「非殺傷弾で気絶するシドさんが想像できないね」

「そもそも当てられないんだもの。考えるだけ無駄ね」

レオナの問いは誰にも分からないというより、起こりえないと考えている様だった。

「・・・・そんなに強いんだ・・・気合入れないとダメだね」

「そうですね。全力でいかないと訓練になりませんし」



昼休憩が終わり、シドが午後からの説明を行う。

内容は昨日と一緒だが今日はシドが動き出してから30分までの時間制限を設け、各々が好きに行動していいとシドから告げられる。


10分間、時間が与えられ、ユキとレオナが中心となって作戦を立て、訓練開始と同時に、全員が岩場に駆け込んでいく。


ユキが先頭を切って走っていく。

シドが動き出すまでの5分で迎撃に適した場所に移動しなければならない。

その場所は昨日の訓練で見つけていた。

「どこに行くの?」

レオナがそうユキに聞いて来る。レオナも情報端末でのやり取りに参加しており、無音で話ができるようになっていた。

「こっちの方に防衛に適した場所があるんです。レオナさんはシドさんの反応を教えてください」

「わかったよ」

レオナはユキの判断能力の高さを評価しつつ、自分の情報端末が捉えるシドの反応を見落とさないようにする。

未だスタート地点から動く気配はない。

本当に5分遅れで行動するようだ。


しばらくユキの後ろについて走っていくと、シドの反応が移動を開始する。

その反応は、1km以上離れているはずの自分達の方向に正確に向かってきていた。そして、その速さも異常である。

「シド君が動いたよ!凄い速さで向かってきてる!」

レオナはユキにシドの動きを報告する。

「わかりました。予定通りです。このまま進みます」

ユキはそういい、岩場の奥へと進んでいく。


そろそろシドに追いつかれるというところで、開けた場所にでる。

そこは2mほどの岩が点在していて、身を隠すにはちょうど良い間隔にあり、こちらの行動を妨げずお互いにフォローし合うには絶好のポイントだった。


「ユキ、良くこんな場所知ってたな」

「昨日見つけたんだ。ここならだいぶ楽に戦えるはずだよ。じゃー皆、打合せ通りに」


今日の逃亡役はアリア・キサラギ・ラインハルト・アズミである。

全員がそれぞれの方向へ走り出し、迎撃組のユキ・タカヤ・ミリー・レオナは、この場でシドを迎え撃つ。

「真っすぐ来てるよ。配置につこう」

レオナがそういい、3人は岩陰に隠れる。一番耐久力の高いタカヤは囮役として、その場に残った。

タカヤはすでに回復薬を服用しており、非殺傷弾が装填されたアサルトライフルくらいなら十分に耐えられる状態になっている。

「来るよ!」

レオナがそう言うと、シドが岩場の上を空中を蹴りながら姿を現した。

タカヤはシドに銃口を向け、被弾覚悟で撃とうとするが、シドの持っている銃がアサルトライフルでは無くKARASAWA A60であることに気づく。

「!」

タカヤは横に飛びながらシドに攻撃を行うが、シドもタカヤに向かって攻撃してくる。

シドの銃口の向きから、射線を予測し、必死に体を捻りながら弾丸を回避した。

(あっぶね!!)

シドが放った弾丸は、タカヤの腹部を掠め、地面に撃ち込まれる。

回避の為に不安定な体勢にならざるを得なかったタカヤは、地面に落ちる前に受け身を取り、直ぐに岩陰に逃げ込もうとするが、それを許してくれるシドではない。


シド視点


シドはタカヤを狙い撃ちにしようとするが、他の3人の銃撃に邪魔されヒットさせることが出来なかった。

<ありゃ、避けられた>

<タカヤの判断速度もかなり上昇している様です>

<他のメンバーもキッチリ狙ってくるな。こりゃやりにくいぞ>

<良い訓練になります。集中してください>

<おうとも>

シドは受け身を取り、岩陰に入ろうとするタカヤの背中に、今度こそ命中させ吹き飛ばす。

(次はミリーさんを狙うか)

次のターゲットを決め、確実に仕留める為にシドは疾走する。


レオナ視点


(いやいや尋常じゃないよこれ?!)

レオナはそこら中を跳ね回るシドに向けて銃撃を行っているが、当たる気配がない。

(不規則な動きで狙いにくいだけじゃない!これ・・・弾丸を視認してから避けてる?!)

レオナの観察眼が、4方からこれだけ撃たれているのに一発も被弾しないシドの異常性に気づく。

シドの銃撃で吹き飛ばされたタカヤも、その強靭な体力で直ぐに回復し、攻撃に参加していた。

今シドが狙っているのはミリーの様だ。

彼を射線が通るところに移動させたら攻撃が通ってしまう。情報収集機から送られてくる情報を元に、シドの行動を妨害出来るように弾丸を置いていくが、シドを倒せるイメージが湧かない。

(こんなのどうしたら!?)

いままでのワーカー人生で、これほどまでに絶望的な戦闘があっただろうか?そう思いながら必死にシドの姿を追い続けた。


ユキ視点


(よし!いい感じ!電光石火さえ使われなかったらここで足止め出来る!)

ユキは自分が考え、レオナが補佐に回ってくれているこの作戦が、今もっともシドを長時間一所にとどめて置ける作戦だと自負していた。

いきなりA60を使用されるとは思わなかったが、タカヤは気絶することなく、直ぐに戦線に復帰。4人の猛攻撃でシドの攻撃を封じることが出来ている。

今シドの標的になっているミリーさんは、その身体能力を生かして巧みに逃げ回っている。

それをフォローしているレオナさんはミリーさんが逃げる方向や、逃げ込みやすい岩陰を瞬時に割り出し、そこにミリーさんを情報収集機から誘導しながらシドの行動を抑制していた。

彼女がいなければとっくにこの場は瓦解していただろう。

(凄いな・・・これがランク43のシーカーの戦い方・・・)

ユキは自分が目指すべき姿を見つけたような気がした。


ミリー視点


ミリーはシドから激しい攻撃を受け必死に逃げ回っていた。

レオナから送られてくるシドの位置情報に向けて攻撃はしているが、一向に当たる気配がない。

レオナ・タカヤ・ユキも攻撃を加えているが、弾幕の隙間に体を滑り込ませこちらに向かってくる。

1戦目の時の様な、超高速移動術を使われれば、この場は瞬く間に制圧されているだろう。

それが行われていないという事は、シドはこれでも手加減しているという事になる。

(やっぱり当たる気がしない!どうすればいいのよ!!)

やけっぱちになりそうな感情を、必死に理性で押さえつける。

(私がやられたらこの場が崩壊する!絶対にやられないから!!)

慌てて行動すると動きに粗が出る。

シドは、その様な行動は絶対に見逃したりしない。1つでも判断を誤れば即、正確無比な弾丸が自分を直撃するだろう。

レオナが指示する岩陰に転がり込み、シドの追撃をかわし続け、逃げた4人がもっと遠くに行けるだけの時間を稼ごうと足に力を込めた。



この場での戦闘が開始して7分少々。逃げたメンバーはかなり遠くに移動しており、今から全員を追いかけても制限時間内に全員撃破するのは難しいと思われた。


この場の4人の中に、勝利の文字が頭に浮かびその緩みが油断となって現れる。


最初に油断が表面化したのはレオナだった。

シドはミリーのみを攻撃の対象としており、今の所タカヤとミリー以外に1発も他のメンバーに対して撃ち込んでいない。

それに加え、時間切れの事が頭をよぎり、レオナはシドへ攻撃しようと深追いしすぎる。

「レオナさん!」

ユキがその事に気づき警告を発するが時すでに遅く、シドの右わき腹辺りから、左手に持たれていたA60の銃口がレオナに向けて弾丸を発射する。

その銃弾を腹部に受けたレオナは、衝撃により後方へ吹き飛ばされ、岩に叩きつけられる。


A60の威力と、岩に叩きつけられたことによってレオナの意識は飛んでしまい。地面に崩れ落ちる。

この場を保っていたキーマンの離脱。

タカヤとユキは、今の戦い方では長くは持たせられないと判断し、タカヤはミリーと一緒にシドに突撃。ユキは逃走を選択し、それぞれ行動を開始する。


タカヤは両手に銃を持ち、シドに向けて撃ちながら駆け寄っていく。ミリーもタカヤに呼応しシドに向かって特攻を行った。

シドは瞬時に状況を把握し、自分も2人に合わせて攻撃を行う。

2人から放たれる銃弾を避け、ミリーに2発の弾丸を撃ち込む。昨日の訓練から、ミリーの耐久力なら2発であると大体の予測を立てていたのだ。

しかし、並外れた耐久力を誇るタカヤは、何時ぞやのライトの様に空中コンボを決められ、流石のタカヤも意識を手放した。


その後、ユキ・ラインハルト・アズミ・アリアの順番で打ち取られはしたが、キサラギは制限時間を逃げ切ることに成功するのだった。


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