レオナ参戦
訓練2日目、訓練参加者は宿が用意した携帯食を手に車に乗っていく。
前日、訓練開始直後に朝食を全て吐き出した者が続出したため、朝食は軽めで消化スピードが速い物が準備されていた。
大量に食べても大丈夫と判断したものは食堂で朝食を思い思いに食事を取り、訓練場に送ってくれる車に乗り込んでいく。
シドとライトが車までやってくると、今日もキクチが来ており、その横には一人の女性が立っていた。
「おう、シド。今日から彼女がシーカーとして参加することになった」
「やあ、久しぶりだね。キョウグチの時は助かったよ」
笑顔でシド達に応対してきたのは、天覇ギルド所属の高ランクシーカー レオナだった。
2人はまさかランク40台の彼女が参加するとは思っておらず面食らうが、挨拶は返さねばと思い気を取り直す。
「おはようございます」
「おはようございます。レオナさんが参加されるんですか?」
「うん、そうだよ。なかなかハードな訓練らしいからね。楽しみにしてるよ」
「なるほど、よろしくお願いします。今現役ワーカーのメンバーは俺が担当してるんで、そっちの方に参加してもらうことになります。それと、訓練中はタメ口で話させてもらいますけど、大丈夫ですか?」
「うん、わかった。よろしくおねがいね。シーカーってどうしても戦闘面で役立たず扱いを受けることがあるから、それを解消出来たら私もうれしいし」
そういい、レオナは車の中に乗り込んでいく。
「・・・・キクチさん、いくらなんでもランクが高すぎませんか?」
「仕方ないだろ?直ぐに参加できそうなシーカーって言ったらアイツしか居なかったんだよ。今はヤシロがギルドの都合でこの都市に居ないからな、暇してるだろうと思って声掛けたら一発OK貰ったんだ」
「彼氏の居ぬ間にデートに誘う間男みたいな事言ってんじゃねーよ・・・・」
キクチの言い様に、高ランクシーカーを押し付けられたシドは嫌がらせの言葉を贈る。
「ちょ!おま!シド!いっていい事と悪いことがあるだろうが!!」
キクチの様子を見てライトはジト目で突っ込む。
「キクチさん、何焦ってるんですか?・・・・まさか・・・・」
シドの口撃にライトも乗っかる。
「違う!断じて違う!!!」
そんなつもりは無いと必死に弁明するキクチだったが
「なに?私がそんなに不満なの??キクチ」
車に乗り込んだはずのレオナが戻ってきており、ニヤニヤしながらキクチを眺めていた。
振り返り、レオナの表情を見たキクチはパクパクと口を動かし、なんとか反論しようと試みるが、時間切れになる。
「おし、ライト行くぞ~」
「うん、今日もがんばろ~」
シドとライトの2人は、そろって車に乗り込み、座席に向かって移動していく。レオナもそれに続き、車の中に消えていった。
それを見送ったキクチは我に返り、急いで車に乗り込んでいく。
「いや待てって!俺の話を聞け!!!!」
キクチが最後だったようで、車の扉が閉まると、何事も無かったかのように荒野へ向けて車は走り出した。
荒野へ到着し、全員が車を降りる。
これから訓練の準備が終わるまでは、全員が体を解したりして準備を行っていくことになるのだが、シドは緊急参加になったレオナをワーカー組に紹介する為、一旦集合させた。
「今日から参加してもらうレオナさんだ。高ランクのシーカーだからみんなそのつもりでな。ユキは色々教えてもらえな」
「天覇所属のシーカーで、レオナと言います。今日からよろしくね」
「「「「よろしくお願いします」」」」
天覇と同じ3大ギルドに所属しているラインハルトとアリアは、天覇所属の高ランクシーカーと聞いて少し緊張気味に挨拶を返し、アズミとミリーは信じられないといった顔で挨拶を返す。
「「よろしくお願いします」」
カズマの件で天覇にあまりいい感情を持っていないタカヤとユキは、少々壁を感じる挨拶を返した。
それに気づいたシドは、2人に変なわだかまりを持たれても困ると誤解を解こうと声をかける。
「2人共、大丈夫だ。この人はあの・・・・・・・・なんていったっけ?・・・・ええ~・・・養成所のヤツとは違うから。ライトも一緒に遺跡で仕事した事もあるんだ」
シドはカズマの事をあまり覚えていなかったが、レオナはアイツとは違うと説明する。シドの言葉でこの2人がライトと一緒に養成所でチームを組んでいた訓練生だという事に気づいたレオナは、自分の口で緊張を解きにかかる。
「君たちがタカヤとユキだね。元ウチのメンバーが迷惑をかけた話は知ってるよ。本当にごめんね・・・・天覇はあんな感じのギルドじゃないから安心してほしい」
レオナにそう言われ、タカヤとユキは緊張を解く。
「あ、はい。すいません」
「いえ、こちらこそすいませんでした」
タカヤとユキも妙な空気感を出したことに謝罪し頭を下げる。
「今日からシド先生に教えてもらう仲間として頑張るから、皆さんよろしくお願いします」
レオナはそういい、皆に軽く頭を下げ、シドにウィンクを飛ばしてくる。
レオナに先生と呼ばれるのは勘弁願いたかったが、今のシドはこの組の教官をしている。全員をワンランク上に押し上げる為の訓練を実施しなければならない。
「じゃあ、俺は準備してくるから、皆は体を解しておいてくれ」
シドはそういい、車の方へ歩いて行った。
そういい、車の方へ歩いていくシドを見送り、レオナはワーカー組のメンバーに振り返る。
「改めてよろしく。私は天覇所属のシーカーでランクは43になったばかりだよ」
レオナは自己紹介を行い、他のメンバーも自己紹介を行っていく。
「レイブンワークスからも参加してたのか・・・・キクチの野郎・・・こんな面白いことを黙ってたなんて・・」
レオナはラインハルトとアリアがレイブンワークスから派遣されている事を知り、少し腹を立てる。
キクチが天覇に声を掛けなかった理由は理解できる。カズマの件でいざこざがあり、天覇の教育・事務派は、ライト・タカヤ・ユキを冷遇するように圧力をかけていたことは知っていた。
この中に天覇から派遣された人間を放り込むのはリスクが大きすぎると判断したのだろう。
だが、理解できても納得できるかは別問題だ。最初から自分に声をかけていればいいモノをとレオナは思った。
(でもま、結局は私に声をかけて来たんだから許してやるか)
ヤシロがどう動くかは保証しないが・・・と心の中で付け加える。
「それで、訓練内容はどんな感じなのか聞いていい?」
レオナの質問に、ユキが代表して答える。
「ええっと、午前中は30kgのバックパックを背負ってこの岩場を真っすぐに走り抜けます」
「ん?真っすぐ?」
レオナは岩場の方を向いて疑問の声を上げた。
ユキは、皆同じ反応するな~と思いながら説明を続けていく。
「はい、コースにある岩とか瓦礫は乗り越えて進んでいきます。少しでも避けようとすると、後ろから追いかけてくるシドさんに撃たれるんで注意してください」
「・・・・それはまた・・・」
レオナはかなり厳しい内容だと眉を顰める。
「水と回復薬が支給されますんで、ゴールしたらそれを飲んで5分休憩。休憩が終わったらまた走って来たコースを戻っていく。これを午前中ずっと繰り返します」
「・・・・・・え?何回も走るの?」
「はい、昨日は2往復させられました」
「・・・・・・」
レオナは全員の顔を見回し、ユキの言葉が本当か確認する。
全員がその通りだと頷き、ユキの言葉に嘘や誇張が無い事を証明した。
(これはぶっ倒れるわね・・・・)
レオナはこの訓練の異常性を半分認識した。
「午前の訓練が終わったら昼休憩が有って、午後からはシドさん相手に戦闘訓練ですね。錘が入ったバックパックを背負って岩場の中をシドさんから逃げ回ります」
「・・・反撃はOKなの?」
「はい、ですが、昨日は一発も当てられていません」
「・・・・全員が?」
「はい、7人全員で戦ってもダメでした。寧ろ全滅させられる時間が短くなっただけです」
再度全員の顔を見て確認を取るが、これも嘘では無い様だ。
(私、だいぶヤバイ訓練に飛び込んじゃった???)
レオナは内心冷や汗をかく。シドとライトの実力は、合同で仕事をした時にだいたい把握したと思っていたのだが、まだ甘かったらしい。
(そりゃそうか・・・そうでなかったら戦闘用オートマタなんか倒せないよね・・・)
レオナは訓練の難易度の高さを思っていたより数段上に上げて考える。
すると、準備を終らせたシドがこちら戻って来て声をかけてくる。
「よし、今日も内容は昨日と一緒だ。午前中はランニング。午後からは俺と追いかけっこだ」
シドはそう言いながら、地面に8個のバックパックを降ろす。
(相変わらずの怪力・・・私ゴール出来るかな?)
内心の弱気は一切顔に出さずレオナはバックパックを手に取る。
訓練中はいつも着用しているパワードスーツの使用は禁じられ、支給された防護服を着ている為、30kgのバックパックが非常に重く感じられた。
(・・・・・これは、私も鈍ってるってことかな?)
レオナは、これは自身を鍛えなおすのにいい機会だと考え、真剣に取り組むことにした。
午前の訓練が開始され、まずは様子を見ようと思い、ワーカーではないキサラギの前を走り、全員を後ろから観察する。
(タカヤとユキは凄くなれてるね、あんなに簡単に乗り越えられるものかな?・・・ラインハルトはたぶんユキの動きを参考にしながら自分の動き方を修正してる。ミリーとアリアは完全に力技で走ってるね。アズミは自分なりにペースを考えて進んでいくって感じか・・・)
ランク20未満のワーカーと聞いていたから、あまり期待していなかったが後ろから観察すると、全員の身体能力は非常に高い。
天覇のランク20台でもこの動きが出来るワーカーは1人も居ないだろうと断言出来た。
崩れやすく、砂ぼこりで滑りやすい瓦礫の山。手や足を掛ける所を間違えれば滑って落下するのは目に見えている瓦礫や岩を、各々が自分のやり方で乗り越えていく。
ユキは大体5kmの距離だと言っていた。恐らくまだ半分も来ていないというのに手の力が弱くなって来ているのが実感できた。
(コースから外れようとしたら撃たれるって言ってたよね)
レオナは、普通なら無意識に躱してしまいそうな瓦礫の山裾を通ろうとしてみる。
すると、避けようとした方向のすぐ足元に非殺傷弾が撃ち込まれ、コースに押し戻される。
(シド君・・・・・どうして君は空中にいるのかな???)
自分の情報収集機でシドを探すと、瓦礫の山より、さらに高度の高い場所にシドを発見する。岩や瓦礫を乗り越えながら観察してみたが、降りてくる様子がない。
恐らく東方や北方の前線で活躍するワーカーが使用していると聞く、エネルギーシールドの反発を利用した空中歩行と同じような技術なのだろう。
この時点でレオナはシドの実力がどのレベルにあるのかを把握した。
(私たちより遥か上か・・・・・)
初めて会った時からその異常性はハッキリと現れていたが、この短時間でこの成長は異常という言葉では説明が付かない。
やはり、シドには何かがある。
そう考えながら、擦り切れていくスタミナと瓦礫の山と戦いながらゴールを目指していくレオナであった。
ブックマークと評価を頂ければ幸いです




