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スラムバレット  作者: 穴掘りモグラ
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宿でのひと時

車が宿の前に到着し、移動中に目を覚まし、動ける様になった者たちは自分の足で宿の中に入り、食事の用意ができるまでの間は割り当てられた自室で過ごすことになる。

今だ動けない者に関しては、宿の従業員の協力を受け、部屋まで運び込まれる事になった。


その様子をシド・ライト・キクチの3人は見送っていく。


「・・・・・本当に送迎は最初の1週間だけでいいのか?」

キクチは意識が無いまま運ばれていく者達を見て心配そうに聞いてくる。

「大丈夫だろ。タカヤとユキも次の日は自力で帰って来たぞ?」

「そうだね。みんな養成所で運動してた人たちだし、ドーマファミリーの人たちはキツイと思うけど1週間あったら慣れてくると思いますよ」

キクチは本当にそうだろうか?と不安になる。

今日の離脱者は、ワーカー養成所の者が7名、帰還してからスラム組からの志願者が2名申し出てきた。

初日でいきなり9名が脱落。

ワーカー組も歩く際には足が震えており、辛うじて体重を支えているといった感じだった。

「今日、たっぷり飯食ってここの風呂に入って寝れば、回復薬の効果で明日はもう少しましになるだろ」

「うんうん、ここのご飯とお風呂は最高だからね」

シドの言葉にうんうんと頷くライト。

「風呂な~・・・」

キクチはダゴラ・インの風呂は回復成分が混ぜ込まれた湯に浸かれるという事で人気があるという事は知っていた。

「そんなに効果があるのか?」

「全然違うぞ。今俺たちの拠点も改装中だ」

シド達は、今回の訓練期間中に拠点の風呂の改装依頼を業者にかけていた。現在、工事中である。

「もし、訓練施設を造る際には、設置した方が良いと思うか?」

キクチは、新しく建設されるであろう施設に、回復成分入りの風呂を作るかどうかを聞いてみる。

「あった方がいいだろうな。疲れの残り方が全然違うだろうし」

「必須か?と聞かれるとそうじゃないけど、あった方がいいかな?とは思います」

2人からは好意的な意見が帰ってきて、キクチは検討用の欄に風呂の事を追記する。

「で、お前たちの目から見て、訓練生達の評価はどんなもんだ?」

「ワーカー組は流石だなと思ったよ。でも、あまりガッツリと戦ったことが無いんだろうな。いきなり狙われたりしたら動きが悪くなる傾向がある」

「初心者組は、まだまだこれからって感じですかね?体力もぜんぜん足りてないし。射撃能力も判断能力も低い。それに、シーカー志望が居ないことが大きいかな・・・・ちょっと隠れて攻撃したら何もできずにバタバタやられていくから」

キクチは今回、シーカー志望の者に声はかけなかった。

訓練内容から、戦闘能力上昇がメインと思えたため、ハンター志望の者だけを集めたのだ。

「シーカーにもこの訓練は必要か?」

「いるだろ。遺跡に入るなら絶対必要だろ?」

シドは一切の間を置かずに即答する。

「キクチさん。ボクもユキもシーカーですよ?」

シドとライトに指摘され、キクチは少し考え人員の手配をする事に決めた。

「シド、とりあえずもう一人参加できないか打診してみる。構わないか?」

「ん?問題ないぞ」

シドからOKの答えをもらい、キクチは知り合いのシーカーに協力を仰ぐ為に車の中に入っていく。


シド達もここにいる必要が無くなり、自分たちも夕食の準備が出来るまで部屋でのんびりしようと宿の中に入っていった。



キクチ視点


シドとライトに、シーカーの参加も必要だと言われ、現役のシーカーで、数日時間が空いてるであろう人物に通信を繋げる。

『はいはい、キクチ。何か用?』

「ああ、すまんな。お前、明日から1週間くらい暇か?」

『ん?まあ相棒もギルドの用事で出払ってるし、暇って言えば暇ね』

「そうか。今な、ワーカーオフィスで新しい訓練所を開設する計画があるんだが、そのテスト訓練を行ってる最中なんだ。でも俺の勘違いでハンター志望の者しか集めて無くてな。シーカーにも有用な訓練かどうか見てもらいたい」

『それは、私も訓練に参加しろって事?』

「そうなるな、現役ワーカーも参加してる訓練でな。教官はシドとライトなんだが、どうだ?」

『・・・・・・・興味あるね。何を準備すればいい?』

「参加してくれるって事だな?遺跡に潜る時の装備を一式持ってきてくれ。防護服は指定のランクの物があるからそれを着用してもらう事になるがな。訓練中は防壁外にあるダゴラ・インって宿に滞在してもらう事になってる」

『分かった。一週間でいいの?』

「まあ、お前の都合が付けば最後まで付き合ってくれても問題ない。出来れば訓練の有用性をコメントして貰えたらありがたいな」

『わかった。出来る限り付き合うよ』

「ああ、助かる。明日の7時30分にダゴラ・インまで来てくれ。車で一緒に荒野へ移動するから」

『わかった。じゃー明日ね』

「ああ待て待て!最後に一つ。今参加してるワーカー達だが、もうすぐランク20に到達する連中だ。それが訓練終了時に全員ぶっ倒れて動けなくなるレベルの訓練だと思ってくれ」

『・・・・・・・・ほほ~ぅ。分かった、楽しみにしてる』


相手はそういい、通信を切った。

都合よく空いてくれてて助かった。キクチはそう思い、今日の訓練内容をまとめる作業に入る。2週間後には会議で報告しなければならない。


「ふ~ん、シド君とライト君の訓練か・・・・ヤシロに教えてやろっと♪」




夕食時、訓練参加者全員が食堂に集まり、それぞれのグループに分かれて食事を取る。

シドはライトと共に席に付き、皆それぞれワーカー組・ワーカー志望組・ドーマファミリーで集まり各々食事を取っていた。

シドの指示により、限界まで腹に詰め込めと言われているため、皆のテーブルには大量の料理が供されていた。


「意外に結構残ったな。俺の予想だとワーカー組以外ほとんど逃げ出すと思ったんだけどな」

「僕はちょっと手加減したからね。シドさんみたいにやったら、本当に全員いなくなっちゃうと思ったからさ」

<その様ですね。それでも半分以上残留したのは予想外でした>

シド達は目の前に並べられた、久しぶりのミールの料理を次々に平らげながら、明日の話をする。

「とりあえずは今日と一緒でいいよな?もう少し慣らしてからレベルを上げていく感じでいいと思うか?」

<それでいいでしょう。期間は1カ月です。焦る必要はありません>

「そうだね。ボクの方もユックリやっていくよ」

キクチが聞けばあれでユックリなのか!と驚きそうな内容だが、2人にしてはまだ手加減している方であった。初めのころはシドの事を変だのバケモノだのと言っていたライトもだいぶんシドの考え方に馴染んでしまっているらしい。


そしてそれぞれのテーブルでは・・・・・・・



ワーカー志望組


ここにいる者たちは、ワーカー養成所であまり成績の良くない者たちであったが、ワーカーオフィスが新しい訓練施設を建設するにあたって、訓練のデモを行うと告知があり、それに参加する為に応募したメンバー達であった。

なぜ応募したのかというと、訓練内容は厳しいものになるが、この訓練を受けた者が短期間でランク20に手を掛ける程にまで成長した実績があり、今後、ワーカーオフィス主導の訓練施設に取り入れていくためのデモであるとの触れ込みをみたからだった。

養成所ではおざなりな対応をされ、これで本当にワーカーとして活動していけるのか?と考えていた矢先の話だった為、絶好の機会と飛びついたのだった。

しかし、蓋を開けると、訓練とは名ばかりの拷問では無いか?と思ってしまう内容に心が折れかかっているのである。

実際に最初の参加者から約半数が逃げ出していた。


「めちゃくちゃキツかったな・・・・これが1カ月も続くのか?」

「教官は徐々にレベルを上げていくって言ってたぞ?」

「・・・・・遺跡に行く前に死んじゃうんじゃない?」

「遺跡から生きて帰ってくる為の訓練だって言ってたけど、ここまで必要なのか?」

「わからない・・・でも、現役のワーカー組はもっとキツイ訓練受けてるんだろ?」

「それにしてもキツ過ぎるだろ・・・俺達の組、半分になってちまってるぞ?」

「・・・・残ってるのが第三区画の住人より少ないってのは、なんかクルな・・・」

「ああ、そうだな・・・・だが!俺達だけでも絶対生き残ってやろうぜ!」

「そうだな!明日からも気合入れていくぞ!!」

「「「「「「おう!」」」」」」


ドーマファミリー組


ドーマファミリーの面々は、皆そろって同じテーブルで食事を取っていた。

体に蓄えていた全エネルギーを消費したのでは?と思う程消耗していたが、それを取り返すように全員が料理を胃袋に落とし込んでいく。

「おいテメーら、ちゃんと噛んでるのか?明日からも訓練あるんだからちゃんと消化できるように食えよな」

「キサラギさんこそ、その飯何杯目ですか?」

「そんなの数えてるわけねーだろ。タダだってんだから食わねーと損だろうが」

「いや、マジ美味いっす。俺こんなの食ったの初めてっすよ」

幾ら組織に所属しているとはいえ、第三区画の住人である彼らには、これらの料理はごちそう以外の何物でもなかった。

幹部のキサラギですらひたすらに料理を掻き込んでいる。

「これから毎日これが食えるんすよね?俺、この訓練参加してほんとに良かったっすよ」

「そうだな、ギブアップした連中も可哀そうに。帰ったら思いっきり自慢してやる」

このメンバーからは2名ほど脱落者を出している。

あの訓練内容なのだ、キサラギは逃げた連中を責めるつもりは無い。

コイツ等が居なければ、自分も間違いなく逃げ出しているからだ。ボスには労ってやってくれと後で連絡しておこうと思う。

「そうだな。この訓練を耐え抜いて、遺跡でガッツリ稼いでやろうぜ。そうすりゃ、訓練以降もこんな飯が食えるようになるってこったろ?」

「そうだそうだ!絶対やりきってやる!!!」

キサラギは意外にも部下の士気が高いことに驚きながらも、明日の訓練に耐える為、胃袋が悲鳴を上げるまで飯を腹に詰め込んでいった。


ワーカー組


このテーブルは現役ワーカー達が揃っていることもあり、他の組よりも多めに料理が並べられている。

それぞれが料理を口に運び、明日を生き抜く為にエネルギーをため込もうとしていた。

「モグモグ・・・・ゴックン・・・・うーん、凄く美味しいよねここの料理。第二区画のご飯より好きかも」

そういいながら、嬉しそうに次の料理にフォークを突き立てるミリー。

ミリーの言葉にうんうん頷きながらモリモリ料理を消費していくタカヤは、以前ここで初遺跡探索前祝の様な形で食事を取りに来た時の事を思い出していた。

「美味いよな~。それで値段は防壁内より安いんだから、拠点の近くにあったら毎日でも通いたくなるな」

「ん?タカヤ。それはご飯を作っている私への挑戦状かな?」

ユキはジト目でタカヤを睨む。

「あ、いや、そんなつもりは無いです・・・・」

ユキに睨まれ、しぼむタカヤだったが、食べるのを止めることはしない。

「しかし、今日の訓練は本当に辛かった・・・・俺、実は結構自信があったんだけど、タカヤが言っていたように今まで積み上げた物がどれだけ低い視点の物だったのかを実感したよ」

ラインハルトはそう言いながらトンカツを口に放り込む。

「そうね、私も何で今更訓練なんかって思ってたけど・・・・私の見ていた景色がどれだけ狭いか実感したわ・・・」

アリアは悔しそうな表情を浮かべ豚の生姜焼きに齧り付く。

「そうね・・・私もタカヤとユキにこの訓練を頼んだ時はこんな事になるとは思ってなかったわ・・・・でも、これを乗り越えられたらもう一つ・・・いいえ、二つ三つ上に行ける気がするわ!」

アズミは目に強い光を宿しながら、フォークで巻き取ったタラコスパゲッティを口に入れる。

「この訓練を乗り越える為にもしっかり食べてユックリ休みましょう。回復薬も忘れずに、ですね」

ユキはそういい、手に持った親子丼を掻き込んでいく。


此処にいる全員が、確実に今日より辛い明日を見据え、大量の食事をチャージしていく。


大丈夫

上を目指す意志が折れない限り、この訓練は乗り越えられる様に設定されているのだから。


更なる高みへ

その思いを失わない限り道は続いていくのだ。


その道がどれほど困難に溢れていようとも。


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― 新着の感想 ―
皆が超人目指してるのおもろいな
敗北 特訓 友情 勝利  これぞ少年ジャンプの法則 楽しいぞ
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