巨大ワームとの戦闘を終えて
2人はダゴラ都市の門を潜り、拠点まで帰って来た。
今日は遺物の収集に行ったわけではない為、ワーカーオフィスに寄る必要はない。
「あ~~、今日はひどい目にあったな・・・」
「本当に・・・奥部とはいっても中層に出てきていいモンスターじゃないよ?あれ」
<深層でなにか変化があるのかもしれません。本来は深層で活動しているワーカー達がほぼ全てキョウグチ地下街遺跡の警戒に当たっている為、変化に気づけていないのでしょう>
<そうなんだろうな~・・・迷惑な話だ、全く・・・・>
<それもこれも、シドがミナギ方面地下街を発見した事に起因しますけどね>
<てことは、全部シドさんのせいってことだね>
<・・・・・俺は悪くねーよ!>
なんやかんやと話しながら拠点まで帰って来ると、そこにはいい笑顔のキクチが立っていた。
「「・・・・・・」」
拠点の前でバイクを止めるシド。
「おかえり。今日は新装備のテストだったか?」
久しぶりに見るキクチの笑顔だが、底知れぬ迫力があった。
「あ・・・ああ・・・そうだな?」
「・・・うん、テストのつもりだった・・・です。はい」
なぜキクチは笑顔で怒っているのだろう?そんなことは分かり切っている。あの大型ワーム以外にはない。
だが、あれは不測の事態だったのだ。怒られる謂れはない!と2人は気合を入れる。
「・・・・・ほほ~。その割には大活躍だったみたいだが?」
気合を入れても笑顔で怒るキクチは怖かった。
「ええっと・・・とりあえず中に入らないか?立ち話もなんだし・・・」
シドはキクチを拠点に誘い、ライトも首をブンブンと縦に振る。
「おお、そうか。そうだな、中でゆっくり聞かせてもらおう」
3人で拠点の中に入る。
シドはバイクを駐車場に入れ、ライトはキクチと一緒に2階へ上がって行った。
「さて、ファーレン遺跡の中で何をやっていたのか教えてもらえるか?」
3人でテーブルに着くと、キクチがそう質問してくる。
「最初は中層でライトの防護服の性能テストと、エネルギーシールドを使った攻撃誘導の実験をやってたんだ」
シドがそう語りだし、キクチは黙って聞いている。
「ある程度性能テストも終わった頃に、大型のミミズみたいな奴が出てきて戦った・・・・・それだけだよな?」
シドは今日の事を言葉にすると、結構短い説明になるなと考えながら説明を終える。
「・・・・・ふむふむ、まずは・・・シールドでの攻撃誘導ってなんのことだ?」
キクチは聞きなれない単語の意味を問う。その質問には実際に行っているライトが答えた。
「ええっと、簡単に言うとシールドで壁を作って弾道を曲げて的に命中させる方法ですね」
「?シールドで弾くって事か?そんな事したら威力が下がるだろ?」
キクチはシールドの角度をつけて展開し、自分で撃った弾丸を弾いて弾道を曲げることを想像した様だ。
「最初はそうやって跳弾させてたんですけど、シールドを使って弾丸の縁を滑らせるようにすると、それほど威力を殺さずに的に当てられると考えまして・・・いろいろ試してたんです」
キクチはそんな方法でシールドを使うことなど聞いたことが無かった。
普通は自分の体に纏うように展開し、攻撃を弾き飛ばすことが本来の使い方だからだ。
弾道を曲げる様に展開するなど、瞬時に弾道を見極めて、その弾道と敵の位置を把握しそれぞれに合わせて的確なシールドを展開しなければならない。
どれほどの演算能力が必要になるかすら想像できなかった。
「・・・あとで見せてもらう事はできるか?」
「ゴム弾で良かったら下の車庫でできますよ」
ライトはそういい、この話が終わったら見せてもらおうとキクチは考える。
「ありがとう。でだ、大型モンスターはどんなヤツだったんだ?」
「常時討伐依頼でデータは送ってるだろ?」
シドはそうキクチに聞き返す。
「ああ、データでは確認した。本来なら中層に出没するはずのないモンスターだったからな。というか、深層での探索でも発見された事の無い大きさだった」
当然キクチはシド達の常時討伐依頼でのデータでこのことを知り此処に来たのだ。
中層での戦闘データならワーカーオフィスにはありふれているし、出現するモンスターもほぼ決まっている為、今までなら一々確認したりはしない。
しかし、スタンピード後、モンスターの出現分布が著しく変わっており、オートマタまで出現したのだ。それに、その発見報告には必ずシドが関係している。
キクチはまた何かやらかすのでは?とシド達の動向をチェックしていたのだった。
「摂食進化型は珍しい種類だが新種と言う訳でもない。だが、無差別となると話が変わるし、その大きさがケタ外れに大きかった。スカベンジャーチームに依頼して早急に回収に向かわせたが、チームが現場に到着し千切れた胴体の長さを計算すると37mあったそうだ。全身を高温で焙られていて黒焦げだったみたいだが、下半身の方はまだ再生能力が生きているらしくてな。徐々にだが復元しようとしているらしい。調査機関に届けられたら徹底的に調べられるだろう」
なんと、ワームの千切れた下半身はまだ生きていた様だった。思考能力を持つ上半身と分断されている為、自身から動き出したりしない様だが、ここまでの生命力を持つモンスターは南部で発見されたことは無かった。
「あのクラスのモンスターが発見され都市に報告が入っていたら、間違いなく懸賞首扱いになるレベルだ」
キクチはそういい、モンスターの脅威度をシド達に伝える。
「そうなのか?でもさ、ミナギ方面防衛拠点で巨大トカゲが襲ってきたけど、あれよりは弱いだろ?」
シドは依然受けたランク調整依頼の時に追ってきた巨大トカゲの事を思い出す。あれは天覇チームが撃退に成功しており、あのワームくらいなら討伐できるチームはこの都市にも何組も居そうなのにと考える。
「どうだろうな。俺の見立てじゃタイラントリザードと同格だと思うぞ?サイズは向こうの方がデカいが、表面装甲と再生能力、機動力は今回のワームの方が数段上だろう?」
キクチにそう言われるが、タイラントリザードと直接戦った事が無かった為に判断が付かない。
だが、あの機動力と再生能力には驚かされたことは間違いない。
「詳しいことはモンスターの調査が終わってからだがな・・・。厄介な話が多すぎるぞ・・・どうなってんだ?全く・・・」
キクチは溜息を付きながらぼやく。
「大変そうだな。頑張ってくれよ」
シドとしてはキクチの仕事を手伝えるわけでもない為軽く流す。
「他にも厄介な話があるんですか?」
ライトは少し気になった事を聞く。
「ん?ああ・・・なんでもブルーキャッスルと中央崇拝者が接触してるって話も出てきてるんだよ。・・・・あんまり表ざたにしたくない話だから誰にも言うなよ?」
キクチは少し声を潜めてそう情報を教えてくれた。
「ブルーキャッスル?っていったら第三出身ワーカーを毛嫌いしてるって言う?」
「ああそうだ。お前でも噂くらいは知ってるみたいだな。そのギルドがなぜか知らんが中央崇拝者とコンタクトを取っているとタレコミがあったんだよ」
ワーカーオフィスの内部情報になるが、シド達は2人共第三出身ワーカーである。まったく関係が無い訳でもないと考え情報を教えることにしたようだ。
「「・・・・・・」」
2人そろって難しそうな顔をするシドとライト。最近ガンスから聞いた話が頭の中で浮き上がってきたようだった。
「・・・・なんだ?心当たりでもあるってのか?」
2人の様子にキクチは怪訝な顔をみせる。
「ん~~・・・関係あるかどうかは分からないんだけどな・・・」
「ちょっと前に都市から追放されたワーカーオフィスの職員がいましたよね?」
「ん?イザワの事か?」
「そうです、あの人って中央の庶子だったらしくて・・・中央崇拝者と繋がりがあるって話を聞いたものですから」
「・・・・・おい待て。誰がなんだって???」
キクチは知らなかった様でライトに再度聞いてくる。
「イザワが中央のやんごとなき人の庶子だってガンスさんから聞いたんだよ。ダゴラ都市にいる時点で中央崇拝者と繋がってるだろうって。アイツ都市を追放処分になったんだろ?多分原因になった俺を恨んでる可能性があって、中央崇拝者に泣きついたら俺をつぶしに来るかもって言ってたんだよ」
「その話もあって、スラム嫌いのブルーキャッスルに中央崇拝者が接触してるって聞いたらシドさん案件かな?と思いまして・・・」
シドとライトがそう話を〆、キクチは頭を抱え込む。
「・・・・・・可能性はあるな・・・アイツが中央出身だったとは・・・・」
懐を探り、回復薬を取り出して飲み込む。
それを見たライトが、ポットで沸かしていた最近お気に入りのお茶をコップに入れキクチの方に動かす。
「・・・すまん」
キクチはコップを受け取り、中身を飲み干し、息を吐いた。
「ふ~~~・・・・・・シドお前どうなってんだ?昨日は喜多野マテリアルの重鎮に、今日は大型無差別摂食進化型モンスター。今度は中央崇拝者とスラム淘汰思考ギルドに狙われてるかもしれんと?」
「俺も聞きたいよ。俺は普通に生きてきただけなんだけどな?」
シドも解せぬといった表情でそういう。
「もし襲われたらどうするつもりだ?」
「ん?そりゃー反撃するぞ?死にたくないからな」
キクチはシドの返答を聞き徹底抗戦を行うだろうと考える。今までもシドは自分に襲い掛かって来た者を無事に済ませたことなどない。
コイツ等とブルーキャッスルの衝突は不可避であると考え、キクチはその対策を考えなければならなかった。
「は~~・・・中央崇拝者の場合は企業と敵対してる相手だから先制攻撃は可能だが、ブルーキャッスルに関してはお前達から手を出すなよ。挑発行為も出来る限り我慢しろ。何かあれば連絡してくれ、出来る限り対処する」
「ワーカーオフィスから勧告とか出来ないんですか?」
「やっても意味が無い。あいつらのスラム嫌い・・・と言うよりも防壁内選民思考は異常だ・・・」
「まあ気を付けとくよ。何も無かったらそれに越したことないし」
シドは楽観的なセリフを吐くが、確かに何もない事に越したことは無い。
「そうだな・・・・さて、んじゃライト。お前が考案した誘導攻撃ってのを見せてくれるか?」
「あ、はい。わかりました」
3人は1階の車庫へ移動し、ライトは普通のアサルトライフルに非殺傷弾を装填する。
ハンター5では、非殺傷弾でも壁を傷つけかねないからだ。
「では、あれを狙います」
ライトが見る先には5個の空き缶が縦に並べられており、このまま普通に撃つと全ての空き缶を吹き飛ばしてしまう様に並べられていた。
キクチは何も言わずにライトが撃つのを待つ。
ライトはシールドを発生させ、奥の方から順番に空き缶を撃ち抜いていく。
1発1発がシールド表面を滑る様に湾曲して飛んでいき、正確に全ての空き缶を撃ち抜いた。
「お見事」
シドはライトの射撃に拍手を送り、キクチは本来あり得ない事を目の前にして無言になる。
「こんな感じですね」
ライトは銃を収めキクチの方を見る。
(・・・・こんなことが出来るヤツがいったい何人いる?)
ライトが行った射撃は高度な計算を必要とするシールド発生技術が必要になるものだと言う事はキクチにも分かる。
しかし、ワーカーオフィスの職員として生きてきたキクチでは漠然とした難易度しかわからず、なんとなく普通に出来る事ではない位にしか認識できなかった。
(また今度レオナにでも聞いてみるか)
知り合いの高ランクシーカーならどの様な技術が必要となるか教えてくれるだろうと考え。これ以上頭を使うのを拒否する。
「今日の討伐報酬は後日計算して振り込まれるからな。それとライト、お茶ごちそうさん」
「いえ、どういたしまして」
キクチはオフィスに向かって帰って行き、シド達は拠点の中に入る。
今日はなかなかな強敵と戦ったため、食事を作る気になれず、弁当で空腹を満たし休息を取ることにした。
明日はどうするか?遺跡に行くのか訓練に当てるのか・・・・また明日考えればいいかと明日の自分達に放り投げ、今日の疲れを癒すことに全力を尽くそうとベットに潜り込むのであった。
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