表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スラムバレット  作者: 穴掘りモグラ
77/217

その頃のギルド 天覇

偶にはこういうのもどうかと思い書いてみました。

ギルド 天覇


ギルド幹部同士での会議の席、一人の女性がスクリーンの前に立ちプレゼンを行っていた。

「――――――この様に、若い才能を発掘しさまざまな分野で活躍させていけば、都市、延いては企業との連携を深めさらなるギルドの発展に寄与する事が証明されました。よって、現在は古参のワーカー達に多く振り分けられている予算をより多くの若者に回す必要があると私は提案します」

女性はそう言い終わると席に着き、他の者が意見の声を上げる。

「確かに若者の活躍は目を見張るものがある。だが、それは古参のワーカー達が上げてきた利益によって齎された装備の質が良いためでもあるだろう?もっとじっくり経験を積ませる必要があるのでは無いか?この前のキョウグチ地下街遺跡では、防衛チームに配属されていた新人が暴走したそうじゃないか。5人中2人がワーカーを引退。1人はギルドから抜けてしまった。この件はどう考えている?」

齢60に達しようかという男性であるが、その体は未だ現役といっても過言ではない程鍛えられており、その鋭い眼光で睨まれれば、普通なら委縮してしまうだろう迫力を持っていた。

しかし、その女性は怯むことなく反論を行った。

「確かに、一部が暴走したと言う件については把握しています。しかし、彼らの出した損失については十分に補填できる範囲でしかありません。ごく一部の評判を以て全体の評価を行うのは適切では無いのでは?」

すると今度は、別の幹部からの指摘が入る。彼は先程の人物とは違い、20台後半の見た目をしており切れ長の目は知的な雰囲気を見せている。

「一部という言い方をするなら、成功を収めている若手も一部と言えるだろう?なんせ、目立った功績を上げているのは4人だけなのだから」

女性は表情を変えることなく反論を行う。

「4人ではありません。この4人をトップとしたチームで活動しており、計44人の者たちが十分な活躍を上げています」

女性の反論を聞き、男性は資料に目を通しながら言葉を続ける。

「確かに若手と考えたら十分な功績だろう。経験不足や、周りからの評価が低く協力を取り付けることが出来なかった等の失点を考慮すればね。だが、稼ぎ頭達に冷や飯を食わせてまで優遇する程とは思えないが?」

「古参達の報酬は十分に支払われていると考えますが?それ以上に高性能な装備や弾薬。その他回復薬などのサポートは過剰では無いかと。その過剰な予算を若手に回すべきと考えます」

「彼らは命懸けで依頼を熟し、ギルドに貢献しているんだ。その対価が必要になるのは当然だろう?それに彼ら高ランクのメンバーが受ける案件は、高額な報酬が約束されると同時に、非常に危険度が高い。死地ともいえる場所に行く者のサポートの質を下げるなど出来る訳もない。それなのに、ただの護衛任務を数回熟した程度の戦績の者達を優遇する為、質の落ちた装備とサポートで任務に就けと言えと?それこそ古参メンバーの大量離脱案件に発展するだろう」

「・・・・それならば、どれほどの功績が必要であると?」

彼女は無表情の中に不快感を滲ませた視線を男性に向ける。

「この前のキョウグチ地下街遺跡で、ヤシロ・レオナコンビのチームに入った少年達の報告は目を通しただろう?彼らと同等の実績があれば文句はないね」

彼女は、目を一瞬眇め、男性を睨みつける。

「・・・・彼らにオートマタを討伐せよ・・・と?」

「違うよ。300体を超えるモンスターを迎撃した後でオートマタを撃破するくらいのインパクトが欲しいのさ。少人数でね。あ、いや、いくら私でも2人でやれなんて無茶は言わないよ。だがせめてリーダー格の4人ではやってもらいたいね。そうすれば私も古参達を説得できる」

その様な事は不可能だ。

それはこの男も分かっているはず。そもそもヤシロとレオナのチームに途中参加したワーカーのランクは32と16、普通に考えれば300体のモンスターに襲われれば死んでいるはずだ。

その後にオートマタと戦い撃退するなど考えられない。

最初に聞いた時は何をバカなと取り合わなかったが、ワーカーオフィスから正式に戦績と認められている。

そして、その少年の一人がカズマ達と養成所でもめ事を起こしていたこともあり、教育・事務派閥の攻撃材料にされているのは明白だった。

彼女は無表情を通し、冷静さを見せるが、握りしめる手に力が篭って行くのを止められなかった。

「とりあえず、今回の予算は今まで通りとする。編成の変更は無しだ」

老人がそういい、席を立ち部屋から出ていった。

彼が部屋を出ていったのを見届けると、全員が席を立ち資料を持って自分達の部署に戻っていく。




「お疲れヤナギ」

「・・・は~・・・・ヤシロ・・・今度はお前が会議に出てくれないか?エレオノーラ女史に睨まれるのは肝が冷えて仕方がない・・・」

「はは!やなこった。それで?会議の内容は?」

「とりあえず予算編成は従来のままだ。事務派閥に流れる金額は抑えられたぞ」

「お~、ナイスヤナギ」

ヤシロは面白そうに笑いながらヤナギを労う。

「・・・は~・・・まあ今回の調査任務は不幸中の幸いだったか・・・」

事務・教育派の筆頭候補だったカズマが失態を演じて、天覇から所属を別のギルドに移籍、そのメンバーだった2人もワーカーの引退を宣言したのだ。

「まあ、カズマは保険だっただろう?今の若手トップの方が表向きの宣伝には使いやすいだろうからな」

今の若手4トップ達は、全員が孤児上がりで、容姿端麗な者がその座に座っている。実力的な話をすればそこまで優れている訳ではない。才能という一点で言えばカズマの方が上だろうとヤシロは見ていた。

今の彼らは、ワーカーというより、何も持っていない者達が真面目に、そして必死の覚悟で成り上がってきましたというフレーズが付いたアイドルの様なポジションだった。

「都市の金持ち連中からは人気みたいだぞ。投資の話も来てるみたいだからな」

「エレオノーラも奴らのメッキが剝がれる前に新しいヒーローを作りたかったんだろうけどな。あれじゃ無理だろう」

「カズマか・・・大事にされ過ぎて勘違いを増長させた典型的な例だろうな」

「伸びきる前にバケモノに切り倒されたって訳だ」

「・・・・ヤシロ、お前が言っていた2人の子供だが。本当にオートマタを討伐したのか?」

ヤナギはヤシロの事を信用している。しかし、常識から考えて少年2人が戦闘用オートマタを討伐するなんてことはあり得ない。実際にレイブンワークスを主体とした攻撃チームが一つ全滅しているのだ。

「ああ、間違いない。戦闘データなんかを見た訳じゃないが、アイツ等は間違いなくオートマタを自分たちでぶっ壊した」

「それは、お前とレオナ、ドンガの3人よりも強いと言っているんだぞ?」

ヤナギは彼らの実力は十分に知っている。ヤシロ達はこのギルドの中で総合能力はトップクラスのコンビだ。東方に派遣されているメンバーもいるが、彼らにだって負けていないと断言できる。

「ああ、そうだな。俺達が完全装備で戦えば話は変わって来るだろうが。あの閉鎖空間で戦ったら俺達じゃ勝てないだろう」

ヤシロは真剣な目でヤナギを見ながらそういう。そこに一切の冗談は無く、本心からの言葉であることが分かった。

その言葉を聞きヤナギは溜息を付きながら

「子供より弱いですってハッキリ言うなよ・・・プライドとかねーのか?」

「あるに決まってんだろ?でもな、相手の実力を見誤るってのは危険だ。そこにプライドなんか持ち込むと死んじまうからな」

ヤシロが言っているのは真理だった。

間違ったプライドを翳し、先入観で相手の実力を決めつけた者で、長生きした者はいない。ワーカーは1つの選択ミスが死に直結する仕事なのだから。

「彼らが事務派に取り込まれる危険は?」

「無いと思うぞ。どっちも第三出身だからな。事務派が押すコンセプトとズレるし、アイツ等はいくら報酬を積まれても、お飾り君達を持ち上げるだけの土台にはならないだろうからな」

「そうか・・・こっちに取り込む事は?」

「止めた方が良いと思うぞ?担当にあのキクチが付いてるんだが、ゲッソリやつれてたぞ。多分行く先々で今回みたいな事を引き当てる連中なんだろう。キクチに頼んだら喜んでこっちに押し付けてくるだろうが、その場合、処理に走り回るのはお前だぞ?」

「・・・・やめておこうか」

「それがいい。キョウグチにまた潜る事になるだろうから装備の手配だけはしっかりしといてくれよ?アイツ等に足手まといだと思われるのは流石に癪だからな」

ヤシロは派閥争いのせいで、自分達の武装の質が落ちるのは許容しないと告げていた。

「わかってるよ・・・・は~・・・俺も現場に残ってりゃよかったかな~・・・」

「さっさと抜けた自分を恨めよ」

ヤナギは難しい交渉事に頭を抱え、ヤシロはその様子を楽しそうに眺めるのだった。


ブックマークと評価を頂ければ幸いです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
カズマくんは選民意識あるから甘やかされる以前の問題ですよねぇ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ