防衛チーム その3
その場に残ったシド達は、彼らが抜けた穴を埋める必要がある。
抜けた理由が弾切れの為、無理に引き留める理由も無く、彼らを見送った。
<うーん、自分と仲間の状況を的確に判断して補給を選択・・・か。無理せずに任務遂行するには妥当な判断だね>
<そうですね、こちらの実力を換算して、自分たちが抜けてもここを守り切れると判断したのでしょう。かなり優秀なリーダーのようです>
<そうだな、アイツ等が戻るまで俺は向こうの通路を警戒するぞ。ライト、こっちは任せたからな>
<うん、任された>
レーションを食べ終えたライトは、また通路の警戒を始める。
暫くすると、レイブンワークスが警戒している方の通路からもモンスターの襲撃があった。スケルチュラでは無く、生体系のモンスターの様で、こちらに対して銃撃を行いながら接近してきている様だった。彼らはそれぞれの組に分かれてモンスターを迎撃し、問題なくモンスターを討伐していく。
彼らは引率付きとは言え、3大ギルドに所属しているだけの実力は持っている様で、堅実な戦い方をしていた。
<お互いがフォローし合う戦い方だな>
<そうだね、狙いも正確だし、標的順も効率的だったし、狙いが被ることもない。かなり訓練を積んでるみたいだよ>
<その様ですね。1年の実地経験の有無がハッキリ出ています>
シド達は自分達の方にモンスターが現れない為、彼らの戦闘を観察し自分たちに取り入れられる所は無いか観察していた。
チームの主力は、あのラインハルトとアリアの2人の様だ。
2人は良くチームを纏め、攻撃の要になるように立ちまわっている。他のメンバーも彼らを主軸として動き、フォローする様に戦っていた。
ルーキーチームとはいえ、流石はダゴラ都市No,3のワーカーギルドのメンバーといった所だろう。
<でも、あの攻撃力だと、さっきの中型モンスターが来たら抜かれるんじゃない?>
ライトは、彼らの戦闘を観察して、攻撃力が足りていないと判断した様だった。
<そうだろうな。そうなったら、あのバハラって人がなんとかするだろ>
<その為の引率でしょうからね。彼らだけで十全に任務を遂行できると判断したなら、彼はここにいる必要はありませんから>
その戦闘は、終始レイブンワークスのチームが優勢で終了する。
2名ほど被弾したようで、直ぐに治療を開始する。防護服を着用している為、それほど大きな負傷は負わなかったようだった。
負傷した少年は、引率のバハラに注意とアドバイスを受けている様だったが、シド達の方には何を言っているのかまでは分からなかった。
『78番、79番。応答せよ』
レイブンワークスの戦闘が終わってから暫くすると、部屋の中心に置かれている通信機に本部からの通信が入る。
「こちら78番、何かあったか?」
シドが代表して通信に出る。
『給弾の為に帰還していたチームからスケルチュラの襲撃を受けたと報告を受けた。お前たちは一番敵影の濃かった通路を進み、原因の特定を行え』
「俺たちまで離れたら、ここにいるワーカーは7人しかいなくなるぞ?それでもいいのか?」
『問題ない。帰還したチームは補給を済ませそちらに向かっている最中だ、それにお前たちの代わりのワーカーの手配も終わっている』
シド達がこの場を離れてもいいように手配は完了しているらしい。ライトの方を向くと、ライトは既に準備を済ませたようだった。
「了解、移動を開始する」
シドはそういい、通信を切ると先ほどスケルチュラが大量に向かってきた通路の奥へ進んでいく。
シド達の後ろ姿を、アリアは苦々しげな表情で睨んでいた。
レイブンワークス視点
アリアはシドとライトと名乗った二人組のワーカーチームが、スケルチュラの襲撃原因の調査を言い渡され、通路の奥に向かっていくのを忸怩たる思いで眺めていた。
「アリア、彼らの事が気になるのか?」
そんなアリアにラインハルトが声をかけてくる。
彼は自分と同期のメンバーで、同時期に入団した者たちの中でトップの実力を持っていた。
「・・・・なんであんなヤツ等が調査依頼を出されるの?」
アリア達は養成所をトップの成績で卒業し、レイブンワークスの中で1年間実地活動を行ってきた。ギルドの中でも成績は優秀で、ミナギ方面防衛拠点でも活動できるレベルの装備を配布されたメンバーだった。
それなのに、自分達より年下であろうシドとライトが調査依頼を発行されることに納得がいかなかった。
「それは彼らの実力が一番適していると判断されたからだろう」
「私たちだって中型モンスターくらい討伐した事あるじゃない!」
「でもそれは生物系のモンスターだ。完全な機械系モンスターを討伐した訳じゃない。それも、ここに居る7人でだ。今この時の戦闘能力、索敵能力は彼らの方がずっと上だよ」
ラインハルトは、先ほどの戦闘でシドとライトの能力を把握していた。
この場の誰よりも早くモンスターを察知し、迎撃態勢を整え、目視範囲外のモンスターを正確に銃撃した索敵能力と射撃能力。それに、隣の通路のワーカー達が中型モンスターを止められないと判断すると直ぐにフォローに入り、数秒で撃破する攻撃力。何をとっても自分達より上であることは十分に理解できた。
その事を説明するとアリアは悔しそうに俯き歯を食いしばる。
「君が早くランクを上げて専門ライセンスを取得したいのは知ってるけど、焦ると危険だ。着実に実力を上げるのが一番の近道だよ」
ラインハルトはアリアにそういい、今は任務に集中することを促す。
今だ納得はしていないだろうが、それ以外に方法はないと、アリアは通路の警戒に戻った。
その様子を観察していたバハラは軽くため息をつき、自分の情報収集機で索敵を開始する。これ以上モンスターの襲来があれば誰かが命を落としかねないと考えながら。
シドとライトはスケルチュラがやって来た方向に進んでいく。
自分たちが蹴散らした残骸を通り過ぎると、特に変化がある訳でもなく普通の通路が広がっていた。
ライトは情報収集機で辺りの様子を調べ、スケルチュラが来たであろう方向を探す。
<特に変なところは無いな>
<そうだね、でも足跡らしきものがあるから追跡は可能だよ>
ライトの視界には無数のスケルチュラが走った跡が表示されていた。
<それを辿っていくぞ。俺が周囲の警戒をするから、ライトは跡を辿ることに集中してくれ>
<了解>
ライトは足跡を辿り、遺跡の奥へ進んでいく。シドはその後に続き、モンスターの奇襲に備えて警戒を強くする。
しばらく進むと、スケルチュラの反応を検知する。
<シドさん>
<ああ、前方を横切っていくな>
大量のスケルチュラはシド達には気づくことなく、前方300m先を横切って消えていく。
<どうする?>
<あいつらが来た方向って、何処に繋がってるんだ?>
<あの道は10番地点に繋がってる道だね>
<なら、巣に帰る途中って事か?>
<その可能性はあるね。後を追ってみる?>
<・・・・・・そうしよう、何かわかるかもしれないからな>
スケルチュラの後を追って通路を進んでいくシドとライトは、斜め下に掘り進まれた穴を発見する。
<こりゃー、この奥に巣があるってことが確定じゃないか?>
<たぶんそうだね、だいぶ下まで続いてる。ここからじゃ終点まで探知できないよ>
<一度本部に連絡して判断を仰ぐか>
シドはそういい、本部へと連絡を取る。
「こちら78番。本部応答してくれ」
『こちら本部、78番、なにか発見したか?』
「地下に続く穴を発見した。崩落したんじゃなく、何かが掘り起こしたと考えられる。今座標を送るから攻撃チームを派遣してほしい」
『・・・・わかった、至急編成して送る。お前たちは攻撃チームが来るまでその場を確保しろ』
「ん?俺たち2人だけでか?」
『そうだ、今お前たちしか手が空いていない』
「・・・・・・・急いでくれよ。物量で来られたら押しつぶされる可能性が出てくる」
『そうならないよう奮闘しろ。到着予測時間は後で連絡する』
本部の通信官はそう言って通信を切る。
<どれだけいるかも分からないのに、俺たち二人でこの場を確保って・・・無茶じゃないか?>
<弾薬の確認だけはやっておこうよ。攻撃チームは送ってくれるみたいだし>
<そうだな>
シドとライトは銃からマガジンを取り外し、給弾カートリッジに取り付け、先ほどの戦闘で消費した弾丸を補給する。予備のマガジンにも弾丸を装填し直ぐに取り換えられるように準備を行った。
しばらくの間、警戒を続けていたが、穴の奥からモンスターが出てくる気配はない。
このまま攻撃チームが到着するまで何も無ければいいが、と考えていると、本部から通信が入る。
『78番79番、そちらの状況を報告せよ』
「こちら78番、今の所変化なし。攻撃チームの編成はどうなってる?」
『現在調整中だ、まだ派遣の目途はたっていない』
「・・・・急いでくれよ。こっちは二人しかいないんだからな。無理だと判断したら逃げるぞ」
『わかった、急がせる。以上だ』
通信が切れ、シドは強化した目で穴の奥を見る。
かなり深くまで掘られている様で、曲がった先の様子は分からない。空気のざわめきも感じない為、今のところはこちらに向かって来ているわけでは無さそうだった。
<ライト、お前の情報収集機は何か反応してるか?>
<ううん、何もないよ。全方位で問題なし>
かれこれ一時間程様子を見ているが、何も起こる気配がない。しかし、いつスケルチュラの大群が向かってくるか分からない為、気を抜く事は出来なかった。
また時間が立ち、そろそろ攻撃チームの編成も終わっただろうかと考えていると、シドの感覚器官が微妙な風の流れを捉える。
<これは・・・>
<穴の奥からこちらに向かって来ている様です>
<・・・・・・・・・ボクの方でも探知できた・・・凄い数だよ>
「本部、こちら78番。穴の奥からモンスターが向かって来ている。応援はどうなってる?」
『こちら本部、今攻撃チームの編成が終わった所だ。そちらに向かわせる、20分ほどその場を確保しろ』
<20分とは長いな・・・>
<やれるだけやってみよう>
「了解。大量に向かって来てるからなるべく急いでくれ」
『わかった。健闘を祈る』
通信が切れ、シドとライトは穴の奥に向かって銃を構える。シドは強化された目で、ライトは情報収集機のデータで穴の奥を注視し、モンスターが出てくるのを待つ。
ついにスケルチュラの大群が現れ、高速で穴を上りこちらに向かって走って来る。
シドとライトはトリガーを引き絞り、大量の弾丸を射出する。
その一発一発がスケルチュラを殺傷するにふさわしい威力を持ち、正確に命中していく。弾丸を撃ち込まれたスケルチュラは引き裂かれ、弾け飛び、体に大穴を開けるなど、さまざまな最後を迎える。
しかし、奥から続々と押し寄せてくるスケルチュラの大群は、留まることを知らず、その物量にあかせてシド達に確実に近づいていた。
シド達は通常弾では押しとどめられないと判断し、特殊弾頭での攻撃に切り替える。
シドは2つの銃口から、ライトは計6つの銃口からPN弾とSH弾を撃ち放つ。
縦に連なっている場所にはPN弾頭で貫通させ、複数の撃破を狙い。複数固まっている場所にはSH弾を撃ち込んで吹き飛ばしていった。
大量の特殊弾頭を使用してスケルチュラを押しやり、優勢を確保できたのだが、左側の通路からも何かが接近してきている気配を感じる。動きからしてワーカーとは考えづらい。
「ライト!左からも何か来てる!種類は分かるか?!」
「!!・・・多分レイブンワークスが戦ってた奴だと思う!」
「・・・ライト!場所をスイッチだ!あれくらいなら俺が片手で対処できる!お前は穴のスケルチュラに集中してくれ!」
シドは左側に立っていたライトの上を飛び越えて場所を移り、ライトはシドの下を潜って右側に移動した。
その間もスケルチュラへの攻撃は疎かに出来ず、無数の弾丸を撃ち放った。
左側の通路からモンスターが現れる。そのモンスターはウェポンウルフによく似ていて、背中から複数の銃を生やし、食いちぎる以外に使い道が無さそうな金属質の歯が剥き出しになっている。
それにサイズも1周り程大きく、金属製の装甲も分厚くなっている様だ。
シドは左手に持ったS200の弾頭を通常弾に切り替え、大型ウェポンウルフの眉間に正確に撃ちこんだ。
MKライフルの特殊弾頭にも匹敵する威力を誇るS200の弾丸を頭部に受けたモンスターは、頭部を弾き飛ばされ、もんどり打ちながら地面を転がっていく。
しかし、後続のウェポンウルフは怯むことなくシドに向かって突進してきており、相手の射程に入れば背中の銃で攻撃してくることは間違いない。
シドはウェポンウルフの射程に入らせない様、一番近くにいるモノ、他の個体より足が速いモノを正確に判断して撃破していった。
ライトの方はというと、通常の小型スケルチュラの他に中型のスケルチュラまで出現するようになっていた。
1体2体程度なら特殊弾を数発撃ち込むだけで倒せたのだが、5体6体と一気に出て来られると小型への銃撃密度が下がってしまう。今では小型を引き連れて、ゾロゾロと出てくるようになっていた。
シドのS200が一丁ウェポンウルフの対処に当たっている為、このままだとスケルチュラの進行を止められないと判断したライトは、高価なハンター5専用弾を使用することに決め、情報収集機を通し、銃に専用弾を装填。穴の中央部を狙って撃ちこんだ。
大型の専用弾が飛翔しながら、周囲に衝撃波をまき散らし、それに触れた小型スケルチュラは粉砕されていく。
未だ奥の方からこちらに向かっていた中型スケルチュラも専用弾の直撃を受けて千切れ飛び、後ろにいたモノ達も同じように貫通して通路の奥に衝突、専用弾に仕込まれていた高性能爆薬が爆発し、周りのスケルチュラを一気に吹き飛ばす。
青白い炎が高温の熱気と共に、煙突効果でライト達の方まで高速で上って来る。
「まずい!シドさん避けて!!!」
ライトはそういいながら穴の横に飛び退き伏せる。シドも穴の正面から退避し、地面に伏せながらウェポンウルフの迎撃を行った。
シド達の頭上を青い爆炎が通り過ぎ、そこら中を焼き焦がしていく。シドとライトは防護服のエネルギーシールドを発生させ、爆炎と熱をやり過ごした。
爆炎が通り過ぎ、シドとライトは身を起こす。
頑丈な遺跡の壁自体の損傷は軽微だったが、穴にいたスケルチュラは全滅したようだった。
ウェポンウルフもこちらに来た個体は全て討伐出来た様で、とりあえずこの戦闘はしのぎ切ったということだろう。
<・・・・いや~、危なかったね>
<ほんとにな。モンスターよりお前の攻撃でダメージ受ける所だったぞ>
<あははは・・・・やっぱり試し撃ちしとけば良かったね・・・>
<勿体ないとかケチクセー事言ってっからこんなことになるんだぞ?>
<ライト、閉鎖空間で爆発系の攻撃は自分にも被害が及びますので注意するように>
<うん、身に染みたよ>
<・・・・・なんでイデアはライトに甘いんだ?俺が遺跡で専用弾撃った時はネチネチ言ってきたのに>
<ライトは自分の行いを直ぐに反省出来るからです>
<俺だって反省くらいするわ!!>
シドは納得がいかないと吠える。
シドが遺跡で専用弾を撃ち、モンスターを誘引して大乱闘になった時は、イデアから10分くらいのお説教を受けたのだった。
<でも、すごい威力だったね>
<流石は唐澤重工製と言った所でしょうか。浪漫にあふれています>
<これ、どんなモンスターと戦う事を目的に作られたんだ?>
<大型モンスターの体内に入り込み、内部で爆発させて、爆圧で破裂させる事がコンセプトの様です>
<・・・・やっぱり、あそこの開発陣、頭おかしいわ・・・>
シド達が念話で話していると、右側の通路から複数の人間が向かってくるのを感知する。
<ようやく攻撃チームのご到着だな>
<そうだね、もう少し早かったら良かったんだけど・・・>
<もう少し早かったら、あの爆風で吹き飛んでるんじゃないのか?>
<・・・・・>
攻撃チームのリーダーであろう男がシドに近づき、声をかけてくる。
「私はギルド レイダーズのリーダー スガと言う、この攻撃チームの隊長をしている。そちらのリーダーはどっちだ?」
スガと名乗ったワーカーは重厚なパワードスーツを装着しており、両手と背中には大口径の銃が装備されていた。
頭部にはフルフェイスヘルメットを被っており、その顔は見えない。声からして40代くらいの男性のようだった。
「シドと言います。本部からこの場の確保を任されました」
「状況は?」
「穴の中から小型のスケルチュラが大量に出現。中型も多数出てきました。左側の通路からはサイズの大きいウェポンウルフが向かってきたので撃退しました」
「・・・・・・・」
スガは通路と穴の中に視線をやり、再度シドに質問する。
「スケルチュラがずいぶん破損しているようだが、一体どのような攻撃を?」
シドはライトの方に視線を向け
「コイツがこのハンター5の専用弾を撃ち込んだんです。それで粗方吹っ飛びました」
ライトは少し視線をズラし沈黙を貫く。
「・・・・ハンター5専用弾・・・か・・・なるほどな。閉鎖空間での爆発弾の使用は注意するように。我々はこの奥の調査に向かう。君たちは本部に帰還し、今回の戦闘報告を行え。以上だ」
スガはそう言うと、チームを引き連れ穴の中に入って行った。
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