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スラムバレット  作者: 穴掘りモグラ
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防衛チーム その1

キョウグチ地下街遺跡は複数の出入口が存在しているらしく、未だその全容はわかっていない。

調査チームが遺跡内部のマップを作製し、モンスターの巣になっている個所などを本部に報告、そのデータを元に攻撃チームがモンスター駆除に当たり、粗方モンスターを狩り終えた地点に防御陣を引き、防衛チームがその場所を守るといった方法で調査を進めていた。


しかし、この遺跡は内部が入り組んでおり、攻撃チームがモンスターの巣を撃滅しても、別ルートからモンスターが侵入してしまい、安全確保が難しい。

モンスター自体が別の通路を開通させたり、崩落を起こし道を塞いだりするためマップ作りが難航していた。

出現するモンスターも小型ばかりではあるが、数が多く強力なモンスターが多いため一度防御陣を確保した地点を奪い返される等、一進一退を繰り返していた。

しかし、この遺跡に眠る遺物は、価値の高い高次元の技術で構成されたものが多く、ダゴラ都市の幹部たちはミナギ方面地下街を探索していた高ランクワーカー達に召集をかけ、キョウグチ地下街遺跡の探索を本格的に開始する。

大手ギルドの参入のお陰で探索ペースは上がったものの、全てを把握できたわけでは無く、モンスターとの陣取り合戦もワーカー側がやや優勢といった状況でしかなかった。

先日モンスター側の大規模反撃があり、多数の死傷者が出たため、シド達はその補充という形で依頼が出されたのであった。


「78番と79番、お前たちは7番地点のチームに合流し防衛しろ。他に指示があるまでは待機。モンスターが現れた場合は各自の判断で迎撃するように、以上だ」

都市から業務委託を受けたのであろう、ワーカーオフィスの職員がシド達に指示を出す。

2人は渡されたマップデータを元に7番地点にまで移動し、そこのワーカー達と共同でモンスターと戦闘することになる。


現地に到着すると、そこには10名程度のワーカー達が待機していた。


「チッ、またガキかよ・・・本部ももっと真面な人員送って来いよな」

シド達を一瞥したワーカーが不満をこぼす。シド達は実際に子供であると自覚している為、特に反応せずに配置につく。

「うるさいわね!あんた達こそ黙って警戒してなさいよ!!」

シド達より少し上くらいの年齢の少年少女で構成されたグループの一人が、先ほど不満を述べたワーカーにかみつく。

「うるせーのはテメーだ!俺たちが本部に要求したのは先日の大攻勢で減った人員の補充なんだよ!引率付きのガキが幾ら来たって足手まといが増えて戦力の増強にならねーだろうが!!!」

彼の言う事ももっともである。シド達や彼女等の実力が実際に足手まといになるかはわからないが、見た目の上で経験が不足していると判断されても仕方がない。

「なんですって!!!」

戦力外だと言われた少女は目を吊り上げて男に歩み寄ろうとした。

しかし、彼女の肩を掴み止める者がいた。

「ギルド レイブンワークスのバハラだ。コイツ等の監督は私が行う。君たちに迷惑は掛けない」

その男は長身でスラっとした体形をしているが、立ち振る舞いは重心が座っており、かなりの実力者であることが伺える。切れ長の目は相手をブレずに見据えており、これ以上言えば制裁を加えるとハッキリ語っていた。

<おお~・・・なかなかの迫力・・・ヤシロさんとどっちが強いかな>

<実際の身体能力や体捌きからするとヤシロの方が上手でしょう。しかし、戦闘スタイルの相性次第では立場は逆転するかと>

<へ~、ヤシロさんってランク40台の高ランクハンターなんだって?強い人がいっぱいいるんだね此処って>

シド達は今のやり取りでこの場の采配はバハラが取ることになりそうだと感じた。

先ほど不満をこぼしたワーカーは舌打ちをしながらもそれ以上食って掛かることはしなかった。

<レイブンワークスって確か3大ギルドの一つだったよな?>

<そうですね、明確な序列がある訳ではありませんが、所属人数でいうと天覇に続き3位になります>

<1位はゾシアというギルドになりますね。高ランクワーカーが多数所属しており、北方や東方にも人員を派遣している様です>

バハラが止めにかかった事でこの話も終わりかと思ったが、少女はバハラにも嚙みついていった。

「バハラさん!どうして止めるんですか!」

「ここで諍いを起こして何になる。危険を増やすだけだ」

「でも!あんなにバカにされては黙ってられません!!」

「彼らの言う事は間違っていない。お前たちはワーカーになって1年程度なんだ。他のワーカーから見て実力不足と思われても仕方ないだろう」

バハラは事実を淡々と指摘していく。

「だからって!」

「おい、アリア。もうやめとけって」

さらにヒートアップしかけるアリアと呼ばれた少女を、一人の少年が止めに入る。

「俺たちが未熟なのは本当の事だし、これから精進していけばいい。他の雑音なんか無視して俺たちは俺たちのやるべきことに集中しよう」

「ラインハルト・・・・」

「今は遺跡の中に居て任務中だ。俺たちは俺たちの仕事に集中すればいい。結果が出れば雑音なんか直ぐになくなるさ」

「・・・わかった」

ラインハルトと呼ばれた少年は、アリアを落ち着かせ任務に集中しようと提案する。

アリアも落ち着いてきたのか、素直に配置に戻っていった。

シドとライトは目線は通路の方を向いて、警戒しているように見えるが、シドは感覚器官、ライトは情報収集機で彼らの様子を注視しており、様子を窺っていた。

<やだ何あのイケメン!>

<さらっと落ち着かせたね。カリスマ性かな?>

<あれはイケメンに限るってやつじゃないか?>

<そうかな?確かにカッコいい人だけど、実力が無かったらあの女の人もあんなにアッサリ引かなかったと思うよ?>

<遥か上位の人間から高圧的に命令されるより、身近な実力者からの意見が納得しやすいというのはいつの時代もあるものです>

そして、雑音扱いをされたワーカーの方はというと、あきらかにイライラが限界に来ており、不機嫌そうな様子を隠そうともしていなかった。

年齢からみて数年ワーカーとして生き残って来て、前回の大攻勢とやらでも生き残った自負があり、それをワーカーになって1年程度の連中に雑音扱いされれば怒りが沸いてもしかたがない。

しかし、この場で爆発させるような事はしない理性は残っているらしく、遺跡内で仲間割れなどは死を招くことを重々承知している様だった。

<これ、次何かあったら盛大に面倒くさい事になりそうだよな・・・>

<そうだね・・・あまり関わらない方がよさそう>

もはや団結とは程遠い空気感が漂う7番地点。万が一モンスターの襲撃があった際には2人で乗り切ろうと決めたシド達だった。



しばらくの間、モンスターの襲撃も無く、他の場所からの救援要請も発生していない。ただ周囲に変化が無いか警戒するだけのシドとライトにとっては簡単で暇な時間だけが過ぎていく。

ここに自分たち以外がいなければ眠ってしまいそうだった。

<腹減ったな。軽く食っとくか>

<そう?ならシドさんが先に食べてよ、あとで交代ね>

<おう>

シドはバックパックを降ろし、中からレーションを取り出すと食べ始める。最近お気に入りのササミ風味のレーションを齧りながらあまりに暇な状況に不満をこぼす。

<それにしても何もないな。少しくらいモンスターが出てもいいと思わねーか?ここの探索って頓挫寸前だったんだろ?>

モグモグとレーションを食べながらため息を吐くシド。

<キクチさんはそんな事言ってたね。大攻勢があったって言ってたからその時に粗方討伐したんじゃない?>

<ライト注意して下さい。シドがこういう事を言い始めると問題が発生します>

最近何かと人間臭い事を言い始めたイデアがライトに注意を促す。

<そうだね。気を引き締めるよ>

<いや、ンな訳ないだろ?イデアもいい加減にしろよな>

シドはイデアにトラブル発生源みたいな言い方をされたことに不満を述べる。

「ちょっとあんた!遺跡での警戒中に何やってんの?!」

アリアと呼ばれていた少女が今度は食事中のシドに嚙みついてきた。

<<・・・・・・・・はぁ・・・>>

<いや俺は悪くねーだろ!!>

ライトとイデアから、ほらやっぱりといった空気を感じシドは反論を行う。

「あんたに言ってんのよ!警戒中にレーション齧るってどんな神経してるわけ?!」

シド達が反応しない事にさらにヒートアップするアリア。

シドは面倒くさそうにアリアを振り返り、咀嚼していたレーションを飲み下す。

「モグモグ・・・ゴックン・・・・・なんだよ、人がエネルギー補給してる時に・・・」

「なんだじゃないわよ!皆が警戒してる最中に食べるなって言ってるの!頭おかしいんじゃないの?!」

ずいぶんな言いぐさで怒鳴ってくるアリアに、シドはいい加減うんざりしてくる。

「あのさ、お前って戦闘中にマガジン交換するヤツに文句いうタイプ?」

「・・・は?」

アリアは何を言ってるんだ?という顔をしてシドを見る。

「俺は腹が減ったからレーションを食ったんだよ。要するに弾が切れたから補給してるわけ。理解できたか?」

「それとこれは違うでしょ!」

「何が違うんだよ。今モンスターに此処が襲われてる中で、俺一人腰を下ろしてレーション齧ってるならお前の言う事は分かるぞ?でもさ、今緊急事態か?戦闘中か?小康状態の時に戦闘に備えてエネルギーを補給することに文句を言われる意味が分からないんだが?」

「こういう時は連帯の連携が崩れないようにするのが鉄則でしょ?!何自分勝手な事してるんだってことを言ってるのよ!」

「勘違いするな、俺とお前等は組んでない。俺が組んでるのはコイツだけだ」

シドはそういい、ライトを指す。

「コイツは俺が食ってる間を警戒し、俺が食い終わったらコイツが休憩するんだよ。その間は俺が警戒を行うわけだ。お前らはお前等のルールで動けばいい。でも俺たちに指図するな」

シドは強めにアリアを睨み言葉を続ける。

「俺たちは俺たちで仕事をする。お前等はお前らの仕事をすればいい。文句をいうなら俺たちがモンスターに抜かれたら盛大に喚けばいいだけだ」

「そうなる状況になったら遅いのよ!」

「俺はそうならない様に準備してるんだよ。理解できたら自分の持ち場に戻れ。お前が大声出せばその分モンスターが寄ってくる可能性が上がるって気づいてるか?」

「・・・・!!!!」

アリアはシドに言い負かされ怒りを堪えるように震える。

そのアリアの後ろからバハラが近づいてきてアリアを引き戻していく。

「いい加減にしろ。これ以上場を乱すようならお前をこのチームから外す」

「!!!・・・・・・わ・・・かりました・・・」

アリアは歯を食いしばり、俯きながら自分のチームに戻っていく。

それを見送ったバハラはシドの方を向き「手間をかけた」といい、彼女達の所に戻っていった。

シドは残ったレーションの欠片を口に放り込み、飲み込みながらため息を吐くのを堪える。

<・・・・なんなんだよアイツ>

<さあ・・・何か焦ってるような雰囲気を感じたけど>

<彼女の事はいいでしょう。シドが望んだ状況が近づいています。警戒してください>

イデアがそう忠告し、シドとライトも同時にモンスターの襲来に気づく。

二人はゆっくり意識を戦闘態勢に移行していき、自分の得物を手にモンスターを待ち構えた。


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― 新着の感想 ―
完全にシカラベやん笑
更新お疲れ様です。楽しく読ませていただいてます。 「食える時に食う」は戦場…だけじゃないな。鉄火場の常識だよ?お嬢ちゃん。 アドレナリンドッバドバで空腹に気付かなくて、戦闘中に急に低血糖で行動不能な…
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