オートマタの値段と新しい依頼
先日遺跡から持ち帰ったオートマタの頭部、その解析が終わったようだった。
<あのオートマタは店舗管理用の機体で、あの建物の管理を行っていたようです>
イデアは解析結果をシドとライトに報告する。
<かなり昔から稼働していたようで、ファーレン遺跡の詳細なマップデータと遺跡の正式名称。メンテナンス施設等のデータが入手できました>
「おお!だったら遺物のある場所なんかもハッキリわかったってことか?!>
<現在もそこに残っているかは定かではありません。しかし、可能性の高い場所をピンポイントで探索できると思います>
「そのデータって僕にも送ってもらえる?」
<可能です・・・・送信しました。ご確認ください>
ライトはイデアから送られてきたマップデータを参照し、今ワーカーオフィスが公開しているマップデータと照らし合わせ始める。
<そして、あの遺跡の中層奥部に三ツ星重工の支社があったことが判明しました>
「ん?それってイデアを製造した企業だったよな?」
<はい、そこに行けば私のアップデートが可能かもしれません>
「どんな内容のアップデートなんだ?」
<それはアップデートツールによります。今のシドは基本的なコーディネイトのみを行っただけですので、どのような兵種に合わせるかによってアップデート内容が変わってきます>
「なるほどな。俺の場合はどんな兵種がいいんだ?」
<シドの場合ですと、1km未満の近接戦闘用に特化するべきかと。後は衛生兵としての知識や技術のインストール出来ればいうことはないですね>
「え?シドさんってまだ化け物化するの?」
マップデータを調べ終わったライトが会話に入ってくる。
<今のシドは旧文明の一兵卒レベルの強化しか行われていない状況です。ここからは専門的なアップデートになりますね>
今のシドでも旧文明では一兵卒レベルなのかとライトは絶句する。
「とりあえず、行ってみないことには出来るかどうかも分からないんだろ?その場所に俺たちが行けるかどうかもわからないんだし」
「まあ、そうだね。いつこの謹慎状態が解けるかもわからないし。今は室内で出来る訓練を続けるしかないね」
<そうですね、シドは漸くシールドの上を歩いて車庫を10周出来るようになった所ですし、ライトはまだ時間操作と並列思考を同時発動させると脳への負担が大きいみたいですしね>
「・・・・あれ、難しいんだぞ?」
「ボクはだんだん慣れて来たけど、まだまだ足りないかな・・・でもこれ以上シドさんの身体能力が上昇したらボクついていけなくなるよ?」
<ライトはいずれ防護服では無く、パワードアーマーか身体拡張を行えばいいのでは?>
「身体拡張か~。んー、パワードアーマーかな?」
「なんだよ、身体拡張も便利だぞ?」
シドは自分が身体拡張者の為、ライトにも勧めたい様だった。
「ん~、シドさんはナノマシン補給がいらないからいいけど、現文明の身体拡張ってナノマシンの補給が必須になってくるじゃない?なんか他者に命を握られてるような気がしてさ」
ライトはナノマシンの補給が必要になることがネックになっているようだった。
「あー、それがあるな。イデアみたいな拡張ユニットがあればいいんだけどな・・・」
<一般的な拡張ユニットであれば手に入る可能性はありますが、私の様な軍用となると難しいと思います。基本的に厳重に管理されていたはずですから>
「そうなのか・・・・なんであんなワーカー崩れが持ってたんだろ?」
シドがイデアを手に入れた経緯は、遺跡外周部でワーカー崩れに襲われた時に、そのワーカー崩れが着ていた防護服から見つかったのだ。
その後、あのユニットを探しにワーカー達がシドの塒に探しに来ていたこともあった。
<不明です。他のワーカーが捜索に関与していたようですので、もっと大きな組織が秘密裏に搬送している最中にシドの手に渡ったと考えるべきかと>
「へ~、そのユニットって誰でも使えるものなの?」
<ある程度の適性が無ければ使えません。最低でも隔世遺伝者である必要と、その遺伝体質がそのユニットの特性とマッチしている必要があります>
「どういうことだ?」
<シドの場合は、身体操作と高速思考に適性がありました。私の様な基本的な軍用強化ユニットに適していると言えます。ライトの場合ですと、筋力強化と情報処理関係の適性ですので、情報処理系のユニットであれば起動させることが出来るでしょう>
「なんか結構ややこしいんだな」
<はい、当時はその個人の適性に合ったユニットが無数の系統に分かれて存在していました。出生時に選定・使用され、親元に帰る前にはコーディネイトが終了しているというのが一般的でしたね>
「へ~、赤ん坊の時からか・・・ま、旧三ツ星重工に行ってみて、あればよし、無かったらパワードアーマーを買えばいいって話だな」
「まあ、そうだね。遺跡に行く許可が出たら行ってみようよ」
シド達がこれからどうするかの短期的な予定を立てていると、シドの情報端末に通信が入る。
シドが画面を見ると、キクチからの着信だった。
「はい」
『おう、ちゃんと都市で大人しくしてたみたいだな』
「まあな、だいぶ暇だったけど」
『金なら持ってるんだから、ゆっくりしとけって』
キクチはそういい、以前見たゲッソリした顔よりはマシになった顔に皮肉そうな笑顔を浮かべる。
「んで?俺たちの報酬が決まったのか?」
『まあな、それと、お前等に出す依頼もだ』
「ん?依頼?」
『ああ、まずは報酬の話だ。前回卸してくれた遺物の価格だが6700万コールに決まった。』
バックパック2つ分と考えればかなりの大金だった。
『それと、オートマタの討伐料と残骸の金額が4800万コール。ライトの場所とセキリュティ突破に関する情報料が4500万コール。あの場所で得られた利益の0.1%がお前たちに振り込まれることになった』
「「おお~~~」」
かなりの大判振る舞いに二人のテンションが上がって行く。
『前回の報酬はこんなところだが、問題ないか?』
キクチはそう聞いて来るが、二人に否は無く、その条件で問題ないことを伝える。
『よし。それで、お前たちへの依頼の話だがな。この前ミナギ方面でシドが発見した遺跡があっただろ?あそこの近くでまた遺跡が発見されたんだよ』
「その遺跡の探索か?」
シドは少し嬉しそうな声を出す。あの遺跡での遺物回収から外されたことがあった為、今回は自分も参加できるのかと期待する。
『探索っちゃ探索だな。都市主導の遺跡調査に参加してもらう』
キクチはそういい、情報収集機に詳細データを送信してくる。イデアはそのデータをシドの網膜に表示し、内容を伝えてくる。
<いくつかのチームに分かれていますね。遺跡の奥に進む調査チーム・モンスターの巣が発見された場合の攻撃チーム・一度確保された場所を守る防衛チームの3種類の様です。それぞれ報酬が異なりますね>
『送った資料のチームのどれかに交じって合同で動いてもらう。どこに入るかは1週間以内に決めてくれ。調査開始は1ヶ月後だ』
「わかった。ライトと相談して決めるよ」
『ああ、じゃ連絡待ってるからな』
そういい、キクチは通信を切る。
「遺跡の調査チームか・・・」
「みたいだね。他のワーカー達との共闘って都市防衛戦以来かな?」
ライトもイデアから情報を送られたらしく、内容に目を通したようだった。
「俺はミナギ方面防衛拠点でやったけど、あれは共闘って言っていいのか?」
<ほとんど個人行動でしたからね。最後のタイラントリザード襲来の時も個人行動と言っていいでしょうし>
「タイラントリザード?ってあの時のでっかいトカゲか?」
<はい、ワーカーオフィスからネームドとして登録されています>
「ああ、シドさんの防護服とスナイパーライフルを焼いたってモンスター?」
「ああ。すっげー光線を吐いてきてな。鏡で見たら背中が丸焦げになってたぞ」
<見事に炭化していましたね。回復に1時間35分も要しました>
「・・・・良く動けたね。普通、痛みで動けなくなるんじゃない?」
「まあ、イデアに痛みのコントロールの仕方は習ったからな」
<私の方でも過度な痛覚は麻痺させますので>
「ほんとに便利な体だね・・・」
ライトは呆れたような目でシドを見る。
「ああ、でもお前の料理には耐えられなかったな」
<あれは凄まじい威力でした。今は味覚への干渉も視野に入れて調整しています>
シド達にそういわれ、ライトは赤い顔をしながらふてくされる。
「・・・・もう忘れてよ・・・・今はもうご飯しか炊かないんだから・・・・」
ライトはなぜか料理が壊滅的で、シドを気絶寸前まで追い詰めたのであった。一緒に食べた自分も気絶してしまい、丸一日口と胃が荒れてしまい、何も喉を通らなくなったのである。
「それで、どのチームに配属されるのがいいと思う?」
「う~ん、多分楽なのは防衛チームじゃないかな?他の人が確保した場所を守るだけだから」
<そうですね。しかし、変化には乏しいでしょう。シドが何かしらのトラブルを引き込まない限りは>
「いや、俺がトラブルを引き寄せてる訳じゃないからな?!」
<しかし、フラグは立てますし的中率も非常に高いです>
「そうだね、都市防衛戦の時もそうだったし・・・」
イデアとライトが過去の事象について突っ込んでくる。
「たまたまだろうが!・・・まあいい、後は調査と攻撃か・・・報酬が一番高いのは調査だよな」
シドは依頼内容を再度確認し、一番報酬が高い項目をいう。
「でもランク35以上のチームってなってるからボク達は受けられないね」
一番危険度が高く、経験を問われる調査チームは必然と高ランクワーカー向けになっていた。
<実力的には問題ないと思われますが、ワーカーオフィスの判断から著しく外れた依頼を受けるのは問題ですね>
「それなら攻撃チームもだろ?平均ランク25以上って事は俺達は省かれる」
「そうなると防衛しか残ってないよね?」
「なんでキクチはこの中から選ばせようとしたんだ?実質一択だろ?」
<わかりません。彼はなにか思惑があるのでは?>
「なら真ん中の攻撃隊を志望したらいいんじゃない?大量のモンスターと戦う可能性は出てくるけどシドさんの殲滅力なら問題ないよね?」
<そうですね、あの辺りのモンスターなら問題なく対処できるでしょう。しかし、ライトの銃は買い替える必要があると考えます>
イデアがライトのG-MK330では力不足と判断したようだった。
「そうなの?」
ライトは今まで特に不満に思っていなかった為、問題ないのでは思っていたようだった。
「ああ、機械系の比率が多いんだよ。生物系でも表面が金属でカバーされてるヤツとか出てくるし、浅層基準の火力だとちょっとキツかもな。俺は連射と弾頭選択で戦ったけど、ライトの銃って連射もそこまで早くないし弾頭も2種だけだろ?」
<あの辺りで発見された遺跡となると地下の可能性が高いです。閉鎖空間でG-MK330は大き過ぎて取り回しが困難な場所があるかもしれません>
「なるほど、お金も入ったし買い替えようかな」
「それがいいな、あとバックパックも買い替えないか?ちょっと大きすぎて嵩張るだろ?弾薬カートリッジも防護服に直接つけた方が良いと思うことあるし」
シドは中層での戦闘の際、高速戦闘を行う時はバックパックが邪魔になることがあった。その為、収納部が拡張式になっている物があればそれに買い替えたいと考えた様だった。
「そうだね、ミスカさんの所で相談してみようか」
「おう、装備を買ったらファーレン遺跡の中層で三ツ星重工跡地を探しながら訓練って形でいいんじゃないか?キクチの依頼まで1ヶ月あるんだし」
<そのプランで良いと思います。早速行きますか?>
「そうだな、ミスカさんに連絡とって向かおう」
シドは直ぐにミスカに連絡を入れ、ミスカ達のトラックに向けて出発した。




