シドVSバウンサー 2 それとキクチの苦悩
シドは遺物を強奪しようとしてきたワーカー達を全滅させる。
<コイツらって、これだけなのか?>
<わかりません。他にも仲間がいる可能性はあります>
<そうだよな~・・・!>
シドの感覚がこちらに向かって飛んで来るものを感知する。体をズラし避けると、目の前を弾丸が通り過ぎていった。
シドは撃たれた方向を見ると、ビルの3階からこちらを狙っている狙撃手が見える。シドは索敵範囲を広げ、辺りの感知を始めると、こちらに向かってくる人の気配が多数感じられた。
<28名です。逃げますか?シドの速度なら問題なく振り切れますが>
<いや、こういう奴等ってしつこいからな。ここで徹底的にやる>
<承知しました>
イデアは先程と同じように、全員にターゲットマークを表示させた。
まずはあの狙撃手だな、とシドは地面を蹴り、ビルに向かって滑るように接近した。狙撃手は窓から顔を引っ込め、撤退しようとするが、シドは弾頭をPN弾頭に変更し、壁と床を貫通させて男を狙い撃つ。
シドの感覚から男の胴体に命中した事を確認し、こちらに向かって来ている連中を迎撃する為、再度瓦礫の隙間に身を滑りこませる。
後から集まってきた者たちはシドに向かって銃撃を開始し、シドはそれらを躱しながら反撃を行っていく。
続々と集まって来る襲撃者たちだったが、先頭を走っていた者たちは例外なくシドに撃たれ絶命していき、その光景を見た者たちはある程度固まって攻撃することにした様だ。
幾つかのグループに分かれ、シドの居る方向に銃撃を行ってくる。しかし、人間離れした速度で動くシドを捉えきることが出来ず、シドの反撃を受けて次々と吹き飛んでいく。
「おい!なんなんだよ、あいつは!」
「知るか!いいから撃て!」
防御に特化したパワードスーツを着込んだ男たちが複数で他の者の盾となり、シドに攻撃を加える。
かなり、高出力のエネルギーシールドを発生させているらしく、シドのS200といえども貫通は難しかった。弾丸を当てればよろけはするが、決定的なダメージを与えられない。
「嘘だろ!このエネルギーシールドを超えて衝撃が伝わって来るぞ!何と戦うつもりで遺跡にきてんだよ!」
「慌てるな!この防護服なら抜かれない!落ち着いて狙い撃て!!」
中には冷静に指示を出せる者もいるらしく、的確に指示を出し攻撃を行ってくる。
シドはその攻撃をかわしながら反撃を行う。
<チッ、ライトもそうだけど、敵の指示が的確だと途端にやりにくくなるな>
<指揮官が優秀なチームは強力ですからね。PN弾頭でもSH弾頭でも貫けないとなると、その双剣の出番でしょう>
シドは指示を出す男を狙って撃ってみるが盾代わりに立つ男たちに防がれ、なかなか攻撃を当てることが出来なかった。
<この剣なら斬れるのか?>
<はい、エネルギーシールドであろうとも関係なく切れる様に調整しましたので>
いつの間に?と思わないでもないが、シドは右手に持っていたS200をホルスターに仕舞い、剣と持ち替える。
時間をさらに圧縮し、盾になっている男の一人に向かって突っ込んでいく。
シドの動きに気づいた男はシドに照準を合わせようとしたが、シドに持っている銃を撃たれよろけてしまう。
その体勢からもう一度シドを狙う時間は無かった。
ほぼ一瞬でシドは男に肉薄し、剣で男の首を斬り飛ばす。
5人いた盾役の一人が無力化し、壁に穴が開いてしまう。
その隙間を狙ってシドは司令塔と思わしき男に狙いを定めS200を連射した。至近距離から放たれた弾丸は庇われていた者たちを血煙に変え、反対側にいた盾役の男の背中にも当たり、パワードスーツを貫通する。
<なるほど、シールドを正面に集中させてるから背面は弱い訳か>
<その様です。もう彼らを守る盾は瓦解しました>
シドはそこから剣の間合いにいる者は剣で、外に居る者はS200で攻撃し、あっという間に5人全ての盾役を無力化する。
後は僅かにいる生き残りを始末するだけだった。
「降参だ!」
一人がそう叫び、銃を放り投げる。
その男は司令塔を担っていた男で、シドの銃撃から逃れていたようだった。
「降参する!もう攻撃しないでくれ!」
再び叫び、生き残った者たちにも銃を手放させる。シドは警戒しながらも、一応は銃を降ろした。
「・・・・降参ね。襲ってきたのに虫のいい話じゃないか?」
シドはそういい、男に話しかける。
「・・・どういうことだ?」
男は両手を上げながらシドに聞き返してくる。
「胸のそのマーク。そいつを付けてるヤツが俺に遺物を寄越せって言ってきたんだよ。断ったら撃って来たんで反撃した。そしたら、後からお前らがやって来てこうなったって訳だ」
(クソ!あのバカ共が!こんなバケモノに手―出しやがって!)
男は苦い顔で考える。自分の部下たちは一歩間違えればただのならず者だ。力関係を教え込み、訓練を付けて隊として行動できるようにしてきたのだ。話の盗賊紛いの事をやっている事も知っていた。
しかし、今ここでその事を話せば確実に殺されるだろう。
「・・・・話は分かった。謝罪する。お前に対する襲撃は俺の意思じゃない」
「それでも、お前は俺を攻撃してきたんだ。ごめんなさいで済む話じゃない」
「俺は仲間から救難信号が出たから駆け付けただけだ。仲間と戦ってるヤツがいたら攻撃するだろう?」
「そうだろうな。とはいえ、元の原因はお前たちの方にある。俺が降伏を受け入れる気になる話をしろ」
「・・・わかった。金を払う。ワーカーとしては順当な落としどころだろう?」
「なるほど、そうだな。いくら払う?」
シドから話が通りそうな雰囲気を感じ、男は周りを見渡して金額を言う。
「5000万コール。生き残ったヤツ1人1000万コールだ」
なかなかの大金だったが、コイツ等がシドと別れた後に支払う保証はない。
「金額はそれでいい。で?どうやって払う?というか、払う保証をどうやって行う気だ?」
男はゆっくりと懐に手を入れ自分のワーカーライセンスを取り出し、シドに投げてよこす。
「それを持ってワーカーオフィスに行け。バウンサーのダミアンとの契約があると言えば手続してくれる」
そういい、自分の情報端末を取り出し、操作をした後画面をシドに見せてくる。
シドは近寄ることなく視点を合わせ、画面の内容を確認した。
そこには、ワーカーオフィスへの依頼で自分のライセンスを届けた者に5000万コール支払うという依頼を出していた。
「・・・・いいだろう。契約成立だ」
シドはそういい、彼らの武器に一発ずつ弾丸を撃ち込みその場を立ち去る。
その場に残ったダミアンは直ぐに周囲の仲間の状態を確認させ、怪我があるものは治療を開始させる。
一人でも多くのメンバーが都市に帰れるように。
その後、ダミアンたちは丸腰の状態で遺跡を抜け2人の死者と1人の重傷者を出した。その男は病院にまで持つことなく息を引き取り、総勢39名のワーカーチーム バウンサーは2名を残し壊滅することになった。
「とまあ、こんな感じだな」
シドはキクチにバウンサーと戦った理由とバウンサーのリーダーであろうダミアンのライセンスを渡した。
話を聞いたキクチは頭痛のする頭を押さえ、バウンサーから話を聞き、矛盾が無いか確認しなければと考える。
「一応、アイツ等との会話のデータだ」
そういい、シドがメモリーを渡してくる。
キクチが確認すると、その中にはシドの話と同じ内容の会話が録音されていた。
「・・・・ひとまずはわかった。オフィスの依頼とこのライセンスの依頼の報酬は後で振り込んでおく・・・ご苦労だった」
「ん・・・なんていうか・・・あんまり無理すんなよ?」
シドはそういい、キクチは無言で頷いてシドの退室を促す。
シドもそれに従い、ライト達がいるフードコートへと急いだ。
キクチ視点
キクチはシドが出ていった会議室に一人、シドの事を考える。
シドの成長率はハッキリ言って異常だ。
15・6の少年が何の支援もなく、ランク10に到達すると言う事自体が本来ならあり得ない。
遺跡とは旧文明の防衛機構が守っている要塞の様な物。そのなかに少年が一人で入り、遺物を持って帰ると言う事がどれだけ難しい事か。
初めてシドが買い取り窓口に現れた時も、他のワーカーのおこぼれ等を偶然見つけて持ち込んだと思ったくらいなのだ。
しかし、シドはそれから何度も遺跡に行き、遺物を持ち帰ってきている。常時討伐依頼の履歴を見ても活動当初からランク10以上の成果をたたき出しているのだ。シド自身も身体拡張者であると言っているが、500万コール程度であたふたする少年が数千万コールは確実に必要な身体拡張処置を施されている事がそもそもおかしい。
(あいつには何かあると思っていたが・・・)
キクチはシドの戦歴を表示させ、改めて内容を確認する。
最初に目についたのはスタンピードからの都市防衛戦だ。ランク1桁のシドが防衛戦に参加し3桁後半のモンスター数を討伐、その中にはネームドまで入っている。
その後のランク調整依頼での治安維持任務。集団駆除の任務では一個集団内では常にトップの撃破率を誇り、たった1週間で単独遊撃を任される。その間の戦歴には小型・中型・大型、さまざまなモンスターの討伐履歴が確認されている。
キクチは知らなかったが、未知の遺跡に落下し、数日行方不明になるが生還。その遺跡を都市に報告し、多大な利益をもたらし貢献した。
その後発生した、大型モンスターと小型モンスターの群れの襲来、その防衛戦ではまさかの4桁討伐を行い拠点防衛に成功し都市に帰還。
ワーカーランクを11から24へと大幅に向上させる。
養成所の訓練生の訓練を行い2週間程度という短い期間で遺跡での活動が可能になるほどに鍛え上げ、彼らも十全にワーカーとして働ける実力を付けたと証明できる結果を残す。
挙句の果てには、対人能力が高いと評価を受けていたワーカーチームを一人で壊滅状態に追い込む戦闘能力の高さ。
シドも瀕死の重傷を負っているならまだ納得もできるが、見た所ほぼ無傷で40人近いワーカーを殲滅している。
(この内容をワーカー登録8ヶ月程度の新人が行った?あり得ない。10年単位で活動している者でも可能な者など何人いる?)
今の所シドの事はキクチの所で止めている。
しかし、今回のワーカーチーム殲滅の報告は止めようがない。オフィス上層部がシドの事を認知するのは時間の問題だった。
あまりに不自然な経歴と戦歴に、シドに対する調査が行われるのほぼ確定的であり、自分もその調査に巻き込まれるであろうことは簡単に予想できる。
これが防壁内で育ち、養成所を卒業したワーカーならまだ良かったのだが、シドは第三区画出身だ。
ダゴラ都市ではワーカーランクが多少上がろうとも、出身がスラムと言うだけで偏見の目に晒される。シド自身もスラム街での倫理観が抜けておらず、やられたらやり返すを基本行動にしている節がある。そして、それを行える実力も兼ね備えているのだ。
防壁内出身の偏重意識の高いワーカーギルドと衝突する可能性は非常に高い。
その辺りの調整はライトに任せる予定だった。
養成所でワーカーの常識や、社交能力を身に付けさせ、シドと比べて能力が劣る者を側に置けば、慎重に行動するようになると考えていたのだが、ストッパーになるはずのライト自身もまた普通の存在ではなかった。
これではストッパーどころかブースターになりかねない。
(これは注意深く見ていないと大惨事になりかねないな・・・)
キクチは頭を悩ませる。出来る事ならシドの担当から外れたいと思うのだが、もし、シドの危険性を理解していない者が担当になれば、火薬庫の横にガソリンスタンドを建てる様な物だ。
少しの火種で一気に辺り一面吹き飛ばす様なことになりかねなかった。
キクチの頭の中では、今回のシドとライト達の報告書、養成所への対応、バウンサーへの対応、ミナギ方面から上がって来る報告のまとめ等、様々な事に考えを巡らせる。
(これ、全部俺がやらないとダメなのか?)
誰も居ない会議室で頭を抱え、テーブルに突っ伏すキクチだった。
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