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スラムバレット  作者: 穴掘りモグラ
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ライトの新しい防護服  キれるミスカとシブサワ

シドとライトが布系の遺物の換金を終わらせ、ワーカーオフィス出張所のフードコートでタカヤとユキを待っていた。

しばらく待っていると、2人がワーカーオフィスに入って来るのが見える。

ライトが2人に呼びかけ、4人でテーブルを囲み料理を注文する。

「二人共見違えたね」

ライトが2人の恰好をそう評価した。タカヤは銃を2丁と防護服を購入しており、ハンター寄りの装備に、ユキは防護服と情報収集機に予算を振り分けた様で、銃はアサルトライフル1丁を装備していた。


「おう、結構使っちまったけど、この装備なら遺跡探索でも生きて帰って来れそうだぜ」

タカヤはアサルトライフルとMKライフルを購入したようでご機嫌の様子だった。ユキは薄手で体の形に添う防護服の上にもう一枚防護服を羽織る形にした様だ。情報収集機もグレードアップしてあり、浅層に出現するモンスターなら全て敵の射程に入る前に発見出来るだけの索敵範囲を持つ物を購入していた。

タカヤはモンスター討伐の確実性を、ユキは敵性反応発見の確実性を重視して向上させたようだ。

「これも遺跡に行った経験から選んだんだ。やっぱり、それぞれの役割に特化した方がいいと思ってね」

「いいんじゃない?パートナー同士で動くんならその方が絶対いいよ」

「・・・・・・・」

シドは二人の装備を見て何か思うところでもあるのか、じっと二人を観察していた。

その視線に気づいたライトはシドに質問する。

「シドさんは二人の装備、何か気になる点があるの?」

「ん?いや、いい装備とバランスだと思うよ?・・・いや、なんかな・・・」

「なに?」

「お前ら3人ってさ・・・・・これ以上養成所に居る必要有るのか?」

シドの疑問はもっともだった。防壁内でワーカーランク10のライセンスを発行されるには養成所を卒業することが絶対条件であり、これはワーカーとしての最低限の能力があると認められた証となるのだが、ライセンスを取得するだけならこの出張所で登録すればランク1のライセンスは発行されるのだ。

ランク10のライセンスが欲しい理由は防壁内に入り、高レベルの装備を手に入れる為と言うのが大きい。

その為に第三区画のワーカー達は命懸けで遺跡に向かい、遺物を探しランク上げに邁進するのだった。


しかし、先に語った内容はこの3人には当てはまらない。

タカヤとユキは元々第二区画の人間で、ランクに関係なく防壁内に入っていける。ワーカーの能力としても養成所で教わる事はないとイデアのお墨付きだ。

そしてライトの場合はもっと必要ない。座学や情報収集機の扱い方などは、もう習得済みである為、後は実地で学んでいくしかないし、ランク1から始めた所で、シドと行動していれば1・2週間でランク10など簡単に超えてくるだろう事は確実だった。

「このまま、昨日と同じように活動していけば卒業するより早くランク10になれると思うんだが?」

そうシドがいい、3人はそれもそうだと思ってしまう。しかし、一度入った養成所を自主退学するのも何か気が引ける。そのような心境だった。

そうこう話しているうちに料理が届き、各々食べながら今後の事を考えてみる。

全員が食べ終わり、シドはもう一度話をする。

「なんだったらキクチに聞いてみるか?アイツなら的確な意見をくれると思うんだけどな」

「それはいいね、ちょっと聞いてもらえるかな?」

ライトがシドの案に賛成し、シドは情報端末を取り出してキクチに連絡を入れる。

『なんだ?』

相変わらず直ぐに通信を繋げるキクチ。

「ああ、度々悪い。ちょっとライト達について相談があってさ」

『・・・・今お前らどこにいる?』

キクチがシド達の所在を聞いて来る。

「ん?出張所のフードコートにいるぞ」

『わかった。俺も直ぐに行くから、第三会議室に行ってくれ。総合受付に聞いたら案内してもらうように通していく』

「わかった」

そういい、キクチは通信を切る。

シドはキクチの対応に少し疑問に思い、首をかしげる。

「なんかキクチがこっちに来るってよ。第三会議室に行って待ってろって言われた」

シドは先ほどの会話の内容を皆に伝える。

「?本部の総務所属の人がわざわざこっちまで来るの?」

ライトも不思議そうにそういった。

「ああ、なんだろうな?お前らなんかやったのか?」

シドは3人を見てそういうが、3人は知らないとばかりに首を横に振る。

「ま、とりあえず第三会議室に行ってみるか。総合受付に行ったら連れて行ってくれるみたいだからな」

シドはそういい席を立つ。ライト達3人もそれに続き、全員で総合受付に第三会議室の事を尋ねた。

「はい、伺っております。こちらにどうぞ」

受付に立っていた女性職員がシド達を先導し、エレベーターに乗って上の階に上がって行く。

「こちらでお待ちください」

そう言われ入った部屋でシド達は椅子に座り、キクチの到着を待つ。


暫く待っていると扉が開きキクチが部屋に入ってくる。

「おう、待たせたな」

「いや、わざわざ悪いな」

シドはそう返しキクチと話を始める。

「今回の相談なんだけどさ、こいつら3人ってこれ以上養成所に所属する必要があるのか?って話なんだよ」

シドから端的に話を聞いたキクチは少し考え答えを言う。

「無いだろうな。ライトは言わずもがなだし、タカヤとユキもすでに実戦を経験して遺跡から遺物を持って帰って来てる。これ以上、養成所で学ぶことは無いと言えるな」

キクチの話を聞き、シドはやっぱりと言った表情を浮かべる。

「ここでワーカー登録を行えばランク1からになるが、登録は可能だ。規則上実力があってもランク10からの開始は出来ないが、昨日お前が持ってきた遺物の質を見るにランク10には直ぐ到達できるだろうからな。それに、今の遺跡は敵影が濃い、常時討伐依頼を受けてモンスター討伐をしているだけでも1ヶ月は掛からないだろう」

その言葉を聞き、タカヤとユキも養成所に戻るメリットを感じなくなってきた。

「それに、お前たちは養成所に戻らない方がいいと思う」

キクチはそう言ってくる。

「ん?どういう事だ?」

「まず、ライトが病院送りにした天覇から派遣されていた訓練生が復帰した」

その言葉を聞き、ライトが

「ああ、さっきアパレルショップでその内の2人を見たよ」

シドと遺物を売りに行った際、そのメンバーの内の2人を見たことを告げる。

タカヤとユキはその話を聞き、少し嫌そうな顔をする。ライトと一緒に居た二人も、天覇組にはいい感情を持っていなかった。

「今回の件に関して天覇から養成所にクレームが入ったらしくてな、ライト達に対する当たりがきつくなる可能性がある。それとだな・・・・」

キクチが少し言葉を濁し、言いよどむ。

「なんだよ、他にも何かあるのか?」

シドが他にどんな面倒ごとがあるのかと思っていると

「お前のせいだよ」

キクチはそういい、シドをジト目で睨む。

「ん?俺?」

「そうだよ、ライト達の事は任せろって言ってたけどな。訓練と称して遺跡に連れて行くってどうゆう神経してんだ?それは訓練とは言わないだろう?」

キクチはそういい、シドを見た。

「いや、何言ってんだ?現場を知らずに訓練も何も無いだろう?」

シドは自分の感覚に合わせそう反論する。

「あのな、養成所は遺跡を探索する基礎を作るためにあるんだよ。遺跡で活動できるようになったら卒業するんだ。それなのにお前は養成所の訓練生を連れて遺跡で遺物まで持って帰らせた。もう卒業してもいいレベルまで鍛えられたって事だろうが、養成所にもその情報は伝わってる。今さらライト達が養成所に戻っても持て余すだけだ」

「いや、ライトはともかく、タカヤとユキはまだまだ危なっかしいぞ?今日稼いだ金で装備を整えてマシになったけどさ、ユキなんか最初の探索でクラブキャノンの狙撃で死にかけたんだからな」

シドがそう反論し、ユキはその時の状況を思い出し、少し顔を固めた。

「クラブキャノン?!お前そんな奥に新人を連れて行ったのか?!」

キクチは驚き、少々声が大きくなる。

「ん?何言ってんだ?今は浅層でもクラブキャノンは出てくるぞ。俺が見ていない状況でライトが弾丸の迎撃に失敗してたら、ユキは行動不能なダメージを受けてたはずだ」

キクチはさらに驚き、ライト達に確認を取る。

「おい、シドの言っていることは本当か?ファーレン遺跡の浅層にクラブキャノンが出てくるのか?」

キクチにそう聞かれ、ライトが代表して答える。

「はい、遺跡の外周部からだいたい4km地点くらいで攻撃を受けました」

ライトが言う地点は十分に浅層と言える地点だった。

スタンピート後、遺跡内でのモンスターの分布が変わり、浅層を主に探索する低ランクのワーカー達が遺跡に行き渋る状況が発生していたため、ワーカーオフィスはこれらの情報の取得を出来ていなかった。それに、データでは無く、口頭での報告の信憑性に疑問も持ちやすいオフィスの体質がさらに災いしている。

「・・・・そいつは撃破したのか?」

「はい、ボクが倒しました」

「そのデータがあったら譲ってほしい・・・」

キクチがそうライトに真剣な目を向ける。

「はい、大丈夫です」

ライトはそういい、その時の戦闘データをキクチに送信する。キクチは受け取ったデータを確認し、頭を抱えることになった。

「・・・・・本当に浅層にクラブキャノンが出現するのか・・・それに、モンスターの弾丸を自分で撃った弾丸で迎撃するってどうなってんだ???」

ライトが取っておいた戦闘データには、ユキがクラブキャノンに狙撃されライトが迎撃した時のデータも含まれていた。

「ん~・・・シドさんに当てるより簡単ですよ?」

それは飛んで来る弾丸は幾ら速くても直線的に飛んで来るからだ。シドの様にその辺りで跳ねまわったり空中で回避運動をしたりしない。ライトの言葉を聞いたタカヤとユキの二人も、なるほどと言った顔をする。

「いやおかしい・・・こんなことランク30のハンターでもやらないぞ・・・そんで、お前ら二人、あ、そうかって顔してんじゃねー」

キクチはタカヤとユキにも突っ込みを入れる。

「まさかお前たちまで出来るなんて言わねーよな?」

キクチは恐る恐るタカヤとユキに質問する。

「いや、俺たちはそんなこと出来ないですよ」

「はい、気づいてたらなんとか避けられるかもって位です」

ユキの発言も中々に異常だった。本来、銃撃というのは撃たれる前に気づき射線から逃れることで回避するものだ。撃たれた弾丸に気づき回避するなんて芸当は高ランクハンターでなければ難しい。

「・・・おいシド、この2週間の間、お前等何やってたんだ?」

「そりゃー訓練に決まってるだろ?荷物を持って瓦礫を乗り越えたり、俺と撃ち合って戦闘勘を養ったりだな」

「たった2週間で効果なんかでるものか?ちょっと心肺機能が向上するくらいだろう?」

「その辺りは秘密だ。タカヤとユキはそこそこ体は出来上がってたからな。そんなに時間は掛からなかったから、戦闘訓練の時間も長めにとれたし、2週間でも練度を高められたぞ?」

キクチはシドの言っていることが良くわからなかった。たった2週間で練度を高められるものか?と疑問しかない。

旧文明製のイデアが考案した訓練内容は、現文明の想定外の効果を発揮している様だ。しかし、誰でもあの訓練に着いてこられるわけでは無い。もし、養成所の訓練生全員にあの訓練を課せば、半数以上は逃げ出す事になるだろう。

「お前等の模擬戦って見られるか?」

キクチはシドの訓練内容が想像できず、実際に見たほうが手っ取り早いとそう提案する。

「構わないけど、昼からちょっと用事があるんだ。その後なら1回くらいなら大丈夫だと思うぞ?」

シドは他の3人に視線を向けライト達に確認を取る。3人も頷き、1回の模擬戦位なら問題ないという事だった。

「キクチの方はこんな急に仕事抜けて大丈夫なのか?荒野まで行くことになるぞ?」

「ああ、問題ない。これも仕事の内だからな」

「なら、さっさと買い物済ませて荒野に行くか。まだゴム弾の在庫も残ってるし、使い切る感じでやろうか」

シドはそういい、席を立つ。

全員腰を上げ、会議室から出ていく。


全員でシドの車に乗り、ミスカ達のトラックまで移動する。すると、トラック後部の扉の所でミスカとガンスが誰かと話しているのが見えた。

シドは車を止め、ミスカ達に挨拶する。

「こんにちは、今日はちょっとライトの装備を・・・」

シドはそこまで言いかけて言葉を止める。

ミスカ達と話していたのは、唐澤重工の営業マンであるシブサワだった。

「あ、シド。まいど~」

「あ~、これはシド様。いつもお世話になっております」

シドに気づいたミスカとシブサワはシドに挨拶を返してくる。しかし、シブサワがまだダゴラ都市に滞在しているとは思わなかった。

「どうも、シブサワさん。まだダゴラ都市に滞在していたんですか?」

シドはそのことをシブサワに質問してみる。

「はい、一度本社の方に戻ったのですが、再度弊社の商品を説明する機会を頂きまして」

「へ~、それは良かったですね」

「はい、これもシド様のお陰です」

シブサワはその様に言い、シドに頭を下げてくる。

<シドさん何やったの?>

その様子にライトは疑問に思う。企業の営業マンが客に頭を下げるのは珍しいことではないが、なにやらそれ以外の物を感じたようだ。

<いや、俺は装備一式を購入しただけなんだけどな>

シドは特別な事は何もしていないとライトに伝える。

「シド達は今日はどないしたん?」

ミスカはシド達の用事を聞いて来る。

「ああ、ライトの装備更新です。何かいい防護服と情報収集機は有りませんか?」

シドはライトの装備を買いに来たと言い、ガンスの方を見る。

ガンスは顎を撫でながら考え、現在の在庫を思い出す。

「う~ん・・・防護服はそれなりの物があるんやけど、情報収集機はないな~」

「そうなんですか、なら防護服だけでもお願いできますか?」

「わかった。ライト、何か要望はあるか?」

「ええっと、今の防護服と違って体に沿う形の方がいいです。今の防護服だと偶に引っかかったりするときがあるので」

「なるほどな、よっしゃ。見繕ったるわ」

ガンスはそういい、トラックの中に入っていく。シド達もガンスに続き、トラックの中に入っていった。

ガンスが商品を選んでいる間、シド達はトラック内の商品を見学させてもらっていた。

「うわ~!この銃とかすごいね!」

ユキは東方地域で開発された銃器に目を輝かせる。タカヤも似たようなもので、ショーケースにへばりついていた。

「すげーな、防壁内では見かけないタイプの銃もたくさんあるぞ!」 

「いいよな~、拠点も手に入れたしさ、少しずつ買い集めて部屋の壁いっぱいに・・・」

「やめてね」

<無駄遣いはやめてください>

シドがいつぞやの妄想の話をし始めると、ライトとイデアの二人から突っ込みがはいる。

「・・・」

その言葉でシュンとするシド。

しばらくするとガンスが防護服を持ってシド達の所までやってくる。

「おう、待たせたな。これがお勧めの防護服や・・・ってなんでシドはしょげとるんや?」

「ああ、おきになさらず」

ライトがサラリとシドの事を流し、ガンスから防護服の説明をうける。

「こいつはミゾノ製 TR-A250っていうてな、着用者の体を自動計測して、最適な形状に変形する機能があるんや。簡易的やけども全身にエネルギーシールドが張れるタイプでな。シールドを貫通されても繊維の硬質化と衝撃分散機能もあるさかい、防御力は今までよりはグーンと上がるはずや。インナーは3着セットになっとるから、まあ、ランク30くらいまではこれで十分やろな」

ガンスはライトの要望どおりの体型に密着するタイプの防護服を持ってきた。タイツの様な服では無く、表面が硬化性質のある繊維で覆われており、エネルギーパックを装着できるポットもある。今着ている防護服より軽く動きやすい上に防御力も上がっている品であった。

「これで幾らです?」

「まけて600万だな」

「・・・・・」

ライトは少し考え込む、この防護服を買えば情報収集機を買うことが出来なくなるだろう。だが、今の情報収集機に不満は少ない。ここはシドと行動することを考えて防御力の上昇を優先するべきだと考えた。

「わかりました。これでお願いします」

ライトはTR-A250の購入を決め、試着させてもらう。防護服を着用し、起動スイッチを押せば、一瞬で体に密着する。エネルギーシールドの発生は左腕にあるコンソールを使用するようだが、情報収集機と連動できるタイプの様で、あとで設定を行えば、ライトの意志に合わせて発生や強弱をコントロールできるようになるようだった。

体を動かしてみて違和感がないことを確認し、ライトは現金での決済を行う。

「まいどどーも。エネルギーパックはシドの防護服と同じやから使いまわせるで」

ガンスは笑顔で現金を受け取り、カウンター奥にしまう。

「次は情報収集機か?」

シドがそうライトに聞いて来るが、ライトの予算はもう450万コール程度しかない。今の情報収集機より性能的に劣るものしか購入できなかった。

「ああ、それは」

「情報収集機でしたら、当社にお任せください」

ライトがそれはいいと言おうとしたとき、今まで黙っていたシブサワが声をかけてくる。

「ええっと・・・」

ライトは断ろうとするがシブサワはさらに被せて商品のPRを行ってくる。

情報単末で製品の立体映像を浮かべ、製品の紹介を行う。

「当社で開発されたIFG‐EX80をおすすめします。リリースは数年前ですが、各種索敵機能での広範囲の索敵からマップ作製、各種ジャミングにも対応でき、旧文明製の端末にアクセスし高度なハッキングが可能な上、情報端末としても非常に優秀です。この機器を使いこなせば様々な情報を瞬時に取得可能になります。見たところライト様は生体マイクロチップを定着されているようですし、こちらの機器とリンクして頂ければすぐにでも使用していただけます」

唐澤重工製らしい機能てんこ盛りの内容だった。

「背中から腰にかけて装着し、使用者の運動を妨げる事の無いよう設計されております。本体の体に密着する部分と装着ベルトにはナノテクノロジーが使用されていて、装着すれば防護服やパワードスーツと一時的に一体化するようになっておりますので、どれだけ激しく動いてもズレたり外れたりはいたしません。こちらもシド様の防護服と同じように北方や東方でご活躍のシーカー様達からご好評を頂いております」

笑顔でそう言いきるシブサワ。企業の営業マンらしく良く回る舌を持っている様だ。

「まてまてまてや!それはあかんやろ!」

シドやライトが何か言う前にミスカが止めに入る。装備の事にガンスでは無くミスカが口を挟んでくるのは珍しかった。

「おや?どうなさいました?」

「それ起動して索敵した瞬間、脳を焼かれて死んだヤツが出たやつやろ!」

安定の唐澤重工、情報収集機すら曰くがあるらしい。ここまで来るとシドは感服してしまう、当然ライトは引いていた。

「え?死んだんですか・・・?」

「そうや、送られてくる情報量が多すぎて脳が処理しきれんと脳死してしもたんや、ウラも取れとる話やから間違いない」

真剣な表情で止めてくるミスカにライトは身震いする。

しかし、シブサワは平然と反論してきた。

「それは中古品を購入し、何も調整していない状態でフルスペックで使用したからです。使用規約にも正規店での調整後にご使用くださいと最初に書いてありますよ」

「いや、マジで死んでるのかよ」

シブサワの反論にシドが突っ込む。規約に書いてあるとかそうゆう問題では無い。製品の安全上どうなのか?と言った話であった。

「ご安心ください。当時の事故を教訓に安全フィルターを設けてあります。過度な情報の流入にブロックを掛け、意識が無くなる前に流入をストップするように設定してあります」

「いやあかん!そっちで商売するのは勝手やけどウチの店で人死にはださせへんぞ!」

なかなかの剣幕で叫ぶミスカ。

「う~む・・・確かに店主の意向を無視して話を進めるのはこちらも不本意です。わかりました、今回のPRは此処までにしましょう。もしご興味があればこちらにご連絡ください」

そういい、シブサワはライトに名刺を渡し、一歩下がる。

「あ、はい。わかりました・・・」

ライトもスッと出された名刺を受け取り、そう返事をする。

「ええっと・・・とりあえず今日の用事は済みましたんで、そろそろお暇しようかと」

ライトがそういい、4人はミスカ達のトラックから出て、シドの車に乗りこみ模擬戦を行うため荒野へ向かっていった。



ミスカ視点


ミスカとガンスはシブサワとさきほどの事を話していた。

「あんたな~、ウチの店を通せばここでも商品PRしてもええって言うたけど、あの製品はあかんやろ!」

ミスカは自分達の店を贔屓にしてくれている客に、正規のルートで販売されていないとはいえ、死人が出た商品をすすめた事にまだ腹の虫が収まらなかった。

「私としましてはライト様にピッタリの商品を紹介したと自負しておりますが」

「どこがやねん!」

反省する様子の無いシブサワにミスカはさらにヒートアップする。

「まあまあ、落ち着けや。そない怒ってたら話が進まんやろ」

ガンスが一度ミスカを落ち着け、シブサワにあの商品をすすめた訳を聞く。

「なんであの情報収集機がライトに合うって思たんや?」

「彼が使用しているのは、スターレックインダストリー製のハイエンド情報収集機のどれかです。価格帯で言えば700万コール前後といった所でしょうか?本来ならば、ダゴラ都市どころかもっと東方地域でも通用する情報収集機ですね。彼はその機器の性能では満足できていないと判断したからです」

シブサワはライトが所持していた情報収集機の種類をだいたい把握していたようだ。

「せやからってアレはないやろ」

ミスカはまだイライラした様子でシブサワをジト目で睨みつける。

「いいえ、あのクラスの情報収集機は価格帯が多少上昇しても、頑丈さや携帯性が向上するのみで基本性能は種類によって対ジャミング性に違いが出る程度の違いしかありません。スターレックインダストリー社の製品はその中でも索敵やハッキングの性能は南部で活動するには十分な性能を持っていると考えて間違いありません。しかし、彼はさらに上の情報収集機を欲した。ということは、最近、機器の性能に不満を持つ何かしらの要因が発生、その解消の為に新しい情報収集機を求めていると考えるのが普通かと。本来ならば情報収集機の扱い方を習熟する方向になるはずですが、恐らくライト様はあの情報収集機を完璧に使いこなせているのではないか、その上でさらに高性能の機器を欲しているのでは無いかと思ったわけです」

シブサワは自分が先ほどのライトを観察した結論を述べる。

「あの機器の性能を超える物は今のダゴラ都市にはありません。我々のIFG‐EX80を除いては」

「・・・・・」

そういわれ、ミスカも黙るしかなかった。

ガンスも情報収集機の取り扱い自体はしていないが、知識は有る。シブサワの言っている事は本当だった。

「そして、ライト様はIFG‐EX80をフルスペックで使用できるようになるのではと考えています」

「・・・・なんでそう思う?」

ガンスは腕を組みそうシブサワに聞く。

「ライト様が今所有している機器を十全に使いこなすには、長期の特殊訓練で並列思考能力を取得する必要があります。ですが、彼はあの年ですでに使いこなしている様子、となれば・・・」

「はぁ~・・・隔世遺伝者ってやつか・・・」

「そうなりますね」

ここまでの話を聞き、またミスカの目じりが上がって行く。

「あんた・・・この話他所でするんやないで・・・・」

ミスカも隔世遺伝者と広まればその者がどういう扱いを受けるか噂に聞いたことがあった。

「当然です。この様な話、他所に教えるはずがありません。今後とも彼らには当社の製品を愛用していただきたいですからね」

シブサワはこの事を本社にも伝えるつもりは無かった。暫くはダゴラ都市にとどまり、あのチームの動向を注視する事に決め、今からその言い訳を用意する為に頭を回転させ始める。

シブサワの楽しそうな様子を見たミスカは

「あの子らも、けったいなヤツに目~つけられたもんやで・・・」

そう溜息を吐いた。


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シブサワさん、凄い観察眼とキレる頭脳!www
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