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スラムバレット  作者: 穴掘りモグラ
45/217

遺物の売り先

ビルの地下から脱出し、またビルの先導で車まで戻っていく。

ビルのモンスターを避ける技術は本物で、今日は一回も戦闘が発生しなかった。

<この技術は素晴らしいですね。ユキの索敵結果と合わせても驚異的と言わざるを得ません>

<そうだな、未知の遺跡を探索する時は参考にさせてもらうか>

<そうだね。ボク達の索敵を掻い潜るモンスターも出てくるかもしれないし>

<一朝一夕で出来る事ではないと思います。二人共精進してください>


5人は車まで戻り、都市に帰るため車を走らせる。タカヤとユキは集めた遺物の代金でどんな装備を買おうかと話に花を咲かせてあり、ビルは今までで最高収入になるであろうバックパックを大事そうに抱えていた。

「ビルはワーカーオフィスに納品するんだろ?」

シドはビルに話しかける。

「ああ、これで俺も壁越えだろうからな」

そう言うビルの顔にはうっすらと笑顔が浮かんでいた。

「あ、そうなんですね!おめでとうございます!」

話が聞こえていたユキは祝福の言葉をビルに投げた。

「ああ、ありがとう。これで俺も一端のワーカーを名乗れるようになるな」

ビルは数年間、地べたを這いずり回ってランクを上げてきた。シドとは違いその喜びはひとしおだろう。

そう皆で話している時にシドの情報端末に通信が入る。

シドは情報端末に目を向け通信を送って来た相手を確認すると、そこにはミスカの名前が表示されていた。

「はい、どうしたんですか?」

シドはミスカとの通信を繋げ、用件を聞く。

『あ~、シド。無事に探索は終わったん?』

「はい、今そっちに向かっている所です」

シドは無事に探索を終え、遺物の換金に向かっている事をミスカに伝える。

『そうか~、無事でなにより。・・・んでな、遺物の換金の事なんやけど。ちょーっとウチじゃ厳しくなってん』

「え?そうなんですか?」

『そうなんよ、前回に続いてシドがまた売ってくれたやろ?それがワーカーオフィスと都市に目~つけられてな。今回はもう遺物の買い取り禁止されてしもてん』

ミスカはワーカーオフィスと都市から遺物の買い取りの禁止を言い渡されていた。前回もシドが高価な遺物を大量にミスカに売り、それをミスカが他都市で売った事が都市に知られていたのだった。

今回もシドはワーカーオフィスでは無く、ミスカの所に遺物も持ち込んだため、また大量の遺物が他所に流れる事を警戒した都市が、ミスカへ買い取り禁止の令を出したのだった。

「あ~、なるほど・・・わかりました。今回はワーカーオフィスに持ち込むことにします」

『ごめんな~。弾薬とか回復薬の販売は問題ないからまた来たってや』

「はい、わかりました」

シドは通信を切り、事情を皆に説明する。

「ボクはワーカーオフィスでもいいよ。ランクは上がらないだろうけどそれは別にいいし」

「私も」「俺も」

全員の了解を取り、とりあえずワーカーオフィスに着く前に担当者のキクチに連絡を入れてみる。

『おうシド。なにかあったのか?』

キクチは直ぐに通信にでて用件を聞いてくる。

「ああ、今遺跡からの帰りでさ。遺物の買い取りをして貰おうと思って」

シドが用件を伝え、今ワーカーオフィスに向かっていると伝える。

『おお!そうか、歓迎するぜ』

「それでさ、ライトと他に養成所の訓練生2人も遺物を取って来たんだ。それの買い取りも頼むよ」

シドはライトとタカヤとユキも遺物を持っている事を伝えた。

『・・・・・・ああ~・・・それってタカヤとユキって名前か?』

「そうだけど?」

『ん~~、それはちとマズいな・・・』

「どういうことだ?」

シドは怪訝な表情を浮かべキクチを問いただす。

『そいつらって今謹慎中だろ?外出自体は認められてるが、遺跡にいって遺物を取って来るってのは些か問題があるんだよ』

そういや、ライト達って謹慎中だったなとシドは思い出す。

「自主訓練の成果だって事にはならないか?」

『遺跡に行って遺物を取って来るってのは訓練じゃ無く実戦って言うんだよ。養成所はライセンスを取るまでは遺跡に行くこと自体禁止してるんだからな』

キクチの口から聞いたことがない規則が飛び出し、ついライトも口を挟んでしまう。

「そんな規則、禁止事項の中にはありませんでしたよ?」

『それは書くまでもないからだ。養成所に入るのは大体が防壁内の人間だ。そこの連中が訓練生の段階で遺跡に入って遺物を取って来るって発想にそもそもならないんだよ。だから明文化されてない。規則として謳っている訳じゃないから、違反しても罰則は無いが快くは思われない』

キクチの言う事ももっともだった。防壁内の人間にしては行動的な方のタカヤとユキも遺跡どころか荒野にも出たことが無かったのだから。

普通は養成所を卒業し、ギルドに所属して教育係と一緒に遺跡デビューするのがセオリーだった。

『そんな訳でだ、シドの分は問題無いがライト達の遺物は買い取ると角が立っちまう。どうしてもって話なら買い取ることはできるが、養成所内での評価は確実に下がるぞ』

キクチにそう言われ、ライトは口を噤む。後ろでキクチの話を聞いていたタカヤとユキも肩を落として気落ちしていた。

「わかった。そういう事なら俺の分だけ買い取ってくれ」

『いいんだな?』

「ああ、大丈夫だ。あともう少しで着くからよろしくな」

そういい、シドは通信を切る。

「シドさん、私たちの遺物ってどうしたらいいんですか?」

ユキは心配そうに自分のバックパックに目を向けながらそういう。

「安心しろよ、他にも売り先はあるからな」

シドはそういい、ワーカーオフィスに向けて車を走らせ続ける。

「・・・他の商人に心当たりがあるってことか?」

タカヤがそう質問する。

「いや、ライトの古巣だよ」

シドがそういい、ライトが驚いて声を上げる。

「え?!ドーマファミリー?!」

「そうだ、ライトの身柄を渡して貰いに行った時に、自分達で遺物の販売所を計画しているって話をしてたからな。問題なく換金できるだろ」

シドはライトの所属を解除してもらいにドーマファミリーまで話し合い(殴り込み)に行った時、ドーマファミリーのボス、ルインがそう言っていたのを覚えていたのだった。

「販売店の話がぽしゃってなかったら大丈夫だろう」

タカヤとユキは不安になり、ライトの方を向く。ライトも大丈夫かと心配そうな顔でシドの顔を見ていた。

「なんだよ、心配すんなって。俺があいつ等にどうこうされるわけないだろ?」

シドは訝し気にライトにいう。

「いや、シドさんがファミリーを皆殺しにしないか心配で・・・中にはいい人もいるんだよ?」

ライトはシドがファミリーで暴れないかが心配だったようだ。シドは片目を吊り上げ、ライトの頬を摘み上に持ち上げる。

「お前は俺をなんだと思ってんだ??遺物の換金に行ってその組織を皆殺しにして来るような物騒な人間に見えるってのか?」

まだまだ少年の域を出ず、栄養環境も改善したライトの頬は柔らかく、シドが思っていたよりも良く伸びた。

(こいつの頬、結構伸びるな)

そう思いながらシドはライトの頬の限界に挑戦する。

「いふぁい いふぁい いふぁい!千切れる!」

ライトから泣きが入りシドは手を放す。

「・・ひどい」

ライトは涙目で頬を摩った。

「失礼な事を言うからだ」

(((いや、この人ならやりかねない)))(こいつならやりかねんな)

シド以外の4人の心は一致していた。

「安心しろよ、キッチリ換金してくるから」




シド達はワーカーオフィスの出張所に到着し、シドとビルだけが車を降りる。

「んじゃ行ってくるからお前らは待っててくれ」

そういい、二人はオフィスの中に入って行った。


シドとビルは買い取りカウンターの方へ歩いていく。カウンターには数人の職員が立っており、その中にキクチも混ざっていた。

「おーい、シド、こっちだ」

キクチはシドに気づき手招きをする。ビルは呼ばれていない為、自分の遺物を買って貰うため、別の職員の所に行った。

「なんでキクチがここにいるんだ?」

「そりゃーお前の対応をする為だ。本部じゃ無く出張所の方に来るだろうと思って待ってたんだ」

「本部所属がわざわざ来なくても一緒だろ?」

「お前、前にここでトラブルがあったの忘れたのか?あんなことは俺達もゴメンなんだよ。ほれ、持ってきたものを見せろ」

キクチはそういい、シドはバックパックをキクチに渡した。

「・・・・これ全部か?」

「ああ、中身全部だ」

キクチは制服の下に着ている簡易パワードスーツの出力が上がるのを感じ、バックパックの重さが常人では持ち上げるのも困難であることを察する。

「これはまた大量だな」

「あの時みたいな保存状態じゃないぞ。中身がそのまま放置されてたからな」

「査定してくるから少し待ってろ」

そういい、キクチは背後の部屋をバックパックを持って入って行く。シドは手持無沙汰になり、ビルはどうしているかとそちらの方を向いた。

ビルもバックパックを渡し、換金を頼んでいる所だった。ビルを担当している職員も驚いた顔をして重そうにバックパックを持って後ろの部屋に入って行く。

<こう考えるとビルも身体能力は高いみたいだな>

<そうですね、常人にしては力は強いようです。長年過酷なワーカー業を熟してきた賜物でしょう。自分で運べる限界の重量まで持ち帰った様です>

<なるほどな>


しばらく待っているとキクチが戻って来る。

「査定結果はこんなもんだな」

そういい、キクチは端末をシドに見せてくる。そこには580万コールの表示がされていた。

<こんなもんか?>

<そうですね。ミスカの所で売るよりは少し値が下がっていますが、だいたいこれくらいでしょう>

「わかった。ライセンスに振り込んでくれ」

シドはキクチにライセンスを渡し振り込んでもらう。

キクチは笑いながら

「お前ももうこんな金額では驚かなくなったか」

始めてシドが遺物の換金に来たときは500万コールであたふたしていたのだった。

「まあな、この半年チョイで成長したってことだ」

「それにしても早すぎると思うがな」

キクチはからかいの笑顔から苦笑いに変えてそういう。シドのいで立ちは全身、唐澤重工製の装備で固められ、とてもワーカー歴7ヶ月程の新人には見えなかった。

「じゃ、あいつら待たせてるから行くわ」

「ああ・・・・あんまり妙な所には売るなよ・・・」

キクチは声を落とし、そう忠告する。シドが3人の遺物を他所で売り払う事を予想していた。

「ああ、まあ大丈夫だろ」

シドはそういい、ビルに声を掛けた後ワーカーオフィスを後にするのだった。


3人を拠点まで送り、シドはバックパックを3つ持ってスラムのドーマファミリーへ向かっていく。

道中、前にドーマファミリーのボス、ルインと通信コードを交換していた為、ルインに連絡を取り、今から遺物を売りに行くことを連絡する。

ルインの返事は問題なく買い取りできるとのことで、一安心とドーマファミリーのホームに向かって車を走らせるのだった。


ドーマファミリー視点


先程シドからの通信があり、遺物を持ち込むとの連絡があった。

すぐに遺物販売所の責任者であるマインと武力担当のキサラギに連絡を取り、ホームへ招集をかける。


しばらく待っていると二人が部屋までやって来る。


「ボス、急な呼び出しですが何か問題が?」

青み掛かった黒髪をショートヘアーにした長身の女性がルインに聞いてくる。

「マイン、遺物の手配はどの程度進んでいますか?」

ルインにそう言われマインは顔をしかめる。

「難航しています。思っていたより、遺物の集まりが悪いです」

スタンピードの発生から第三区画のワーカー達の活動が弱くなっていたのだった。スタンピードの影響で浅層にも強力なモンスターが出現するという噂が広まり、今外側に出てきているモンスターがある程度討伐されるまで遺跡探索を控える者が多かったのだ。

「なるほど、今シドから遺物を持ち込むと連絡があったわ。私が対応するけど、あなたも出席しなさい」

「!!」

ルインにそう言われ、マインは驚き顔を上げる。

シドとは数カ月前、突然ホームに現れ当時の武力担当幹部を瞬殺した少年だった。今まで全く音沙汰が無かった為、もうこちらに関わって来ることは無いと思っていたが、ここに来て遺物を持ち込んでくるらしい。

マインが進めている販売所にとっては遺物が手に入るチャンスだったが、シド本人と顔を合わせるのは非常に恐ろしかった。

「当然キサラギもです。武力担当としてしっかりお願いしますね」

ルインは笑顔でキサラギにそういう。

キサラギもここに呼ばれ、シドの名前が出た時点でこうなることは予想できた。

始めて対面した時、キサラギはシドに襲い掛かり、顔面の骨が割れるほどの力で殴られ気絶、その後はホームの近くまで引きずって来られたのだった。

ファミリーに保管されていた高価な回復薬を飲ませてもらい回復はしたが、あの時の恐怖は忘れていない。自分の上司であった人間の上半身が消し飛び、壁の染みになった事は今でも鮮明に思い出せる。

お願いしますね、と言われても何をどう対応すれば良いのかわからない。しかし、できませんとも言えず、無言で頭を下げたのだった。

その後、マインは部下に現金を用意させ、キサラギはシドを通す部屋の準備をさせる。

シドは何故か違う部屋に待機させた兵隊の事も正確に把握していた。下手に刺激しない為に、幹部の護衛は2人までとし、自分たちの背後に立たせ他の者たちは部屋には近づかない様に厳命する。

組織の幹部として、この対応はかなり情けないと感じるが、シドの癇に障り暴れられた日にはドーマファミリーは終わる。違反者は追放すると脅しも忘れずにかけ、シドが到着するのを入り口の前で待った。


しばらく待っていると、一台の車が向かってくる。かなり大型で荒野仕様なのは見ればすぐに分かった。

(あいつ、この短期間で荒野仕様の車を買えるようになったのか・・・)

昔キサラギはワーカーを試みたことがあった。しかし、壁越えの厚さに絶望し、組織の戦闘員になったのである。

第三区画出身のワーカーはその多くが壁越えを果たせず2年も経たずに遺跡に消えていく。それを半年ばかりで壁越えどころか車を購入できるようになるまで成り上がっているとは思わなかった。

ワーカーは対人戦闘に長けていればいいというものではない。人より遥かに強力なモンスターを相手に戦う必要がある。体力・精神力が並外れてなければ到底やっていけない職業だ。それをあの15・6の少年が果たしているのが信じられなかった。

車がキサラギの目の前に止まり、黒と茶のカラーリングが施されたその威容に圧倒される。

車からシドが下りてきて、目の前に3つのバックパックを下ろす。

「このバックパック3つ分だ。換金を頼む」

キサラギはシドにそう言われ、想像以上に多い遺物に思考がストップする。

「おい」

シドの声にハッとし、シドを部屋に案内する為声を出す。

「ああ、すまない。買い取りは担当が違ってな。俺はただの出迎えだ、こっちに来てくれ。荷物は部下に運ばせる」

「なんだそうなのか。わかった、でも荷物は自分で運ぶよ」

シドはそういい、バックパックを3つ共持ち上げキサラギの後に続いた。


シドを連れ、ルインとマインが待っている部屋までたどり着く。ノックをし、ボスの許可が出てから扉を開け中に入る。

「ボス、シドを案内してきました」

「ご苦労様です。シドもキサラギも座ってください」

ボスがそういい、キサラギは自分の為に用意された椅子に座る。シドは目の前のテーブルにバックパックを置き、早々に用件について話し出した。

「この中の遺物を全部買い取って欲しい」

マインは驚き目を見開く。シドが持ってきた量は、普通の組織が集めるなら3カ月は掛かる量に相当するだろう。

「承知しました。中を確認しても?」

「ああ大丈夫だ。あ、それから支払いは現金なのと、そのバックパック毎で頼む」

「承知しました。マイン」

ルインがそういい、マインがバックパックに手をかける。しかし、持ち上げることができない。しばらく頑張っていたが、どうやら諦めたようで視線でキサラギに助けを求めてくる。

キサラギは立ち上がり、バックパックを持とうとするが、一番小さい物でも50kgを超えているのでは?と思う重さだった。

(おいおい!マジかよ!)

一番重たいバックパックはキサラギが歯を食いしばり渾身の力を籠めなければ持ち上がらなかった。バックパックをマインの近くに移動させ、中身の確認を任せる。

(こいつ・・・あんな涼しげな顔で3つ共運んできやがったのか)

顔に出ない様、注意しながらも内心では驚愕する。前自分が戦った時、大の大人を十数人運んできのだからこれくらいの力はあったのだろう。だが、普通の人間では考えられない膂力だった。

「この度はありがとうございます。こちらも遺物収集が難航していましてとても助かりました」

「ふーん、まあ俺としてもそっちの計画が潰れてなくて良かったよ」

「それは良かった。しかし、少し質問してもよろしいでしょうか?」

「ああ、答えられることならな」

ルインはこの機会にシドの周辺の情報を集めようとしているようだった。

「シドとワーカーオフィスのいざこざは解消したと聞いていたのですが、なぜこちらに?」

ルインは、シドとワーカーオフィスの仲違いが解決したとの情報を知っており、シドがドーマファミリーに遺物を売りに来る理由が無くなったと思っていた。しかし、今日シドはワーカーオフィスでは無く、アングラな自分たちに遺物を売りに来た。この辺りはしっかり確認しなければと考える。

「ああ、俺の遺物はワーカーオフィスに納品したんだけどな、今養成所に所属してるヤツらの訓練をしてるんだよ。それで遺跡にまで行ったんだが、偶然遺物の山を見つけてな。勿体ないから持ち帰ったんだけど、そいつら今養成所で謹慎扱いになってて、そいつらの遺物をワーカーオフィスが買い取ると問題になるって言われてな」

「そういう事情でしたか・・・」

ルインはそこで少し考える。それならば今ダゴラ都市に滞在している、あの商人の所に持ち込めばいい。だがそれはしなかった。という事は何かしらの事情で商人と取引できない状況であると推察できる。これは後で調べるとして、問題はこの遺物をどう捌くかだった。

マインが確認作業をしているのを横目で見たが、スラムに持ち込まれるにしては状態が良すぎる。機械系の遺物も多数混在しており、闇市で普通に販売すれば他の組織の襲撃を受けかねない量と質だった。

一番小さいバックパックの中身だけで300万コールは下らないだろう。他の大きさのバックパックから同じ質の遺物が出てくれば、用意した資金のほとんどを支払う事になりそうだった。

横目でマインを見れば、後ろ姿がだんだんと震えてきているのが分かった。二つ目のバックパックを確認し終えると、情報単末でどこかにメッセージを飛ばしている様だ。おそらく用意した金額では足りないと判断したようだった。

「こちらとしては、大変助かりました。今の遺跡はこの前のスタンピードの影響でモンスターの分布が変わっているとの噂が広まっていまして、第三区画のワーカー達は遺跡に行こうとしない者が多いもので」

ルインは今の会話でシドが複雑な交渉や腹芸などを行うタイプではないと判断し、スラムのワーカー達の状況を教える。これでシド達が探索した遺跡の情報が出てくれば儲けものと言ったところだ。

「なるほどな。ん~、俺も久しぶりに遺跡に行ったけど、そんなに変わった印象は無いけどな?数は少し増えた程度でクラブキャノンをちょくちょく見かけるくらいか?」

シドは自分の感覚を素直にルインに語る。軽く話しているが今まで浅層にクラブキャノンが出現することはほとんどなかった。

ランク1桁のワーカーからすると死活問題である。機械系のモンスターで、単発ならばMKライフルの直撃にも耐えられる装甲を持ち、移動も速く精密な遠距離砲撃も行ってくる。第三区画のワーカーが出会えば死は免れないモンスターだった。

ルインは遺物収集の方法を変更する必要があると考える。

「そうなのですね、ありがとうございます。第三区画では遺跡の様子は正確に知ることは難しいので助かりました」

ルインとシドが話をしている間にマインが査定を終わらせたようだ。

「失礼します。遺物の確認が終わりました。それぞれ430万コール、600万コール、670万コールとなりますが、よろしいでしょうか?」

若干顔を引きつらせながらも懸命に笑顔で対応するマイン。その金額に妥当性を見出しながらも内心驚くルインであった。

「ああ、ありがとう。それでいいよ。金はそれぞれのバックパックに入れてくれ」

「わかりました。少しお待ちください」

マインはそういい、部下に現金を持ってこさせそれぞれのバックパックに入れていく。

「こちらをどうぞ」

マインが現金を入れ終わり、シドにバックパックを渡す。

「どうも、それじぁー俺は帰るよ。ありがとうな」

「いえ、こちらこそ。又のご利用をお待ちしていますね」

ルインは笑顔でシドに返す。シドは扉に向かって行き、出ていこうとしたときに振り返った。

「ああ、そうそう。あんた、キサラギって言ったっけ?そこに座ってるって事は幹部になったんだろ?」

シドはキサラギを見てそういってくる。

「ああ、俺がここの武力担当の2番手だったからな」

このまま会話には関わらずに終わるかと思っていたキサラギは、急に話しかけられて少し焦る。

「なるほどな、前みたいな事にならない様に頼むぞ。できればアンタ達とは良好な関係でいたいからな」

「もちろんだ」

「ん、じゃまた何かあったら連絡するよ」

シドはそうルインに言い、今度こそ部屋を出ていきホームから去って行った。

部屋の中に安堵感が流れ、護衛を含めた全員が息を付く。

「あの~、それで、この遺物。どうやって売り出します?」

マインがそうルインに聞いてくる。ルインは台の上に並べられた遺物を見て内心頭を抱える。全て捌けば、自分たちの規模の組織では、考えられないくらいの利益が舞い込むことは確実だ。だがそんなことをすれば利益以上の厄介事も舞い込んでくる。

「低価格の遺物は他に集めた物と一緒に店頭に並べて、企業系の客が来た時にそれとなく売り込むしかないでしょう。売り込みの相手は厳選しなさい。下手に話が広まれば厄介なことになりますから」

ルインの指示にマインもそれしかないかと考える。

「キサラギは遺物店の警備の見直しを、物々しくならない程度に強化してください」

キサラギをそれは当然の指示だと思ったが、今のドーマファミリーは多くは無かった戦闘員がさらに減っている。

人員配置に頭を抱えることは確定だったが。

「・・・・わかりました」

こう答えるしかない状況にキサラギは心の中で静かに泣いたのだった。


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>「低価格の遺物は他に集めた物と一緒に店頭に並べて、企業系の客が来た時にそれとなく売り込むしかないでしょう。 ここは「(高価なものは)企業系の客が〜」でしょうか?元の文章だと低価格の方と読めますが流れ…
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