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スラムバレット  作者: 穴掘りモグラ
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デザートイーグル T6 購入

翌日、シドは目を覚まし足の調子を確認していた。

昨日イデアの訓練で生体電気を利用した身体強化の訓練で足にかなりの負担をかけたからだった。

両足を曲げ伸ばし、足首や股関節に異常がないかを確認し、ベットから降りスクワットをしてみる。

<特に異常はないな>

<はい、昨日のうちに完治させましたので>

シドの体内にある治療用ナノマシンはキッチリ仕事をしていたようだ。

<・・・昨日の放電でナノマシンとか壊れたりしないのか?>

<問題ありません。シドの体に合わせて最適化していきますので、シドの行動や体からの放電などで支障はでないようになっています>

なんとも高性能な話である。

昨晩の治療でエネルギーを使ったのか、かなりの空腹感を感じ2階のリビングを目指す。


するとそこにはすでにライトが起きてきており、朝食の準備を行っていた。

「あ、おはようシドさん」

シドに気づいたライトが挨拶をしてくる。

「ああ、おはよ。俺もなんか食うか」

ライトと一緒に圧縮弁当を持ちキッチンへ向かう。

「ここって結構立派なキッチンだよね」

「そうだな。俺じゃ使いこなせねーだろうけどな」

「でももったいないよ。弁当温めるだけってのもさ」

「お前、料理できんの?」

「出来るわけないよ。でもちょっとずつでも使っていけばいいんじゃない?」

ライトは料理に対して結構前向きな様子だった。

「遺跡探索の後とか訓練後に作ろうって気にならないだろ?」

「そうだけど、休みの日とかにやればいいんじゃない?当番とか決めてさ」

なるほどとシドは納得し、弁当を温める。今までのシドの食事はレーション(廃棄物)のみで人が作った料理を食べたのは宿屋の料理人ミールが作ったものが初めてだった。

それを自分で作るようになる、とはなかなか考えられなかったが、設備もそろっているのだからそれもいいかと考え始める。

「ま、気が向いたらやってみるかな。それらしい動画もあるみたいだしな」

情報端末で調べればいくらでも料理の動画はヒットするのだ。簡単に作れる料理のレシピくらい調べられるだろう。

「それがいいよ。弁当より安上がりだろうしね」


二人の弁当が温まり、箱そのものが膨れ上がる。温まった弁当を持ってリビングに戻っていくと、起きてきたユキが立っていた。


「あ、おはようユキ」

ライトがユキに挨拶をしユキが返してくる。

「ん?タカヤはまだ寝てるのか?」

シドはまだ顔を出さないタカヤの事をユキに聞いてみる。

「ああ、タカヤも起きてるよ。もうすぐ降りてくると思う」

「そうか、朝飯も適当に選んで食ってくれ」

シドはそういい、さっさとテーブルについて弁当のふたを開ける。ライトもそれに続き二人は朝食を食べ始めた。

するとタカヤが3階から降りてくる。

「ん~~~・・・おはよ~・・・」

まだしっかりと目が覚めていないのかボーっとしているようだ。

「おう、おはよ。ほら、さっさと朝飯取って来いよ。場所は昨日でわかってるだろ?」

「うい~、ごちそうになります・・・」

眠気眼をしょぼしょぼさせながらタカヤはユキと二人で朝食を取りに行った。

<タカヤっていつもあんな感じか?>

<ううん。昨日はよっぽど疲れたんだと思うよ>

<回復薬の効果で体の調子は悪くなさそうですが、寝起きはあまりよくないようですね>

<ま、そのうちシャキっとするだろ>

念話で会話を行いながら二人は朝のエネルギー補給を終わらせ、トレーニングドリンクでのどの渇きを潤す。

そうしていると、タカヤとユキの二人も弁当を手にテーブルまでやってきた。

「「いただきます」」

二人はそういい弁当を食べ始める。タカヤはガッツリ肉弁当、ユキはバランス重視の弁当を選んだようだった。

食事を取っている二人にライトが体調を聞いた。

「二人とも、体は大丈夫?昨日だいぶ疲れてたみたいだけど」

「ん、大丈夫。今日もキッチリやるぜ」

とタカヤは返事を返し

「私も大丈夫だよ。昨日の朝より良い感じみたい」

ユキも問題ないと言ってくる。

「よし。で、シドさん。今日はどんな感じになるの?」

ライトは今日の訓練の内容をシドに確認する。

「今日はまあ、昨日と一緒だな。一週間くらいは同じ感じにしようと思ってる」

「そうなんですか?」

ユキがそう意外そうに言ってきた。今日は昨日よりさらに厳しい内容になると考えていたようだ。

「ああ、でも昨日と同じ内容でも昨日と同じ結果にならないように行動しろよ。俺もちょっとずつ本気出していくからな」

「「は、はい!」」

昨日のあれでも本気ではなかったという事なのだろう。二人は気を引き締め直し訓練に挑むのだった。



その日の訓練内容は昨日と同じであっても厳しさは増しており、ライト・タカヤ・ユキはボロボロになるまでボテくり回されることになるのだった。

しかし、昨日の経験があったためか、タカヤとユキの二人は自分の足で拠点まで帰って来れたのである。


シドは少し用事があると言って拠点から出ていき、3人はリビングで今日の反省会を行うことにした。


「いや~・・・あの人、人間か?」

タカヤがシドを人間か疑い始めた。

「ほんとに・・・弾丸を避けるって本当だったんだ・・・」

ユキもライトから聞いてはいたが、その目で見るまでは半信半疑だったようだ。

「ね?何をやっても当てられないでしょ?」

今日3人はシドから逃げるのではなく連携して戦う事にしたのだった。ライトの指示で絶妙な場所に陣取り、シドの動きを予測して攻撃したのだが、こちらが放った弾丸は悉く避けられたのだった。

「一体どうなってるの?後ろに目が付いてるみたいに反応してきたんだけど。シドさん情報収集機使ってないよね?」

「うん、なんでも周りの音や空気の流れとかで把握してるらしいよ?」

「どんなバケモンだよ・・・」

3人の認識はタカヤの一言に集約される。

「動きもかなり速かった・・・シドさんって身体拡張者だったよね?」

「そうだね。かなりの強化度だって聞いてるよ。その分エネルギーを消費するから食事量がだいぶん多くなるんだって」

ライトはシドが旧文明の軍人基準で強化されていることを知っているが、タカヤとユキに話すわけにはいかない。よって少しボカシながら説明を行った。

「なら今はナノマシンの補充ってことなのか?」

現文明での身体拡張者は定期的にナノマシンの補充が必要になる。その為、体内保管庫を生成した者は専門の施設に、外付けのナノマシンカートリッジを取り付けるタイプの者は専門店に定期的に通う必要があった。

「う~ん、どうなんだろ。その辺りは詳しく聞いてないんだ」

シドの場合は、体内にナノマシン製造ユニットが増設されており、摂取した栄養分からナノマシンを自動生産してくれる為、補充と言う行為は必要ない。

しかし、全く補充の素振りが無いのは不自然な為、シドには一応注意しておくかと考えるライトだった。

「やっぱり専門ライセンスを取ったワーカーって凄いんだな。俺も早くライセンスが欲しいぜ」

「そうだね。シドさんみたいにとはいかなくても、早く遺跡で活躍してみたいよ」

シドのランクはまだ実力に追いついたとは言えない状況だったが、ライトは下手な事は言わずに恐らく訓練の内容に含まれているであろうことを二人に告げる。

「たぶんだけどさ、訓練の終わりの方に遺跡に連れていかれると思うよ?」

ライトがそういい、二人は目を見開く。

「え?でも私たちライセンス持ってないよ?」

「ライセンスが無い状態だと、ワーカーオフィスからの評価は貰えない。でも、遺跡を探索するだけなら何の問題も無いんだ。生きて帰って来れる実力さえあればね」

「「・・・」」

ライトがそういい、二人は考え込む。

「シドさんは完全な叩き上げだからね。養成所の訓練でも引率付きで遺跡に行ってるのか?って聞かれたよ。たぶん、現場を知らずになにが訓練だって言いそう」

「なるほど・・・でも、俺達の力で大丈夫か?」

タカヤが少し不安そうにライトに聞く。

「大丈夫じゃないよ。だから訓練するんじゃないか。ボクでも単独で遺跡に行こうなんて考えないよ。今ならシドさんの護衛付で遺跡の探索を経験できる。本気で殺しにかかって来るモンスターがどんなものか経験するにはいいチャンスだよ」

「やっぱりシミュレーターとは違う?」

ユキが養成所で行っている訓練内容との違いを聞いてくる。

「うん、全然違う。シミュレーターでのラクーンって基本同じような動きしかしないからね。兵器といっても生物だから、みんな違う行動を取るよ。走り方から揺れ方、攻撃のタイミングから狙ってくる癖までみんな違う。その違いに戸惑ったり、焦ったりすると相手は更に距離を詰めてくる。そしてさらに焦る、の悪循環に陥って怪我したり最悪死んだりする訳だね」

ライトは実践経験者だ。その言葉は重みが違う。二人はその状況を想像してみるが、シミュレーターでしかラクーンと相対した事が無いためうまく想像できなかった。

「ま、それもシドさんが遺跡に行っても生きて帰って来れそうと判断しないとそのまま訓練終了だからね。遺跡に連れて行ってもらえるように頑張って鍛えよう」

ライトがそう話を〆る。すると情報端末にシドから連絡が入った。


シド視点


シドは訓練を終えた後、富士モータースのディーラーに来ていた。

拠点と装備の価格が確定し、車の予算が確保できたためダナンに頼み要望の車を手配してもらっていたのだ。今日はその最終確認の為に来ているのだった。


「シド様。ようこそお越しくださいました。こちらがご要望のデザートイーグル T6になります」

今日もダナンがシドに対応し、車の説明を行う。

シドの前に現れたのは、乗用車としてはかなり大型の車だった。優秀な振動吸収機構が付いており、悪路でもかなり揺れが軽減される。強化ゴムのノーパンクタイヤは正確に地面をグリップし確実に前に進め、少々の障害物や段差程度なら乗り越えられる強度を誇った。

コックピットは運転席とナビシートのみだが、後部と扉で繋がっており、荷台の方へ移動できるようになっている。

荷台にはオプションの大容量ラックとガンラック、弾薬用の収納と収納式ベット・簡易調理キットや食料保管庫などが設置されていた。これ等は慣性制御がされており、例え車が横転しても中身がぶちまけられる様な事にはならない。

荷台から屋根の上に上がれるようになっていて、戦闘時は屋根の上から迎撃できるようになっていた。

屋根の4方にガンアームが取り付けられており、様々な銃器を取り付けられる様になっている。荷台の弾薬庫に弾を入れておけば銃器の種類にあわせて自動で装弾してくれる仕組みになっており、車の運転をしながらモンスターへの攻撃が可能な仕様となっている。

ジェネレーターから供給される豊富なエネルギーを使用したエネルギーシールドを張れるうえに、シドがさらに装甲版の追加搭載を希望し、さらに防御力が上がった仕様になっていた。

艶消しの黒と茶のカラーリングが施されており、荒野でも目立ちにくいようになっている。

「いいですね。要望通りです」

シドは初めて買う自分の車に目を輝かせる。

その様子を見て、こんな所は年相応かと思うダナンであった。

「ありがとうございます。お支払いの方はライセンスで行いますか?」

「はい、よろしくお願いします」

シドはダナンにライセンスを渡し決済を行う。お値段オプション含めて1450万コール。

当初の予定より倍の値段になったが、シドの中に後悔は無い。この車にのって早く遺跡に行きたいという思いだけが胸をしめていた。

車のセキリュティーシステムのコードを渡され、情報端末とリンクさせる。これで正真正銘この車はシドの物となった。さっそく車に乗り、ディーラーを出発する。車のバックモニターには頭を下げて見送るダナンが映し出されていた。

ウキウキと車を運転するシド。車の運転は初めてだが、コーディネイトの際にインストールされた知識とバイクを運転していた経験からすぐに運転に慣れ拠点へと向かっていく。

<シド、ライトに連絡しなくていいのですか?>

<ん?そうだな。連絡しておこう>

シドは情報端末を手に取りライトに連絡を取る。

『はい』

ライトが通信にでたので、車を購入した事を伝える。

「おうライト。今さ、車の納車が終わって拠点に帰る途中なんだよ」

『え?車?!』

「そう、荒野仕様の車。明日からは移動が楽になるぞ~」

はっはっはと笑うシド。

「もうすぐ着くから楽しみにしとけ」

そういってシドは通信を切る。

<んじゃ、とっとと帰るぞ!>

<そうですね、ですが安全運転でお願いします>

<分かってるって>

そういい、シドは拠点へと帰って行った。



シドは拠点に戻り、購入したばかりの車を車庫に入れていく。

車を止め、車外に出るとライト達3人がポカーンと口を開けてデザートイーグル T6を見ていた。

「どうだ?いい車だろ?」

シドは笑いながらT6の車体をパンパンと叩く。

「・・・・シドさん。いつの間に車なんか注文してたの?」

「ん?拠点買ってまだ予算があったからな、直ぐに注文して今日納車だったんだ」

ダゴラ都市のワーカー達でも滅多に乗っていないT6を見ながらシドはそう答える。

シドの頭の中には[俺の車♪]が乱舞していた。

「新しい装備に拠点と車・・・」

「いったいこの短期間にいくら使ったんだろ?」

「やっぱ稼ぐハンターってすげーんだな・・・・」

3人はここ最近のシドの行動の速さに目を回しそうになる。

「ん?いくら使ったかな・・・え~っと」

<なあ、イデアいくらくらいだ?>

<合計で9550万コールですね。訓練用の回復薬を含めると1億550万コールになります>

<<・・・・・・>>

めっちゃ使ったと思い絶句するシド。そして念話の内容が聞こえているライトも同じく絶句する。

なんで使った本人が把握してないの?とライトはシドをジト目で睨んだ。

シドはすこしバツが悪そうな顔をして

「だいたい9500万くらいかな・・・」

と答える。

「すげー・・・」

タカヤは金額の多さに驚嘆し、ユキは絶句してしまった。

「・・・まあ、なんだ。明日からはこれに乗って訓練に行くからな。ライトもコイツの扱い方を覚えてくれよ」

シドはライトにマニュアルを渡す。

「・・・わかったよ。これ、ボクが持ってていいの?」

ライトは手に持ったマニュアルを指してそういう。

「ああ、もう覚えたからな(イデアが)」

「わかった。目を通しておくよ」

「んじゃ、俺も風呂入ってメシ食うかな」

そういい、シドはリビングに上がっていく。後に残ったのはシドの金遣いの荒さに驚いたまま動けない3人だった。

別に無駄遣いしている訳ではない。シドが使った金は全てワーカーの仕事には欠かせない必要経費であった。だが、金額があまりにも大きすぎ、いまだショックが抜けきらないのだった。

「「「・・・・・」」」

3人は無言のまま目を合わせ、もう寝ようかと3階の個人スペースに引っ込んでいくのだった。


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