シド(イデア)の訓練
シドの訓練スタートです
シドは拠点に帰り、ライトに訓練の準備が出来たと連絡を入れる。日程に関してはライト達に合わせるとメッセージを送ったら、明日からでも構わないと返事が来た。
それならばと明日の8:00に防壁南門の所で集合しようとメッセージを送り、OKの返事が返ってくる。
<明日からは暫くライト達と訓練だな>
<一緒にくる友人たちの実力が気になりますね。そのレベルに合わせて訓練内容を決めなければなりません>
<一応養成所で訓練してるんだから、最初のライトみたいな事はないんじゃないか?>
<それはそうでしょうが、今のライトに合わせた訓練ではついていけない可能性が高いです。それでは一緒に訓練を行う利点が無くなってしまうので、よく考える必要があります>
<それもそうだな。その辺りはイデアに任せるよ>
<はい、承知しました>
シドは、自分のバックパックに今日購入したゴム弾と回復薬を詰め込み、明日の準備を行う。
ライトと一緒に来る二人の装備も聞いていたので、それ用の弾丸も用意したのだ。彼らがワーカーになって稼げるようになったら少しずつ返してもらおうとライトにも伝えてある。
訓練の準備も終わらせ、あとは食事を取って寝るのみ。シドは明日の訓練の内容を考えながら食事の支度を始める。と言っても途中で買ってきた弁当を温めるだけだ。防壁内で初めて買った弁当は薄い箱に入っているらしく、謎技術で圧縮されているらしい。適度に温めると箱ごと膨らむようだ。
温め終わった弁当を開けると、中には色とりどりのオカズと白米が入っていた。
モグモグとそれを食べながら、イデアと話をする。
<なあ、これも旧文明の技術なのかな?>
<どうでしょう、私も旧文明の食事体系がどのような物だったのかまでは知りません。ですが、現文明でもこれくらいの事は可能なのでしょう。拡張マガジンがあるくらいですし>
<そういやあれも謎だよな>
謎技術で圧縮されていたが、膨らんだ後は普通においしい。
保存も長期間効くようだし、車を手に入れたら常備するかと考えながら食事を終える。
シドは久しぶりに会うライトとの訓練を少し楽しみにしながらベットに横になり眠りに入るのだった。
ライト視点
今日はシドとの訓練がある。朝の6:00時頃に目を覚まし、軽く食事を取って体をほぐす。
ガッツリ朝食を取ると吐きかねない。十分に体を解し、頭もハッキリさせてからライトはタカヤとユキとの待ち合わせ場所に向かう。
そこには準備万端で待っていた二人が居た。
「おはよー、ライト」
そうユキが挨拶をしてくる。
「うん、おはよう。二人とも」
ライトも返し、二人の調子を聞く
「二人とも調子はどう?問題ない?」
「ああ、体調は絶好調だぜ!」
タカヤがハイテンションに返事を返してくる。
「でもさ、朝ごはんあんなに食べて大丈夫なの?ライトは控えめにした方がいいって言ってたのに」
「だって、食っとかねーと力でねーだろ?」
タカヤはライトの忠告を無視してしっかりと朝食を取ったようだ。
「その辺りの判断は人それぞれだからね。じゃーそろそろ行こうか」
「おう」「うん」
二人は元気に返事を返し、全員で南門を目指し養成所の寮を出ていく。
南門に着くと、そこには既にシドが待っていた。
「お~、ライト。久しぶりだな」
「そうだね。シドさんも元気そう。でも装備はだいぶ変わったね」
ライトはシドの防護服が以前と変わっている事に気が付く。
「まあな、防衛拠点での防衛線で防護服とスナイパーライフルがダメになったんだよ」
「へ~、なかなかの激戦だったんだね。あ、そうだ。この二人が養成所でチームになってるタカヤとユキだよ」
「「よろしくお願いします」」
「ああ、シドだ。しばらくは一緒に訓練することになると思うからよろしくな」
「今日はどこでやるの?」
「前に訓練してた岩と瓦礫が集まってる所あるだろ?あそこでやろうと思う。昼飯買ったら移動しよう」
「・・・あぁ、あそこか。分かった」
そういい4人は昼食を買い、荒野へと歩いていく。タカヤとユキは実質上初めての荒野だった。銃で武装し、あまりモンスターは出ないと聞いているとはいえ、防壁の外に出ること自体初めての事だった為少し緊張している様だった。
「二人とも大丈夫だよ。この辺りにまでモンスターが来ることって滅多にないから」
「そ、そう?」
「それは分かってるんだけどな・・・やっぱり緊張するんだよ」
ライトは緊張しっぱなしの二人に話かけ、二人もそれに返す。
「タカヤとユキは荒野に出るの初めてなのか?」
シドが二人に話しかけて来た。
「そうですね」
「防壁の外にでるのは今日が初めてです」
「ふ~ん、なんでワーカーになろうと思ったんだ?防壁内なら仕事にも事欠かないだろ?」
「それは・・・」
二人は事情を話し出す。
二人は所謂幼馴染という奴で、両親と共に防壁内で暮らしていた。特に不自由なく暮らしていたのだが企業に反感を持つ者たちのテロに巻き込まれ、二人の両親は帰らぬ人となった。
当時は防衛隊への抗議などいろいろ問題となったのだが、都市の幹部たちは火消しと防衛予算の見直しは行ったが、巻き込まれた一般人への対応はおざなりだった。少しの見舞金が出され、二人は養護施設に入る事となる。そうなると、一般的な教育より少し低いレベルの教育しか受けられず、企業への就職となるとかなり厳しくなるのだった。
入社出来てもほぼ飼い殺しの人生を歩むくらいならワーカーとして成り上がろうと養成所の門を叩いたようだった。
「へ~。そんな事情があったんだね」
「なんでお前が知らないんだ?」
友人の事情を知らないライトを不思議がるシド。
「ワーカーの事情とかあまり探らないのがマナーみたいだからね。ほとんどが訳アリの人たちだから」
「・・・なるほど」
シドの質問はマナー違反だったらしい。
「あ、気にしないでくれよ?俺たちもそのことに関しては吹っ切れたし」
「そうだね。今はワーカーとして自立する事しか考えてないから」
二人もあまり気にしていないようだ。
<この訓練でキッチリ鍛えてやらないとな>
<そうですね。ワーカーとして活動できるくらいのレベルには押し上げましょう>
<・・・・シドさんもイデアも・・・二人を壊したりしないでよ?>
ライトはシドの念話受信距離に入った為、二人の念話に参加してくる。
<当然だろ。ちゃんと初心者用の訓練を考えてきたんだからな。イデアが>
<お任せください>
<・・・・・>
すこし、いや かなり不安なライトだった。
前に訓練を行った場所にたどり着き、シドは訓練の内容を説明する。
「よし、訓練の説明をするぞ。まずはタカヤとユキの身体能力が知りたいから、この岩場を抜けるまで真っすぐ走ってくれ。ライトも一緒にな」
「あ~、なるほど。僕は全力で行っていいの?」
ライトはそうシドに質問する。
「ああ、お前はちゃんと荷物担いでいけよ。じゃないと訓練にならんだろうからな」
「わかった」
「あの~・・・真っすぐって?」
ユキがそう不思議そうに聞いてくる。ここは岩と瓦礫の山がたくさん有り、向こうまで見通すことは出来ない。真っすぐと言われても岩や瓦礫を避けないと走れなかった。
「岩とか瓦礫があるのに真っすぐ?」
タカヤも疑問を浮かべる。そこでライトが説明を引き継いだ。
「岩や瓦礫は乗り越えていくんだよ。そしてコースから外れようとすると後ろから追ってくるシドさんに撃たれるわけ」
「「・・・・」」
「安心しろよ。最初の方は当てないから。弾はゴム弾だし」
そういい、シドはA60を二人に見せる。二人はハンドガンならまだ当たっても大丈夫かと安心するが
「タカヤもユキも当たっても大丈夫とか考えない方がいいよ。あれ、MKライフル並みの威力があるからね」
「「・・・・・」」
その言葉を聞き青くなる二人。防護服を着ているとは言えMKライフルで撃たれる事に恐怖する。非殺傷弾とは言え、撃たれた者がどうなるかは先日の模擬戦でしかと確認したからだ。
「じゃ~準備出来たら始めるか。タカヤとユキはとりあえず手ぶらでやってみてくれ」
いや手ぶらと言われてもと思い二人はライトの方を見る。すると、ライトはバックパックに瓦礫を入れ始めていた。そういえばそんな話を聞いたことがあったなと二人は思い出す。
「だいたい直線で走ったら5kmくらいだ。40分くらいでゴール出来るように頑張ってくれ」
そう言われ、二人は走るであろうコースの方に目を向ける。岩や瓦礫の高さは高い物で2mほどだったが、これを乗り越えながら5kmを40分で走破は無理だと思われた。だがライトは言っていた、キツイと泣き言は許されないと・・・二人は覚悟を決めコースを睨みつける。
ライトの準備が終わり、二人に並んでくる。そしてシドがスタートの合図を出した。
一斉に走り出す3人。ライトが先頭を走り二人が追従するが、一つ目の山に来るとライトは足場を蹴って飛び上がっていった。タカヤは負けじとついていこうとする。ユキはペースを考え山に取り付いた。三者三様で岩場を駆け抜けていく。
タカヤが山の裾を少し迂回しようとすると、足元に弾丸が撃ち込まれた。驚いて振り返ると直ぐ後ろの山にシドが立ち、こちらを狙っていたのだった。
「避けるな。真っすぐだ」
そう言われ、タカヤもユキも真っすぐに進もうと障害物を乗り越えていく。最初の5つ6つの山は乗り越えられたが次第にスタミナが切れ始め、1つ越えるのも苦労するようになってきた。
小さめの岩でも避けようとすると弾丸が飛んでくるため、懸命に乗り越えゴールを目指す。
次第に腕と足に力が入らなくなってきて、岩山一つ越えるのも歯を食いしばって体を持ち上げなければならなかった。
ようやく最後の山を越えゴールにたどり着く。そこにはすでに完走したライトが待っており、二人はライトの傍まで走って(ほぼ歩いて)たどり着くと盛大にぶっ倒れる。
ぜえぜえと声を上げ、全身が汗で濡れていた。
「お疲れ様。どうだった?」
そう気軽にライトが話しかけてくる。
「き・・・きつい・・・」
息も絶え絶えでタカヤが返事をする。ユキは声も上げられない様だった。
後ろから付いてきていたシドは二人の様子をみてイデアに話しかける。
<どう思う?>
<想定通りといった所でしょうか>
<まあ最初だしね。ボクの時より立派だと思うよ?>
<あの時のお前はひょろひょろだったからな>
なかなか辛辣な評価だが、これは仕方ないことだろう。彼らの訓練はある程度乗り越えられる前提で作られたアスレチックを使用していたのだ。自然に配置された岩山や瓦礫を乗り越えるのとは訳が違う。
「さて、水分と回復薬を飲んだら5分休憩。その後はさっき通った所を同じように戻っていくぞ」
そういい、シドは3人に回復薬と水を一つずつ渡していく。ライトは慣れているためさっさと飲み込み、自分も座って休憩を取る。
二人は回復薬を飲む元気もないのか動こうとしない。
「飲ませてやろうか?」
シドがそういうと、二人はビクっと動き、回復薬と水を口に運ぶ。今まで二人が飲んだこともないような高級回復薬の為、すぐに酷使した体の震えが止まり始めた。
「これ・・・すごいね」
「ほんとだな・・・また動ける様になってきたぞ」
二人は力が入る様になった体を見て回復薬の効果に驚く。
「まあ、結構高いヤツだからな。効果は高いだろう」
シドはそう説明し値段に関しては触れなかった。素直に値段を言えば二人は躊躇して飲まなくなるだろう、そうすれば訓練に支障をきたす。そうイデアに言われシドは話さなかった。ライトもそれを察し、だんまりを決め込む。
「さて、5分経ったぞ。もう一回だ」
シドはそういい、3人を走らせる。これが午前中いっぱい続き、タカヤとユキは回復させているのに感覚がなくなってくる体に恐怖を覚えながら走り切ったのだった。
「太陽が真上まで来たな。14:00まで休憩だ。きっちり飯食って午後に備えるように」
そういい、涼しげな顔で地面に座りバックパックから大量の弁当を取り出すシド。ライトもそれに続き弁当を取り出す。
二人は地面に倒れ声も出ない様子だった。
(やばい・・・これ・・・死ぬんじゃないか?)
(これは訓練じゃなくて拷問・・・)
二人はこの3時間で訓練についてきた事を後悔し始めていた。しかし、無理やり付いてきた手前、止めたいと言う事は出来ない。
二人はノソノソと起き上がり、用意した高エネルギーレーションを食べ始める。
「ユキがコレにしといた方がいいって言ってくれて助かった・・・」
「ライトが地獄だったって言ったからね。普通の食べ物じゃ胃が受け付けないと思って」
ユキのファインプレーで助かったタカヤ。最初手に取ったガッツリ肉弁当だったら食べた瞬間吐いていただろう。
二人は買ってきた食料を腹に詰め込み、回復薬を飲む。これで午前中酷使した体が摂取した栄養を元に回復・強化されていくことになる。
暫くするとあれ程疲れていた体に力が戻って来た。
「やっぱ凄いな」
「・・・これいくらするのかすっごく気になる・・・」
ユキはシドから渡された回復薬を手に取り不安そうにそう呟いた。今回の訓練で使用された備品は、タカヤとユキがワーカーになった後の稼ぎで返済するという話になっているからだ。ここまでの効能を持つ回復薬が安物であるはずがない。
「帰ってから調べてみたらいいんじゃない?情報端末で調べられるし取り寄せも出来るよ。割高になるけどね」
自分も食事が終わったライトが二人の所までやってきて話しかけてくる。
「午前中どんな感じだった?」
「すっげーキツかったぞ。こんなことやってれば体力もつくはずだぜ」
「ほんとに。この回復薬の効果もあるんだろうけど」
二人は午前の訓練の感想を言う。だが、本当の地獄はこれからだった。
「二人共、これからだよ。さっきシドさんがアサルトライフルの調整してた」
「・・・・戦闘訓練って事か・・・」
「私たちも非殺傷弾の準備しといたほうがいいかな?」
二人はこれからシドとの撃ち合いを想像する。だがライトは否定してくる。
「ちがうよ。これからボク達3人でシドさんから逃げ回るんだと思う。荷物を背負ってね。撃ち返せるなら撃ってもいいけど当たると思わない方がいいよ。それより如何に相手からの射線を切って逃げ切るかがこの訓練のポイントだよ。(逃げ切れたことないけど)」
ライトが二人の勘違いを訂正し、訓練の主旨を伝える。
「逃げ回るだけなのか?でもハンターの本懐はモンスター退治だろ?」
タカヤは逃げるだけと言われて少し不満そうにする。
「そうだけど、まずは生き残る事。それはハンターもシーカーも変わらないよ。ユキはシーカー志望だよね?情報収集機は持ってきた?」
「うん、ちゃんと持ってきたよ」
そういい、ユキは養成所から貸し出されている情報収集機をライトに見せる。
これは初級ワーカーが良く使っているもので、バイザーに映像を写す形で表示するタイプのものだ。この訓練内容の範囲であれば十分な性能を持っている。
「それを使ってシドさんの反応を見逃さない様に注意してね。タカヤと二人で連携していかないと直ぐに撃たれるよ」
「なんだ、ライトは一人で十分だってのか?」
「ボクは他の役割が与えられると思う。さっきシドさんがそれっぽい事言ってたし」
「そうなの?」
たぶんね、とライトは言い水で喉を潤す。そろそろ時間だと視界に映る時刻を確認したライトが立ち上がるとシドが近づいてきた。
「おし、休憩終わり。これから午後の訓練の説明をするぞ」
シドがそういい、二人も立ち上がる。休憩に入ったばかりの時は指一本動かすだけでも億劫だった体はしっかりと回復していた。
「まず、二人はこのバックパックに瓦礫を詰めてもらう」
そういい、シドは二人にバックパックを渡す。タカヤとユキは自分のワーカー用バックパックを持っていなかったのでシドが適当に買ってきたのだ。
「それを担いだ状態でタカヤとユキは俺から逃げろ。あ~一応反撃はしてもいいけど撃たれても銃を手放すなよ。遺跡でそれをやったら本当に死ぬからな。ライトは二人の護衛として動いて俺を迎撃しろ。最初俺はタカヤとユキしか狙わない、二人のキル判定がでたらライトを標的にする。3人ともキル判定を受けたら1セット終了だ。これを日暮れまで続ける」
なかなか頭のおかしい訓練内容だが、これは以前ライトに聞いた内容とほぼ同じだった。
二人はライトの護衛付なのだからなんとかなるだろうと考える。そこでライトがシドに質問をする。
「キル判定ってどうやって出すの?」
「ん?そりゃ~、痛みで動けなくなったり気絶したりしたらだな」
「「・・・・」」
またまたとんでもない判定方法だった。養成所のシミュレーターでは、コンピューターが判断し致命傷を受けたと判定されればキル判定が出される。痛みで動けなくなるような事はない。だが、ここは荒野。コンピューターなど存在しないのだから、そういった方法での判定になるのはある意味自然だった。
「危なくないですか?」
ユキはそう心配そうに聞く。
「安心しろよ。ちゃんとゴム弾だから」
そういい、シドはマガジンを外し中の弾を見せてくる。確かに装填されているのは非殺傷弾だった。だがちっとも安心できない。非殺傷弾でも当たり所が悪ければ死ぬ可能性もあるのだ。防護服の上からでも当たればかなり痛い。
ユキはまだ何か言おうとしたが、肩を叩かれそちらに顔を向けると、ライトが諦めろと言わんばかりに顔を横に振る。タカヤと二人呆然とした表情になるが覚悟を決め、二人で渡されたバックパックに瓦礫を詰めていく。
いっぱいになったバックパックを背負うとかなり重い。おそらく40kg以上あるのではないだろうか?しかし、ここまできたら何がなんでも食らいついていくのみ!と気合を入れる。
「よし、準備が整ったら移動開始だ。2分後に俺も動き出すからな」
シドがそういうと、ライトは二人を連れ岩場に駆け出して行った。
ライトは情報収集機でシドの位置と周りの岩や瓦礫の位置を把握していく。襲撃者から狙いにくく逃げ道が多い場所を選んで走った。
「おい、ライト。結構来たぞ。もういいんじゃないか?
タカヤがそう言い、止まろうと進言してくる。
「ダメ。この距離ならすぐに追いつかれる。・・・向こうの方に陣取ろう。シドさんが来たらボクが戦うから二人はとにかく逃げ回って。ユキはシドさんの位置情報から目を離さない様に」
そういい、ライトはさらに岩場奥へ進んでいく。二人はライトの気迫になにも言えずただついていった。
そして2分が経ちシドが動き出す。ライトとユキの情報収集機は正確にシドの位置を把握していた。
シドはなんの迷いも無く3人の方向へ高速で迫ってきていた。
「!!!な、なんで?!」
ユキは驚きで声を上げる。
「シ!静かに、声を上げるとさらに正確に向かってくるから!足音も出来るだけ殺して!」
ライトは小声で二人に指示を出し、身を屈めながら移動していく。二人も出来る限り気配を殺しライトについていく。
(だめだ!完全に捕捉されてる!)
ライトは迷いなく向かってくるシドの迎撃を行い二人を逃がそうと決めた。
「二人共、出来るだけ頑張るからそっちもなるべく長く生き残って!」
ライトは銃を構えシドの方向を向く。二人はライトの気迫を受けその場から離れる為足を速めた。
ライトの姿が岩と瓦礫で見えなくなって直ぐに銃声が聞こえてくる。ユキは逃げながらバイザーに移る二人の位置を確認しながらタカヤを誘導していった。
(!!!ライトが攻撃してるはずなのに!!!)
シドはライトからの攻撃を搔い潜っているのか不規則に動きながら猛然とこちらに向かってくる。
ユキは鳴り響く銃声と、追われる恐怖、そして撃たれる恐怖と焦りから軽いパニックを起こす。急がねば追いつかれると駆け出し、向こう側の瓦礫の影に逃げ込もうとしたその瞬間、脇腹に複数の衝撃を受けて体が浮いてしまう。
(ッ!)
何が起きたのかもわからず、受け身も取れずに地面に叩きつけられ転がっていく。
「ユキ!」
タカヤは吹き飛んだユキを助けようとユキに駆け寄ろうとするが、タカヤも背中に衝撃を感じユキを飛び越える形で吹き飛ばされた。
地面を転がり起き上がろうとするが、肺を強打されている為息が出来ず、動くことが出来ない。
かろうじて動く頭と眼球で撃たれたであろう方向を見ると、岩場の隙間からライトとシドが戦っているのが見えた。
ライトは2丁のMKライフルで応戦し、シドはアサルトライフルでは無く、午前中持っていたハンドガンでライトと戦っている。ユキの方を見ると、脇腹を抑え蹲っていた。
急に顔に影が差したと思い、上を見るとライトが飛んでいくのが見えた。
格闘ゲームの空中コンボよろしく、シドに弾丸を打ち込まれながら自分達の目の前を飛んでいき地面に落ちる。
ライトはなんとか受け身を取ったが、撃たれたダメージは軽くは無いようで立ち上がることは出来なかった。流石と言うべきか、ライトは銃を手放すことは無かった。
「・・・・・・やっぱアイツすげーな・・・」
そうライトに賞賛の声を出すタカヤだった。
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