拠点の相談と荒野用車
誤字報告を頂きました。
誠にありがとうございます。
今後とも、よろしくお願いします。
シドは宿の食堂で昼食を平らげ、この後の予定と今後の計画についてイデアと相談していた。
<午後からなにしようか?>
<防壁内に拠点の確保をするべきかと>
<拠点ね~。この宿で十分じゃないか?>
<この宿の質は確かに高いです。今までと同じような活動をするのであれば問題はありません。しかし、今後もハンターとして飛躍していくためにはこの宿では問題があります>
<例えば?>
<まず、車庫や倉庫が確保できません。移動手段として車やバイクを手に入れる場合、それらが必要になってきますし、予備の装備や弾薬を保管する場所が必要になってきます>
<なるほど・・・車か。それは必要だよな>
一番近くのファーレン遺跡まで徒歩では2時間程かかる。走ればもっと早くつけるが、移動が楽になり遺物の運搬も楽になるのだから手に入れたい。予備の装備や弾薬も、無くなってから買いに行くでは販売所がやっていなければ、その期間仕事が出来ないと言う事になる。
今は私物など装備以外持っていないシドではあるが、今後ワーカー活動以外で必要になってくる可能性もあるのだから、それらを置いておく拠点は必要だった。
<どれくらい金がかかるかな?>
<拠点は安いもので2500万コール、荒野用の車が250万から1500万の間となっている様ですね>
<ん~、買えない事は無いな。それってワーカーオフィスで手配できるかな?>
<拠点に関してはワーカーオフィスで対応してもらえるようですね。車はディーラーに行く必要があるかと>
<なるほどな。まずは装備がいくらになるかで拠点と車に掛ける予算を考えるか>
<それがいいでしょう。これから時間もありますし、下見だけでもやっておいた方がいいのでは?>
<わかった。まずはワーカーオフィスに行ってみるか?>
<キクチに連絡してはどうですか?シドの担当なのですから、対応してもらえるのでは?>
<なるほど。聞いてみる>
イデアとの話し合いで、まずは拠点の確保を行うためキクチに連絡を取ることにした。
通信機でキクチのコードに連絡をいれる。キクチは直ぐに通信にでた。
『ようシド。何かあったのか?』
「ああ、ちょっと拠点の事で相談があってさ」
『拠点?』
「うん、俺もランク20を超えたからさ、防壁内で拠点を購入できるようになっただろ?それで、いい物件が無いかと思って」
『なるほどな。ワーカー向けの拠点は俺達でも斡旋してるから直ぐに探せるぞ。予算はどれくらいを考えてるんだ?』
「ん~、あまりその辺の事詳しくないんだけどさ。だいたい3500万以下ってところで考えてるんだけど」
『ふむ・・・お前とライト二人で使うなら十分な予算か・・・わかった。適当に見繕ってデータを送るから。それを見て考えてくれ』
「助かる。よろしく頼むよ」
『おう・・・ああ~、お前さ、ライトから何か聞いてないか?』
「何かってなんだ?」
『いや、ライトのヤツ。2日くらい前に天覇から派遣されてる訓練生と揉めたみたいなんだ。それで模擬戦になって相手の5人を病院送りにしたらしい』
ライトとカズマ達の模擬戦の話がワーカーオフィスまで流れてきていたのだった。
「へ~、アイツもそんな所あるんだな」
『いや反応が軽くないか?非殺傷弾と防護服着用とはいえ急所に一撃づつ撃ち込まれてるみたいでな、養成所じゃちょっと問題になってるみたいだぞ?』
「???模擬戦で防護服の上からゴム弾当てられただけだろ?何が問題なんだ?」
シドはライトと戦闘訓練で合計数百発撃ち込んでいる。一発くらいで何を騒ぐことがあるのか?とシドは疑問に思う。
『ライトの銃はMKライフルだぞ?それを急所に当てられて病院送りになったんだ。幸い後遺症もないようだが、本人達の心が参ってしまってるようでな。訓練再開の目途が立たないらしい』
カズマ達はライト一人に秒殺され、精神的にやられてしまっていたのだった。
「そいつらワーカーに向いてねーよ。遺跡にいったらモンスターは実弾で撃って来るんだぞ?非殺傷弾の一発で気絶、それで負けたから訓練もしたくありませんって・・・ワーカーになったら直ぐにモンスターの餌だな。防壁内に居た方がそいつらの為じゃないか?」
『はあ~・・・お前の認識は良くわかった。今回の件でライト達は謹慎って形になるようだからな。お前も気にしてやれ』
「・・・・わかった。ライトの事はこっちでどうにでもするよ」
『そうか。じゃ、拠点の事は後で送るから。それまで待っててくれ』
「ああ。よろしく」
キクチとの通信を切り、シドはライトの事を考える。
<なあ、イデア。模擬戦で勝って何でライトが謹慎になるんだ?>
<恐らくですが。養成所とギルド天覇はスポンサー関係にあると考えられます。いわば大事なお客様ですね。その相手を模擬戦とはいえ病院送りにしたとなれば、何かしらのペナルティーを与えないと示しが付かないと運営側が考えた結果ではないかと>
<ふーん。ま、謹慎になるなら俺がライトの訓練相手になればいいだけだからな。かえって好都合だ>
<そうですね。謹慎期間はわかりませんが、ヌルイ訓練を受けるよりライトにとっても有益であると思われます>
<とりあえず俺の装備が整ったらライトを誘うか>
<そうですね。防護服を見に行くついでに回復薬も多めに買っておきましょう>
<そうだな。ライトには必要だろう>
ライトの地獄の訓練が決定し、その後ライトから養成所で出来た友達二人が訓練に参加したいと申し出ているとの連絡が入った。シドはOKを出し、イデアと訓練内容の相談に入る。
ライトの友人を含めて短期間による、最大効率での強化訓練メニューが決められていった。
ライト視点
ライトはシドにメッセージを送り、タカヤとユキの訓練参加の可否を聞いた。
シドからの返事はOKであり、訓練内容を考えておくとの返事があった。そのことを二人に伝えると、二人は非常に喜ぶ。
ライトは二人を見ながら菩薩の様な暖かい笑みで見守り、イデアとシドのシゴキに耐えられるよう精神を安定させようとする。
3人の訓練は現在全面中止を言い渡されており、模擬戦を行ったライトだけでなくタカヤとユキも連帯責任とされていた。
病院に運ばれた天覇組の5人は、意識は取り戻したもののショックで訓練再開まで時間が掛かる様子だと聞かされている。
正直、ライトにはどうでもいい話なのだが、養成所としては優遇対象であった5人を1人で、しかも短時間で全滅させたライトを疎ましく思っているのだった。
これは養成所の運営部門と天覇の新人育成部門が癒着関係にあったことが原因だった。
非常に好成績を出すが第三区画出身のライトと都市内での3大ギルドの1つから派遣されたカズマ達。どちらを優遇した方が今後の運営にプラスになるかと考えた場合、後者に軍配が上がるのはある意味仕方のない事だったかもしれない。
本来なら放り出してしまいたいが、名目上公平を謳っている手前、そのような事をしてはワーカーオフィスから苦情が来る可能性もある。故に今回はライトのやり過ぎによる謹慎という形を取ることになった。
ライト達3人は、その後呼び出され3週間の謹慎を言い渡されることになった。
ライト自身はタカヤとユキは関係ないと抗議したが、養成所から3人でチームと認識されており、連帯責任とされてしまったのであった。
ライトとしては納得がいかないが、養成所での訓練の代わりにシド(イデア)の訓練を受けることになるのだ。どちらが彼らの為になるかを考えれば、逆に良かったと思う事にする。
「で?いつから訓練を付けてもらえるんだ?」
タカヤは期待に胸を膨らませライトに聞く。
「準備に2・3日かかるんだって。目途が付いたら連絡をくれるらしいよ」
「楽しみだね!体調をしっかり整えとかないと!」
ユキも非常にうれしそうにしている。
「・・・・ほんとにキツイよ?シドさんも準備するっていってるからかなり本格的な内容になるだろうし・・・」
ライトはシドの準備とやらが気になった。
「望むところだ!謹慎が明けたら今度は俺が天覇組を凹ませてやるよ!」
気合十分なタカヤ。訓練終了までその意気が持てばいいが・・・
シド視点
シドはワーカー向けの車を見に防壁内のディーラーまで足を運んでいた。
ネットで調べた結果、大きすぎず小さすぎずのサイズを取り扱うメーカーであり、丈夫で壊れにくいと評判だった。
シドが店舗の中に入ると店員が話しかけてくる。
「いらっしゃいませ。本日はどの様なご用件でしょうか?」
「どうも、今日はワーカー向けの車を探しに来ました」
「承知しました。失礼ですがワーカーライセンスの提示をお願いします」
荒野用の車は、基本的にワーカーや行商人にのみ販売されていた。一般人の場合、荒野に出ること自体が危険であるため許可制になっているのである。
都市の中を走る車は、都市内専門のメーカーが存在していた。
シドはライセンスを店員に見せ、自分がランク20以上のハンターであることを証明する。
「ありがとうございます。どの様なものをお探しですか?」
「広範囲を索敵できる情報収集機が付いていて、銃器を操作できるアームがある物を。予算は700万くらいで考えてます」
事前にイデアと相談した内容を店員に伝える。
「承知しました。こちらにお掛けしてしばらくお待ちください」
シドはテーブルまで案内され椅子に腰かける。
<なんか俺も成り上がったよな~>
<いきなりどうしたのですか?>
<いやさ、ちょっと前まで食うや食わずやの生活してたってのにさ、今では700万の車買おうとしてるんだぞ?あの頃からしたら考えられねーよ>
<今更ではないですか?シドはすでに数千万コール分の装備を購入してきましたよ?>
<いや・・・そうなんだけどさ。なんか、個人で車持ってるヤツってスゲーやつって印象があるんだよ>
<そういうものですか。まあ、順調に成りあがっている最中ですからね。とりあえずダゴラ都市1のハンターを目指していきましょう>
<とんでもないこと言うな・・・でも、いいな。目標は高く持たないとな>
イデアは本気でいっていた。自分が施したコーディネイトの効果とシド本人が持つ才能、それにライトが加入し情報系の死角が無くなった。現実的な中間目標としてはダゴラ都市のトップハンターというのは現実的な目標と捉えていた。
「失礼いたします。富士モータースへお越しくださり誠にありがとうございます。本日対応させていただく私、ダナンと申します。以後お見知りおきを」
シドとイデアが雑談しているところに一人の男性が声をかけてくる。彼は一礼を行いシドに名刺を差し出してくる。
「どうも、よろしくお願いします。ハンターのシドといいます」
シドは名刺を受け取り自己紹介をする。ダナンは失礼と一言かけ、シドの対面に座る。
「よろしくお願いします。荒野仕様の車をお考えとのことで、弊社で取り扱っている車両の紹介をさせていただきたいと思います」
ダナンはそういい、カタログを表示させる。
そこには3種類の車が表示された。
1つ目は ギャラクシー シリーズ RZ 500万コール
化石燃料エンジンで安定した出力がだせ、強化装甲を追加すればモンスターの銃撃にもある程度対応できる。坂道や悪路にも強く車体を安定させる設計になっており、車上からの攻撃も比較的安定して行えるようになっている。
2つ目は ギャラクシー シリーズ EV400 650万コール
動力にはエネルギージェネレーターを搭載。長距離の移動でも安心して使用できる。ギャラクシーシリーズの基本的な設定はそのままに、走行距離を大幅に向上させた車となっている。
3つ目は デザートイーグル T6 1100万コール
動力には大型ジェネレーターを搭載。走行距離はもちろんの事、車体安定装置が充実しており、非常に揺れが少なくストレスが掛かりにくい仕様になっている。エネルギーシールドを搭載している為、強化装甲を付けなくても高い防御力を確保でき、荷台には様々なオプション品を取り付けることで長期間の活動が可能となる。
1と2はシドの言った予算の中に入っているが、3は大幅に予算オーバーしている。
「こちらがシド様にお勧めする商品になります。いかがでしょう?」
「う~ん」
シドは考えるフリをしてイデアと相談する。
<RZかEV400でいいんじゃないか?予算内だし>
<EV400かT6のどちらかでしょう>
<・・・その心は?>
<内燃機関ではモンスターの攻撃にさらされた場合、爆発の可能性が高まりますし燃料補給の問題が発生します。このままずっとダゴラ都市にとどまりファーレン遺跡を活動場所とするのであればRZでも問題ありませんが、東方や北方に活動場所を移す際にはジェネレーター搭載の方に買い替える必要が発生するでしょう>
<なるほどな~。その時に買い替えるって考えはないのか?>
<確かにそれもいいでしょうが、無駄ではないですか?金銭的に無理なのであればいざ知らず、購入できるのであれば高スペックの物を購入するべきかと>
<う~む・・・でもT6は予算オーバーだしな・・・>
<そうですね。しかし、ここで即決する必要もないかと。優先順位は、装備・拠点・車の順です。装備と拠点の値段が判明してから購入すればいいだけですので、今は候補として考えるだけでよいと思います>
<それもそうか・・・>
<今日はEV400とT6のオプション品を聞くだけでよいのでは?>
<そうするか>
シドはダナンにEV400とT6のオプションについて相談する。
EV400に関しては、車体の性能向上に対するオプションが多かった。広範囲索敵機・銃器操作アームと給弾装置・強化装甲・座席のグレードアップ等である。
T6は完全に荒野戦闘車両として設計されており、索敵機やアームや給弾装置は標準装備となっており、いくつかの種類からユーザーの好みで選択することになるようだ。オプションは荷台の機能充実に特化しており。大重量のラックや簡易ベッド・食料保管庫などの収納と簡易活動拠点となるようなオプション品が多く揃えられていた。
「いかがでしょうか?特にデザートイーグル T6に関しては東方や北方で活躍される方々に好評を頂いております」
「う~ん。買うならこの二つなんですけど・・・すこし検討します。予算が許すならT6にしたいと思います」
「誠にありがとうございます。ご連絡をお待ちしておりますので、よろしくお願いします」
そういい、ダナンは一礼を行ってきた。
シドもお礼を言いディーラーを後にする。
<やっぱ荒野用の車って高かったな>
<そうですね。しかし、装備の一部と考えればそれほど高額と言う事は無いかと。複数人で使用しますからね、考えようによってはライフル一丁分よりも安くなりますよ>
<なるほど、そう考えたら俺とライトが二人で使えばT6でも550万コールなのか>
<そういう事になります。そのように考えればそれほどの出費にはならないと考えます>
シドは考え込みながら、元来た道を帰っていく。
その道すがら、キクチから連絡が入り拠点の紹介が出来るめどが立ったと連絡が入る。
シドは、行く先を宿からワーカーオフィスに変えて歩き出すのだった。
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