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スラムバレット  作者: 穴掘りモグラ
33/217

ワーカ養成所 ライトの模擬戦 2

ライトはシミュレーター室に投影された荒野に一人で立っている。

周りは岩と瓦礫が散乱しており、見通しは良くない。隠れるところも多く、射程距離の長い銃を持つライトには不利と言える環境だった。


しかし、シドとの戦闘訓練はこれ以上に過酷だった。シドは高速で移動し、撃った弾は悉く避けられ、僅かでも隙を見せれば正確に急所を撃ち抜いてくる。

今回は数は多いが遮蔽物を盾に戦えば十分に勝機はある。ライトはそう考えていた。

スピーカーから教官の声が聞こえ、訓練開始までのカウントダウンが始まる。

辺りに人の姿は見えないが、情報収集機は正確に5人の位置を見抜いていた。

脳に直接送られてくるデータには、ジャミングや攪乱されている形跡は無く、正しく捕捉出来ていると判断する。

徐々に意識を戦闘体勢に移行し、時間を圧縮していく。


カウントダウンが終わり、戦闘が開始される。


ライトは敵を殲滅するべく行動を開始した。


カズマ視点


カズマは天覇での訓練を受け、この養成所で主席卒業を期待された候補生だった。

天覇所属の候補生の中では抜きん出た成績を収め、若手のエースと目されていたのだった。

自分の実力と才能に自信を持ち、主席卒業を疑いもしていなかったのだ。

ここで実績を上げれば、何かと煩い古参メンバーに一泡吹かせてやれると思っていた。


しかし、いざ戦闘訓練を始めてみると、自分より遥かに高い成績を上げる訓練生がいた。

その男は、自分たちの様なエリートでは無く、第三区画の人モドキだった。

MKライフルの2丁持ちという常識外れの装備をしていた事に最初はバカにしていたが、その常識外れは装備だけでなく腕にまで及んでいた。

基礎射撃訓練では命中率100%を叩き出し、シミュレーター訓練では自分達5人が結託してもあいつより長い時間生き残ったことは無かった。


プライドを傷つけられ憤りを抑えられず、防壁内の出身ではない事を詰り、蔑んで来たが今までは反論する事は無く無反応を決め込んでいた。事実なのだから当然と考えていたが、今日はライトの方が反応を示す。


ライトの教育を行ったと言われているスラム街の人間。これに対してごく当然の事実を指摘してやったら、自分の事を臆病者扱いしてきたのだ。

防壁内に生まれ、都市でも3指に入るワーカーギルドの若手トップの自分を、たかだかスラムのゴミくずが見下したような発言を行ってきた。

もはや許すことは出来ぬと教官に模擬戦を提案する。最初は渋っていたが、ギルドの事を出すとすんなり了承した。最初からそうしていれば無駄な時間を使わなかったものを。

準備の為控室に入り、仲間とどう戦うかを相談する。

「あいつ、一人で戦うらしいぞ」

そう言ったのは最後い部屋に入ってきたバルザッハだった。

「は?私たち5人相手に?」

「ああ、さっき教官にそう言っていた」

その発言を聞きまた怒りが湧き上がってくる。非殺傷弾では無く実弾を叩き込んでやろうかさえ思った。

「ここで潰しちゃえばいいのよ。どうせスラムの住人なんだし。いてもいなくても一緒なんだから」

「そうだな。撃破判定が出ても撃ち続けてやるよ」

みんなの士気が上がっていく。これならあいつも終わりだろう。

「さて、作戦を考えよう。相手は一人だ。囲んで叩けば終わるだろうが、射撃の腕だけはバカに出来ない」

「ふん、人殺しで鍛えた腕なんかに負けるかよ。俺たちはモンスターと戦うんだからな」

「ああ、だがあいつもモンスターみたいなものだろ?人モドキなんだしな」

「はは!違いない!なら容赦はいらないな!」


この人モドキというのは防壁内の人が第三区画に住む人間に対する評価の一つだった。全ての防壁内の人間がそう思っている訳では無いが、あいつらは踏みにじっても構わない、そう思っている者達がいることも事実だった。


「作戦としては、戦闘開始後に散開。包囲完了後に一斉射撃で仕留めるといった感じでどうだろう?」

「ええ、それでいいんじゃない?」

「索敵は俺がやるよ。みんなの端末にアイツの位置を送信するから囲むのは簡単だ」

「よし、みんな装備は整えたな。弾丸もしっかり確認しろよ」

「大丈夫。そんなヘマしないわよ」


全員で準備を終わらせ、モンスターを狩りに行こう!と意気揚々とシミュレーター室に入っていく。


そして戦闘開始のカウントダウンが終わり、狩りを始める為全員が散開しようとした。

仲間達が岩の陰から飛び出し、移動しようと駆けた瞬間、一人の頭がズレ、衝撃で吹き飛んでいく。

あまりの事に他の者たちも固まってしまうが、相手は待ってはくれなかった。


向こうから射線が通っていたのだろう。今度は左右に走ろうとしていた二人が胴体部分に攻撃を受け吹き飛ばされる。索敵を行うと言っていた仲間はすでに撃破判定を出されており、ライトのいる場所が分からない。戦闘開始から10秒もたたないうちに3人がやられ、残りは二人だけになった。


(な!なにが!)


瓦礫に身を隠し辺りの気配を探るが一向にライトの位置を掴めない。


「うらあああああ!!!!」

少し離れたところから、バルザッハの叫び声と銃声が聞こえてきた。

向こうにライトがいる。援護に向かう為走りだそうとすると、消音機で殺された小さな発砲音が聞こえ、バルザッハの声と銃声が途切れる。


足が止まり、恐怖で動かなくなる。

開始からまだ20秒程度・・・いくらなんでも早すぎる。

瓦礫に身を預け、必死に気配を探った。

(くそ!!!なんなんだアイツは!!!)

全神経を集中させ、僅かな音も聞き逃すまいと耳を澄ます。

すると、近くの岩に何かが当たった音が聞こえた。

(!!!)

これが最後のチャンスと瓦礫から身を乗り出し音のした方向に銃を乱射する。

(一発でも当てれば俺の勝ちだ!!)

そう思い引き金を握りしめ銃を撃った。その瞬間、また小さな発砲音が聞こえこめかみに強い衝撃を感じる。

カズマは最後までライトの姿を見ることもなく、その意識は闇に落ちていった。



模擬戦が終了し、ライトがシミュレーター室から出てくる。


外で観戦していた二人は驚きで固まりライトに声をかけられなかった。

模擬戦の時間は凡そ30秒ほどしかなかった。係員が急いで気絶した5人を運び出していく。

非殺傷弾を使用し全身をガードする防護服を着ていたとはいえMKライフルで正確に急所を撃たれたのだ。かなりのダメージがあったことは想像に難くない。

ライトは頭と心臓に弾丸を命中させ一撃で対象を仕留めていた。適切に処理しなければ後遺症が残ってもおかしくない。それをなんの躊躇も無く行ったライトに自分達とは違う何かを感じずにはいられなかった。


どう声をかけていいかわからず固まっている二人にライトは近づいて来る。


「二人とも、終わったよ。あの人たちは病院に運ばれるらしいから、今日の訓練はボク達だけでやろうか」

特になんの感慨も無くそう声をかけてくるライト。

二人は混乱する頭でなんとか返答を絞り出す。

「お・・そうなのか」

「うん、それは贅沢だね・・・」

何を話していいか分からなくなっている二人に代わり教官が話かけてくる

「そこの3人。本日のシミュレーターでの訓練は中止だ。今日はこのまま解散とする」

教官はそういい、のびている天覇組に対処しようとするが、そこにライトが声をかける。

「教官。それはどうなんですか?午後から訓練無しとはどういう事でしょう?シミュレーターになにか問題が?」

「・・・あの5人を病院に搬送しなければならない。悪いがお前たちに構っている余裕がない」

「それはあんまりでは?5人共係員の人たちが搬送したんですから問題ないと思いますが」

「そうはいかん。彼らはある意味で特別な訓練生だ。それがこんな事になってはお前たちに構っている余裕はない。訓練は中止だ。お前たちは部屋に戻って待機していろ」

そう言い捨て、教官は運ばれた5人を追って走っていった。

「・・・・・」

ライトの機嫌が加速度的に悪くなっていく。

売られた喧嘩を買い、相手を叩きのめしたら自分たちが受けられるはずの訓練が中止になる。こんな理不尽があって良いものかと考えていた。

「ライト。とりあえず部屋に戻ろう」

「ここに居てもしゃーないしな。さっきの模擬戦の事聞かせてくれよ。俺何が何だか分からないうちに終わっちまったからさ」

「・・・・そうだね。部屋に戻ろうか」


そういい3人はシミュレーター室を後にする。






ということが昨日あったのだった。

そして本日、あるはずだった訓練が全て中止され、仕方なくライトの部屋に集まり昨日の模擬戦の話をしていたのだった。


「しかし昨日の模擬戦はすごかったな!あの天覇組5人相手に30秒足らずで全滅させるって!」

「なんであんな事ができるの?相手の動きが分かってたみたいだったよ?」

「そりゃ~、相手の動きが分かってたからね。情報収集機で向こうの動きは筒抜けだったよ」

「いや、それでもあんなにアッサリとはいかねーだろ?」

「そうだよ!幾ら情報収集機で相手の位置が分かるからって200mも離れてたんだよ?」

二人はライトの言い分に納得できず激しく質問をする。

「ん~とね、まず最初から説明するとさ。カズマがボクと模擬戦をするって事になって、準備室に入っていったでしょ?ボクはあの時から情報収集機で探ってたんだ」

「・・・・何を?」

「多分あの部屋でボクを仕留める算段をするって思ったからね。作戦内容の欠片でも聞けたら儲けものと思ってたんだけど・・・まさかなんの警戒もせずにベラベラと作戦会議するとは思わなかったよ。防諜機能も無い部屋なのに無防備すぎる」

「「・・・・」」

「索敵役から攻撃方法・タイミングまで全部聞こえてた。そして戦闘開始のカウントダウンが終わるまでなぜかずっと同じ場所に固まってたんだよ?配置も何もないじゃないか。普通攻撃されない時間を使って包囲と攻撃配置は終わらせておくものだよね?」

「それっていいの?」

「ルールで禁止されてなかったでしょ?開始まで移動したらダメってルールなら部屋の入り口で待ってないとダメって事になるし」

「まあ・・・そういわれればそうだよな」

「カウントダウンが終わってから一斉に動き出すし、作戦の要である索敵役が一番に遮蔽物から飛び出して来たんだ。そりゃ撃つでしょ?1人やられたら他のメンバーも動かなくなるし、やりたい放題だったよ。残った2人がどう動くか見てみたかったから、ちょっと様子見したけど参考にならないし。本当に無駄な時間だった」

あまりに散々な言われようで、嫌っているはずの天覇組が気の毒になってくる。

「・・・・でもさ、なにもあんな正確に急所を狙わなくたって・・・」

ユキはなぜか罪悪感を感じ始め、天覇組の心配を始める。

「まあ、ボクの訓練でもあったからね。あんなに綺麗に当たるとは思ってなかったけど」

「あれ、しばらく入院なんじゃないか?なんか気の毒だ・・・」

「?モンスターは非殺傷弾なんか使わないよ?」

「いや、でもこれは訓練で・・・」

「ボクたちってさ。モンスターと殺し合う訓練をしてるんだよ。本物のモンスターは訓練の的やシミュレーションの映像じゃない。なんの躊躇も無く殺しにかかってくる。実弾が頭に当たったり心臓部に当たったら防護服の上からでもただじゃすまないんだ。ボクは急所の守り方は最初に教えてもらったよ。点数を取るために訓練をしてるんじゃない。モンスターと戦って遺跡から生きて帰ってくるために訓練してるんだよ。そこを間違えたら実戦で本当に死んじゃうよ?」


ライトの言っていることはもっともな話だった。自分たちは生き残る術を学ぶ為にこの養成所に所属しているのだ、本番の遺跡探索で死んでいては意味が無い。


「でも・・・このままじゃダメだと思うんだよね・・・」

「なにがだ?」

「ボク達ってさ、今後真面な訓練受けられると思う?」

「どういうこと?」

二人はあまりピンと来ていなかった。

「教官がさ、ボク達よりあの5人の方を優先してたでしょ?成績だけの話をするとボク達の方が優秀な成績のはずなのに。これは、最悪の場合、天覇との関係を維持するためにボク達・・・いや、ボクは切り捨てられる可能性があるってことだと思うんだ」

「いや、それは重傷だったからじゃないの?」

「あれは重症とは言わないよ。回復薬でも飲んでおけばその内回復する程度の傷なんだから。たぶん本来なら病院に運ぶ必要すらないはずなんだよ」

「なんでそんな事が分かるんだ?」

「実体験談」

「あぁ・・・」

ライトはシドの放つゴム弾を食らいまくって来たのだ。最初は低品質のアサルトライフルだったが、ライトの体や反応速度が出来上がってくるとA60でゴム弾を使用する様になっていた。

MKライフルの威力で放たれる非殺傷弾の威力は嫌というほどに知っている。

単発で急所に叩きこまれたからと言ってそこまで深刻な怪我はしない。

そう、自分の様に空中に飛ばされ地面に落ちるまでの間、連射機能で十数発当て続けられる様な仕打ちを受けたわけでは無いのだから。

「ん~~、嫌がらせの予感がするね・・・」

「考えすぎじゃない?」

「ボクは第三区画、スラム出身だからね。どうなるかわからないよ・・」

「でも養成所はワーカーオフィスと繋がってるんだぞ?公平性は保たれてるはずだ」

「そう願うよ。まあ退学になってもランク1から始めるだけなんだけどね」


昨日の事を話していると、ライトの情報端末にメッセージが届いている事に気づく。内容を確認すると、シドがランク調整依頼を終わらせて都市に戻ってきたと言う事だった。


直ぐに通信を繋げシドと話をすると、時間がある時に訓練に付き合ってもらえるという事になったのだった。


あまり昨日の事は知られない方がいいかな?などと考えていると。

「で、シドさん。他に何かいってたか?」

タカヤがそうライトに質問する。シドは自力で壁越えを果たし、ライトが勝てないと言うほどのハンターなのだ。ワーカーとして成り上がり、一流のハンターになる事を目標にしているタカヤからすれば非常に気になる人物だった。

「ん?ああ、空いた時間に訓練に付き合ってもらえるみたい。今回の依頼で結構稼げたから、しばらく遺跡に行かなくてもいいみたいだしね」

「「!」」

噂のシドの訓練。素人だったライトを短期間でここまで鍛え上げた訓練だ。話を聞くに非常に厳しい内容らしいが、耐えることが出来れば自分もライトのようになれるのでは?と二人は想像する。

「なあ」「ねえ」

「「それって俺(私)も受けられる?」

「え?シドさんの訓練??」

「「そうそう」」

息ピッタリでライトに詰め寄る二人。

「ええっと・・・・かなりキツイよ?養成所の訓練とは比べ物にならないくらい・・・」

「ああ、聞いたから知ってる」

「・・・・倒れても起こされて泣き言も許されないよ?」

「大丈夫だ!」

「・・・・・」

「・・・・ライトから見て、私たちじゃ耐えられない?」

ユキが少し悲しそうにライトを見る。ライトは二人を見る。二人共、才能はある、努力もしている。シドに出会う前の自分に比べたら立派なのは間違いない。だが、あの地獄に引きずり込んでいいものかと思案してしまう。

「ライト。俺達、必ず食らいついていくから。頼む!」

タカヤがそういい頭を下げてくる。

「・・・わかった。シドさんに聞いてみる」

ライトがそういうと、二人は顔を見合わせ嬉しそうな顔をして喜んだ。だが、ライトは知っている。その顔は、訓練が始まれば苦痛と絶望に歪むことを・・・


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