巡回任務とワーニングアラーム
未探索の遺跡、その周辺から襲い掛かってくるモンスター達を迎撃する毎日を過ごしていたシドは、ようやく遺跡内部へと探索する準備が出来たと報告を聞く。
縦穴に昇降機が取り付けられ、安全に遺跡まで降りていける手筈が整ったのであった。
その話を聞き、シドも遺跡探索に乗り出そうと考えていたのだが。
「57番。新しいバイクが手配できたので、今日から巡回任務を熟してもらう」
「は?!」
職員にそう告げられ驚きの声を上げた。
「俺、遺跡に入れないんですか?!」
「そうだ。遺跡探索はこちらが用意したワーカー達が行う。お前は再度巡回での遊撃を担当してもらう」
「・・・・・・」
そう言われ、シドはしぶしぶながら巡回任務へ出発した。
<なんで発見者の俺が探索から外されるんだ?>
この扱いに納得がいかないシド。
<おそらく、発見者だからかと>
<そりゃどういうことだ?>
その理由は、都市との契約にあった。シドは遺跡発見の報告を入れ、遺跡から発掘された遺物からもたらされた売り上げの0.1%を受け取る契約を交わしていた。そのため、シドが遺物を持って帰り都市に売った場合、利益の2重取りになってしまうのだ。その為、シドは遺跡の探索には参加できなくなってしまったのであった。
イデアからそう説明を受け、シドは悲哀の声を上げた。
「まじか~~・・・・」
<それでも発見された遺物の0.1%の利益が保証されています。シドが自分で運んで来るより大きな利益となることは間違いありません>
<それはそうなんだろうけどさ・・・>
どのような遺物が残されていたのか、それを自分の目で見たかった。シドの態度は克明にそう語っていた。
<悲観している場合ではありません。モンスターです>
<へいへい>
今は巡回任務中。遺跡に思いを馳せている暇はない。荒野の向こう側からモンスターがシドを目指して爆走してきている。
<生物系のモンスターですね。サイズから考えて通常弾で問題ありません。一気に蹴散らしましょう>
イデアの提案通り、シドはバイクを加速させてモンスターの群れに向かって走っていく。ここ数日でこの辺りのモンスターの種類も粗方把握できており、今向かってきているモンスターも特に珍しいモノたちでは無かった。
一発一発を丁寧に相手の弱点部位に命中させていき、シドが通り過ぎた後に生きているモンスターは一体も居なかった。
午前中の任務を終え、午後からの任務を行っていると司令部から連絡が入る。
『57番。現在地から北東方向に商人のトラックが接近してきている。モンスターに追われているため、現場に急行し支援しろ』
職員は通信でそう言い、シドに救援対象のポイントを送って来た。そのトラックは北東方向からこちらに向かって移動している様だった。
「了解、すぐに向かう」
シドはそう返答し、トラックに向けてバイクを走らせた。
<もっと東の方からモンスターを引き連れて来たんだろうな>
<その様ですね。救援が入るくらいですから大物か大量のどちらかでしょう>
<最近マンネリだったからな。ここでビシっと気合入れなおすか!>
<そうですね。油断せずに行きましょう>
15分ほどバイクを走らせると、トラックが見えて来た。後ろには大小様々なモンスターが追ってきており、トラックに装着されている機銃で反撃している様だった。
シドはトラックに道を譲り、通信を繋げる。
「こちら防衛拠点登録番号57番 いまから援護に入る」
『お~~やっとかいな!助かったで!!』
「そのまま拠点に直行してくれ、道をそれると厄介なことになるからな」
『了解や!あとは頼むで~!』
シドは射程に入り次第銃撃を開始する。モンスターの特性に合わせ弾頭を変更し、実に効率的にモンスターを駆除していった。
トラックとすれ違い、モンスターの前に躍り出ると、その激しさを増していった。
モンスターの反撃も難なく躱し、モンスターの群れに突っ込んでいく。体当たりしてくるモンスターを躱し、こちらに標的を変えたモンスターを的確に銃撃して撃破していく。群れを突き抜けた後は反転し、後ろから銃撃を行っていく。
トラックからの機銃の掃討と背後からシドの猛攻を受け、モンスターの群れは短時間で全滅することになった。追加のモンスターが居ないことを確認したシドはトラックに追いつき並走し、司令部へと報告をいれた。
「こちら57番。対象のトラックの無事を確保した。これから帰還するが問題ないか?」
『こちら司令部、57番、対象を護衛し帰還しろ』
「了解した」
司令部からの許可も得て、シドは防衛拠点までトラックを護衛することとなった。
「こちら57番。今からこのトラックを護衛しながら防衛拠点へ帰ることになった。問題ないか?」
『どうも~、ほんま助かったで。このまま拠点までよろしゅ~な~』
相手の承諾も取れたので通信を切り拠点を目指す。
<なんか、聞き覚えのある話し方だったな>
<そうですね。トラックにも見覚えがあるのでは?>
<・・・そういやそうだな>
そのトラックはダークグリーンに塗装された大型トラックだった。
シドはトラックと共に防衛拠点まで帰って行った。
拠点に到着し、任務完了の手続きを行う。
本日の仕事はこれで終了だ。夕食の前に護衛してきたトラックの主に挨拶しておこうとトラックの方へ歩いていく。
「こんにちは。おひさしぶりです」
「お~、シドやないか。久しぶりやな。元気しとったか?」
トラックの側に立っていたのはガンスだった。遺跡のスタンピードの際、東方の都市に向かっていった行商人である。今は相棒のミスカは不在の様だった。
「ええまあ。あの防衛戦で壁越え出来ましてね。ワーカーオフィスとのイザコザもとりあえず解消しました」
「そりゃー良かったな。結構な数のモンスターが襲ってきたって聞いとったから心配しとったんや」
「ライトと一緒になんとか切り抜けましたよ」
「ほ~か、ライトもここにおるんか?」
ガンスはシドが防衛拠点にいる為、ライトもここに来ているのかと聞いてくる。
「ああ、いや。あいつは今養成所の方で訓練を受けてますね。たぶん半年くらいはかかるって聞いてます」
「なるほどな~、ワーカーの事を新規で学ぶんやったらうってつけやろな」
「はい、俺がその辺のことあまり知らないんで、あいつに勉強してもらおうかと」
ガンスは朗らかに笑いシドの背を数度叩いて言う。
「そらええこっちゃ。これからも頑張ってくれよ。遺物も装備も期待してんで」
商人らしい話だ。シドが持ち込んだ遺物を東方の都市で捌き、なかなかの利益を上げてきたのだろう。
「それでや、シド。お前この後なんか用事あるんか?」
ガンスがシドの予定を聞いてくる。
「いえ、特にはなにも」
「んじゃ、一緒にメシでも食わへんか?ミスカもシドらの事気になっとったみたいやし」
「わかりました。時間はどうしましょうか?」
「またミスカと相談して連絡するわ。場所もそん時に連絡する」
「はい、では後ほど」
そうしてシドはガンスと一旦別れ、自分に宛がわれている部屋へ戻る。
風呂に入り、ガンスから連絡がはいるまでの間、シドはイデアと今後の話をしていた。
<なあ、このランク調整依頼っていつまで続くと思う?>
<シドのランクが丁度良いランクに上がるまでですからね。かなりの期間拘束されると思われます>
<でもさ、今回未発見の遺跡まで報告したんだから一気に上がったりしないかな?>
<その可能性もありますが、元が11でしたからね、シドの戦闘能力で言えば35辺りが妥当ではないかと思われます。そこまで上げようと思ったらかなりの時間が掛かると推察します>
<ん~、別にそこまで上げてくれなくてもいいんだけどな~>
<それはワーカーオフィスの都合ですからね。仕方ありません>
シドの単純な戦闘能力は現在も向上しており、ランクを上げてもイタチごっこになっていた。
コーディネイトもここ一ケ月で完了しており、劇的な上昇はもう無いが鍛えれば鍛えるだけ力が増していく状態である。
イデアとしても、次の段階に進みたいと思っているのだが、周りに人の目が多いところで急激にシドの力が増せばいらぬ疑いを掛けられる可能性が有る。
その為、ランク調整依頼が終了し、通常のワーカー活動に戻った段階で纏まった訓練期間を取ろうと考えていた。
シドとしても、毎日巡回依頼ばかりを行っており変化が無い生活に飽きが来ていた。
ワーカーとして遺跡に潜り、新たな遺物を見つけた興奮をまた味わいたい。そう思っても仕方が無かった。
未発見の遺跡探索が行えるようになれば、またワーカーらしい仕事ができると思っていたが、契約の為お預けを食らいシドは自分の気持ちを持て余していたのであった
<ガンスさん達、またなんか面白い装備とか仕入れてきてないかな?>
<それは可能性がありますね。とはいえ、シドの装備は今のままでも十分強力だと思いますが>
<そうなんだけどさ。特に目新しい訓練が出来るわけでもなく、毎日荒野で似たようなモンスターを駆除して回るだけの日々ってのがな~。刺激が欲しい>
<また妙なフラグを立てましたね。大事になったらどうするのですか?>
<いや、俺の発言でいちいち大事になったりするかよ。だいたいここは東部からのモンスターを迎撃できる設備が揃ってるんだぞ?ヤシロさんみたいな高ランクハンターまで居るみたいだし。ちょっとやそっとのモンスターじゃビクともしねーって・・・>
シドがそういうと同時に部屋の照明が赤くなりワーニングアラームが鳴り響く。
<・・・・・>
<シド。素晴らしい才能と言えますね。不用意な発言は控える事を進言します>
<俺のせいじゃねーーよ!!>
シドは部屋から出て状況を把握しようとする。するとスピーカーから
『東部から大型モンスターの接近を確認。待機中のワーカーは至急装備を整え迎撃態勢に移れ。繰り返す・・・』
「はぁ~・・・」
<シド、早く行かなくていいのですか?>
<わかってるよ・・・>
今日はもう仕事は終わりだと思っていた所に大型モンスターの襲来を知らせが来た。
今じゃなくていいんだよ、と心の中で悪態を付きながらシドは装備を整え迎撃に向かった。
ブックマークと評価を頂ければ幸いです




