訓練所2 シミュレーター訓練と難癖
基礎射撃訓練が終了し、休憩時間が与えられる。
ライト達は休憩ブースに座り、飲み物で喉を潤していた。
「・・・・ライト。テメー嘘ついたな・・・」
苦々しそうにタカヤがライトをにらみつける・
「なんのこと?」
「射撃が苦手だって言ってただろうが!」
「そんな事言ってないよ。シドさんと比べたら命中率は落ちるって言ったんじゃないか」
「・・・あの複雑に動いてた的に全弾命中って異常だと思うんだけど・・・」
ユキはそういい、腑に落ちない表情でストローを咥える。
ライトからすると、200m程度の近距離で一定の動きしかしない的など止まっているのと同じだった。
モンスターは上下左右に不規則かつ激しく動きながら襲ってくる。その弱点に正確に弾丸を叩き込まないとモンスターはなかなか死なない。
もし、生きてこちらにたどり着かれれば死んでしまうのだ。あれくらい全弾当てられる腕が無ければ、ライトは今までの戦闘で死んでいる。
「ん~・・・ボクの基準があの人だからな~・・・やっぱり一般と認識のズレがあるんだと思うよ」
「それってシドさん?」
「そう、あの人ってさ、自分に出来るんだからお前もやれって感じでやらそうとするんだよ」
「どんな人なんだ?最近壁越えしたって言ってたけど。ランクは10なんだろ?」
「別れた時は11だったよ。今はどうなってるか分からないけど。ボクの戦闘訓練の基準もあの人だから、だいぶ認識に差が出てるんだな」
「ランク11って・・・あの天覇組とたいしてかわらないんじゃ・・・」
「あの人、とびっきりにランク詐欺だからね。戦闘訓練での撃ち合いでも、あの人は弾丸を視認して避けるんだよ」
「・・・いや無理だろ」
「弾丸って肉眼で見えるの?」
「見えるよ。ものすごく注意して見るとね。でもさ、見えるのと避けられるのって違うと思うんだよ、ボクは」
「まあ・・そうだな」
「それなのに、あの人は避けるんだよ。避ける方向を予測して置き弾をしてもそれすら避けるんだよ・・・銃が2丁じゃ当てられないんだ・・・」
ライトは不満そうに言い捨てる。
「なあ、置き弾ってなんだ?」
「ええっと、相手が避ける方向をあらかじめ予測しておいて、避けた時に当たるように時間差で弾丸を撃ち込む事だよ」
「・・・・で、シドさんってそれも避けるの?」
「そう、何をやっても当たらなかった」
「人間か?」
「疑わしいね」
シドは本人の知らない所で人外扱いを受ける。
イデアが考案し、シドが行った地獄の訓練はライトの実力をしっかりと高めていた。訓練生としては異常なほどに。
タカヤとユキは基礎射撃訓練の合格点まで達していない為、また基礎から訓練を受けることになっている。
ライトはシミュレーターでの対モンスター戦闘訓練が行われる。
休憩時間の終わりが迫り、3人は別れそれぞれの訓練に向かう。
ライトが向かった先にはシミュレーター室があり、そこで訓練の説明を受けていた。
そこでの訓練が行われるのは6人、ライトと天覇組と呼ばれている5人だった。
「シミュレーター訓練を行うのはこの6人だ。各自3人チームを組んで訓練にあたってもらう」
この中の2人と組まされるって事か、とライトは考える。
「戦闘対象はラクーンを選択した。モンスターの中では鈍重な部類だが、搭載している武装は非常に幅広い。個々の特徴をよく考え対処するように」
「「「「「「はい!」」」」」」
「では、組み分けを発表する」
教官はそれぞれ名前を呼び、組み分けを行った。
「それでは、各班30分後に訓練を開始する。それまでに自分たちがどう動くべきか相談しておけ」
そういい、教官はシミュレーター室から出て行った。
ライトと同じ組に振り分けられたのは、先ほどカズマの後ろに居た男女の二人だった。
「よろしく」
「「・・・・・・」」
ライトは同じ組になったメンバーの二人に挨拶をするが無視される。
「えっと・・・・」
「話しかけるな。俺たちは俺たちで行動するから、お前は勝手にやってろ。危機に陥っても助けないからそう思っておけ」
「・・・でもチームメンバーだよね?」
「ここでの振り分けなんて関係ないでしょ?私たちはキミを仲間にした訳じゃない。キミもこちらの事は気にしないでいいから」
取り付く島もなく追い払われるライトだった。
(ん~。どうしたもんかな・・・チームプレイが出来てないと評価に響くんじゃ?)
二人はライトから離れた場所で、連携の確認を行っている。ここまで蚊帳の外だとライトは何もやることがなく。ただ訓練開始までの時間が経過するのを待つだけだった。
『それでは時間だ。訓練を開始する。全員配置につけ』
スピーカーから教官の声が聞こえ、部屋の中に遺跡の風景が映し出される。
ライト以外の5人は素早く自分達が戦いやすいポイントに身を潜め、モンスターの気配を探っていた。
ライトはすぐに情報収集機で索敵を行う。
シミュレーターでも情報収集機を使う前提でプログラムされているため、問題なく使用できた。
前方からまずは4体のラクーンが向かってきている。距離は400m、瓦礫の間から射線が通る一瞬を見極め銃撃した。
弾道をコンピュータが計算し、命中判定を出す。
しかし、ラクーンの討伐判定は出なかった。依然として4体のラクーンはこちらに向かってくる。
(浅かったのかな?)
ライトは弱点部位に命中しなかったかと考え、再度銃撃する。次弾も命中し、今度こそ討伐判定を受けた。
(ん~?)
しかし、ライトは違和感を覚える。
もう一体こちらに向かって来ていたラクーンに照準を合わせ、今度こそ弱点部位に命中させた。
だが、討伐判定が出ることは無く、ラクーンの射程内に近づかれ攻撃を受ける。
(!!!)
直ぐに瓦礫の陰に飛び込み、瓦礫の反対側からラクーンを攻撃する。
その弾の命中でラクーンの討伐判定が出された。
(そうか!弱点部位とか関係なく命中した弾丸の数で討伐の可否を決めてるんだ!)
これはやっかいな設定だった。本来なら1発で仕留められる状況でも2発撃ちこまなくてはならない。状況的に難しい場合もあるし、残弾数にも影響する。
(これは厳しいぞ・・・なるべく囲まれない様に行動しないと)
4体のラクーン全ての討伐判定が出され、新たなラクーンが表示される。次の数は10体。2丁のMKライフルを持つ利点を生かし、ライトは次々討伐していった。
次第に脱落者が出始め、ライトに向かってくるラクーンの数が増えてくる。加速度的に弾の消費が増えていき、装弾数を撃ち切った。
<弾切れです。マガジン交換の時間10秒>
ライトに弾切れのアナウンスが流れ、マガジン交換時間のカウントが始まる。そのカウントが終わるまで攻撃できなかった。
(いや長いよ!!!!)
近接戦闘時の10秒とは気が遠くなるほど長い。マガジン交換の時間を短縮する為に、シドが行っていた曲芸まがいの交換方法も練習したのだ。だが、シミュレーターでは意味がなかった。
カウントが終わるまでの時間、ライトはラクーンから逃げ回る。味方もおらず孤立無援の状態で10秒は途轍もなく長い時間だった。
カウントが終わり、再度銃撃を再開する。敵の射線を躱し、ラクーンを自分の射線に捉え弾丸を命中させていく。しかし、この時すでにラクーン15体に囲まれており、一度の攻撃で1体しか討伐出来ない。次第に焦りが生じ、選択を誤った。
(しまった!)
気付いた時にはラクーンからの射線から逃れる術はなく、銃弾を撃ち込まれ撃墜判定を出されてしまった。
ライトの生存時間53分 討伐数48匹 と記録させることになった。
シミュレーターが停止し、周りを見渡すとそこには誰もいなかった。
「あれ?」
不思議に思っているとスピーカーから教官の声が聞こえてくる。
『ライト訓練生。今日の訓練は終わりだ。退出後、自由時間とする』
「あ、はい。わかりました」
ライトがシミュレーター室から出ると、他の5人がこちらを見て立っていた。
「おい、お前」
カズマがライトに話しかけてくる。
「なに?」
ライトはそれに答えたが、相手の表情は酷く歪んでいた。
「何故おまえが最後まで生き残れる?」
「え?そんなこと言われても・・・」
「MKライフルの2丁持ちなどとふざけた装備で、なぜお前の様なヤツが最後まで生き残れるんだ!」
なんでと言われても答えようがない。ハッキリ言えばライトが彼らより強いからである。だが、彼はライトが不正でもしたかの様な物言いをしてくる。
何も言えないライトに彼は舌打ちをし、踵を返し離れていった。彼らは一様に忌々しそうな視線をライトに投げ、カズマに付いて廊下の奥に消えていった。
「・・・・一体なに?」
養成所での夕食の時間、ライトはタカヤとユキの3人で食堂で食事をとっていた。
「あ~、俺 命中率60%までしか行かなかった・・・」
そういい、テーブルに突っ伏すタカヤ。
「私も62%までだったよ。ライトはよくあれに当てられるよね・・・」
ユキもそう言い疲れた表情を見せる。
「まあ、数をこなすしかないんじゃないかな?ボクの場合は一日中撃ちっぱなしで訓練したし」
「反動で腕が壊れるよ・・・そんなの・・・」
「その時は回復薬を飲んで治すんだよ」
「当たり前みたいに言うなっつの」
タカヤがライトの発言にツッコミを入れる。
「それでさ、ライトの方はどうだったの?シミュレーター訓練だったんだよね?」
ユキは興味深そうにこちらを見てきた。
「うん、まあ・・・結構難しかった」
「へー、ライトでも大変だったんだな。実戦とどっちが大変だったんだ?」
「それは比べられないかな。訓練だと撃墜判定が出るまで延々敵が出てくるみたいだったしさ」
「どの辺りが難しかったの?」
「まずは当てる場所はあまり関係無くて、当てた弾の数で討伐判定が出る所とかかな。後はマガジン交換時間ってのがあってさ。マガジンの中身全部撃ち尽くすと強制的に10秒間攻撃できなくなるんだ。あれがかなりストレスになったね」
「当てる場所に関係ないってどうゆう事だ?」
「ラクーンの場合だと、頭や心臓なんかに当てることが出来たらMKライフルだと一撃で仕留められるんだよ。でもシミュレーターだとさ、頭に当てようがお尻に当てようが2発当てないと討伐判定にならないんだ」
「あ~そういう事か。幾らワーカーオフィス提携のシミュレーターでもそこまでは再現できないんだな」
養成所のシミュレーターはワーカーオフィスから提供されたシステムとデータで戦闘を再現していた。
「でも、それならどこでも2発当てたら倒せるってことだよね?それって楽なんじゃない?」
本来のモンスターなら仕留められない攻撃でもシミュレーターでは撃墜判定がでることにユキは好意的な反応をします。
「それじゃだめだよ。ボク達はワーカーになって遺跡を探索するために訓練を受けてるんだから。弱点部位に当てられても、もう一発撃つ癖が付いたら無駄弾が増えるし、関係ない所に当てても倒せるって思い込んだら最悪こっちが殺されることになるんだから」
ライトの懸念は当然であった。実際にその手の失敗で痛い目を見た新人ワーカーは大勢いた。養成所を卒業し、意気揚々と遺跡に行ったものの、シミュレーター訓練と実戦の違いに戸惑い逃げ帰る、もしくはモンスターの餌食になるものは必ず存在する。
「ならシミュレーターでもしっかり弱点部位を狙うようにすればいいだけなんじゃないのか?」
「それは当然だよ。問題は弱点部位に当ててるのにもう一発撃つ癖が付いたらどうしようって事なんだよね・・・」
「それくらい、いいんじゃない?その方が確実でしょ?」
「ボクのパートナーはたぶんそう思わないと思う。鈍ってると判断されて再訓練待ったなしだよ。それに無駄弾なのは間違いないから、継戦能力が落ちるのは確実だし」
「あぁ・・・なるほど」
「私たちにはまだ早い悩みね。基本訓練を突破出来たらまた考えましょうか」
「そうだな・・・そろそろ部屋に戻らねーとな」
「そうだね。しっかり寝て明日に備えないとね」
「んじゃ、解散しよっか。また明日ね。二人とも」
「おう、ユキお休み」
「うん、おやすみ」
ユキは席を立ち二人に手を振りながら女性寮へと帰っていった。
「・・・それじゃ、また明日」
「おう、また明日な」
明日からまた、今日と同じ訓練が続く、ライトはシミュレーター訓練とそれを一緒に受けている5人組について頭を悩ませるのだった。
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