荒野巡回依頼
シドは荒野巡回依頼を受けたワーカー達を集めた広場にいた。
「これより13:00から巡回依頼を始める。受付から渡された番号のトラックに乗り込め!なお、乗り遅れた者は依頼放棄と見なし置いていく!」
職員が拡声器を使いそう告知する。シドは自分が渡された番号を確認しトラックに乗り込むため、トラックに記載せれている番号を見て回った。
「ええ~っと13番・・・13番・・・あった、これだな」
そのトラックは後部の荷台に屋根は無く、身を隠せる様な壁だけが設置されたトラックだった。
<全体に強化装甲が施されていますね。これならば少々の銃撃程度は弾き返せるでしょう>
<ある程度の身の安全は確保できるってことか。ありがたいな>
<他のワーカーと共同作戦ですね。相手との関係は協力とも競争とも取れます。集中していきましょう>
<そうだな。討伐したモンスターの数で報酬も上下するらしいし。気合入れていくか>
シドはトラックの傍に立っている職員に番号札を渡し、登録をすませトラックに乗り込む。
そこにはシドの他に13人のワーカー達が乗っており、出発の時間を待っていた。
ワーカーたちは一度シドの方を見て、興味を失ったかのようにまた目線を元に戻す。
<なんか雰囲気あるな~>
<はい、シドも負けない様に頑張りましょう>
<そうだな>
シドは空いている席に座り、出発の時間を待った。
・・・・・・・・・・・
「これより巡回依頼を開始する!」
トラックから音声が流れ、トラックが次々と発進していく。
シドが乗り込んだトラックは、モンスターの闊歩する危険な荒野に飛び出していった。
トラックの上では銃声が鳴り響き、モンスターの断末魔が聞こえてくる。
シドはその中でスナイパーライフルを構え、丘の向こう側から現れたモンスターを銃撃していた。
高速で走り、揺れるトラックの荷台からの射撃は、命中させるのに非常に高い技術が要求される。それをシドは時間圧縮とイデアからのサポートによって実現していた。
広範囲を把握できるようにまで成長したシドの感覚器官は遺憾なくその効力を発揮し、正確にモンスターの挙動を把握する。
予測したモンスターの動きに合わせ、イデアのサポートで表示されている射線に向け発砲する。これを繰り返し、シドは大量のモンスターを討伐していた。
ようやくモンスターの襲撃が途切れ、少しの間休憩を取る。
「よう。お前、なかなかやるじゃねーか」
隣に陣取っていたワーカーが話しかけてくる。
「ん?ありがとう。訓練した甲斐があったよ」
会話にシドが応じ、ワーカーがシドについて質問してきた。
「お前、養成所の出か?」
「いや、スラムからの成り上がりだな。最近壁越え出来たんだ」
「そりゃスゲーな!滅多にいねーぞ。自力で壁越えしてくるヤツは」
「そうなんだろうな。俺は運がよかったんだよ」
シドは自力で壁越えが出来たとは思っていない。ほとんどがイデアのおかげであると認識していた。
「へ!さっきはお前に結構食われちまったが、次は負けねーからな!」
「はは、今度は全部平らげてやるよ」
そう会話を続けていると、トラックの広範囲索敵機がモンスターの接近を教えてくる。
「っと、休憩は終わりだな」
「そうだな、しっかり稼がないと」
「ちげーねー!」
そして始まる、銃撃の嵐。
トラックは日が沈む寸前まで荒野を走り回り、モンスターの間引きを行った。
シドの乗ったトラックが荒野から帰ってくる。今日の依頼は順当に行われ、特にトラブルも無く全台のトラックが帰還していた。
シドはトラックから降り、拠点内で与えられた部屋に帰っていく。
ワーカー達に与えられる部屋は、ホテルの部屋と比べても見劣りするものではなく、設備も充実している。食事も頼めば部屋まで届けられるというサービスの良さだった。
<なんか、ランク一桁の時とは比べ物にならない待遇だな>
<そうですね。本来のワーカーの待遇はこういったものなのでしょう>
シドは届けられた食事を食べ、風呂に浸かりながら明日の予定を整理する。
<明日は2回出撃だったか?>
<はい、午前7:00に出撃、4時間巡回して帰還。午後14:00に出撃して4時間巡回を行うようです>
<明日もあの位の量が出てくるかな?>
<他のチームではほとんど遭遇しなかったトラックに乗ったものもいるようですね>
<そこは運しだいって事か>
<はい、程よくモンスターと遭遇するよう祈りましょうか>
<そうだな。明日も頼むぞイデア>
<はい、お任せください>
こうして夜は更けていき、シドのランク調整依頼 初日は終わった。
「57番。お前は今日から、単独での遊撃だ」
「ん?」
防衛拠点で依頼を開始してから1週間。
シドがいつもの様に集合場所へ行き手続きを行うと、職員にそう告げられた。
「単独での遊撃ですか?」
「そうだ。昨日までの戦績を考慮しての配置換えだ」
シドはこの1週間、常にトラック同乗者の中で討伐数トップの成績を上げていた。
その戦績を考慮し、規定ルートの巡回では無く遊撃者として運用されることが決まったのであった。
「それって適当にうろついて討伐していけばいいと?」
「そういう事だな。緊急の場合は、こちらから指定するポイントに向かってもらうことになるな。帰還の命令はこちらで出す」
「・・・・わかりました」
「よし、今から30分以内であれば好きに出撃してよし。遅れれば依頼放棄と見なす。行け」
そう言われ、シドはレンタルしているバイクに乗って拠点から出撃する。
しばらく何事もなくバイクを走らせていると、モンスターの気配を感じるようになった。
<結構いるな。大物は混じってないみたいだけど>
<そのようですね。丁度いい訓練相手になるかと>
<よし!気合入れて行くぞ!>
シドはバイクを加速させ、モンスターの気配を感じる方向へ走っていく。
小さな丘を越えた先には7体の機械系モンスターがおり、相手もシドを捕捉したのかこちらに向かってきた。
シドはA60をホルスターから抜き、両手に持ち構える。
モンスターもこちらに向けて銃口を向けて攻撃しようとする。
先に相手を射程に入れたのはモンスターの方だった。胴体の上に搭載された砲身から弾丸が発射され、シドに向かって飛んでくる。イデアはモンスターの射線をシドの視界に表示した。
(ん、これは当たらないか)
モンスターから放たれた弾丸はシドに当たる物は一つもない。爆風に巻き込まれない様注意すれば問題なかった。
<あいつら、命中率悪すぎないか?>
<おそらく、稼働中の遺跡で生産される際、間違ったデータで製造されたのかと>
<なるほど、あまり警戒する必要ないな>
<今は機動力がありますからね。トラックみたいな的が大きくなる場合は脅威です>
<そういうことか・・・>
シドの周りに着弾し爆風まき散らす。その中を突き抜け、シドはモンスターを射程に収めた。
ゆっくり流れる時間の中で、シドは引き金を引き、KARASAWAから吐き出されたPN弾が正確にモンスターを貫く。連射機能を使用し放たれた弾丸は計7体のモンスターを破壊。
短時間で戦闘は終了し、シドは次の獲物を求めてバイクを走らせる。
<よし!全中したな>
<お見事です。運転中の射撃にも慣れてきたようですね>
<ガタガタ揺れるトラックより、俺はこっちのほうがやりやすいな>
その後も荒野を駆け巡り、帰還命令が出されるまでモンスターを仕留め続けシドは拠点に帰ってくる。
「ワーカーライセンスを端末にかざせ」
シドはライセンスを端末に当て認証を行う。
「よし、次は13:30から14:00の間に出撃してもらう。それまでは自由時間だ。行って良し」
午後の予定の指示を受け、シドは食事を取り、再度出撃の準備を行った。
<結構弾薬の消費が激しいな>
<機械系モンスターが多く出てきましたからね。PN弾頭の消費が多いと思います>
<通常弾でも効きはするんだけどな~5.6発当てないと倒せないし・・・>
<問題ないかと、このまま効率的に討伐していきましょう>
<そうだな。安全第一>
午後の巡回も同じようにモンスターの討伐を行っていると、司令部から連絡が入ってきた。
『57番。巡回中のトラックが苦戦している。至急指定のポイントまで急行し参戦してくれ』
司令部からポイントが送られて来た。確認するとそれほど遠くなく、数分で到着できる距離にあった。
「了解した。すぐに向かう」
バイクを加速させ、苦戦中のトラックに向かって猛スピードで走っていく。
<シド、注意してください>
シドの感覚でも、かなりの数に囲まれており集中砲火を受けているようだった。
<これはヤバいな。外側から削っていくしかないか>
<それがいいでしょう。今からなら背後から攻撃できます>
シドはバイクを操作し、モンスターの背後から攻撃を仕掛ける。
後方から攻撃を受けている事に気づいたモンスターは反転しようとするが、シドはそれを許さず徹底的に排除していった。トラックからの攻撃も続いており、徐々にモンスターの数が減っていき、あと少しで全滅させられると言う所まで来たのだが、今度はトラック前方からモンスターが押し寄せてきた。
トラック周辺のモンスターは、トラック内のワーカー達に任せ前方にバイクを加速させる。
接敵し、お互いに銃器で攻撃をし合う。シドは弾幕を掻い潜り正確にモンスターを撃ち抜いていく。
A60は自身の性能を最大限発揮し、強力な弾丸を吐き出し続けモンスターを駆逐していった。
小型のモンスターは問題なく討伐できているが、そこに大型のモンスターが出現する。
それは体長7m程の体躯をしており、外観は二足歩行の狼だった。だが、両手は銃器になっており、背中からも砲身が生えていた。
<シド、ライカンスロープです。今回の相手は特に大型ですね。アサルトライフルと榴弾砲を装備しています。注意してください>
<弾幕を張って榴弾で吹き飛ばそうって発想か。倒せるか?>
<問題ありません。周りの小型は無視してまずはあれから対処しましょう>
<了解>
シドは、バイクをライカンスロープに向けて加速させる。向こうもシドを捕捉しており、両手の銃を乱射してきた。時間圧縮を使い、弾幕を搔い潜っていく。敵の榴弾が発射され、視界に着弾地点と爆発範囲が表示された。
(このまま進むと榴弾の爆発に巻き込まれるな)
シドは片方の銃の弾丸をSH弾に変更、いまだ空中にいる榴弾の迎撃を選択する。
榴弾の弾速は他の弾より遅く、今のシドならば撃ち落とす事も可能だった。飛んでくる榴弾にSH弾を命中させ、空中で爆発させる。
空いた隙間にバイクをねじ込んでライカンスロープの懐へと飛び込んでいった。
シドが両手に持つ銃からPN弾とSH弾が発射され、ライカンスロープの鳩尾に命中する。
PN弾が肉と内部の装甲を貫き穴をあける。その穴にSH弾が飛び込み内部エネルギーコアに直撃。増幅された衝撃がエネルギーコアを粉砕した。
ライカンスロープは絶叫を上げ、搭載されている武装を乱射する。辺り一面に銃弾と榴弾がバラまかれ荒野が耕されていく。
<ちょ!即死しないのか?!>
<エネルギーコアは破壊出来ましたので、その内絶命します。しかし、このまま放置するのも危険ですね>
<う~ん。じゃー武器の破壊くらいはやっておくか>
シドは両方の弾頭をSH弾に変更し、一番迷惑な背中の榴弾砲を破壊する為に撃ち込んだ。
連射で発射されたSH弾頭はその威力を十全に発揮し、2門の榴弾砲を破壊した。
暴走したライカンスロープはそれでも、榴弾を撃とうと装填を繰り返し、砲身の爆発に弾頭が触れ誘爆する。最後は自分の体内にある生体爆薬にも引火し派手に吹き飛んだのであった。
<う~ん、最後まで迷惑なやつだったな>
<そうですね。生体と機械を融合させた弊害でしょう>
<んじゃ、あとは雑魚を片付けて終わりだな>
そうして、シドは周りの小型モンスターの討伐を再開した。
自身の周りにいたモンスターを駆逐したトラック組のワーカー達も参戦し、程なくモンスターを全滅させることに成功する。
トラックの無事を報告すると、司令部から帰還命令が出され、シドとトラックは拠点に向かって荒野を進んでいった。
ゴールデンウィークが終わってしまう。
明日からまた仕事か・・・・
夕方辺りに更新できたらな~と考えています。
今後ともよろしくお願いします




