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スラムバレット  作者: 穴掘りモグラ
216/217

今回の報酬は?

「都市から流出したモンスターの討伐。ご苦労だったな3人共」

護衛とキクチを引き連れたゴンダバヤシを目にし、ラルフは一瞬顔を引きつらせるが、直ぐに立ち上がり礼を行う。

その姿を見たシドとライトも同じように立ち、彼に頭を下げた。

いつもはフランクな態度で接するシドも、今はラルフに倣う。


「まあ座れ。まず今の都市の状況を説明しよう」

ゴンダバヤシは椅子に腰かけ、シド達も同じように座る。

ゴンダバヤシがキクチに目を向けると、キクチはモンスター駆除の状況を説明していった。

「・・・・・・・・・と言う状況だ。地下構造内のモンスターに関しては後2日もすれば駆除が完了する見通しだ。都市から流出したモンスターはあのヘビ1体だけだという見方が強い。穴の調査もそれほど時間もかからずに終わる見込みだ」

「ドルファンドの後始末はもう少しかかるだろうな。バークとトウドウが今対処しているが、解体は間違いない。危険な技術だと判断されたモノは喜多野マテリアルが接収し、その他の職員は追放処分になるだろうけどな」

キクチの説明が終わると、ゴンダバヤシがドルファンドの処分について簡単に説明する。

「・・・・・上層部の人間はどうなったんだ?」

「ギールを筆頭に幹部連中は全員治験行きだ。期間はそれぞれ罪の重さを審議してから決定されるが、最低でも数年は死んだ方がマシだという目に遭うのは間違いないだろう」


ドルファンドの幹部たちは、全員東部の企業に送られている。

今頃は自分達が行った行為の報いを受けている事だろう。


「なら、俺達がこの都市でやる事ってもう無いのか?」

モンスター駆除も佳境を迎え、ドルファンドの方もシド達が介入する余地は残っていない。

「ああ、一番の懸念はお前たちが討伐してくれたからな。念のために1週間ほどこの都市に滞在してほしいが、これと言ってやってもらいたいことがある訳でもないな」

キクチはこれ以上の戦力は必要ないと判断した。

弱体化した変異モンスターにこの2人を当てるのは過剰戦力であるし、2人は十分に功績を積んでいる。

これ以上戦わせる必要は無いと判断したのだ。


「それでは、この度の報酬は如何なりますか?」

ここでラルフが報酬の話を切り出した。

「ん?」「え?」

シドとライトは何を?と言った顔でラルフを見る。

2人からすれば、これは依頼では無く降りかかって来た火の粉を払ったに過ぎない。報酬に話が飛ぶことに不思議そうな顔をする。

しかし、ラルフはそう考えてはいない。


今回の件。

スラムバレットの行動が無ければこの程度の災害では終わっていないのだ。

シドが撃破したゲンハが遺跡や荒野、街中でナノマシンの副作用による突然死をしていた場合、誰にも知られることも無く広範囲にナノマシンが流出していた可能性が高い。

そうなれば対応は遅れに遅れ、手の付けられない状況に成ってから発覚していただろう。


そうなれば、この都市は崩壊し、辺りには高レベルの変異モンスターが跋扈する様な事になっただろう。

ナノマシンの変異によっては大陸全土に問題が波及していた可能性すらある。そうなってしまえば、1つの都市を消し飛ばす程度の損害で収まる訳がない。

そして都市やワーカーオフィス、喜多野マテリアルがその対処に当たっている間に、元凶であるドルファンドは逃亡。その罪が有耶無耶にされてしまっていただろう。


今回、元凶であるドルファンドを正しい形で断罪出来、民間人への犠牲を最小限に抑え収束させられたのは、間違いなくスラムバレットの活躍のお陰であった。


被害総額が億どころか兆を超える可能性があった難題を、これだけの人的被害で抑え込んだ功績。

これが無報酬でいい訳が無い。

そうラルフは考える。


ラルフはそう意志を込めゴンダバヤシに視線を送った。


「・・・・・・・ほう。報酬か・・・・・・・」

「はい、彼らの活躍はここ数十年でも類を見ないモノかと」

「・・・・・最前線の奴等を差し置いてか?」

「はい、人類生存圏縮小の防止。これは新たに開拓するに匹敵すると考えます」

「・・・・・・・なるほどな・・・・・・認めよう。確かに類まれな功績だ」

ゴンダバヤシがそう認めたことに、シドとライトは驚いた表情を見せる。

この2人には、そんな大それた事をしたという自覚などない。

シドはギールとゲンハが気に入らなかっただけだし、ライトは理不尽に襲って来た連中を撃退しただけという認識だった。当事者だというのに蚊帳の外に置かれ、ゴンダバヤシに向かってラルフは言葉を重ねる。

「そう言って頂けて幸いです。ドルファンドへの賠償請求と合わせてよろしくお願いします」

「わかった。随分熱が入ってるな?」

「当然です。私はスラムバレットの随行員ですので」

ラルフはそう言って笑みを浮かべた。

その表情を見たゴンダバヤシはやや満足そうに息を吐く。

「・・・・・・・と言う事だ。シド、お前何か欲しい物はあるか?」

ラルフから目を話し、シドを見たゴンダバヤシがそうシドに告げる。

「え?・・・・・・・・あ!俺はバイクが欲しい!」

急に話を振られたシドは、少し考えるそぶりをするとそう答える。

(ちょ!シドーーーーー!!!)

あまりに安易に答えてしまうシドにラルフは目を剥いた。

「バイク?」

「ああ、俺のバイク。今回の件でガタが来ちゃってさ。新しいのが欲しいんだ」

「ほう、どんなヤツがいいんだ?」

「頑丈なやつが良いな。今回みたいな事があってもビクともしないヤツ!」

「わかった。俺の懇意にしてる企業のカタログを送ってやる。好きなのを選べ」

「いいのか?!やった!」

シドはおっちゃん太っ腹だな!と歓喜の声を上げる。

「ライトは何が欲しい?」

シドの要望を聞いたゴンダバヤシはライトに目を向ける。

「・・・・えっと・・・・・・ボクはエネルギー系で携帯できる武器が欲しいです」

「エネルギー系の武器か・・・・よし、ウチのカタログを送る。好きなのを選んでいい」

「本当ですか?!ありがとうございます!!」


(ラ・・・ライトーーーーーー!!!!)

バカな!!!そんなもので今回の報酬が割に合うはずがない。なんとか修正しなければと焦るラルフだったが、

「よし!今回は良くやってくれた。シドとライトもゆっくり休んでくれ。受付に行けば宿に案内してくれる・・・・ああ、ラルフは今後の話もあるから残るように」

ラルフが修正する前にゴンダバヤシが話を〆てしまった。

ここから交渉の腕の見せ所だと考えていたラルフはガックリと肩を落とす。


思っていなかった報酬が手に入ると考え、2人は機嫌よく会議室から出て行き、部屋にはゴンダバヤシと護衛、キクチとラルフだけが残った。

折角のチャンスを・・・・と肩を落とすラルフを見ながら、ゴンダバヤシもキクチも苦笑いを浮かべる。

「ラルフ、安心しろ。あの程度の報酬で済ませるつもりは無い」

今回の報酬にバイクと武器だけで済ませるつもりなどゴンダバヤシには無かった。

「アイツ等は自分達の価値や活躍をちゃんと理解していない所が多い。今後はその辺りのフォローはしっかり頼むぞ」

スラムバレットの事を誰よりも知っていると言っていいキクチがラルフに助言を与えた。

「実力はピカイチ。行動力は天元突破している2人だが、ワーカー歴はまだ1年と少し。完全なルーキーだ。そこの所をキッチリ教育してくれ」

「・・・・・・・それは最初の担当がやる仕事では?」

ラルフは恨みがましい視線をキクチに投げる。

「そんな余裕は無かった。次から次に色んな話を放り込んできやがったからな。その分、お前には期待しているぞ」

ラルフの視線と言葉を跳ねのけ、キクチはラルフに期待の言葉を投げかける。

ただの丸投げと言えるかもしれない。

「・・・はぁ~~・・・・・・・分かりましたよ。これから少しづつ教育していきます・・・・・」

と、言ったはいいモノの、あそこまで実力>ランク>活動時間なワーカーは見たことが無い。

普通は経験を積んで少しづつ実力とランクを上げていくものなのだ。その過程で自分達の価値を学んでいく。

それなのに、あの2人は最初からとびぬけた力を持ち、その力に無理やりランクを合わせている様な状況だ。今ですら実力とランクが釣り合っているとは言えない。

「これ以上無理やりランクを上げるのは難しい。50以上は活動期間も考慮されるからな・・・・・・・・はぁ・・・・・・東部に行って他のワーカーと揉めないだろうな・・・・・・」


そもそもワーカーランクは1年程度でランク50に達する様な事は想定されていない。

ここからはワーカーとしての活動経歴、ワーカーオフィスへの貢献度、実力、実績、全てを判断してランク付けを行っていく。

ランク50以上のワーカー達は、途端にランクを気にする者たちが増えていく。


ランク50を超えると、その上昇率はさらに鈍化する。高難易度の依頼を受け、死線を潜り、それに見合う成果を上げて行かなければならない。

その中でランクを上げていく事が、自分への誇りへと変わって行くのだ。

ランク50~60までのワーカーは、そのランクが1違うだけでもマウントを取ってくる者たちもいる。

それ以上になると、そのランク帯の者達ならではの評価基準があるらしいが、その事に関してはキクチは分からない。

スラムバレットがさらに東へと進んでいけば、ランクの事で揉め事が起きる可能性は非常に高い。その対処もラルフに行ってもらいたかった。


「・・・・・・・頭が痛い問題が見えますね・・・・・・一旦ダゴラ都市に戻しては?」

「それも手ではあるな。ファーレン遺跡の探索に力を貸してもらえたら助かるが、アイツ等がそれで満足するか?」

「・・・・わかりません」

危険度が跳ね上がったファーレン遺跡。

今では深層に潜る者は皆無である。中層ですら大手ギルドが足踏みしている段階なのだから。

シドとライトならば、中層を突破し深層に足を踏み入れることは可能であろうが、今あの2人は新しい世界を見たがっている様に見える。

元のダゴラ都市に戻り、ファーレン遺跡に潜るかと言われれば疑問符がつく。キクチやゴンダバヤシに要請されればダゴラ都市に戻る可能性は有るだろうが、切羽詰まった理由がある訳でもない為、ワーカーの自由移動の権利をねじ曲げる訳にも行かない。

「スラムバレットの今後の予定はあるのか?」

ゴンダバヤシがラルフに聞く。

「シドの希望としてはバハルタ都市に向かうつもりの様です。新しい装備などを手に入れたいと考えている様で・・・・」

「バハルタ・・・・・・か・・・・・」「バハルタね・・・・・・・・」

その都市の名前を聞いたゴンダバヤシとキクチは少し渋い顔をする。

「・・・・・懸念はわかります」

ラルフがこういうのも当然かもしれない。

バハルタ都市は、彼の変態企業が本拠地としている都市なのだ。今もその企業の営業がダゴラ都市で絶賛売り込み活動を行っており、スラムバレットの活躍履歴を利用し盛大に兵器や装備を売りさばいているとの情報もある。

「超問題児達と問題企業が顔を合わせるのか?」

「混ぜるな危険の筆頭では無いですか?」


バハルタ都市は唐澤重工の本社がある都市である。

以前シブサワから本社を訪れてほしいとシドが聞かされており、防護服が非常に短い期間でおじゃんになった事と、キョウグチ地下街遺跡で交戦したオートマタの武器を送った結果を聞きたがったのも理由としてあげられる。

シドもライトもなんだかんだと言いながら、唐澤重工の技術力を評価しており本社に行けばなにか面白い物があるのでは?と期待している様だ。

「・・・ウチのエネルギー兵器とバイクで満足してくれないもんか・・・・」

シドとライトにはゴンダバヤシが報酬として提示した装備が報酬の一部として渡される約束をさっき行ったばかりだ。本来ならそれで充分過ぎる話であるが・・・・・

「どうでしょう・・・・特にシドは尖った性能を追い求めますから」

KARASAWA A60から始まりS200と言った、とんでもハンドガンを装備し、防護服も唐澤重工製を身に着けていたシド。

荒野車も唐澤重工が手掛けており、ライトの武器も情報収集機も唐澤重工製だ。

傍から見ればスラムバレットは唐澤重工押しのワーカーチームである。

最初はイデアの進言でA60を購入したシド。その後は営業マン シブサワの努力?によって2人の装備はあの企業の製品で固められてきたのである。

そして、尖った性能の装備を使いこなせるようになる実力を2人は兼ね備え、習熟速度を速めるアドバイスを行うイデアの存在が、他のワーカー達が嫌がるピーキーな性能を追い求める唐澤重工との相性を上手い具合にマッチさせているのであった。



ゴンダバヤシも唐澤重工の事は良く知っている。

喜多野マテリアルの勢力下で、突飛な開発力や発想力は喜多野マテリアルを凌ぐモノを持っていると評される企業である。

本来であれば、その様な企業が出現すればエリア管理企業である喜多野マテリアルは抑制に動くものである。

人類の発展を第1にする6大企業であるが、そこは企業。下から追い抜こうとする勢力が現れれば当然妨害行動に出るのが常である。

しかし、あの企業が優れているのは技術力だけでなく危機管理能力も優れていると評価せざるを得ない。

技術者の論理はぶっ飛んでおり、それに比べれば真面に見える経営陣ですら普通ではない。度々問題を引き起こしはするが6大企業が定める法にはギリギリ触れないラインを突いて来る。

注意勧告をすれば「すいませんでした。もうしません」と言い、また別方向でやらかすのだから始末に負えない。それでいてちゃんと火消は自分達で行うので、喜多野マテリアルが強制捜査を行う理由を絶対に与えないのである。

それをしてしまえば、自由に研究が出来なくなってしまうが故に。


喜多野マテリアルの監査項目ではやや優良の評価を受けながら要注意企業認定を受けている扱いにくい企業であった。

そして、高ランクワーカーの一部にファンがいることも扱いにくい理由の1つである。


「アイツ等を行かせていいモノか・・・・・・」

ゴンダバヤシは難しい表情を浮かべそう呟く。

両方とも行動力の塊である。それらが混ざり合えばどの様な化学反応を起こすかゴンダバヤシにも予想が付かなかった。

「ゴンダバヤシ様。諦めましょう」

「・・キクチ?」

「恐らく大丈夫です。双方ともに、最悪の事態『だけ』は回避してきましたから」

綺麗な笑顔でそう口にするキクチ。

そう、彼は諦めたのだ。

そもそも、ミナギ都市でのバイオハザード事件が片付いたところでキクチやゴンダバヤシの仕事が終わるわけでは無い。

この案件が片付けば、再度セントラルのいる地下シェルターへと戻り様々な調整を行い、ダゴラ都市周辺の遺跡問題に対処しなければならないし、中央崇拝者共の殲滅作戦も処理しなければならない。

スラムバレットの足跡は何一つ片付いては居ないのだ。


キクチの心境は、未来の事など知った事かというものである。


「・・・・・・そうだな」

キクチの言いたいことを察したゴンダバヤシは先の事を考える事は止める。

「それに、これからはラルフがついています」

キクチはラルフに視線を向け、これからの事を全てラルフに押し付けにかかる。

「・・・!!!」

キクチの思惑を察したラルフだったが、キクチの抱えている案件を考え、こう述べる。

「・・・・お任せください」

ここで反論し、キクチと役割交換などしようものなら忙殺されてしまうのは間違いなかった。

ラルフは心の中で涙を流しながら笑顔でそう返答する。

「そうだな。ラルフ、あの2人を任せたぞ」

満足そうな笑顔を浮かべたゴンダバヤシは、そうラルフに告げると席を立つ。彼は彼の仕事を全うする為に会議室を出て行ったのであった。


彼らの背中を見送ったラルフとキクチは、

「これからもよろしく頼むぞ、ラルフ」

「ええ、よろしくお願いしますよ。キクチ」

お互いの眼を見ながら笑顔でそう言うのであった。


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