討伐後
「ふっ・・・・・・他愛ない・・・・」
銃口を口元?に持って行き一吹きするイデア(風は発生していない)。
その目の前には表面は炭化し、真っ黒コゲになった巨大ワームの姿があった。
表面はエネルギーの圧力で吹き飛んだのだろうか?先ほどより大分縮んでいるように見える。
<イデア、そのボディーの戦闘能力は高くないって言ってなかったか?>
<うん、ボクもそう聞いた記憶があるんだけど?>
あの驚異的な再生力を持つ巨大ワームを一撃の下に黒焦げにした攻撃を目にし、シドとライトが突っ込みを入れる。
<武蔵野皇国製の戦闘ロボットを基準にすれば控えめです>
<ええ~?シェルターにいたあの大型オートマタより威力高そうだぞ?>
<そうだよね。その辺りはどうなのさ?>
地下シェルターで戦ったオートマタが繰り出した攻撃と比べてみても、今の一撃はかなりの高威力だと思われた。納得がいかないとばかりに2人は質問を重ねる。
<あれは警備ロボットですからね。それに、近接攻撃の威力だけで考えればあちらの方が上ですよ。私の兵装はこのモンスターとの相性が良かっただけです>
確かにあのロボットの掘削機の様な攻撃であれば、巨大ワームを簡単に削り殺す事も容易かっただろう。
2人の総攻撃でも殺し切ることが難しかった巨大ワームも、旧文明からすれば取るに足らない害獣程度の扱いなのだろうか。
<2人はエネルギー兵器の導入を考えるべきかもしれませんね。今回の件で高い再生力を持つ相手に実弾兵器のみでは時間が掛かってしまう問題がハッキリしました>
確かにそうなのだろう。巨大ワームもゲンハも、エネルギー兵器を持っていれば速やかに討伐できた事は間違いない。ゲンハの討伐はシドの全力発電による一撃で撃破できたとは言え、毎回片腕を丸焦げにし、着用している装備を破壊する訳にも行かない。
<エネルギー兵器か~。ダゴラ都市には売って無かったよね。ミナギ都市のガンショップには売っていたけど、値段の割に性能は微妙だったし・・・>
<第2防壁内ならもっと良いのが売ってるんじゃないか?>
<そうかもしれないけど、今のミナギ都市で買い物って出来るのかな?あんなのが地下にウヨウヨいるって事でしょ?>
<・・・・・そうなのか?>
シドはあの巨大ワームがウヨウヨと地下にうごめいている様子を想像し、顔を顰める。
<それは無いでしょう。幾ら喜多野マテリアルの部隊が集結しているとはいえ、あのレベルのモンスターが跋扈していれば都市を放棄し高威力の攻撃で殲滅を選択するはずです。現在、その様な情報はありませんので、あそこまで強力なモンスターが複数いるとは考え難いと思われます>
<・・・・そうだよな・・・・とりあえずミナギ都市に向かおう。俺達も車に戻るわ>
<分かった>
シドはシールドを蹴り、イデアは宙を滑るようにライトとラルフの待つT6へと向かっていく。
ラルフ視点
イデアの高出力攻撃で巨大ワームを討伐した。
あれだけ必死に逃げ回っていたワームをあっさりと討伐してしまったイデアの性能に恐怖を覚える。イデアの事についてはシェルターで説明を受けたため、敵に回る心配は必要ない。
しかし、万が一遺跡を探索中に同型の敵性オートマタに遭遇した時の事を考えると肝が冷える。
ラルフはスラムバレットの随行員だ。
今までの様にオフィスでワーカーの管理を行っていればいい職員ではない。あの2人に着いて遺跡にも潜らなければならない立場になってしまっている。
その為の訓練は受けた。
セントラルの扱きに堪え、戦闘に耐えうる体と心を手に入れたと思っていたのだが、今回の事で自分はまだまだひよっこなのだと認識させられたのである。
(別に戦えるように成りたかったわけでは無いのですがね・・・・・)
今でもなぜ自分が銃など撃たなければならんのだ、と思わなくもない。しかし、ゴンダバヤシの意向によって、あの2人の管理役に任命されてしまったのだから仕方がないと諦めていた。
この短期間で何度も括った腹をもう一度括り治す。
グダグダ言った所でどうにもならないのなら、今の境遇で出来るだけ上を目指す。
今のラルフにはその道しか残されていなかった。
そう考えながらラルフは通信端末のスイッチを押す。
こんな最悪なデビュー戦を用意してくれた男に文句の一つも言ってやらねば。(キクチが悪いわけでは無い)
文句を言った後、直に合った時に顔面に一発ぶち込んでやろうとも考え、コールを聞く。
『ラルフ!モンスターはどうなった!!!』
通信が繋がり、キクチは直ぐに巨大ワームの事を聞いて来る。
ラルフは、一つ深呼吸をし、返事を返した。
「ええ、見事討伐されましたよ」
今回は事態収束したことにより、映像も映っている。
『本当か?動く気配はないんだな??』
「ええ、黒焦げで動く気配はありませんよ」
ラルフは端末を巨大ワームの死骸に向け、その巨体の姿をキクチに送る。
『・・・・そうか、安心したぞ』
「そうですか、私は死ぬかと思いましたよ。こんなモンスターを逃がすなんて失態だと思いませんか?」
ラルフは嫌味の一つでも言ってやらねばと、ワームが都市外へと流出した事を突く。
しかし、
『こちらの調査で地下外壁を溶解させて開けた穴を発見した。調査隊としてワーカーと喜多野マテリアル兵の混合部隊を送り込んでいる。無いとは思うが、そちらの穴から別のモンスターが出てこないか警戒してくれ。死骸の処理はもうすぐそちらに着く部隊に引き継いでくれればいい』
キクチはラルフの言葉に頓着せず、向こうの状況とコチラへの指示を知らせてくる。
「・・・えっと?」
キクチのしかめっ面の一つも拝んでやろうと思ったラルフは面食らうことになった。
スラムバレットの担当を1年経験したキクチは、この手の嫌味など聞き飽きている。華麗にスルーを決め込み話を進めた。
『シドとライトはどうした?』
そんなラルフに態度にも言及せずに2人の状態を聞いて来るキクチ。
「・・・まだ車外に・・・」
「キクチさん。お久しぶりです」
ラルフが答えようとすると、車上に居たライトが窓から降りてくる。
すると、ほぼ同時に後部扉が開き、シドとイデアも車内へと帰ってきのであった。
「よう、キクチ。モンスターの流出とは下手打ったな~」
通信端末に映るキクチの顔を見たシドは、キクチに向けて軽口を叩いた。
その言葉に、キクチは苦笑いを浮かべる。
『ああ、まさか地下外壁を突破されるとは思わなかった。今回は本当に助かったよ』
「おう、感謝しろよ。まあ、今回はイデアに全部持って行かれた様なものだけどな」
『そうか・・・・今後の予定はラルフに少し伝えたが、モンスターの死骸を処理チームに任せたら穴の警戒を行って欲しい。穴の処理も別のチームがそちらに向かってい・・・・・お前たち、弾薬はまだあるのか?』
「小型ミサイルは弾切れだ。俺とライトの装備はまだ余裕があるし、複合銃と唐澤砲はまだ撃てるな・・・・イデアは大技でだいぶ消耗したみたいで充電するって言ってる」
シドがそう言い振り返った先には、ケーブルを繋いで小康状態になっているイデアのボディーがあった。
『ELシューターは出来るだけ使うな。あれは広範囲に影響が出るからな。ミサイルが無くてもその辺りに出現するモンスターなら戦えるか?』
「問題ない。1日2日くらいなら何とかなると思うぞ」
『そこまで時間はかからん。後1時間程度で部隊も到着するはずだ。現場を引き渡した後はミナギ都市のワーカーオフィスに来てくれ。状況の説明と・・・・後の話がしたい』
「わかった」
『よし、最後まで気を抜くなよ』
「わかってるって」
『また後でな・・・・・・・ラルフ、文句なら後で聞いてやるからそんな顔するなよ』
会話の軸をシドに持って行かれ、文句を言うタイミングを失ってしまったラルフは仏頂面で端末に映るキクチの顔を睨んでいたが、ラルフの心境を察し苦笑いを浮かべるキクチに、この場では何も言えなくなってしまう。
「・・・・・・・ええ、たっぷりと聞いてもらいますよ。なので、キクチもしっかり務めてください」
『ああ、お前もな』
通信が切れると、シドはホルダーに納められているバイクを取り外し跨る。
「シドさん、そのバイク。ガタが来てるって言ってなかった?」
「まあな、でも走るだけなら大丈夫だろ。俺は穴の監視をしておくからお前等は巨大ミミズの見張りを頼んだぞ」
「わかった。気を付けてね」
「おう」
シドは返事を一つ打つと、後部扉から勢いよく走り出していった。
それを見送ったライトとラルフ。
「じゃ、僕たちは処理部隊が来るまで他のモンスターが寄ってこない様見張りましょうか」
「・・・・そうですね。記録は私が取りますので戦闘はお任せしますよ」
処理部隊が到着するまで、現場の保全を行うのだった。




