巨大ワーム討伐
「ラルフはそのまま逃げ続けてください」
イデアはそう言い残すと、後部扉を開き車の外へと飛び出していく。
「え?ええ?!どうしたんですか?!」
イデアが戦闘に参加するという話は念話で行われていた為、ラルフには聞こえていなかった。
その為、急に車外へ飛び出していったイデアの行動に動揺するラルフ。
『ああ、イデアにエネルギー兵器で攻撃して貰うことになったんです。落ち着いて後部扉を閉めてこのまま逃げ回ってください』
ライトからの通信が入り、ラルフは急いで後部扉を閉めワームの攻撃を食らわない様運転を続ける。
「早く倒してください!!」
このモンスターと遭遇してから30分以上。
極度の緊張状態で運転を続けているラルフの精神は早々に限界に達しようとしていた。
T6の後部扉から飛び出したイデアは、一気に巨大ワームの頭上まで飛び上がり彼の姿をその目で納める。
シドの眼から入ってくる情報はそのままキャッチしているが、上空から全体を把握した方が攻撃しやすい。
目下では今も巨大ワームから追い掛け回されるT6と、その上に立ちハンター5と複合銃で攻撃するライト、そしてその周りを飛び回りS200で攻撃を続けるシドの姿も見える。
巨大ワームは体表の触手から溶解液を分泌し、自身の周りを融解させながらT6に食らいつこうと追い掛け回している。
単純な移動速度ではT6を上回っており、ライトのフォローのお陰でなんとか逃げ回っているが、それも長くは続きそうにない。
シドのS200もハンドガンサイズと考えれば異常な威力を誇るが、あの巨体と再生力の前では少々力不足なのか大したダメージを与えている様には見受けられない。
(動きを止めなければ一息で焼き殺すのは不可能ですね)
イデアは戦場を俯瞰すると、両手をエネルギーガンへと変形させ、エネルギーを込め始める。
(まずは重要器官があると思われる個所を破壊しましょうか)
構えられた両腕にエネルギーが流れ込み、銃身が青白く光り始め、銃身を中心に紫電が発生しバチバチと音を立てた。
イデアは狙いを定めた箇所にターゲットマークを表示しロックオンを完了させた。
(・・・・・ファイア)
構えられた両腕のエネルギーガンから無数のエネルギー弾が発射され、狙い違わず巨大ワームに付けられたターゲットマークに命中。
体表を濡らしていた溶解液を一瞬で蒸発させ、表面装甲を貫通しその体を焼き貫いていく。
巨大ワームはその思わぬ攻撃による激痛に驚き、咆哮を上げながら体をくねらせ悶えた。
ラルフ視点
「うわーーーーー!!!!」
イデアが車外に飛び出してからも執拗に狙ってくる巨大ワーム。なかなか捕まえられない事に焦れて来たのか攻撃が激しくなってくる。
噛みつきは何とか躱せているが、広範囲にわたる薙ぎ払いが来たときは終わったと思った。
だが、ライトが車の足元に発生させたシールドを駆け上がり飛び越える形で回避に成功する。これ以外にもライトのフォローが無ければとっくの昔にアレの腹の中に納まっていただろう。
最悪なのがこの車に乗員を保護するシートベルトやエアバック等の装備は無い事だ。
シドやライトを基準とした身体能力を持つ者が乗る事を前提に考えられており、もしもの時は脱出を前提に考えられている為その妨げになるような装備は軒並み外されている。
その為、この激しく揺れる車内の中、ラルフは自分の身体能力のみで車にしがみ付いていなければならず、その上運転までしなければならなかった。
それに、ここは荒野だ。
都市内の様に舗装されているわけでは無い。
平地ですらデコボコであり、岩や段差など其処かしこにある。コース取りを間違えるだけで大きく揺れ、ハンドルを取られることや、思わぬ振動へと繋がりその度に心臓が縮み上がる。
この車には車体安定装置が搭載さえているとは言え限界がある。
何度も腰が浮き上がり、着地の衝撃でハンドルに顔面を打ち付けそうになった事か・・・
(早くなんとかしてください!!!!)
ラルフがそう願った瞬間。
上空に上がったイデアからの攻撃が打ち下ろされた。
すぐ後ろにまで迫っていた巨大ワームにエネルギー弾が命中し、絶叫を上げて痛みに悶える。
しかし、その巨体がのたうち回る事によって発生する振動で車体が大きく揺れることになった。
「うぐぅぅぅ!!!」
何とかバランスを取ろうとハンドルを切るが、誤って岩に片輪を乗り上げてしまい車体が傾く。
(マズイ!!!)
かなりの速度で走っていた為に大きくよろけた車体はそのまま横転するかと思われた。
しかし、ライトが発生させたシールドに車体が押し戻され、両輪で地面を再度踏むことに成功する。
「・・・・・はぁはぁはぁ・・・・」
未だにわずかに揺れる車内で何が起こったのか分かっていないラルフだったが、ライトからの通信で我に返る。
『ラルフさん、気を付けてくださいね。戦闘中に横転なんてあの世までまっしぐらですよ?』
「・・・・・・・・有難うございます」
『どういたしまして。もう終わりそうですね』
ライトの言葉にバックカメラに映る映像に目を向ける。
そこには暴れる巨大ワームの前に立ちふさがる小さな体のイデアが映し出されていた。
イデアは巨大ワームとT6の間に降り立ち、両手のエネルギーガンに最大限のエネルギーを充填していく。
先ほどの攻撃で開けられた穴からは煙が立ち上り、体液の噴出すら見られない。
完全に傷口が炭化しているらしく、イデアの攻撃が非常に有効である事の証左であった。
予想外の攻撃と痛みにより混乱し、ただ暴れるだけになった巨大ワームを睨み、一撃で仕留められるだけのエネルギーを両手の銃に流し込んでいくイデア。
先ほどよりも強い光を放ち始めるエネルギーガンを構え、エネルギー充填を待つ。
一際大きなエネルギーを感知したのか、イデアの方へと頭を向け咆哮を上げる巨大ワームであったが、体の負傷が大きく満足に動く事が出来ないようで、その場で体をくねらせるだけだった。
「それでは、これで終幕です。おつかれさまでした」
イデアはそう告げると、エネルギーガンに込められたエネルギーを開放する。
2丁の銃口から眩い光をまき散らしながら放たれたそのエネルギーの放流は、巨大ワームを飲み込み遥か彼方へまで突き進んでいった。




