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スラムバレット  作者: 穴掘りモグラ
209/217

移動前日

少し時は遡り。


シドとライトはダゴラ都市へと向かうダーマの見送りに出ていた。


本来なら直ぐにダゴラ都市に向かう予定だったダーマだが、逃亡戦の際にドンガの車が受けたダメージが大きく修理を行わなければダゴラ都市までの道中が危険だということで、修理が完了するまでの時間を訓練に当てていたのだった。

修理工場に持ち込めれば数日で終わっていただろうが、この地下施設でドンガの車に搭載できるシールドジェネレーターや装甲板を新調する事は難しかった。


地下シェルターで作成すればいいじゃないかとシドは考えたのだが、それはセントラルとゴンダバヤシが結んだ協定に抵触する為断念。

その為、ダゴラ都市の荒野車メーカーに問い合わせ、調整後にこの地下シェルターに送ってもらわなければならなかった。


そして今日。

漸く車の修理が終わり、ドンガとダーマ、エミルはダゴラ都市へと移動するめどが立ったのである。


「じゃーなダーマ。ダゴラ都市に行っても無理すんなよ」

「今のファーレン遺跡は危険度が高くなってますから気を付けてくださいね」

「ああ。訓練に付き合ってくれて感謝する・・・・・それに、装備を整える資金まで・・・・」

ほぼ文無しであるダーマにシドは軍資金を貸し付けた。

ドンガがある程度世話を焼くだろうが、ダーマの性格上変に遠慮してちゃんとした装備を整えないのでは?とのイデアからの意見があり、シドが無利子で貸し付けることにしたのだ。

「成り上がったら返してくれればいい。死ぬんじゃねーぞ?」

「・・・・わかった。必ず返す」

「おう」

「情報収集機もちゃんとしたヤツを買ってくださいね。端末に送った店に色々ありますから参考にしてください」

「ああ、助かる」


ダーマはライトから情報収集機の扱い方も教わっており、ランク20程度のワーカーレベルの腕は十分確保できている。

単身で浅層に潜っても死ぬことは無いだろうとイデアからも太鼓判を押されていた。


「・・・・・・・お兄ちゃんも随分腕を上げたわよね。アタシと一緒に遺跡に行っても大丈夫なんじゃない?」

「それは難しいと思います。訓練は所詮訓練です。実地での経験を積まなければ実力は上がりません。それはドンガもわかっているでしょう?」

ダーマがこのシェルターに到着して約1ヶ月。

連日連夜訓練を続け、その様子をチラチラと見に来ていたドンガはその成長ぶりに驚きを隠せなかった。

今ではドンガと同じレベルとは言わないが、一緒に遺跡に潜っても足手まといにはならないのでは?と思えるレベルまで成長していた。


だが、訓練メニューを考えたイデアはドンガの言葉を否定する。

いくら訓練で強くなったといっても、実際命が掛かった実戦で同じように行動できるかどうかはやってみなければわからない。

ダーマは遺跡に潜った経験がほぼ0な為、ちょっとしたミスが思わぬ危険を呼び込む可能性は十分にある。


「・・・・まあ、そうね。暫く様子を見て大丈夫そうなら一緒に中層に挑戦させてみるわ」

「そうしてください・・・・・・・ドンガ、腕の角度がずれています。それではエミルが安眠できません」

「・・・・ごめんなさい」


ドンガはイデアから指摘されエミルを抱える腕の角度を調整する。


最初はエミルに泣かれて抱っこもままならなかったドンガだが、この1ヶ月 イデアの子守りレッスンを受け漸く抱っこしても泣かれることは無くなった。

ここから先、イデアはエミルについて行くことは出来ない。

その為、エミルの世話をすることになるであろうドンガは集中レッスンを受けることになったのだった。


ドンガは腕の中でスヤスヤと眠るエミルを見ながら、レッスンの内容を思い返す。

(接し方から抱っこの腕の角度まで・・・・ずいぶん扱かれたわね・・・・・)

ここまでしなければならないのか?と思う程に厳しいレッスンだった。だが、イデアは一切の妥協なくエミルのお世話方法をドンガに叩きこんだ。


「エミルのお世話セットは既に車に積み込んでいます。マニュアルは端末に送信していますので困ったことがあればそれを参照してください」

「・・・わかったわ。ありがとう」


「イデアも。ずいぶんと世話になった。礼を言う」

「いえ。その代わり、ちゃんとエミルを守ってあげてください」

「ああ」


シド達に礼を言い車に乗り込んでいくダーマとドンガ。

運転席に乗り込んだダーマは車を起動させると、窓から顔を出してシド達に再度礼を言った。


「本当に世話になった。この恩は一生忘れない。借りは必ず返す」

「ああ、気長に待ってるよ」

「お元気で」


発進した車を見送り、シド達は自分達の予定の相談を始めた。

「さて、俺達はどうするかな?そろそろミナギ都市も落ち着く頃じゃないか?」

「そうだね~。なんだか、バイオハザードになるかも?って話だっけ?」

「そうですね。ゲンハの残骸からナノマシンが流出し小動物がモンスター化しているようです。セントラルと滞在している研究者達が変異ナノマシンを止めるカウンターを作成してミナギ都市へと送ったと聞いています」


実はこの2人と1体はミナギ都市の現在の状況をほとんど知らない。

ダーマとラルフの訓練に集中できるようにというセントラルの好意・・・・ではなく、単純にセントラルが彼らに連絡を入れる必要性を感じていなかったからだ。


イデアだけは少量の情報を受け取っていたが、ミナギ都市で頑張るキクチ達よりエミルの今後の為、ダーマを鍛え上げる事の方がイデアには大事だった。

喜多野マテリアルが直々に動いている案件でもあるし、早々に解決できるのでは?と考えている節もある。


「ふ~ん・・・まあ、向こうに着いてまだ終わってなかったら手伝ってやろうぜ」

「まあ、ボク達が持ち込んだ案件でもあるからね・・・・でもシドさん、防護服はどうするの?その普通のトレーニングウェアで大丈夫?」

「ん~・・・まあ、ゲンハの劣化版なら大丈夫だろ。アイツからは一発も食らってないし」

シドの防護服は全力雷パンチで制御装置が破損し使用不可能になっていた。

シェルターに着いてから力づくで体から剥ぎ取ったのだが、ボロボロにちぎれてしまって着る事すら不可能になっている。

流石のシドも素っ裸で過ごすわけにもいかずセントラルにトレーニングウェアを借りていたのだ。

このスーツも質としては非常に優秀だが、所詮はトレーニングウェア。防護服の代わりになるような性能は付与されてはいない。


本来の予定ではミナギ都市を超えてバハラタまで移動し、新しい防護服を新調しようかと考えていたのだが、まだミナギ都市の騒動が収まっていないのなら手を貸そうと考えたのだ。


「まあ、シドさんが良いならいいけど・・・・・」

「大丈夫だろ。デンベさんも普通の服だって言ってたし」

「いや、あの人は参考にならないでしょ?」

モンスターと戦闘を想定しているのに防護服すら着用しないというのは普通あり得ない。しかし、シドは自分で生体シールドを展開できる上に、常人より遥かに頑丈な上ナノマシンにより高い回復能力を持つ。

その辺りのワーカーが高級な防護服を着用しているより生存率は高いのは間違いなかった。


「予定が決まったのなら出発の準備を進めましょう。ラルフの治療は後4時間ほどで終わりますので、出発は明日の朝でよいのでは?」

この場に居ないラルフは今シドとの模擬戦を行いダウンしており、メディカルポットの中で治療中である。

「あ~・・・・ラルフの治療そんなにかかるのか?4時間経ったら日が暮れるか~。じゃ、明日の早朝に出発しようか」

「・・・・・不憫だね~・・・」

「ライト。車装兵器の残弾ってどれくらいあるんだ?補充できてないだろ?」

「複合銃は此処でも補給出来たよ。ワーカー用のショップが開設されてたから。でもミサイルは無理だった。残弾は20%切ってる。あまり多用すると直ぐに弾切れに成っちゃうね」

「そっか。荒野で大型モンスターと遭遇しないように気を付けないとな」

「・・・・そうだねー」

「シドが言うとフラグに聞こえます」

ライトとイデアがやれやれと言った感じでシドに返答する。

「いやそんな事ないだろ!!」



2人と1体であーだこーだと言い合いながら出発の準備を進めていく。

ミナギ都市では、都市そのものを吹き飛ばさなければならないかもしれない重圧と戦いながらキクチは指揮を執っているのだが、スラムバレットのメンバーはいつもと変わらずマイペースであった。


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キクチ…強く生きろよ…今から爆弾が向かうから…
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